異世界漂流~転生者絶対倒すマン!~

名無なな

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絶対支配領主『バハムート』人類衰退度A+

第5話 汚点隠し

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 ――――御前大河は、神の存在を少なからず信じていた。
 宗教に浸かるほど嵌っていたわけではないが、受験の際に神頼みしたり、何らかの危機を回避できた時には何となく神に感謝をしたりしていた。つまり漠然と、神はいるのではないかくらいは考えて生きてきた。

 しかしタイガは、とある出来事をきっかけにして、無神論者となる。
『神などいない』ではなく、『神は存在してはならない』という意味合いで。


 タイガは異世界転生者だ。つまり現実世界で一度死に、異世界で生まれ変わったということである。
 大抵の異世界転生物では、神から「間違えて殺しちゃった。メンゴメンゴ~」みたいに、軽い調子で謝罪され、お詫びにチート能力を与えられるという流れになる。タイガ自身も同じく、神様側の手違いにより殺された。

 ――――けれど、死後の世界で彼が体験したのは、傲慢極まりない光景だった。





 トラックに轢かれて死んだタイガは、話し合いをしている声によって目を覚ました。彼を囲んで、何人かが厳かな雰囲気を伴って日本語で言葉を交わしていた。

「ふむ……。してこの人間、いかにする?」
「主を否定するこの者、よもや生かしておけまい」

 そんな物騒な声が聞こえて、タイガは仰向けの状態から身体を起こした。
 死の直前の記憶がはっきりしていたため、自分が死んだことにはすぐ気付いた。そして彼を取り囲むのは、現世では有り得ないほどの圧を有した三体の天使だった。

 天使で最も記号化された輪っかはしていなくとも、背には純白の翼が生えていた。手には揃って、分厚い書物が握られている。
 一体の天使がタイガに気を留めて視線を落とす。顔は後光に照らされてはっきりしないが、男性とも女性とも言えない、中世的な印象を受けた。


「どうやら目覚めたようだぞ。……ふむ、どうやら聞かれていたようだ」


 思考が混濁としている。威圧感に押され、声がうまく出てこない。
 いったいどういう意味だ? という簡単な問いさえ、投げかけることができない。

 天使というより、どこにでもいる老人のような出で立ちの天使が、ゆったりと頷いて、

「――――どういう意味か、じゃと? それはもっともな疑問じゃな。それにしても、死んだばかりで思考が濁流に呑まれておる。聞くに堪えんわ」

 しかめっ面を浮かべる老人。

 タイガが心を読まれたことに驚愕すると、老人はなおさら険しい顔になった。
 最後の一体である、身体中に包帯を巻いた褐色肌の女型の天使が、ひどく冷たい声音で言い放った。

「貴方は死んだのよ。主のちょっとした手違いによってね」
「な……っ!」

 知識としてそういう状況を聞いたことはあるが、まさか自分が選ばれるとは思ってもみなかった。
 だとしたら、タイガはこれから何らかのお詫びを受け取ることになる。その言葉を聞くよりも早く、彼は心の底から訴えかけた。


「でしたら! 是非とも私を元の世界へとお返しください! 私にはまだ警察官としてやり残したことが多くあるのです!!」


 念願の警察官になって数年、今は捜査中の殺人鬼を追っている途中だった。トラックに轢かれたのも、元を辿れば容疑者の追跡中に起こった出来事だ。
 異世界無双も心を惹かれるが、そんな不確かなものよりも確実に貢献できることがしたい。タイガはその一心で天使たちに願い出た。

 ――――しかし返ってきたのは、三様に冷え切った態度であった。

 中性的な天使が呆れ返った風に口を開いた。

「ふん。今ニホンで流行の、異世界転生というものかね? 誰が考えたか、事実としてそれはある。そうだな……貴様の世界で言うところの、ビル・ゲイズやオータニもその類いだ。彼らは皆、豊富な知識と身体能力を貰い受け活躍している」

 思えば日本人しか異世界転生できない、というのもおかしな話だ。逆に日本にも異世界転生者がいると考えた方が自然だろう。

 女型の天使が続く。

「魂の生成は、たとえ主であっても多大な労力を要するのよ。故に我々は、魂を転生させることで負担を軽減しているのだ。一から魂を創るとなれば、能力、人生、死期……それら全てを細かく設定しなくちゃならないから」
「とはいえ皆が皆、前世の記憶を継いでいるわけではないぞ? 継承できるのは、その世界の中心となる人間に限っておるのじゃ」

 次々にぶっ飛んだ情報を告げられ、増々混乱してしまうタイガ。魂を創るだとか、人の身では考えられないことだ。
 しかし、どうにも要領を得ない。聞いてもいないことを話されるばかりで、タイガの願いを一向に聞き入れてくれる気配がない。

 本能的に嫌な空気を感じた矢先、中世的な天使が見下ろしながら言った。

「貴様らが認知している異世界転生……そのほとんどが的を射ている。しかし一つだけ、看過できぬ事項がある」

 ぞく、とタイガの全身が震えた。あたかも心臓に直接冷水を注ぎ込まれたような悪寒が、内側から侵略してくる。


「――――かみは決して間違えない。生命の死期、それら全てを統括しているのだからな。生命全てに、主自ら定められた運命がある」
「……いや、ちょっと待ってください。ですがさっき、神様の手違いのせいで私は死んだと……!?」


 三体の天使が揃って頭を横に振った。



「「「いいか? 主は、決して間違えないのだ――――」」」



 もはや洗脳に近い、おぞましい執念のような何かに気圧されてしまう。それはまるで、以前対峙したことのある、連続殺人鬼の狂気のようだった。
 じりじりと、三体揃って近づいてくる。途端に圧迫感が込み上がってくる。

「つまり、貴様の存在そのものが、主の絶対性を否定していると言っておるのだ。それを許していては、主の心労がさらに嵩むというもの。よって貴様の魂を消去することにした」
「それ、は……、あまりに横暴が過ぎる……! 神とあろう者が、そのような器量でどうする!?」

 それは悲痛な叫びだった。普段は徹底している言葉使いが乱れたのも、無理からぬことであろう。
 けれど天使たちは、まるで意に介さず返答した。


「分かっていないわね。たとえば、隣人愛を説いたイエス・キリストに殺人歴があれば、絶対に揉み消すでしょう? 極楽浄土などないと証明する論文があれば、何を犠牲にしても燃やそうとするでしょう? つまりそういうこと。これは私たちが、何を賭しても抹消せねばならないのよ」
「お前ら――――っ!?」


 一方的な言い分に反論しようと立ち上がるタイガの後頭部を、背後にいた老人が掴んだ。
 ――――刹那、ガリガリとヤスリで削られるような痛みが、つま先に走る。見ると、足先からポリゴンに分解されているのが分かった。

「あ、ああぁあああぁあああああああああああああああああああああっ!?」

 直感する。これが天使たちの言う、魂の消去であると。
 まるで脚からローラーにかけられ、全身を磨り潰されようとしているようだった。

「しかし主がこのようなミスをするとは……。よほどお疲れのようだ」
「前の異世界創造がかなりの負担になったのでしょう。新たな箱庭を創らないとキャパオーバーするとはいえ、多少無茶があったのね」
「それも我々の不甲斐なさ故。今回の件、絶対に主の耳には入れてはならんぞ。

 のた打ち回るタイガの姿に、天使たちは目も暮れず言葉を交わしている。あろうことか、目の前に起こっていることを「些細なもの」と切り捨てている。

「――――っ!」

 それがたまらなく我慢できなかった。

 今自分が味わっているこの痛みを、些細なことだと? 自分たちで仕出かしたことなのに、他人事のように扱っているではないか。
 それ以上に――――こんな連中に、守るべき人間の生殺与奪が握られていることに憤りを覚えた。

「お――――」

 下腹部にまで達した激痛を堪えながら、彼は懸命に手を伸ばす。
 何かを掴もうという意思はない。ただ天使たちを逃がしてはならない、という気持ちに突き動かされた。


「おおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 伸ばした先にあったのは、天使が後生大事に握り締めていた書物だった。

「な……、貴様何を!?」

 老人が声を上げる。油断した隙に、タイガはその書物をひったくった。

(何でもいい……)

 無造作に書物を開き、無意識的にあるページを引きちぎる。


(こいつらを倒せる力が手に入るのなら――――っ!)


 寸前まで消去されずに残っていた瞳で、ざっくりとそのページに目を通すも、直後に全身が消滅した。
 虚無に塗り潰される意識の中で、タイガは直前に見た文字を反芻していた。

 ――――特性・『調和』。


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