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遠慮の無い人は相手にも遠慮を求めないので一緒にいて楽だったりする

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 母を背にかばうようにして二人の間に割って入り、クリスを睨みつける。
  
 「クリス! 母の陛下への態度が問題なかったとは言わないが……こんな場で、無駄に事を荒立てて主君に恥をかかせるのは、賢い護衛騎士のする事じゃない!」

 いけ好かない新任の護衛騎士は、ゆっくりと剣の柄から手を離すと、口の端を嫌な角度に上げた。

 「冗談だよ。本気であんたのママを切り刻むわけないでしょ? それにしても驚きだね。スキャンダルでとばされたあんたに、騎士のあり方をご指南頂くとは」
 
 「俺はローラ様を困らせる奴が許せないだけだ。陛下は日頃から、大国の統治という重要事項に頭を悩ませておられる。こんな所で、無駄な気苦労をかけるのはやめろ」

 「あらなになに? もしやあなた達、ローラちゃんを巡って対立する恋のライバルだったりするの? 若いっていいわねえ~! い~ぞ~! やれやれ~!」

 睨み合う俺とクリス・ハドソンを前に、何やら一人で盛り上がり始めた母。
 いさかいのきっかけを作った張本人とは思えない態度に、さすがの俺もため息が出る。

 「母上、ローラ様はもう幼いプリンセスでは無く、れっきとした女王陛下であらせられるのです。口のきき方には十分に――」

 「いいのよ、レオ。クリス、レノックス伯爵夫人にお詫び申し上げなさい。夫人は幼い頃からお世話になっている大切な方なの。無礼な態度はこの私が許しません」

 息子に諫められる母を見かねたのか、クリスに謝罪を命じる陛下。
 不服感を隠す気もないクリスは、しかめっ面のまま、『さーせん』とだけ、ぼそりと言った。

 「いいのに、ローラちゃん。気を遣わなくても」

 「いえ、夫人にはレオの辞任の件でもお辛い思いをさせてしまっていますし、これ位は……」

 陛下は声を潜めながら、ゲストのご婦人方を横目で見た。

 名のある貴族の奥方やご令嬢である彼女達は、少し離れた所からこちらをチラチラと見ては、扇子で口元を隠し、噂話に花を咲かせている様子。

 「辛い思い? あ~ゆ~人達に、息子や家の陰口を言われる事? 大丈夫よ、そんなの全然気にしてないわ! 私はむしろ、大切なローラちゃんの為に汚名を着たレオを、誇らしく思ってるから!」

 「母上……」
 「伯爵夫人……」

 相変わらず無遠慮で奔放な母の、相変わらず寛大で愛情深い言葉に、胸を打たれる俺と陛下。

 しかし。俺達は忘れていた。

 今この場には、母の言う事をすんなりと飲み込めない人間も同席している事を。

 「陛下の為に、汚名を着たぁ?」

 「あ……っ」

 眉間に皺をよせ、首をかしげるクリスに、俺と陛下はほぼ同時に息を呑んだ。
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