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自分より見た目が良い相手を苦手に思わない人はいるのかな

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 すらりと伸びた長身。長い手足は細いけれど、シワ一つ無い騎士服の上からでもわかる位、程よい筋肉で引き締まっている。

 緩いウェーブのかかった金髪は、目元に少しかかる長さだが、不衛生でだらしない印象は無い。お洒落のために、うっとおしいのを我慢しているのだろうなとは思うが。

 はっきりとした二重瞼の奥に光る青い瞳も、真っ直ぐに伸びた鼻や、薄い唇も。小さな顔の上に絶妙なバランスで配置されていて。


 いかん。押されてる。容姿端麗を自負するこの俺が。

 「クリス! どうして……馬車で待つよう命じた筈です」

 「いくら命令でも、陛下をお一人には出来ませんよ。こんなへんぴな所でも、いつお命を狙う不届きものが現れるとも限らないですし。現にこうして、“年季の入ったストーカーさん”とやらに捕まっちゃってるじゃないですか。まぁ、陛下に危害を加えはしないでしょうから、黙って見てましたけど」

 嫌味たらしい口ぶりで、俺の方をチラリとみる美男騎士。

 「……私達の話を立ち聞きしていたという事?」

 「安心して下さい。このストーカーが陛下を愛していようが、リナルド・レノックス前騎士団長が不貞を働いていようが、あなた達が兄妹であろうが、俺は全く興味がありません。護衛騎士の仕事には一切関わりない事ですから」

 「護衛騎士?」

 聞き捨てならない言葉に、すかさず反応する。

 「彼はクリス・ハドソン。現任の護衛騎士なの」

 ぴくりと眉を上げた俺に気付いた陛下が、いけすかない金髪男をご紹介下さる。が、当の本人はこちらに会釈すらせず、侮蔑するような視線を向けるのみ。

 「クリス、レオの事は知っていますね?」

 「ええ勿論。誉れ高い女王の護衛騎士に史上最年少で抜擢されておきながら……女との火遊びが原因で退任に追い込まれた、超ドアホ有名人……を、知らない奴なんていませんよ。しかも陛下に夢中になるあまり、ほんの20メートル離れた所にいた俺にも気付かないなんて……護衛騎士だけじゃなく、騎士そのものを辞めた方がよかったんじゃないの?」

 困った。反論出来ない。

 退任理由については、陛下の為に着た濡れ衣を今さら脱ぐつもりは無いから、言わせておけばよいとして。

 たとえ一月ぶりの再会に浮かれていたとはいえ、大切な陛下といるにも関わらず、この男の存在に気付かなかった事は……騎士として褒められたものではない。
 
 しかしこいつ、男前だな……自分よりも容姿に恵まれた男なんて、久しぶりに会った。

 俺はたくましく真面目・実直な、熱血系美男子だが……こいつは細マッチョでアンニュイな雰囲気の、クール系美男子。
 悔しいが、『イマドキ』なのはこいつの方だ。

 しかも若い。美青年というよりは美少年といった方が合ってる気がする。童顔なだけか? いくつだ? タメ口をきいてくるという事は年下? 
 いやでも、このナメ切った態度の要因に、年齢は大きく関与していない気がする。

 こいつは先輩・後輩関係無く、俺を“無礼を働いても良い人間”と認識しているような……
 まあ、護衛騎士を退いた表向きの理由を信じていれば、そうなるのも無理は無いが。

 「不名誉な辞め方であった事は否定しない。だが、君は俺を罵れる程大層な人間だろうか? 陛下のプライベートな会話を立ち聞きしたり、初対面の人間に礼を欠いた態度をとったり……女王陛下の護衛騎士として、品位が足りないと言わざるを得ない」

 「陛下。もう時間がありません。次の公務に遅れてしまう。馬車へお戻りください」

 「ちょっ、クリス……!」

 俺の事など完全に無視をして、陛下の肩に手を添え、強引にその場を立ち去らせようとするクリス・ハドソン。その態度に我ながら珍しく、怒りが沸き立ってきた。

 「ローラ様に乱暴をするな」

 俺は奴の腕を掴み、陛下から引き離そうと力を込める。しかし、奴は引かない。
 互いの腕が震わせながら、力比べが続く。

 「乱暴しようとしてたのはあんたじゃないの? 式典の最中から陛下の谷間ガン見して」

 「な……っ」

 困った。反論出来ない。またしても。
 その上今回は、『そうなの?』と、陛下にまで呆れられる始末。

 「もう陛下に関わるな。今後必要以上に近付くなら、女王の護衛騎士として容赦なく切り捨てるよ? 死体はバラバラにして、この田舎町自慢の畑に肥料としてまいてやるから、覚悟しといてね」

 「俺も、お前が陛下のお傍に仕えるべき騎士とは思えない。今後、ローラ様のお心を曇らせるような事をしてみろ……その時は」

 「二人とも争うのはやめてください。レオ、ごめんなさい、本当に時間が迫っているようで」

 困ったようなように眉を下げ、クリスと俺を、順に見る陛下。

 「いえ、お話出来て良かったです」

 「また来月、記念集会で会いましょう」

 「言っとくけど、その追悼集会には俺も同伴するからな。それが公務なら、女王陛下の護衛騎士として当然の務めだ」

 去り際、そう吐き捨てた新たな護衛騎士の顔は、やはり小憎らしい位に整っていて――。

 今、誰よりも陛下のお傍にいる男。
 それが自分以上の色男である事実は、俺の心に波風を立てるのだった。
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