弱テン才

愚者

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一章【蒼白の洞窟編】

一話 出会い

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「はぁ…はぁ……まさか…空を見上げていたら君がこの洞窟から落ちてくるんだもん…ビックリしたよ…」
ドラゴンの角と羽。そして尻尾を持つ娘…明らかに存在しない人種。さらに何故か裸でそして圧倒的に違和感のない緑髪。染めた訳じゃないだろうからたぶん地毛で…喋り方と容姿からして十二歳くらいといったところか。
ゆっくりと地面に下ろされた俺はただ呆然と寝転んでいた。
「それで…君の名前は…?」
「え…?」
俺を下ろしたあとゆっくりと自分も地面に座り興味津々に聞いてくる。
「…あれ?生きてる?おーい…」
…放心状態でなにも話せる気がしない。
視界に入ってくる娘。手を振り確認をとる
「…これは夢?夢なら夢って言って欲しい」
「なに言ってるの?」
ダメだ。今の俺に言葉のキャッチボールは出来てないらしい
「でも生きてるみたいでよかったよ」
死ねてない事に絶句しているなんて彼女の前で到底言えるわけもなく…押し黙ってしまう
「…それで……名前なんて言うの?」
…なんて名乗れば良いんだ?本名か?いや…本名はやだな…そうだ。こういう時のネットネーム
「ルテロッテ……」
「ルテロッテって言うんだ!可愛い名前だね!」
可愛いだと…?俺は曲がりなりにも一般成人男性だぞ。何を言ってるんだこの子は
「…可愛い?」
「うん!君の見た目にあった可愛い名前してる!」
見た目にあった…?俺の見た目は…
そう思い手を顔に当ててみるといつも触っているガサガサの肌もチクチクの髭もない。すべすべつるつるの美肌、俺は真っ先に下半身を触った。
そこにはそれが消えている。
は…?どうなってる…?俺は確かにビルから落ちたハズだ…
「どうしたの?そんな顔して」
「…え?あ…いや…なんでもない…本当になんでもないよ」
建前で言ったがなんでもある。おかしい
何かがおかしい。死後の世界なのかすら怪しい…夢か?夢でも怪しいな…こんな意識がはっきりした夢なんてそうそうない。
「そういえばルテロッテはなんで落ちてきたの?」
いや…冷静になれ俺。自殺するために落ちたなんてこんな子供の前で言えないだろ…オマケにここはもう現世かどうかも怪しい。
「…分からない…かな…」
「えー!?分からないで落ちてきたの!?」
ごもっとも…本当にごもっとも
「まぁ…良いや。お腹空いてない?ご飯食べようよ!ついてきて!」
まぁ今は流れに合わせよう。この子についていくそれがベストな気がする。

緑色のドラゴン娘についていくとそこにあるのは洞窟の木漏れ日が差し込み日当たりがよい場所で焚き火の後と獣の骨が大量に山になった骨塚。そして適当に草で敷き詰められた寝床のようなものが木組された家と呼んで良いのか分からない家のなかに何故か置いてあるだけの簡素な。というか超雑な場所だった。
「じゃーん!これが私のお家だよ!ご飯取ってくるからそこら辺で座ってて!!!」
俺は焚き火の近くにそっと座り辺りを見渡した。
神秘的ではあるがあまりにも原始的すぎる…これでよく生活できてるなと思ったが…よくよく考えてみたらあの女の子さっきからずっと裸だし野生児なんだろうな…じゃあなんで言語を知ってるんだ?
謎が謎を呼ぶばかりだ。

「お待たせ~!さっき取ってきた取れ立てホヤホヤのお肉だよ!これから焼くから待ってて!!」
「…うん。」
そういうとこのドラゴン娘は口から息を吐くように焚き火に炎を吐いた。
「えぇ…!?」
「…ん?どうかした…?」
「口から…火を…」
「え?これが普通じゃないの…?」
そうか…ここでは常識は通用しない。ドラゴンだもんな…炎は普通だよな……だよな?
「ここに刺してっと…これで放置すれば焼けるよ!一人の時は自分の息で焼いて食べるんだけど人に渡すなら間接ブレスはダメだよね…」
そうだね?間接キス感覚でその単語出されるとさすがに困惑する…。まぁせっかくよくしてくれてるんだし…こっちからも何か聞くか
「…名前はなんて言うの?」
「私は名前をつけてもらったことがないの!だから分からない!」
「名前をつけてもらったことがない…?」
「うん!」
「じゃあなんで言葉を喋れるの?」
「ルテロッテが落ちてきた大きな洞窟があるでしょ?あそこの地下奥ふかくから声が聞こえてくるんだ。優しくて可愛い女の人の声がね。ディアさんって名乗ってた!その人にいろんな事を教わったんだ。狩りの仕方とか言葉とか!」
あの深穴のことか…あの下から声が聞こえてくるのか…
「行ったことあるの?」
「ううん?だって怖いよ…あんな深いところ」
「そっか…飛べるのに?」
「飛べるけど…深いところに落ちたときの想像なんてしたくないよ…」
「でもおr…僕の事を助けてくれたよね?あの時飛んでたじゃん…」
「あれは別!落ちてる人がいたら助けるのは普通だよ!」
なにこの子…可愛い
「…洞窟からは出ないの?」
「うーんと…私はここから出れない」
「というよりここの洞窟に住んでる動物や魔物、そして私はここから出たことがないの…」
「…あの木漏れ日から出ようとしないの?」
「出ようとするとよく分からない天井に阻まれて外にいけないの…だからここで暮らすしかないんだよ…」
「原因とかは?」
「ディアさんに聞いたら知ってる感じになってたけど話してくれなかった…」
「そっか……」
一先ずだいたいこの子の現状を理解した。

1.この女の子は名前も親もない
2.この子に言語や狩りなどを教えた存在は深穴の下に居る。
3.外にも出れない。下の人が何故か知ってるらしい…
4.この子は悪い子じゃない

というところかな…とりあえずお肉をいただこう…
「…とりあえず…このお肉冷めないうちにいただきます」
「召し上がれ!」
一口かじりついて
不味い…とにかく不味い…塩と醤油…どっちでも良いから欲しくなる。焼き加減はあってるのに…
「ずいぶん変な顔するね…美味しいときにする顔なの?」
無垢な質問が一番困る。どうしろってんだ…
「うん…美味しい…かな…」
「わーい!嬉しい!ありがとう!」
素直な反応が心を痛める
「…ねぇルテロッテ!ルテロッテが着けてるそれ。」
「ん?」
少女が指を指したのは俺の服だ。ボロボロの布。最低限の服でへそが出ているし短パン的な物だ。
「あぁこれは服っていうんだ。人間なら皆着てるんだよ」
「へぇー!私も着てみたい!」
ホントに衣服という物が頭のなかに存在しないらしい
と言っても流石に服を着てないのは彼女にとっては気にならないことなのだろうが俺が気になる。あと流石に常識くらいは覚えて欲しい
「試行錯誤…してみるか…ねぇ。ここら辺で動物とか狩れたりするよね?」
「うん!そうだよ!」
まぁ動物が狩れるなら毛皮くらいなら…というかここ全体をまずは紹介して欲しいかな…
「とりあえず全体を紹介して欲しい」
「良いよ!!私の狩り場を教えてあげるね!」
俺らは奥地に足を踏み入れた
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