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おばけなんてな~いさ、おばけなんてう~そさ

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 真っ暗な通路を歩いていると、思い出す。

 陛下も俺も、まだ子供だった頃――。
 秋の夜長に、怪談モノの本を読んでしまった俺とローラ様は、すっかりビビりまくってしまって。

 窓を揺らす風の音や、廊下に伸びる置物の影。
 そんなものたちに、いちいち怯えながら……俺達は手を取り合い、トイレまでの道のりを歩いたのだ。
 
 実は俺は……あれ以来、幽霊がダメで。

 相手が人間なら、不審者だろうが暴漢だろうが、怖くは無い。返り討ちにする自信があるから。

 だが、連中は違う。
 どこの誰で、何が目的なのか、言葉や剣が通じるのか。何もわからない。わからな過ぎて、怖い。
 人間とは……自分とは異質の、正体不明な存在に恐怖する生き物だから。
 決して俺が特別な臆病者というわけでは無く。

 だから真っ暗な場所を独りで歩いている時は、いつも願っている。
 
 どうか……どうか連中に出くわしませんようにと――

 コツン。

 「ぎぃやあああああああ!! いやぁあああああああ!!!!」

 絶叫後、頭を抱えてうずくまる。

 手に持ったランタンがコメカミに当たった。痛い。でもそれ以上に、怖い。

 「お、おち、落ち着け。い、石ころ……石ころを、蹴っちゃった……だけ? だろうな? 目の前に石ころなんて転がってなかった気がするけど、きっとそうだな? うん、そうに違いない」

 わずかな物音が聞こえただけで、涙目になっている自分を情けなく思いながら……抜けつつある腰にムチを打ち、なんとか立ち上がった。

 「し、しっかりしろ……! 俺の記憶が正しければ……あともう少しで恵みの間に着くはず……!」 

 
 夜の10時。俺は屋敷を出た。
 父の追悼集会を理由に、今日、明日と休暇を取っていたから……久しぶりに実家に泊まり、ゆっくり過ごす予定だったけれど……


 『今夜12時、恵みの間にきてちょうだい。……そこで、全てを話します』


 陛下が、そうお約束下さった以上、見参しないわけにはいかない。

 たとえ、長く暗い隠し通路を……延々一人で突き進む事になろうとも。


 ランタンの灯りだけを頼りに、古めかしい洞窟のような道を行く。

 ……この通路は、一体何のためにあるのだろう。

 1度目にここを通った時は、状況が状況だっただけに、そんな疑問を抱く余裕も無く、駆け抜けてしまったけれど。

 今回は、おっかなびっくり……もとい、じっくりゆっくりと歩いているものだから……考えてしまう。

 この道の、存在意義を。

 恵みの間に、城外へ続く隠し通路があるという事自体、俺は知らなかった。
 女王陛下を最も近い場所でお守りする、護衛騎士であった俺が、だ。

 例えば、恵みの間で陛下が祈りを捧げている時、何かが起きて、陛下がこの道を使い、難から逃れたとする。
 だが、その後は?
 
 隠し通路なんてものがある事すら、側近である護衛騎士さえも知らないのだ。
 だから、陛下が逃げた事も、逃げた先も、誰も知らない。分らない。
 つまり、城の裏門近くに脱出した陛下を保護出来る者は……一人もいない。

 だったら一体……何の為に……?

 「まさか……肝試しの為……? な、なーんてな……はは……そんなわけなーいじゃーん」

 幼稚な可能性を口にし、乾いた笑い声をあげてみる。

 ダメだ。恐怖のあまり、人格まで変わって来てしまっている。

 しっかりしろレオナルド。

 お前はこれから、陛下の秘密の扉を開けに行くのだ。

 紅薔薇の秘密がどうとか、爵位を継ぐための遺言だとか、美男騎士の恨み言だとか、それをトマトのシェフが知ってるとか知らないとか……正直、今日一日で色々ありすぎて、頭がこんがらがってきているが。

 今何よりも優先すべきは、愛おしい女王陛下の事。

 ローラ様が俺への愛を語って下さった。俺に全てを打ち明ける覚悟を決めて下さった。

 だから俺は応じなければ。
 全力で。命懸けで。


 薄明りが、前方から差し込む。

 ゆっくりと開かれる扉。

 「来てくれたのね、レオ。」

 ローラ様は少し悲し気な笑顔で、俺を迎えて下さった。
 
 「勿論です。大切なあなたとの、お約束ですから」

 ネグリジェ姿の陛下にお目に書かれた喜び。ようやく肝試しのゴールにたどり着いた安堵。
 そしていよいよ、愛する人の秘密を知るのだと言う、緊張。
 
 様々な感情を抱きながら、一歩前に踏み出した俺を制するように、手の平をこちらに向ける陛下。

 「部屋に入る前に……一つ、懺悔をしても良い?」

 いや良くない。
 一刻も早くこの真っ暗な肝試しロードとおさらばして、明るい室内に入りたい。

 と、いうのが正直な気持ちだけれど。そこは俺もいい大人なので……空気を呼んで、頷いた。

 「はい、勿論です。しかし……懺悔とはどうい」

 「あなたのお父様……リナルド・レノックス伯爵を殺したのは……私なの」

 俺の言葉に遮る形で吐き出された陛下の懺悔は……予想の斜め上からホップステップジャンプ……した後にダイブしちゃった! ……位に、衝撃的な内容だった。
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