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部屋、侵入
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「はい。あら、どちら様?」
管理人室から出てきたのは、60代くらいの人の良さそうなおばさんだった。
「あの、わたし205号室の菊池友也の妹なんです。兄から合鍵を貰っていたんですけど失くしてしまいまして、部屋を開けて頂けませんでしょうか。」
「あらあら、そうなの。うーん、じゃあ何か妹さんって分かるものとかあるかしら。」
「それが、財布と鍵が入っていたバッグをどこかに置き忘れてしまったみたいで、失くしてしまったんです。それで慌てて、近くの兄のところに来たんですけど。」
「あらまあ、それは大変じゃない。じゃああなた今は何も持っていないの?」
「いえ、スマホだけはポケットに入れていたので、もしあれでしたら今兄に電話して代わってもらった方がいいでしょうか?」
「あらあら、そうね、できるのならそうしてもらおうかしら。」
「はい。ちょっと待ってください。」
プルルルル
「はい、もしもし。」
「あ、お兄ちゃん?めぐみだけど。実は今お兄ちゃんの家に来てるんだけど、鍵を失くしちゃって。大家さんといるんだけど、電話代わってもいいかな。」
「ああ、わかった。」
めぐみはおばさんに携帯電話を渡した。
おばさんは携帯電話に表示された「菊池友也」の名前を確認してから電話に出た。
「もしもし、菊池さん?私、大家の沢田だけど。」
「ああ、すみません妹がご迷惑おかけして。申し訳ないんですけど、家の鍵を開けて入れてやってくれますか?」
「ああ、大丈夫ですよ。一応本当に妹さんかどうかを確かめるために、電話をかけてもらっただけなんでね。じゃあ、合鍵使って入れてあげますね。」
「よろしくお願いします。」
電話を切った大家のおばさんは、ちょっと待ってねと言って、部屋から合鍵をもってきて菊池の部屋を開けてくれた。菊池の部屋に入り、何か手掛かりになるものはないかと探していると、そっと玄関のドアが開いた。
「ほんとに上手くいったな!」
「だから言ったでしょ。」
ドアから姿を現したのは、顔を赤らめて興奮した様子の優馬だった。
実は、大家のおばさんに会いに行く前、優馬はめぐみからある指示を出されていた。それは、めぐみから掛かってきた電話に菊池友也として出るというものだ。めぐみはあらかじめ優馬の電話番号の登録名を菊池友也に書き換えておいた。お兄ちゃんという表記でもよかったが、自分なら本名以外での登録などしないなと思い、そこはリアリティを出しておいた。そして後は物陰に隠れていた優馬が菊池友也として電話に出て、入室の許可を出すだけの極めて簡単なトリックだった。
「いや~これは完全に俺のおかげだよ。俺の声が奇跡的に本物の菊池さんと似てたから、バレないで済んだんだぜ。」
得意げに話す優馬に対し、「そんなわけないでしょ。特別親しくもない人の声なんてそもそもうろ覚えだし、まして電話越しで正確に判断なんてできる人の方が少ないわよ。だからオレオレ詐欺なんてものがあんなにも普及したんでしょう。それを自分のおかげだなんて自信満々に言える所が、本当におめでたい人間よね。あなたほど小さな幸せを日々感じられる人も他にいないんじゃないかしら。」
めぐみは心の中で思っただけで、実際に口には出さなかった。何でもかんでも思ったことを口に出せばいいというわけでは無いことを知っていたからだ。
私はあの高校生とは違う。
「そうね、本当に助かったわ。やっぱり優馬は何か持ってるよね。」
にっこりと笑ってめぐみは言った。
「へへ、まあね。」
本当に単純な男だ。
幾分か心が白けたところで、部屋の捜索が再開された。
管理人室から出てきたのは、60代くらいの人の良さそうなおばさんだった。
「あの、わたし205号室の菊池友也の妹なんです。兄から合鍵を貰っていたんですけど失くしてしまいまして、部屋を開けて頂けませんでしょうか。」
「あらあら、そうなの。うーん、じゃあ何か妹さんって分かるものとかあるかしら。」
「それが、財布と鍵が入っていたバッグをどこかに置き忘れてしまったみたいで、失くしてしまったんです。それで慌てて、近くの兄のところに来たんですけど。」
「あらまあ、それは大変じゃない。じゃああなた今は何も持っていないの?」
「いえ、スマホだけはポケットに入れていたので、もしあれでしたら今兄に電話して代わってもらった方がいいでしょうか?」
「あらあら、そうね、できるのならそうしてもらおうかしら。」
「はい。ちょっと待ってください。」
プルルルル
「はい、もしもし。」
「あ、お兄ちゃん?めぐみだけど。実は今お兄ちゃんの家に来てるんだけど、鍵を失くしちゃって。大家さんといるんだけど、電話代わってもいいかな。」
「ああ、わかった。」
めぐみはおばさんに携帯電話を渡した。
おばさんは携帯電話に表示された「菊池友也」の名前を確認してから電話に出た。
「もしもし、菊池さん?私、大家の沢田だけど。」
「ああ、すみません妹がご迷惑おかけして。申し訳ないんですけど、家の鍵を開けて入れてやってくれますか?」
「ああ、大丈夫ですよ。一応本当に妹さんかどうかを確かめるために、電話をかけてもらっただけなんでね。じゃあ、合鍵使って入れてあげますね。」
「よろしくお願いします。」
電話を切った大家のおばさんは、ちょっと待ってねと言って、部屋から合鍵をもってきて菊池の部屋を開けてくれた。菊池の部屋に入り、何か手掛かりになるものはないかと探していると、そっと玄関のドアが開いた。
「ほんとに上手くいったな!」
「だから言ったでしょ。」
ドアから姿を現したのは、顔を赤らめて興奮した様子の優馬だった。
実は、大家のおばさんに会いに行く前、優馬はめぐみからある指示を出されていた。それは、めぐみから掛かってきた電話に菊池友也として出るというものだ。めぐみはあらかじめ優馬の電話番号の登録名を菊池友也に書き換えておいた。お兄ちゃんという表記でもよかったが、自分なら本名以外での登録などしないなと思い、そこはリアリティを出しておいた。そして後は物陰に隠れていた優馬が菊池友也として電話に出て、入室の許可を出すだけの極めて簡単なトリックだった。
「いや~これは完全に俺のおかげだよ。俺の声が奇跡的に本物の菊池さんと似てたから、バレないで済んだんだぜ。」
得意げに話す優馬に対し、「そんなわけないでしょ。特別親しくもない人の声なんてそもそもうろ覚えだし、まして電話越しで正確に判断なんてできる人の方が少ないわよ。だからオレオレ詐欺なんてものがあんなにも普及したんでしょう。それを自分のおかげだなんて自信満々に言える所が、本当におめでたい人間よね。あなたほど小さな幸せを日々感じられる人も他にいないんじゃないかしら。」
めぐみは心の中で思っただけで、実際に口には出さなかった。何でもかんでも思ったことを口に出せばいいというわけでは無いことを知っていたからだ。
私はあの高校生とは違う。
「そうね、本当に助かったわ。やっぱり優馬は何か持ってるよね。」
にっこりと笑ってめぐみは言った。
「へへ、まあね。」
本当に単純な男だ。
幾分か心が白けたところで、部屋の捜索が再開された。
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