女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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困り顔は時にどんなキメ顔よりも可愛い

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 わかっている。
 陛下が、『色々いい感じに進んでラッキー!』……などという、呑気な心情ではいらっしゃらない事は。

 俺の愛するお方は今、勇気を振り絞っておられる。
 
 祖国と民の為、そしてご自身の為に、新たな一歩を踏み出す勇気を――。

 「あの……あなた達は怖くないの? 私達のしている事は間違ってるかもしれない。その過ちによって、多くの人を不幸にするかもしれない……そういう、恐怖心は……?」

 盛り上がる俺とジェニーの間に、ポツリと零される陛下。
 ジェニーは慌てた様子で、ローラ様の方へと向き直る。

 「す、すいません! 自分が役に立てるんだと思ったら嬉しくてはしゃいじゃって……。女王様は背負ってるものの重さが違いますもんね! 不安になるのは当然です! 女王様に比べたらあたしなんて、ただの料理人ていう気楽な立場だし!」

 「あ、違うの、そういう……あなた達の立場を軽んじているわけじゃなくて……ごめんなさい」

 「え? あっ……そういう意味じゃ……すいません、かえって気を遣わせて……!」

 「いいえ、私の方こそ……」

 「っふ……!」

 なんだか、思いっきり女子っぽいやりとりをされている陛下が新鮮で……思わず笑ってしまった。

 そんな俺の方へと同時に振り返る、陛下とジェニー。

 「なによ、レオ」

 「私、何かおかしい事を言ったかしら……」

 困惑した表情を浮かべている2人が何とも言えずキュートで……にやにやを止める事が出来ないでいる俺に、眉をひそめるレディ方。

 「いえ、すいません。陛下が率直に不安を口にして下さる事も……それについて語り合う仲間が出来た事も……なんだか嬉しくて」

 口角上がりっぱなしの口元を手で覆う俺を、陛下はキョトン顔で見つめた。

 「陛下。この判断が正しかったのか……それがわかるのは、未来です。未来に望ましい結果が出ているか否かです。そして……未来と結果は、努力により作り出す事が出来ます。だから私には、答えの出ない不安に怯えてる暇など無いのです。私はただ、ベストを尽くすだけ――あなたが幸せを感じられる、未来を創るために!」

 「そう……そうよね……あなたの言う通りだわ」

 あれ。

 『陛下のお心に刺さる事言えたー!』
 という手応えを、少なからず感じたのだが。

 予想に反して、未だ晴れやかな表情を見せて下さらないローラ様。俺の意見に賛同して下さっているような、口ぶりではあるけれど。

 「レオ……こういう時、あなたの頼もしさが本当にまぶしいわ。私は……情けない。非常時にリーダーシップを発揮してこその君主なのに……いつも励まされてばかりで……」

 うつむきがちに、俺に賛辞を送って下さった陛下に『いやいやいや』と、ツッコミを入れるジェニー。

 「それは違います女王様! 付き合いの浅いあたしが言うのもなんですけど……レオって多分、女王様の事しか考えてないんですよ! だから国やら民やらの心配を、大してしてない。ただ、彼らが不幸になったら、あなたが心を痛めるから、それを防ごうとしてるだけで」

 半笑いで展開されるジェニーの自論に、陛下は興味深そうに聞き入る。

 「でも、それでいいんじゃないでしょうか? あなたは女王様として、国全体の事を考えて、悩む係。こいつはあなたにベタ惚れの騎士として、あなたに尽くす係。あたしは……どっちにも当てはまらないけど……ママみたいな犠牲者を出さない為に頑張る係。誰が偉いとか、頼もしいとか情けないとか、無いんですよ。それぞれがそれぞれの役目を果たす為に、悩んで苦しんで……でも時には協力して励まし合って、一緒に頑張って行けばいいんです!」

 「おお……っ」

 少々乱暴ではあるけれど、説得力あるジェニーの言葉に、思わず拍手を送ってしまう。
 自分でも無自覚だった自分の性質を……ズバリ言い当てられた事にも、大いに感心してしまって。

 「彼女の言う通りです陛下! 私は基本的にあなたの事しか考えてません! 今だって、あなたは予測を外して民が犠牲になったらどうしよう……とか心配していらっしゃるのでしょうが……私は、あ! 陛下のネグリジェ、膝から下のスカート部分、シースルーだ! あぁどうして透けて見えるものって、直で見るよりもいやらしく感じるのだろう? その官能的なスケスケごと、白いおみ足を舐め回したい!! とか考えています!
 あなたの心に不安や恐怖が占拠し続けているのは、あなたが民の事を深く深くおもいやっている証拠……あなたが名君である証拠なのです!」

 陛下の手を握りながら熱弁する俺を前に……陛下のお顔は次第に穏やかになっていかれて……

 「レオ……それにジェニー……ありがとう! そんな風に言って貰えて……私は本当に嬉しい。頼もしい仲間を持てた事、心から感謝します!」

 泣き出しそうな笑顔を、俺とジェニーに、順に向けてくださる陛下。

 良かった……。
 今度こそ、陛下のお気持ちを少しでも楽にして差し上げられた。そう胸を撫で下ろしたのも束の間――

 「え!? え!? 女王様、それでいいんですか!? スケスケのくだり、スルー出来ちゃいます!? さすが、付き合いが長いだけあって、めっちゃセクハラ耐性ついてますね!?」

 若干引き気味でそう言うジェニーに、陛下はハッとした様子で目を見開いた。

 「ほ、本当だわ……私、日頃からレオの卑猥な発言にさらされ過ぎて……普通に聞き流してしまっていた……! こ、怖い……! ありがとうジェニー! レオと話していても、あなたのように常識的な人が同席してくれていると、私は普通の人間らしさを失わずに済むかもしれない!」

 「よかったですね! ローラ様!」

 「ええ! 本当に良い仲間が出来たわ!」

 「え? あ、ああ……よかった……なら、よかったです……けど……」


 ゴーン……


 ジェニーが引きつき笑顔を浮かべたタイミングで、恵みの間の大時計が鳴った。


 「あれ! もう1時!? これ以上お邪魔するのも悪いし……あたしは先に帰ろうかな? じゃあ女王様、突然申し訳ありませんでした! 何か詳しい事が決まったら、あたしはレオから聞かせて貰いますので! それでは」

 頭をかきながら、いそいそと立ち去ろうとするジェニー。を、俺は全力で止める。

 「ジェニジェニジェニー!!!! 帰るなら俺も一緒に!!!! ほら暗いからこの通路は!!! 女性にはアレだろう!!!!」

 「いや、あたしは別に大丈――」

 笑顔で俺の同行を遠慮するジェニーの腕を、しがみつくように掴む。
 
 本当はもう少し、陛下と共に過ごしたい所だったけれど――。あまり夜更かしをして、連日多量の公務を抱えておられる陛下のお体に障ってもいけないし。

 そして何より……正体不明の連中は、午前2時頃に出没しやすいと……陛下と呼んだあの本に書いてあった。
 俺やジェニーが奴らに襲われたら、ローラ様は再び一人ぼっちになってしまわれる。それは何としても避けなければ。

 ……うん。まっとうな理由だ。

 もし、『なぜもう帰ってしまうの?』とか聞かれたら、そうお答えしよう。一人であの道を帰るのは怖すぎるからとか、正直に言わずに。

 「そ、それでは陛下! 夜分に失礼いたしました! ソレリ様とのお話し合いについては、追ってお手紙させて頂きます! それでは!」

 「は、はい、わかったわ! あっ……レオ! 最後にちょっとだけ、相談が……いい?」

 「はい……?」

 遠慮がちに俺を引き止めた陛下の『相談』の内容は……

 俺にとって、甘い甘い、アメ以外の何物でもなかった。
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