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海を漂うだけのワカメの暮らしに憧れてしまうのは心が疲れているサイン
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ワカメ。
海中に生息する、海藻の一種。
海沿いにでも住んでいない限り、あまり口にする機会の無い食材だけれど……このサロイド村で暮らすようになってからは、ほぼ毎日口にしている。
独特の食感のわりに、それ自身には殆ど味が無い為、食べた後も特に印象に残らない。
好きでも嫌いでも無い。
料理に入ってれば食べるし、無くても積極的に欲する事もしない。要は、特別関心を持たれる事のない存在。
「なんだか……悲しい存在だな、ワカメとは」
「ふっ……いきなり何を言い出すの?」
夕食時――ワカメと卵のスープを口に運びながら、ポツリとこぼした俺を、クリスティーナは鼻で笑った。
「人間が相手だと……憎むよりも残酷なのは、無関心だと言うだろう? 好きだとか嫌いだとかっていう感情を抱く事は、その人物に対してある種の情熱を傾けている事になるが……無関心は違う。無、だ。何も無い。情熱や時間や……自分の何かを注ぎ込む価値など無いと、言っているようなもので……」
「やけに感傷的ね。お母様からの手紙のせい? あの事件以来、愛する女王に何の関心も寄せられていない自分を……ワカメに重ねているの?」
「……君の方は? クリスから手紙は来ないのか?」
質問に質問で返し、答える役を彼女に押し付けた。
「……私がここにいる事、知らないもの。あなたへの復讐が終わったら、自由になるって決めてたから」
クリスティーナは少し不満気に頬を膨らませはしたものの、俺の触れてほしくない傷口をくすぐった負い目を感じてはいるのか、質問には答えてくれて。
「元気でやってはいるのか?」
「双子の妹を亡くした心労を理由に騎士団を辞めてから、働きもせず気ままに暮らしてるわ。うちの家は色々商売をやっているけど……組織が大きいから、トップがいなくてもまわるのよ」
「その割には、君は時々実家に帰っているじゃないか、仕事をしているんじゃないのか?」
「仕事っていうか……母の事はやっぱり、心配だから」
そう言って、優し気な、悲し気な表情を浮かべるクリスティーナ。
見た事もない彼女の顔に、夕食を食べる手を止めてしまう。
「母は……昔から家族の為に尽くしてくれたの。女王と王女に父をとられても、私やクリスに寂しい想いをさせない為に……一生懸命愛してくれた。でも……母が誰よりも愛していたのは子供じゃない、父よ。母は誰よりも……夫を愛していた。
だから私とクリスは、あなたの父親と、ローラ女王を恨んでいたのよ。父を殺されたからというよりも……大切な母から、愛する夫を奪ったから」
スープ皿の中のワカメを、スプーンの背で撫でるクリスティーナ。
たとえ手にしているのが銀食器でなくとも、その手と所作の美しさから、良家の令嬢である事は容易く見抜かれてしまうだろう。
『何不自由なく育てられた、幸せなお嬢様』
初対面の人間は、間違い無くそんな印象を抱くに違いない。
けれど、実際は違う事を、俺は知っている。
手の甲や指先は細く、白く、傷一つ無いが……手の平や指の腹には、いくつもの傷跡やタコが残っている。
まるで、あの方のような手……。
苦労知らずの温室育ちと、人々からは思われているけれど、それは真実では無い。
王位継承者にふさわしい知識と見識を得る為に、目が充血する程の寝不足と闘いながら、スパルタな家庭教師達の指導に耐え、数え切れない数の本を読破して。
そんなあのお方も、俺の前ではうっかりうたた寝なんてされるものだから、俺はその天使のような寝顔にキュンキュンムラムラしどおしだった。
口の端からつぅっと垂れたよだれを、全力で舐め飲み込みたい衝動を抑えるのは大変だったな……。
今目の前にいる彼女が、あのお方のように唇を半開きにした官能的な表情で居眠りする思春期を過ごしたかどうかは知らないが……おそらく、クリスティーナの人生も平坦なものではなかったろう。
彼女は憎しみと悲しみに満ちた人生を送ってきたのだ。
自らの死を偽装してまで、俺と家族を破滅させようとする程の、深い、深い――
「教えてくれ。俺の父は……何をしたんだ」
「……呼んだのよ。5年前の、あの大雨の日。私の父を、山奥の別荘に呼び出した。当時女王になったばかりのあの女を、救う為に――」
クリスティーナが低い声で語り始めたタイミングで――窓の外では雨音が響き出した。
海中に生息する、海藻の一種。
海沿いにでも住んでいない限り、あまり口にする機会の無い食材だけれど……このサロイド村で暮らすようになってからは、ほぼ毎日口にしている。
独特の食感のわりに、それ自身には殆ど味が無い為、食べた後も特に印象に残らない。
好きでも嫌いでも無い。
料理に入ってれば食べるし、無くても積極的に欲する事もしない。要は、特別関心を持たれる事のない存在。
「なんだか……悲しい存在だな、ワカメとは」
「ふっ……いきなり何を言い出すの?」
夕食時――ワカメと卵のスープを口に運びながら、ポツリとこぼした俺を、クリスティーナは鼻で笑った。
「人間が相手だと……憎むよりも残酷なのは、無関心だと言うだろう? 好きだとか嫌いだとかっていう感情を抱く事は、その人物に対してある種の情熱を傾けている事になるが……無関心は違う。無、だ。何も無い。情熱や時間や……自分の何かを注ぎ込む価値など無いと、言っているようなもので……」
「やけに感傷的ね。お母様からの手紙のせい? あの事件以来、愛する女王に何の関心も寄せられていない自分を……ワカメに重ねているの?」
「……君の方は? クリスから手紙は来ないのか?」
質問に質問で返し、答える役を彼女に押し付けた。
「……私がここにいる事、知らないもの。あなたへの復讐が終わったら、自由になるって決めてたから」
クリスティーナは少し不満気に頬を膨らませはしたものの、俺の触れてほしくない傷口をくすぐった負い目を感じてはいるのか、質問には答えてくれて。
「元気でやってはいるのか?」
「双子の妹を亡くした心労を理由に騎士団を辞めてから、働きもせず気ままに暮らしてるわ。うちの家は色々商売をやっているけど……組織が大きいから、トップがいなくてもまわるのよ」
「その割には、君は時々実家に帰っているじゃないか、仕事をしているんじゃないのか?」
「仕事っていうか……母の事はやっぱり、心配だから」
そう言って、優し気な、悲し気な表情を浮かべるクリスティーナ。
見た事もない彼女の顔に、夕食を食べる手を止めてしまう。
「母は……昔から家族の為に尽くしてくれたの。女王と王女に父をとられても、私やクリスに寂しい想いをさせない為に……一生懸命愛してくれた。でも……母が誰よりも愛していたのは子供じゃない、父よ。母は誰よりも……夫を愛していた。
だから私とクリスは、あなたの父親と、ローラ女王を恨んでいたのよ。父を殺されたからというよりも……大切な母から、愛する夫を奪ったから」
スープ皿の中のワカメを、スプーンの背で撫でるクリスティーナ。
たとえ手にしているのが銀食器でなくとも、その手と所作の美しさから、良家の令嬢である事は容易く見抜かれてしまうだろう。
『何不自由なく育てられた、幸せなお嬢様』
初対面の人間は、間違い無くそんな印象を抱くに違いない。
けれど、実際は違う事を、俺は知っている。
手の甲や指先は細く、白く、傷一つ無いが……手の平や指の腹には、いくつもの傷跡やタコが残っている。
まるで、あの方のような手……。
苦労知らずの温室育ちと、人々からは思われているけれど、それは真実では無い。
王位継承者にふさわしい知識と見識を得る為に、目が充血する程の寝不足と闘いながら、スパルタな家庭教師達の指導に耐え、数え切れない数の本を読破して。
そんなあのお方も、俺の前ではうっかりうたた寝なんてされるものだから、俺はその天使のような寝顔にキュンキュンムラムラしどおしだった。
口の端からつぅっと垂れたよだれを、全力で舐め飲み込みたい衝動を抑えるのは大変だったな……。
今目の前にいる彼女が、あのお方のように唇を半開きにした官能的な表情で居眠りする思春期を過ごしたかどうかは知らないが……おそらく、クリスティーナの人生も平坦なものではなかったろう。
彼女は憎しみと悲しみに満ちた人生を送ってきたのだ。
自らの死を偽装してまで、俺と家族を破滅させようとする程の、深い、深い――
「教えてくれ。俺の父は……何をしたんだ」
「……呼んだのよ。5年前の、あの大雨の日。私の父を、山奥の別荘に呼び出した。当時女王になったばかりのあの女を、救う為に――」
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