弱テン才

愚者

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一章【蒼白の洞窟編】

二話 不安定

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「ここは私の狩り場!最近少なくなってきたからあっちに切り替えようとしてるんだ!狼も居るけど魔物も居るよ!」
「ふむ、なるほど…あっちは?」
「あそこは泉!あそこに居ると心と体が癒される感覚になるんだよ!喉が乾いたときもここで飲んでる!」
まぁ確かに綺麗だ。良い水が流れてきてるのだろうか…洞窟は自然のシステムでろ過された綺麗な水が流れるって聞くし…。飲んでも問題は無いんだろうな
「困ったら泉に行けば良いか…」
「そしてここが大きな洞窟!」
ここが俺が落ちてきた洞窟だ。上を見ると僅かに光が差し込んでいる。なんで彼処から差し込んでるんだろう
「見ててね…?…ディアさーん!こんにちはー!!!」
彼女は元気なくそデカイ声で洞窟の奧に挨拶した。
「……はーい…どうかしましたか~…?」
聞こえる謎の声。それは確かに聞こえた。女性の綺麗な声だ。これが彼女が言ってた【ディア】という女性の声か
「ね?聞こえたでしょ?ディアさんがこの声で私を育ててくれたんだ。」
「…確かに聞こえた。」
「ディアさーん!今日はお友達を連れてきたの~!」
「……お友達ですか…?それはどなたなんですか…?」
「ほら挨拶して?」
「初めまして~!ルテロッテです~!」
「…ルテロッテちゃんって言うんですね!……ディアです…初めまして~!…」
「いい人でしょ?」
「うん。いい人だね」
声色からして変なことを考えてない声だ。この声なら信じても良さそうな優しい声してる
「ねぇ…そのディアさんと会うために降りてみようよ」
「えぇ!?ダメだよ!?ディアさんも降りちゃダメって言ってるし」
「そうなの…?」
「ディアさーん!どうして降りちゃダメなんですか~!!!」
「ここに降りたら二度と出られなくなるからですよ~…!ルテロちゃんも気を付けてくださいね~…!」
「ね?」
なるほど…だからこのドラゴン娘は羽がついてるのに下に降りようとはしないのか…
「でもどうせ上に登っても出られないよね」
「うん…出れない…だけど下の方がもっとダメ」
そうねぇ…
まぁ今はこの子やディアさんの意見を聞いておこう。
「そうだね…降りないようにしようか…」
その後俺と少女は挨拶をして大きな洞窟を後にした。
「とりあえず…草のつるで編めるかもしれない…ねぇ…僕と一緒に草取りを手伝って欲しい」
「うん!私に服を作ってくれるんだよね!喜んでだよ!」
にしても名前がないと呼びにくいな…

~~~

「うわぁ!スゴいね!ここら辺の草から服が作れるなんて!ルテロッテは手先が器用なんだね!」
…そんなこんなで完成した草のつるを編んで作った服。編み物は俺の趣味の一つ。衰えてはいなかったな
「…まぁ…それなりにはね…とりあえず着てみてよ」
「うん!着てみる!」
何回もつるで体を結んで採寸は取ったから割とちょうど良く着れるとは思うが…どうだろうか
「…おぉ!お肌にぴったり張り付く感じ!なんだかワクワクする!」
俺が顔を上げるとシンデレラフィットした少女が一人で大はしゃぎしている。
まぁ何はともあれこの子の文明人の一歩だな…。
とにかく俺の方向性は決まった。まずは衣食住を安定させよう。話はそれからだ。俺は蛮族じゃない。
「とりあえず。…君の名前の件だな」
「…ん?私の事?」
「そうだよ。ずっと君とか貴女とかねぇとか呼ぶのってなんかめんどくさいでしょ?」
「…うーん…別に私はそこまで気にしてないけど…ルテロッテが気になるなら私に適当に名前をつけてよ?」
名前にすら興味ないとかお前は本当に人間なのか…如何せんこの子があまりにも野生に適合しすぎて驚く
「…そうだなぁ…じゃあ今日から君は…」

「エメラ」

「えめ…?」
「エメラだ」
「…どういう意味があるの?」
「僕の住んでた所にあった緑の綺麗な石。それがエメラルドって名前だったからエメラ」
この世界にあるかどうかは分からないけど…とりあえず…ね
「え?でもルテロッテ…記憶がないって言ってたよね?」
「…エメラの綺麗な髪を見てたら思い出したんだよ。だからこれからよろしくね。エメラ」
「うん!」
良く分かってない顔をしてるが頷いた。純粋で良い子だ。
「ディアさんに自慢してくる!」
エメラは全速力で深い洞窟の方へ走っていった。


何はともあれ…何となくでエメラと共に生きることになってるけど。俺は本来人殺しだ。こんなに楽しい思いをして良いのだろうか…生まれ変わったからと言って前世の業を消化できるわけがない。
「やっと気が付いたか」
…!?
目の前には誰もいない。誰かいる気配。あいつの気配がしたが…気のせいか…?
「気のせいなんかじゃない」
!?
「お前の事を思って…お前のためにやったのに…この人殺しが…」
…あぁ…あぁあ…
「…許してくれ…ごめん…俺が悪いんだ。許して…許してください…」
俺が悪かったんだ。やっぱり俺は悠々指摘に生きちゃダメなんだ。俺は人殺しだ。思い出した…
「あぁ……あヴぅぁぁぁ……」

「…ルテロッテ…?大丈夫?」
気付くと柿崎の気配も身体の震えも消え俺は縮こまっていた…。
「…エメラ……」
「すごいうなされてたよ…許してくれ…って?何かあったの…?」
「…いや…なにもない…ごめん」
「う…うん。ルテロッテが大丈夫なら良いんだよ…あ!それより!」
「大変なんだよ!洞窟の獣達が多くなりすぎたんだ!倒したんだけど…量が多くって…手伝ってよ!」
「…うん…わかった」
…近々…死のう…彼女には言えなかったが…俺はそう固く決意した。
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