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過去の苦労を笑って話せるのは成長の証
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「会の途中に申し訳ありません、伯爵夫人。今日はどうしても、お聞きしたい事がありまして」
「いーのいーの! 可愛いローラちゃんの頼みならなんだってきいちゃう! ていうか、なんか2人、いい感じじゃなかったぁ~? もしかしてあなた達、すでに出来上がっちゃったりしてんのぉ~?」
緊張感を滲ませる陛下に反し、いつも通りのハイテンションでぐいぐいと迫る母。しかし――
「あら!?」
視線がある一点を捕らえた途端、彼女の関心は一気にそちらに移ったようで。
「そのルビー! レオ! それパパのよね!? って事はようやく紅薔薇の秘密にたどりついたの!?」
クルミのように大きな瞳が、俺の首元を凝視している。
「「紅薔薇の、秘密?」」
俺が尋ねるよりも先に、母から投下された謎の発言に、目を丸くする俺とローラ様。
「母上……それは一体、何の事です?」
困惑しながら尋ねる俺に、母は首を傾げた。
「え? だって、これパパのでしょ? 秘密にたどりついて、手に入れたんじゃないの?」
「伯爵夫人、これは私がレオに贈ったものです」
「あらそうなの? じゃあアリシア様のかぁ~」
次から次へと、俺や陛下が眉をひそめる事を言う母。
「なぜ、母から受け継いだものだとご存知なのです? 」
「だって、パパが言ってたもん。紅薔薇の勲章をもらった人は、女王が代々受け継いでいるものと、おソロのネックレスを貰えるんだって」
「ええ!?」
なんと。
こちらに質問のターンが回ってくる前に明らかになった、意外な事実。
「じゃあ、このルビーは紅薔薇の勲章の受領者は全員持っているという事ですか!? アリシア様と父上は、男女の仲だったわけじゃないと!?」
驚きのあまり、前置きなく本題に踏み込んでしまった。
そんな俺を、大声で笑い飛ばす母。
「やだ、そんな事を疑ってたの!? 想像力豊かねぇレオは! あのパパが、私以外の女にうつつを抜かすわけないじゃん!」
「で、ですが、母はリナルドおじ様に、特別な信頼を寄せていたように思います」
陛下は母のリアクションに驚きつつも、未だ不安げな表情で食い下がる。
「そりゃあ寄せてたでしょ。幼馴染だもん。パパはアリシアちゃんの事を妹みたいに可愛がってたし、アリシアちゃんも、私達の前ではパパの事お兄様、なんて呼んで、恋愛相談までしてたし」
「「恋愛相談!?」」
俺と陛下の声が、再び重なる。
「ほら、ローラちゃんのパパ。ヒョロもやし王配殿下の事よ」
思わぬ人物が会話に登場した。
『子供の俺でも勝てそう……』という印象が残る、陛下の父君の顔を思い浮かべる。
「彼ね、アリシアちゃんと出会った時には既に病魔に蝕まれていて、長生き出来ないってわかってたの。だから、パパは結婚に反対したんだけど……。それでも愛している、残りの時間を少しでも長く一緒に過ごしたいって、アリシアちゃんに泣かれてね。パパも根負けして、婚約成立を後押ししたってわけ」
「……父と……母が……。そんな事があったなんて……」
今は亡きご両親の真実に、目を泳がせる陛下。
そうだったのか。これで納得がいった。
記憶の中の、王配殿下のひ弱なお姿。殿下はあの頃から、密に闘病中でいらしたのだ。
そんな事とはつゆ知らず。
ローラ王女の父君として、アリシア女王陛下をお支えするパートナーとして、殿下はあまりにも頼りないのではと……そう見誤っていた自分が恥ずかしい。
「婚約の為の根回し、大変だったのよ~。弱小貴族の病弱当主を王配として認めさせるのは。でも、アリシアちゃんには国や王室の為じゃなく、私達みたいに愛ある結婚をしてほしかったから……パパも私も、頑張ったの」
当時の苦労を、懐かしむように、愛おしむように振り返る母。
「ローラちゃん。安心して? あなたはアリシアちゃんと王配殿下が、心の底から愛し合って生まれた子なの。うちのパパと不貞なんて……あなた達が兄妹だなんて、ある筈がないわ」
にっこりと微笑む母の言葉に、熱いものがこみあげてきたのだろうか。陛下は瞳をうるませながら、頭を下げた。
「ありがとうございます……伯爵夫……いえ、おば様」
「陛下……っ」
ハンカチで目元を拭う陛下の肩に、そっと手を添える。
よかった。
俺達の間に血の繋がりが無かった。
愛する父の、身の潔白が証明された。
そして、アリシア様と王配殿下との絆を知る事が出来た。
俺にとっても、陛下にとっても、その真実全てが尊い。
「母上、お話しくださりありがとうござ」
「ねえ! そんな事よりローラちゃんてさ、レオの事好きなの? ちょっと会わないうちに、二人の仲は急進展しちゃってるわけ?」
「え……っ」
もう少しこの心地良い空気に浸っていたい所に……遠慮もせず切り込んで来た母。
「ええと……それは、その……」
そして、母からの意表を突く質問に、言葉をどもらせる陛下。
よし。ここは俺が代わりに答えさせて頂こう。
良い機会だから、母にもきちんと知っておいてもらわなければ。俺達の関係を。
「そうです好きなんです!! 陛下は俺を愛していらっしゃるのです!! 兄妹かもと思い悩んで痩せてしまわれる程……! ド貧乳を力技で寄せ上げて、俺好みの豊満ボディを作り上げる程……!それほどに深く深く俺を愛してくださ」
言い終えるのを待たずに――脳を揺さぶられるような衝撃が眉間から広がる。
その原因は……
力説する息子に母から贈られた、全力のグーパンチだった。
「いーのいーの! 可愛いローラちゃんの頼みならなんだってきいちゃう! ていうか、なんか2人、いい感じじゃなかったぁ~? もしかしてあなた達、すでに出来上がっちゃったりしてんのぉ~?」
緊張感を滲ませる陛下に反し、いつも通りのハイテンションでぐいぐいと迫る母。しかし――
「あら!?」
視線がある一点を捕らえた途端、彼女の関心は一気にそちらに移ったようで。
「そのルビー! レオ! それパパのよね!? って事はようやく紅薔薇の秘密にたどりついたの!?」
クルミのように大きな瞳が、俺の首元を凝視している。
「「紅薔薇の、秘密?」」
俺が尋ねるよりも先に、母から投下された謎の発言に、目を丸くする俺とローラ様。
「母上……それは一体、何の事です?」
困惑しながら尋ねる俺に、母は首を傾げた。
「え? だって、これパパのでしょ? 秘密にたどりついて、手に入れたんじゃないの?」
「伯爵夫人、これは私がレオに贈ったものです」
「あらそうなの? じゃあアリシア様のかぁ~」
次から次へと、俺や陛下が眉をひそめる事を言う母。
「なぜ、母から受け継いだものだとご存知なのです? 」
「だって、パパが言ってたもん。紅薔薇の勲章をもらった人は、女王が代々受け継いでいるものと、おソロのネックレスを貰えるんだって」
「ええ!?」
なんと。
こちらに質問のターンが回ってくる前に明らかになった、意外な事実。
「じゃあ、このルビーは紅薔薇の勲章の受領者は全員持っているという事ですか!? アリシア様と父上は、男女の仲だったわけじゃないと!?」
驚きのあまり、前置きなく本題に踏み込んでしまった。
そんな俺を、大声で笑い飛ばす母。
「やだ、そんな事を疑ってたの!? 想像力豊かねぇレオは! あのパパが、私以外の女にうつつを抜かすわけないじゃん!」
「で、ですが、母はリナルドおじ様に、特別な信頼を寄せていたように思います」
陛下は母のリアクションに驚きつつも、未だ不安げな表情で食い下がる。
「そりゃあ寄せてたでしょ。幼馴染だもん。パパはアリシアちゃんの事を妹みたいに可愛がってたし、アリシアちゃんも、私達の前ではパパの事お兄様、なんて呼んで、恋愛相談までしてたし」
「「恋愛相談!?」」
俺と陛下の声が、再び重なる。
「ほら、ローラちゃんのパパ。ヒョロもやし王配殿下の事よ」
思わぬ人物が会話に登場した。
『子供の俺でも勝てそう……』という印象が残る、陛下の父君の顔を思い浮かべる。
「彼ね、アリシアちゃんと出会った時には既に病魔に蝕まれていて、長生き出来ないってわかってたの。だから、パパは結婚に反対したんだけど……。それでも愛している、残りの時間を少しでも長く一緒に過ごしたいって、アリシアちゃんに泣かれてね。パパも根負けして、婚約成立を後押ししたってわけ」
「……父と……母が……。そんな事があったなんて……」
今は亡きご両親の真実に、目を泳がせる陛下。
そうだったのか。これで納得がいった。
記憶の中の、王配殿下のひ弱なお姿。殿下はあの頃から、密に闘病中でいらしたのだ。
そんな事とはつゆ知らず。
ローラ王女の父君として、アリシア女王陛下をお支えするパートナーとして、殿下はあまりにも頼りないのではと……そう見誤っていた自分が恥ずかしい。
「婚約の為の根回し、大変だったのよ~。弱小貴族の病弱当主を王配として認めさせるのは。でも、アリシアちゃんには国や王室の為じゃなく、私達みたいに愛ある結婚をしてほしかったから……パパも私も、頑張ったの」
当時の苦労を、懐かしむように、愛おしむように振り返る母。
「ローラちゃん。安心して? あなたはアリシアちゃんと王配殿下が、心の底から愛し合って生まれた子なの。うちのパパと不貞なんて……あなた達が兄妹だなんて、ある筈がないわ」
にっこりと微笑む母の言葉に、熱いものがこみあげてきたのだろうか。陛下は瞳をうるませながら、頭を下げた。
「ありがとうございます……伯爵夫……いえ、おば様」
「陛下……っ」
ハンカチで目元を拭う陛下の肩に、そっと手を添える。
よかった。
俺達の間に血の繋がりが無かった。
愛する父の、身の潔白が証明された。
そして、アリシア様と王配殿下との絆を知る事が出来た。
俺にとっても、陛下にとっても、その真実全てが尊い。
「母上、お話しくださりありがとうござ」
「ねえ! そんな事よりローラちゃんてさ、レオの事好きなの? ちょっと会わないうちに、二人の仲は急進展しちゃってるわけ?」
「え……っ」
もう少しこの心地良い空気に浸っていたい所に……遠慮もせず切り込んで来た母。
「ええと……それは、その……」
そして、母からの意表を突く質問に、言葉をどもらせる陛下。
よし。ここは俺が代わりに答えさせて頂こう。
良い機会だから、母にもきちんと知っておいてもらわなければ。俺達の関係を。
「そうです好きなんです!! 陛下は俺を愛していらっしゃるのです!! 兄妹かもと思い悩んで痩せてしまわれる程……! ド貧乳を力技で寄せ上げて、俺好みの豊満ボディを作り上げる程……!それほどに深く深く俺を愛してくださ」
言い終えるのを待たずに――脳を揺さぶられるような衝撃が眉間から広がる。
その原因は……
力説する息子に母から贈られた、全力のグーパンチだった。
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