異世界漂流~転生者絶対倒すマン!~

名無なな

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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+

第8話 炎竜バアル・ボウル(前)

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 この世界において、ドラゴンは絶対無二の強者である。
 数十年前までは他種族と覇権を争っていたらしいが、竜種の長である神竜バハムートの降臨により趨勢は決定付けられた。

 ドラゴンの世界は常に弱肉強食。負けた竜はたとえ同族であろうとも食らわれる。実際バアル・ボウルは、近々父の寝首を掻くつもりでいた。
 想定外の出来事でそれが果たされた今、次に狙うは王の座――――神竜バハムートの首である。


(この地域の管理者となった今、他の竜ともコンタクトが取りやすくなった。徐々に徒党を組み、バハムートを倒す……っ!)


 できれば単独で倒し総取りといきたいところだが、それを為すにはあまりにバハムートが強大すぎる。一度アレと異世界転生者の戦いを直に観たことがあるが、現段階で勝てるとは思えなかった。
 無論、転生者が弱いわけではない。類を見ないほどの強力な魔法をノーリスクで行使し、自信に満ち溢れていた。管理者との一騎打ちなら圧勝できるくらいの力を有していた。

 ――――けれども、バハムートはそれすらも凌駕してみせた。

 強力な魔法を受けてもビクともせず、レジェンド級の武具の攻撃を食らっても、その固い鱗で弾き飛ばしていた。対して転生者は、バハムートのブレス一発で跡形もなく消滅した。

(アレは異常だ……。何の前触れもなく現れ、当時族長だった竜を瞬殺したと聞く。それから他種族は一気に追いやられていった……)

 しかしいつまでも支配者面させておくつもりはない。虎視眈々とバハムートの首を狙うドラゴンは大勢いる。業腹だが、まずはそれらと協力してバハムートを倒し、その後残った竜同士で覇権を争えばよい。

 そのためにはまず、散々コケにしてくれた人間を殺さなくては。
 バアル・ボウルは真正面からゆるゆると登場した男を睨み付ける。竜種と比べたら圧倒的に貧相な体格。身に纏うシンプルな衣服では、爪が掠った程度でも致命傷となろう。

 いつ見ても貧弱な人間。弱肉強食の世界に身を置くドラゴンからすれば、真っ先に淘汰されるに違いない存在。そんな矮小な種族が、管理者たる自分を馬鹿にした――――その事実が、胸の奥を焼き焦がすかのような炎を生む。
 タイガのはるか頭上を飛びながら、バアル・ボウルは言う。


「逃げずによく来たな。てっきり怖気づいたものと思っていたが」
「その方がよかったか? むしろ尻尾撒いて逃げ出して、バハムートとやらを呼んできてくれた方が手間を省けたんだが」


 こともなげにそう告げるタイガ。手間扱いされたことへの憤りよりも、バハムートを脅威と見ていない男に対し、嘲笑が先立った。

「ふん、貴様もアレが狙いか。よほど恐れを知らんと見える。アレは天災そのものだ。地を這うしかできない人間ではどうにもできない、な」

 それを聞いてなお、タイガは不敵な態度を崩さない。

「さて、さて。子分の力量次第で、親分の底も知れるというもの。いい加減始めようじゃないか、こっちは睡眠不足でな。まったく親子共々、俺の安眠を妨げてくれる」

 タイガの眼は、相手を完全な格下と見切ったときのそれだ。分かる、何故ならバアル・ボウルも、人間を見るときは同じような目付きをしているからだった。そして人間は例外なく頭を垂れてきた。
 しかし相手は異世界人、この世の理をまるで解していない。不遜な態度も無知から生じたものであろう。バアル・ボウルは激情を露わにしながら、


「貴様、我が父バアル・バゼルを屠った程度で勘違いをしているのではないか? 体格こそ一回り劣るが、それ以外のスペックは全て我が上回っている! 速度も、火力も、硬度も! 父を火竜と呼ぶのならば、我は炎竜バアル・ボウル! 全てを焼き尽くすものなり――――!」
「些か雄弁に過ぎるな、炎竜バアル・ボウル」


 男はその呼称を認めた上で、吐き捨てるようにして言い放った。


「言葉を尽くさねば恐怖を植え付けられぬほど、貴様は見かけ倒しなのか?」
「――――――――っ!!」


 我慢が限界を振り切った。憤怒が炎となって、喉元まで湧き上がってきている。
 そしてそれは灼熱のブレスと化して、タイガ目掛けて放出された。

 タイガは身動き一つ取らなかった。悠然と身構えるその様には、王者の気風が窺える。
 火炎がタイガを瞬く間に呑み込み、溢れた炎は海となって渦を巻く。熱気によって周囲一帯が屈折したように歪んで見える。

 仕留めたか、と慢心するも束の間、五体満足なタイガの立ち姿が眼に入る。ギリ、と歯ぎしりして、更なる追撃へと移る。
 持ち前の機動力を生かして、あらゆる角度から炎を吐き続ける。放射状ではなく、圧縮された一つの球体となって、男に向かって降り注ぐ。

 一発ずつ着弾するごとに大地が悲鳴を上げる。ズズン、と地響きを鳴らす。たとえ強靭な鱗を持つ竜種であろうとも、この集中砲火をまともに浴びればただでは済まない。脆弱な人間であればなおさらだ。バアル・ボウルは確信とともに砲撃を止めた。

「――――『神性』って知ってるか?」

 爆炎の中から、声が聞こえた。

 ぞく、と心臓が一瞬激しく脈打った。
 タイガは爆風を吹き飛ばして、変わらぬ健在ぶりを見せつけてくる。多少煤に塗れているものの、火傷の痕すら見受けられない。

(何だこの固さは……っ!? あれほどの攻撃を受けて傷一つなしだと!? これではまるで、神竜バハムートと同じ――――!)

 ついアレと男の姿を重ねてしまう。体格も威圧感もまるで違うのにもかかわらず、だ。
 タイガは手で煤を払い落としながら、取り立てて誇示するようなこともせず、平淡な調子で語る。


「俺は異世界転生者――――神が手ずから創ったものだ。つまり神の加護を与えられたと同義。神を傷付けられるのは、同じ神性を持った天上種だけだ。多くの転生者が手強い要因の一つだな」


 神性――――神を神たらしめる力。なるほど、以前同じ転生者を見た際に、どうしてあの枯れ木のような身体でダメージを負わないのか、気になっていたのだ。
 バアル・ボウルは隙を窺いながらも反論する。

「だが、貴様は神の子というわけではない。神性は不完全なはずだ。なのにまるで攻撃が通らないのは合点がいかん!」
「意外と頭が回るようだな」

 ほう、と感心した風に唸るタイガ。やはりまだ隠し種があるらしい。
 それきり男は口を閉ざした。これ以上種明かしを進んでするほど愚かではないのだろう。代わりに右手を前方へとかざして、

「――――【ソード】」

 ポツリ、と静かに唱えた。
 たったそれだけの所作で、半透明で黄金色のロングソードが形成され手に収まる。見るからに魔力で作り上げた一振りだ。

 バアル・ボウルはさらに高度を上げ、自らを安全圏へと置く。

(所詮奴は人間……、翼を持たぬ虫けらと変わらん! たとえその身に神性を宿していたとしても同じこと、それこそ天使のように飛べるわけではない。ならば今取るべき戦術は上空からの一方的な攻撃! 少なくともこれで我に負けは――――っ!)

 作戦を練っていると、不意にタイガが煩わしそうに眉間にシワを寄せた。


「それにしても、いつまで偉そうに空から話しているつもりだ? まずは同じ目線で話をしようぜ」


 言って、左手の平から金色の鎖が飛び出した。それも一本ではなく複数本。バアル・ボウルは迎撃を諦め、回避に専念する。

 身体の向きを変え、翼を激しく上下させる。もはや馴染んだ動き。全ての鎖は一瞬遅れて、直前までいた相手のところを抜けていった。
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