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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第7話 無力な少女
しおりを挟む――――私は無力だ。
ドラゴンに支配されるこの世界で人は無力。そのことは充分理解していた。しかしそれは人間全体に言えることで、自分一人がそうだとは認識していなかった。
村長の娘という比較的恵まれた境遇。他が飢えに苦しむことはあっても、アイシャがそうなることはなかった。
父からさほど厳しい教育を受けた覚えはない。アイシャがやること為すことの大半は、黙って見守ってくれていた。しかしそんな家庭の中で、一つだけ決まりごとがあった。
「最も弱い者に、最上の庇護を」
これが唯一と言っていい家訓だった。この家訓はあらゆる場面に適用され、飢えた子どもがいればパンを差し出し、重い荷物を持つ老婆がいれば必ず手を貸した。
だから自分は、決して無力ではない。誰かのためになることを考え、行動できる人間だと。そう思うことは不自然ではなかった。
――――だがここ数日、アイシャは自身の無力さを身に染みて思い知ることになる。
年に一度、村では十五歳以上の少女を支配者へと差し出す。それが村を存続させる良いつの方法だった。理不尽ではあったものの、受け入れるしかないのも事実だった。
そしてアイシャが十五歳になった年、彼女は自ら生贄になることを立候補した。それがドラゴンに食べられることを恐れる同世代に対し、最適な選択だと感じたからだ。多分、この時ばかりは父も自分の教えを少なからず恨んだに違いない。生贄前夜、アイーガは夜通し声を押し殺して泣いていた。
身を清めて石壇に登った時、アイシャは火竜バアル・バゼルに対し恨み言の一つでも言ってやろうと決めていた。あるいはこんなことは止めてくれ、と惨めに懇願する腹積もりであった。
しかし、あの巨躯を目の当たりにした途端、恐怖で声が出なくなった。あれほど他人を優先して生きてきたアイシャの内にあったのは、ただ『自分が生きたい』という根源的な欲求だけだった。
極限状態において、人の本性が暴かれるという。
ならばあの瞬間、アイシャにあったのは自己防衛本能だった。即ち彼女の本性とは、自己保身の塊だったということだ。
冷静に考えて、死の間際まで他人を想うことのできる人間などそういない。アイシャのそれはごく当たり前の感情だったと言えよう。責める者などいない。
それでも彼女は、これまでの行い全てが虚構に見えてしまったのだ。
――――そして今も。自分の恩人であるタイガを、こうして見送ることしかできない。
もしものために独学で学んでいた魔法も、戦地に赴いて振るう気持ちにはなれなかった。もう一度ドラゴンを目前にすることがどうしても怖かった。
(私はなんて無力なんだ……!)
彼は自信ありげに話していたけれど、わざわざ死にに行かせたようにしか思えない。無理やりにでも止めるべきだったと、今さら後悔の念が湧き出てくる。
無力感に苛まれ、逃避するように空を見上げた。
かつては青く染まっていたと言われる空も、今では暗雲ばかりが立ち込めている。
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