弱テン才

愚者

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一章【蒼白の洞窟編】

三話 出会い

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「それじゃルテロッテ…おやすみ…」
「…おやすみ…」
俺はしばらくの間エメラの寝顔を見て完全に熟睡したのを確認してそっと寝床を抜け出した。
家を建てるのもご飯に味付けするのもどうでも良い。
「…ごめんエメラ強く生きて俺みたいになるなよ…」
そうやってゆっくりと俺は洞窟の穴へ向かう
「……怖い」
やっぱりどうしても怖い…死にたくない。
前の飛び降りはすごく足取りが軽かったのに…
「君もこっちにおいでよ。君も地獄の世界に行こうよ?」
死の縁から柿崎の声が聞こえてくる。
「…悪いな…今……今行くよ…」
あいつの声で力が抜けた。足が軽くなった…

ゆっくりと落ちる足。そこには地面はない



「…これは酷いですね…」
「…え?」
あぁ…この記憶は…俺が学校を卒業した後の精神科の先生の言葉だ
「ADHD、高機能自閉症、貴方の障害の名前です」
「……どう言った…?」
「…貴方イライラしがちでしょ?それに人と話すのも好きじゃない」
「はい…まったくをもって…」
「それが貴方の病気です」
「……はぁ…」
「しかし貴方は一番酷い状態だ」
「…え?」
「普通の人よりはまだ軽い方だ。言葉が足りてない訳でもない。大人しくしていろと言われればある程度なら出来る。」
「…軽いとダメなんですか?」
「生活保護の需給申請が取れないんです…」
「…はぁ?」
「貴方は社会で生きていくのも辛いでしょう。しかし少し軽い。だから需給申請が受け取れない…と言う事なんです」
「……そう…ですか…」
初めて知った事だった。だって柿崎とは話せてる。コミュニケーション能力が極限高かったわけではないけど…それでも人と話すくらい出来た
だけど俺が障害持ち…?



「……テさん……テロッテ…!」
声が聞こえる……あれ……?
「ルテロッテ!!!」
エメラの声が聞こえる。
ゆっくり目が覚まして辺りを見渡すと辺りは血だらけである。
「ルテロッテ!!起きたんだね!」 
そういうとエメラは俺を抱き締める。
「…あれ…どうなった…?」
「なんで落ちたの!?落ちちゃダメってディアさんに言われたよね!」
「………ごめん」
「……私も気づいたらルテロッテが崖から落ちてて…無我夢中で追いかけたんだけど…途中で見失っちゃって…下まで降りてきたらルテロッテが倒れてて……」
「辺りが血まみれ…なんで?」
「私が聞きたいよ。なんで血まみれなの…?」
…俺はエメラみたいに羽があるわけでもない。あんな高度から落ちたら死ぬはずだ。例えどんなことがあれ血まみれになるだけで済まされるはずがない…なのにどうして…?
「こんばんは。ルテロちゃん。エメラちゃん…いつかは落ちてきちゃうかな…と思ってましたが…ルテロちゃんが来てからは思ったより早かったですね…」
優しい声の先には青い髪の毛の女の人がたっていた。目は髪と同じく澄んだ青色。動きやすそうなドレスを着ており大きな羽、小さな角、そしてえげつないと言わんばかりのデカイ胸…間違いない…この人が深穴の声の主
「…貴女が…深穴の声の主…」
「…貴女が…」
「ディアさん…なんだね…?」
「…エメラちゃんとルテロちゃんは今日が初めましてですね…エメラちゃん…会いたかったです」
「…ディアさん!」
エメラはディアさんに向かって抱きついた。エメラは今日声しか聞こえなかった存在と初めて会ったのだ。俺の気まぐれのせいで
「…お二人ともこんな夜中に落ちてくるとは思ってませんでした。そうですね…まずは落ち着ける場所に行きましょうか…」
そういうとディアさんはエメラと俺の手を優しく握って
「私の住んでる場所に案内しますね。これからここで皆で暮らせる…そう考えるとワクワクしますね…♪」
と笑顔で歩き出した。落ちちゃダメとは…一体なんだったのか…

少し歩くと小規模ではあるが小さい噴水を囲むように二つの石造りの洞窟に隣接された家が立つ広場に出た。天井をみると青空ではないがドーム上に青いきらびやかな膜がついており明るさは外に近いものであった。噴水の奥には二つの人一人乗れるほどの台座があり辺りには花が咲いている。
基本的に家の回りやあちらこちらに水が流れており辺り一帯は水のせせらぎを感じれる。まるで天国のような程の神秘的空間が広がっていた。
「…ここがディアさんが住んでた場所なんだね…綺麗…」
エメラは目を輝かせて辺りを見渡していた。俺も同じような顔をしてただろう。今までこんな神秘的空間に来たことがなかった…。綺麗と言う言葉以外出てこない
「さぁこちらですよ。ここが今日からエメラちゃんとルテロちゃんが住む場所です。」
片方の家のドアを開けるとそこにはとても居心地のよさそうなダイニングが広がっていた。手入れが入念にされているのを感じる
俺とエメラを椅子に座るとディアさんはキッチンへと向かいお茶を入れ始めた。
「…初めてなことだらけで緊張してるよ…ルテロッテ…」
「…大丈夫…ディアさんだから…緊張しなくて良いと思う…」
そんなさも遠い親戚の家に来たかのようなソワソワを二人でしてるとディアさんがキッチンから戻ってきて砂糖を両方のアイスティーに三つ入れてカラカラと音を鳴らしながら俺達の前に置いて話し始めた
「…さて…何から話しましょうかね…エメラちゃんともルテちゃんともお話ししたいことはいっぱいありますが…とりあえず改めて自己紹介からさせて貰いましょうか…」
「改めまして私はディアルゴです!よろしくお願いしますね♪」
そういうとお辞儀をしてゆっくり座った。その動き立ち振舞い。優雅で非の打ち所がない
「じゃあ次私かな!私はエメラ!この名前は今日ルテロッテからつけて貰ったの!!!よろしくね!」
相変わらず元気なエメラ…礼儀や作法を知らない可愛いので非の打ち所がない。
「ルテロッテです…どうも…」
非の打ち所しかない挨拶…自殺しようとしたら死ねずにほのぼの空間にぶちこまれた俺は辺りの空気を少し冷やした。自暴自棄が加速しそうだ
「……えっと…じゃあまず!…なんで落ちてきたか。そしてなんで私が落ちてきちゃダメだよって言ってたかについてお話しましょうか♪」
ディアさんは明るい笑顔で空気を暖めた。
「…えっと…私は降りるつもりがなかったんだ…でもルテロッテが崖から落ちて……それを追ってたらこうなっちゃったの…」
「ルテロちゃん。その件に関して詳しく話していただけますか?」
声と顔は笑ってたが目が真剣だ。俺はこういう目に弱い
「…えっと…寝ぼけてました…」
「寝ぼけて崖から落ちる…ということはあり得るのでしょうか…?」
問い詰められている。そんなに落ちてきたら不味かったのか…?
「すいません…嘘つきました。故意に落ちました…本当は崖の暗闇を見て心を落ち着かせてました」
あえて嘘を二重にすることでこれ以上空気を悪くすることを防ぐ。嘘を暴露することで信憑性が増させるのはよくある会話の手段だ。なんとしてもここを切り抜けないと…
「なるほど…確かにはじめての環境…はじめての人…緊張する気持ちも分からなくはないです…がそれはそれ、これはこれです。これから先しないようにしてくださいね?」
「…すいませんでした…」
「…まぁ…この先…あればの話ですが…」
「…え?」
「それでルテロちゃん?なんでそんな嘘を混ぜたのですか?」
…この人すごい。雰囲気はポカポカしてるけど……話に隙がない…
「…普通…念入りして落ちてこないでくださいね…?と宣告されていたハズなのにわざわざ穴を見て落ちた…というのには何かしら人に言いたくない理由があるのですよね?言いたくないのなら言いたくないと言っていただければ深入りはしません。…ルテロちゃん。私の目をよくみてほしいです」
目だけではない。声もガチになった。表情は相変わらず柔らかいが…ディアさん側にも何か落ちてきてほしくなかった本当の理由があるんだろうか…?
「…言いたくない…事情が…あります…」
辺りがシーンとなった。エメラは真剣に聞いていて声を出す気がなさそうだ。
「……そうなんですね♪誰にも人には言いたくない事情は存在します。言ってくれてありがとうございます。ルテロちゃん」
声も顔も目も柔らかくなった。怖くはないしイヤと言う気持ちは沸かなかったが背筋になにか通るものを感じる話し方だった…この人は多分…敵に回しちゃ行けない…。絶対に…
「…さて…ごめんなさい…お話の空気を悪くしてしまって…」
「いえ…こっちこそすいません…」
「さて。切り替えていきましょ…あれ?」
「…ん?」
俺の肩にはなにか軽くふさふさしたのが乗っかっていた。
「ふふっ…寝顔も可愛らしいですね。続きはエメラちゃんが起きてからお話しましょうか……とりあえず寝る場所を用意します。ついてきてください♪」
ディアさんはそういうとエメラを抱っこして背中を撫でながら俺の手を繋ぎ寝床に案内してくれた。

あの真剣な顔は眠たかっただけだったのか…
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