6 / 24
絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+
第6話 管理者襲来
しおりを挟む「はあ、はあ……」
悪夢に叩き起こされたタイガは、荒く息を吐いていた。過ごしやすい室温だというのに、寝汗をびっしりとかいている。
額の汗を拭う。彼は今でもこうして、異世界転生の際の一部始終を夢に見るのだ。
どうやら天使たちの持っていた書物は、転生者のデータをまとめたものだったらしく、タイガはそのうちの一つの設定を無理矢理奪い取った。かつての肉体を失い、得たのはたった一つの能力――――『調和』だけ。
彼の異世界転生はここで果たされ、次に待ち受けていたのは異世界転移だ。
天使によって元の魂を消去されたタイガは、寸前で情報の上書きに成功するというイレギュラーによって転生した。つまりどの異世界にも、彼の存在はあってはならないものなのだ。
転移した異世界で、しばらくするとタイガは異分子として認識され、別の異世界へと弾き出される。これが異世界転移の正体である。
一つの世界につき、数日から数か月しか滞在できず、彼は残った警察官としての正義感から、目の前に広がる問題解決に当たっている。今回で言うところの、ドラゴンによる圧政がそれだ。
臥薪嘗胆、とは良く言ったものである。どれだけ苦渋を飲もうとも、討つべき相手がはっきりしているのなら、他愛ないものとさえ思える。
(この異世界に留まることができるのは、体感的にせいぜい十日程度か。平均よりかなり早い。じっくり戦力を整える余裕も今回ばかりはなさそうだ)
寝食を惜しんで事に及ぶ必要がある、と考えを固めていると、タイガが普段から広げている索敵範囲に、巨大な生命体が侵入してきた。空を飛んでいることから、十中八九竜種だろう。
彼は赤色の上着に袖を通し、急いで表に飛び出す。外に出ると、上空から強風が吹きつけていた。
バサ、と空気を切り裂く音が連続する。火竜バアル・バゼルよりも一回り小さい翼竜が、村全体に影を落としていた。
「――――聞けっ! 愚鈍なるニンゲンどもよ!!」
同じく空気の騒めきに勘付いた村人が何人かいたが、皆揃って膝を突いていた。咄嗟の反応だったのだろう、もはや無意識的に、村人たちはドラゴンを前にすると心を折られてしまうのか。
現れたドラゴンは岩壁で羽を休めるも、尊大な態度に変わりなし。グルル、と低く唸り、
「先刻、この地区の管理者であった我が父、バアル・バゼルが何者かによって討たれ、骸と化した。よって我、バアル・ボウルが新たな管理者となる」
タイガが屠ったドラゴンに息子がいたらしい。そもそも竜の生殖方法がどうなっているのか、多少興味を引かれたが、それはこの際置いておこう。
わざわざ威を示すために、管理者就任のあいさつに来るとは思えない。まず間違いなく、父の敵討ちが目的だろう。
どの世界にも親子愛というのはあるものだ。暴虐の限りを尽くすドラゴンでなければ、涙の一つも流したかもしれない。それでもちょっとした罪悪感を抱いていたタイガだったが、バアル・ボウルが語ったのは予想とはかなり逸脱していた。
「本来なら、反逆者をこの村もろとも灰燼に帰すところだが――――うむ。おかげで我が管理者の椅子に座ることができた。褒美の一つでも取らせたい気分である」
情に溢れる話ではなく、支配者特有の損得勘定が先に立ったらしい。感動して損した。
大仰に笑うバアル・ボウル。よほど気分が良いらしい。そんな話をしに来たのか、と村人は反応に困っているが。
やがてドラゴンは爆笑を止め、ようやく威厳らしいものを取り戻した。
「だが、前任の仇を討たねば、我の権勢に陰りが差すことになる。よって隠し立てしている反逆者を、即刻差し出すのだ。それで不問にしてやろう」
お待ちください! とアイーガが代表者として一歩前へと踏み出す。見るからに震えた立ち姿で、両手を合わせて免除を乞う。
「偉大なるバアル・ボウル様! 反逆者なぞこの村におりませぬ! 差し出せと申されましても……!?」
害となり得るタイガを懸命に守ろうとする村長の姿に、彼は胸が熱くなる思いを抱く。いかに村の危機と言えど、そう簡単に恩人を差し出さないのは天晴と言うほかあるまい。
しかしバアル・ボウルは鼻で笑い、
「ふん。我ら竜種、元より鼻が利くのでな。バアル・バゼルの返り血が匂ってくるのだ。あれの肉を食べた程度で付いた匂いではない。それ以上に大量の血の匂いがな」
指摘され、タイガは自らの身体を嗅ぐ。僅かに汗の匂いがするだけだった。一応寝る直前に浄化の呪文をかけたのだが、それだけでは不十分だったようだ。
バアル・ボウルと不意に目が合う。どうやら相手は、既にタイガに狙いを澄ましているようだった。ならば沈黙を守る意味もなくなった。
タイガはアイーガを一歩下がらせて、臆することなくドラゴンのいる岩壁まで歩み寄っていく。
大きく息を吸う。そして怯えていないことを示すために声を張り上げる。
「おうとも! 貴様の父を切り捨てたのはこの俺、御前大河だ!! その憤り、真っ向から受け止めてみせよう!」
それを受けて、バアル・ボウルが飛び立ち威嚇するように翼を大きく振る。
「その出で立ち、どうやら異世界人のようだな。懲りぬものだ、これまでさんざ我らが主に屠られてきたというのに」
「知らぬ者の名を語られてもな……。そもそもそれは貴様自身の功績ではないだろう? それを得意げに語るようでは、やれやれ、戦う前から底が知れるというものだ」
「貴様……っ!」
火より熱く激高するドラゴン。タイガの煽りがよほど効いたと見える。
一触即発な空気が流れる。しかしタイガの背には村があるため、ここでの戦いは避けなければならない。いかに負ける気がしないとはいえ、守りながらでは万が一が起こり得る。
「では場所を移そうか。ここは人が多すぎる。いや、ハンデが欲しいのなら、別にここでも構わんが。それとも自身の無様な姿を敢えて衆目に晒したいというのなら、それも止めん。管理者殿に委ねようではないか」
「吼えたな、異世界人め……! 負ければ死より残酷な未来が待っていることを、その身に刻んでやろう!」
ついて来い! とバアル・ボウルは西の方角へと飛び去って行った。
物凄く敵を挑発したタイガの後ろで、村人一同が絶句していた。彼らからすれば、神に唾を吐く行為に等しいのだから当然だ。
その中でアイシャだけが、真っ先にタイガの身を案じていた。
「タイガさん……。逃げましょう! 今が好機です! 無理に戦うことはありません!」
「優しいな、アイシャは」
「真に優しいのはタイガさんの方です! 私たちのために、こんな……っ!」
タイガが行ってしまわないよう、彼の袖を掴んだ。力を込めているせいか、つまんだ手が震えている。
乾いた大地に、アイシャの涙が落ちる。思い返せば、この世界に来て何度彼女の涙を見たことだろうか。ならば一層、この世界の支配者全てを打倒しなくては、という気持ちが強く湧いてきた。
タイガは彼女の指を優しく一本ずつ外していき、
「言ったよな? 俺は勝てる戦いしかやらない、と。だから今回も大丈夫さ」
「そんなの、私を元気付けるための嘘でしょう……?」
「――――ああ、嘘だ。実のところ俺は、負けるはずの戦いに何度も挑んできた。そうしなければならない状況だったこともあるが……、それ以上に、常に誰かを背負って立っていたからだ。今回で言えばそれが君だ」
いつだって自分の正義を貫く――――それがタイガの本懐だった。『御前大河』の本体を失い、世界が変わったとしても、そこだけは変わらない。
五本全ての指を外し終えて、タイガはドラゴンの飛んで行った方角に身体を向ける。
あ……、とアイシャが何やら言いたそうに声を漏らした。タイガはそれに対し、手を振り上げることで応えた。
「――――行ってくる」
言い残して、タイガは大きく跳躍してその場を去った。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~
存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?!
はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?!
火・金・日、投稿予定
投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる