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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第9話 炎竜バアル・ボウル(中)
しおりを挟むタイガにも何らかの遠距離用攻撃があると考えるべきだ。ならばすべきは、機動力で翻弄し続けること。自分にならそれができる、と即座に実行に移そうと――――
「――――む?」
移動が制限される。自分の足元に、何かが巻き付いている感覚を得た。いつの間にか、先ほど躱したと思っていた鎖が左足に絡みついていたのだ。
そして鎖を引っ張るのは当然、地上から睨み付けてくるタイガだ。しかしこれは好機だ、とバアル・ボウルは考える。これは機動力を殺されたのではなく、相手を崩す契機になり得ると。
ドラゴンと人間。何よりもサイズ差がある。それは即ち筋力差となって、後者は前者に敵うはずがない。バアル・ボウルが空を飛べば、必然タイガは引っ張られる形で宙に浮くこととなる。
(それこそが好機……! 空中で身動きが取れなくなったところへ、全力の一撃をお見舞いする! そうすれば我の勝ちだ――――)
バアル・ボウルは再度両翼を強く振った。それにより吹き荒ぶ暴風は、直撃した家屋を倒壊させるほどの威力を秘めていた。
――――しかし。
「悪いが子どもの自分から綱引きは得意でな。負けた試しがないんだ」
微塵も高度を上げることができない。どころか、徐々に地上へと引きずり降ろされていた。タイガは低い重心の状態で鎖を手繰り寄せている。
(これも魔法の類……!? いや、それ以上に元々の筋力量がずば抜けているのか! 転生者と言えど、身体能力は凡人とそう大差ないはずだろう!?)
今まで目にしてきた異世界転生者のいずれもが、チート能力にかまけた者ばかりだった。しかし目の前の男は違う。謎の能力に加え、驚異的な身体能力。転生後の肉体を極限までいじめ抜いてきたことの、明確な証左。
まずい、と思った刹那、視界が大きくブレた。ギリギリの均衡が崩れ、タイガによって大地に叩き付けられたのだ。
背中を地面に着く。今までにない経験が、バアル・ボウルの危機感を最大にまで引き上げる。
「く……っ!」
鎖を解除し、猛然と斬りかかってくるタイガへ、仰向けの状態のままブレスを吐いた。これまでとは違う、彼我の距離にして十メートルもない至近距離。たとえ神性を有していてもダメージは避けられまい。
加えて僥倖であったのは、ちょうど男の背後に先刻の村があったことだろう。神性は持ち主だけを守る。当然背後のものまでは守れない。盾で防がれるわけでもないため、このままでは間違いなく村を焼く。
つまりタイガに残された道は、この強烈なブレスを真正面から受け止めること。英雄気取りの青年なら、そうするほかないはずだ。
タイガは急ブレーキをかけて、代わりに右手を躊躇いなく業火へと差し出した。
瞬間、弾けるようにして、烈風が全方位に撒き散らされる。転生者とブレスの衝突による余波は、端的に凄まじいその威力を示していた。
バアル・ボウルはその隙に飛び上がる。俯瞰的視野を得て、激突の結末を見届けることができた。
放たれたブレスの軌跡は、タイガのいた位置から先には続いておらず、怖気づいて回避したのではないことを教えてくれる。そして互いの異なる魔力同士がぶつかり合った故に生じる爆発の規模が、バアル・ボウルに勝利を告げた。
「ハ――――」
高揚した気分のまま、沸き立つように笑みが零れてくる。
「ハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
勝った! 過程がどうあれ、自分はあの強い転生者に勝った!
それがハリボテであったとしても、自信・達成感はその者を化けさせる。バアル・ボウルにもその予感があった。
「ク、ク……! 力が漲ってくる、何と心地よい! これならばあの神竜さえも討てる。いや、もはや我一騎でこと足りる! 我がこの世界の新たな王だ――――っ!!」
天高く宣言しようと仰ぎ見た、その刹那。
「――――いや、生憎その野望は叶わない。せいぜいあの世とやらで唇を噛んでいろ」
侮るなかれ。お前を殺す者は、既に頭上を取っているぞ――――
「な……っ!?」
どうやって空を飛んだのか、など些末なことだ。大前提として、何故生きているのか。あれほどの一撃を受け止めてなお、どうして五体満足で動いていられるのか。
タイガはバアル・ボウルの鼻先に着地して、まさしく目と鼻の先で見下ろしてくる。
「貴様の考えていることはおおよそ見当が付く。実際肝を冷やして、少し雑に能力を振るってしまった」
「能力、だと……?」
「ああ。そう大層なものじゃない。他の転生者と同列に語るのも憚られるが……、冥土までの語り草にでもしてくれ」
そう言って、タイガは両手から二振りの剣を生み出して続けた。
「――――【調和】。それが俺の特性だ。これは能力じゃなく、魔力の質そのものが【調和】の特性を宿している」
魔力にはそれぞれ適した特徴がある。たとえばバアル・ボウルであれば、炎のブレスを吐くために、始めから魔力には火の特性が備わっている。逆に言えば水・氷系統のブレスを放つことはできない。
つまりタイガの魔力にも何らかの特性が付与されているのだろうが、【調和】というものは聞いたことがなかった。
タイガは器用に剣をクルクルと回しながら、
「【調和】――――あらゆる事象に対応し得る力のことだ。先刻で言うなら、貴様のブレスと俺の魔力を【調和】させることで、一切の無駄なく相殺したのだ」
「相殺……!?」
有り得ない、とバアル・ボウルがこれまで築いてきた道理が、即座に否定する。
理論上は可能だろう。異なる性質同士であれば相性差などで押し負けることがある。少なくとも互いの特性が反発し合い、大爆発は免れない。しかし調和させ、相手の魔力と同質のものにしてしまえば、反発することも相性差を考慮することも必要なくなる。
しかし――――
「貴様の言う通り【調和】によって我の一撃を模倣したとしよう。だが、魔力量はどうする!? たかだが人間風情、竜種の魔力量に及ぶはずがない……! それがたとえ、転生者であろうともだ!」
加えて言えば、神性にも多少魔力を生む炉心を強化する効果もあるが、それでも竜種の莫大な炉心には遠く及ばない。そもそも体格が違うのだから、そこに収まる炉心の大小にも限度がある。
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