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53.お目覚め早々申し訳ありません。
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「おお、ラチカ。気分はどうだ」
シャイネに時折支えてもらいながらギャムシアの公務室に到着すると、モシェロイが紅茶を飲みながら声を掛けてきた。とくに疲れた様子はない。彼に向かって歩み寄り、頷く。
「何とか。結界本当にありがとうね」
「あれからずっと見ているが、とくに変化は起こっておらん。お前の血と俺の念を複合させての結界だから、そう簡単には破れんはずだ。まあ今頃あちらは解読に必死だろうが」
未だ凝固されているサガリオットを見る。胸の奥が痛んだが、そんなラチカにモシェロイが囁きかけた。
「初めてロドハルト国主と対面したが、その、何だかあれだな。随分と男前じゃないか」
その言葉に顔が熱くなる。そして傍に控えていたシャイネの眉間に皺が寄った。しかしそれすらも楽しんでいるかのように、モシェロイは笑う。
「何、お前に求婚する男っていうのも一度は見ておきたかった。良い機会だよ」
状況は最悪だが、とも付け加えられる。それには何も言えず、俯くしかなかった。
ギャムシアはギャムシアで、資料の山に埋もれせわしなく手と目を動かしていた。そんな彼に遠慮がちに近付き、「ギャムシア」と声を掛ける。彼はハッとしたようにラチカに視線を向けた。その顔は疲労でやつれていたが、急激に緊張を緩ませる。そのまま、安心しきったような声を絞り出してきた。
「……ったく、無理しやがって」
「う、ご、……ごめん」
ラチカの細い声の謝罪に、苦笑する。
「どうせクソガキに散々怒られただろう。体調は大丈夫そうだな」
「あ、あの。その。輸血? とか、その」
「血を分けたのはクソガキだ、俺は処置をしただけに過ぎねぇ。まあ助かったならそれでいい」
ギャムシアの声は、あくまで優しかった。荒々しくあるがラチカの頭を撫で、そのまま自身へと引き寄せる。その手は、何故か震えていた。久々の温もりに泣いてしまいそうになるが、急に背後の潜在に引っ張られる。厳めしい顔をしたシャイネだった。彼は刺々しい声をギャムシアに向ける。
「俺の目の前でよくもそこまで遠慮無しに出来ますねクソ野郎」
「まあ落ち着けよ、これから毎日見る事になんだから慣れ始めた方がいいだろ。俺の気遣いだ」
「その毎日が起きる前に終わらせてやりたいところですが、それより見付かりましたか。例の資料は」
「いやまだだ。もうここまでして見付からないとなれば、恐らく大倉庫に行くしかないな」
「大倉庫?」
ラチカの問いに、ギャムシアは頷く。
「ロドハルト……というより、この一帯の敷地には過去の歴史の資料をすべて厳重に保管しているかなり大規模な倉庫がある。位置で言えば少し南西に行かねばならねえが、そこに行けば多分見つかるだろ」
「見つかるって、何の資料よ」
「この敷地一帯の隠し空間です」
シャイネの言葉に、ギャムシアの言葉が載った。
「ディグレオは恐らく、ロドハルト敷地内に居を構えている。しかしこうまでして見付からないという事は、相当昔に何か隠し空間を見付けてそこをねぐらにしてんじゃねぇかという俺達の見立てだ」
「まあ、数百年生きてるならそれもありえるか……」
本来はその時点でおかしな話ではあるのだが、確かにエクソシストとしての論理的に言ってしまえばありえてしまう。そしてサガリオットの反応からするに、あれは確かに本物で、偽物という事ではないのだろう。詳しく聞き出そうにも、こうやって凝固させてしまっている以上今はそれが敵わない。
ギャムシアは頷く。
「大倉庫の場所は、代々の国主とその家族にしか知らされていない。もしあいつが勝手に見つけたりしていなければ、そこにヒントが保管されたままの可能性が高いな」
「国主とその家族って……じゃあ、ギャムシアが一人で行かないといけないって事?」
ラチカの言葉に、ギャムシアは呆れたように眉根を寄せた。
「さすがにこの状況で俺ひとりで行くのはまずいだろうが。お前も一緒だ」
「え、私?」
そのまま意地悪そうに笑みを造り、ラチカに囁く。
「まあ、大丈夫だろう。実際になる前での」
その意味を察し、顔が熱くなる。しかしそんなラチカの脇目で、シャイネは気に食わなさそうに舌打ちした。そんなシャイネに対し、ギャムシアは告げる。
「お前はここに残って、奴の急な襲撃に備えろ。奴は大倉庫の存在を知らないはずだ、何なら道中の方がここより安全かもな」
「かしこまりました。何かありましたら先程の手順でいきましょう」
「だな」
いつの間にそこまで作戦を練っていたのだろう。とはいえ、ずっと失神していた自分が知る由も無いのだが。
ギャムシアはモシェロイに引き継ぎだけこなすと、ラチカの手を引いた。そのまま、公務室を出る。そのまま外に出て馬車に乗り込んだ。御者はおらず、ギャムシアが御者台に座る。馬も、見た事の無い大きな馬だった。
「こいつなら大倉庫まで二時間かからねぇとは思うが……念のためお前は馬車に亡霊が寄らねぇように注意しておいてくれ」
「わ、分かった」
馬に鞭を振るい、嘶きと共に馬車は駆けた。国主でありながら馬まで扱えるのか、とぼんやり考えながらラチカは馬車のへりにしがみついた。
かなり乱暴な走りだ。しかし、確かに速い。ギャムシアはこちらを向かずに声を飛ばす。
「人間の追手が出てきたら言え、どうにかして撒く」
頷く。ラチカは窓から凍える雪の風景を眺めながら、息を呑んだ。
雪が激しい。それでも、進めないわけではない。寒いが、ここで耐えなければもっとひどい事になってしまうのだろう。病み上がりの体でも、頑張らねばならない。
シャイネも、モシェロイも、ポシャロも、ギャムシアも。こんなに頑張っているのだから。
かつて母は暴君として一帯を支配した。
母が暴君となったのは自身が生まれるよりも早かったらしい。そもそも自身の生そのものが彼女の悪事のひとつだったと聞いた。具体的には知らないが、あの母なら自身の命すら何かに利用するつもりだったのだろうとは思う。
国が国として崩壊を始めていた。遡っていけば、この国の自治はエヴァイアンに匹敵する程の歴史をもつ。ただ細かく名前を変え、制度を変え。だからこそ、善政と悪政の差はどの国よりも明確だった。
『おお、こちらにいらっしゃったのですか。若君』
……味方。確かに存在はしていた。母を失脚させるために動いた、あの男。
『貴方の母君は、私の大切なものを奪ったのです』
彼はあの日、呟いた。
『ああ、憎らしいあの女。あの女の中にはどす黒いマグマが煮えたぎっておりました。人を喰らい、熔かし、自らへの贄とする女でしたとも』
母との思い出は、存在こそしているものの確かに希薄なものである。彼女の公務に首輪をつけられ引きずりだされたり、彼女の嗜虐的な愛人の前で針を全身に突きさされたり。そこに温もりはなかったし、残っている記憶すらもおぼろげだ。忘れようと脳が揺れている感触を、毎日感じていた。
男は何度も、口を閉じては開く。
『アスパロロクを変えましょう、若君よ。ええなに、私がついておりますとも』
笑っては、深めて。
『貴方のやり方は本当に平和的だ。素晴らしい』
その微笑みに確かな温もりを滲ませて。
『あの女の遺品など、すべて焼いておしまいなさい。見るも辛いでしょう、私がやってさしあげましょう』
その奥に、嫌な程の濁りを漂わせながら。
『……貴方は、私で成しえなかった事をしてくださる。そう、感じております』
言葉の意味は分からなかった。それでも、彼は数少ない味方だった。だからこそ、依存していたのだろう。それは分かっている。
彼が何かを企んでいた事に気付かないわけではなかった。それでも目をつむらなければ、……また、ひとりになる。そして狙われる。母のように。今なら分かる、母を殺したのはまぎれもなく……ディグレオだ。しかし凝固されている現在、それを伝える術はない。そして今となっては、その情報もそんなに役には立たないだろう。
ディグレオの干渉が体内をはいずり回って、苦痛がサガリオットの体を突き刺していたあの時。ラチカの声はすべて聞こえていた。自身を繋ぎとめようとする彼女にだけは何が何でも、応えたかった。ラチカの力が弱まっていく事に罪悪感と不安が駆け回り、年甲斐もなく泣きそうになった。
……自分のために、そこまで必死に。自らの体を傷つけてまで、救おうとしてくれた少女。
やがて現れた男は、ラチカの顔から察するに信用のおける者だとすぐに気付けた。彼は適切な事をしてくれたと思う。実際今、厚い壁に阻まれてディグレオの干渉は届かない。ただひたすら、扉を掻く気配だけは感じ取れる。
もし、この結界が破られたら。その時が最後だ。
『……以上が、手順です』
あの男は、ラチカが休憩に入ってから一人結界の傍にとどまって告げた。結界に阻まれていても、その声だけは確かに聞こえた。恐らく念力の一種だろう。
『巻き込まれてしまっただけの貴方にこれを強いるのも、心苦しい話ですが。どうか、お願いいたします』
男は、真摯だった。そして実際、彼の判断が恐らく一番正解に等しい。ギャムシアやラチカでは、恐らくその決断を下せないし……何より、その手段を知らないはずだ。歴戦のエクソシストであるモシェロイ・ジャナだけの秘術なのだろう。
了承の意志がきちんと伝わったかは分からないが、彼は穏やかに微笑んだ。そして、短く礼を言って部屋を出た。
巻き込まれただけ、と言えば確かにそうだ。しかしすべては、ディグレオを匿った自分にある。
……けじめを、つける時だ。あまりにも遅かったが、仕方ない。
シャイネに時折支えてもらいながらギャムシアの公務室に到着すると、モシェロイが紅茶を飲みながら声を掛けてきた。とくに疲れた様子はない。彼に向かって歩み寄り、頷く。
「何とか。結界本当にありがとうね」
「あれからずっと見ているが、とくに変化は起こっておらん。お前の血と俺の念を複合させての結界だから、そう簡単には破れんはずだ。まあ今頃あちらは解読に必死だろうが」
未だ凝固されているサガリオットを見る。胸の奥が痛んだが、そんなラチカにモシェロイが囁きかけた。
「初めてロドハルト国主と対面したが、その、何だかあれだな。随分と男前じゃないか」
その言葉に顔が熱くなる。そして傍に控えていたシャイネの眉間に皺が寄った。しかしそれすらも楽しんでいるかのように、モシェロイは笑う。
「何、お前に求婚する男っていうのも一度は見ておきたかった。良い機会だよ」
状況は最悪だが、とも付け加えられる。それには何も言えず、俯くしかなかった。
ギャムシアはギャムシアで、資料の山に埋もれせわしなく手と目を動かしていた。そんな彼に遠慮がちに近付き、「ギャムシア」と声を掛ける。彼はハッとしたようにラチカに視線を向けた。その顔は疲労でやつれていたが、急激に緊張を緩ませる。そのまま、安心しきったような声を絞り出してきた。
「……ったく、無理しやがって」
「う、ご、……ごめん」
ラチカの細い声の謝罪に、苦笑する。
「どうせクソガキに散々怒られただろう。体調は大丈夫そうだな」
「あ、あの。その。輸血? とか、その」
「血を分けたのはクソガキだ、俺は処置をしただけに過ぎねぇ。まあ助かったならそれでいい」
ギャムシアの声は、あくまで優しかった。荒々しくあるがラチカの頭を撫で、そのまま自身へと引き寄せる。その手は、何故か震えていた。久々の温もりに泣いてしまいそうになるが、急に背後の潜在に引っ張られる。厳めしい顔をしたシャイネだった。彼は刺々しい声をギャムシアに向ける。
「俺の目の前でよくもそこまで遠慮無しに出来ますねクソ野郎」
「まあ落ち着けよ、これから毎日見る事になんだから慣れ始めた方がいいだろ。俺の気遣いだ」
「その毎日が起きる前に終わらせてやりたいところですが、それより見付かりましたか。例の資料は」
「いやまだだ。もうここまでして見付からないとなれば、恐らく大倉庫に行くしかないな」
「大倉庫?」
ラチカの問いに、ギャムシアは頷く。
「ロドハルト……というより、この一帯の敷地には過去の歴史の資料をすべて厳重に保管しているかなり大規模な倉庫がある。位置で言えば少し南西に行かねばならねえが、そこに行けば多分見つかるだろ」
「見つかるって、何の資料よ」
「この敷地一帯の隠し空間です」
シャイネの言葉に、ギャムシアの言葉が載った。
「ディグレオは恐らく、ロドハルト敷地内に居を構えている。しかしこうまでして見付からないという事は、相当昔に何か隠し空間を見付けてそこをねぐらにしてんじゃねぇかという俺達の見立てだ」
「まあ、数百年生きてるならそれもありえるか……」
本来はその時点でおかしな話ではあるのだが、確かにエクソシストとしての論理的に言ってしまえばありえてしまう。そしてサガリオットの反応からするに、あれは確かに本物で、偽物という事ではないのだろう。詳しく聞き出そうにも、こうやって凝固させてしまっている以上今はそれが敵わない。
ギャムシアは頷く。
「大倉庫の場所は、代々の国主とその家族にしか知らされていない。もしあいつが勝手に見つけたりしていなければ、そこにヒントが保管されたままの可能性が高いな」
「国主とその家族って……じゃあ、ギャムシアが一人で行かないといけないって事?」
ラチカの言葉に、ギャムシアは呆れたように眉根を寄せた。
「さすがにこの状況で俺ひとりで行くのはまずいだろうが。お前も一緒だ」
「え、私?」
そのまま意地悪そうに笑みを造り、ラチカに囁く。
「まあ、大丈夫だろう。実際になる前での」
その意味を察し、顔が熱くなる。しかしそんなラチカの脇目で、シャイネは気に食わなさそうに舌打ちした。そんなシャイネに対し、ギャムシアは告げる。
「お前はここに残って、奴の急な襲撃に備えろ。奴は大倉庫の存在を知らないはずだ、何なら道中の方がここより安全かもな」
「かしこまりました。何かありましたら先程の手順でいきましょう」
「だな」
いつの間にそこまで作戦を練っていたのだろう。とはいえ、ずっと失神していた自分が知る由も無いのだが。
ギャムシアはモシェロイに引き継ぎだけこなすと、ラチカの手を引いた。そのまま、公務室を出る。そのまま外に出て馬車に乗り込んだ。御者はおらず、ギャムシアが御者台に座る。馬も、見た事の無い大きな馬だった。
「こいつなら大倉庫まで二時間かからねぇとは思うが……念のためお前は馬車に亡霊が寄らねぇように注意しておいてくれ」
「わ、分かった」
馬に鞭を振るい、嘶きと共に馬車は駆けた。国主でありながら馬まで扱えるのか、とぼんやり考えながらラチカは馬車のへりにしがみついた。
かなり乱暴な走りだ。しかし、確かに速い。ギャムシアはこちらを向かずに声を飛ばす。
「人間の追手が出てきたら言え、どうにかして撒く」
頷く。ラチカは窓から凍える雪の風景を眺めながら、息を呑んだ。
雪が激しい。それでも、進めないわけではない。寒いが、ここで耐えなければもっとひどい事になってしまうのだろう。病み上がりの体でも、頑張らねばならない。
シャイネも、モシェロイも、ポシャロも、ギャムシアも。こんなに頑張っているのだから。
かつて母は暴君として一帯を支配した。
母が暴君となったのは自身が生まれるよりも早かったらしい。そもそも自身の生そのものが彼女の悪事のひとつだったと聞いた。具体的には知らないが、あの母なら自身の命すら何かに利用するつもりだったのだろうとは思う。
国が国として崩壊を始めていた。遡っていけば、この国の自治はエヴァイアンに匹敵する程の歴史をもつ。ただ細かく名前を変え、制度を変え。だからこそ、善政と悪政の差はどの国よりも明確だった。
『おお、こちらにいらっしゃったのですか。若君』
……味方。確かに存在はしていた。母を失脚させるために動いた、あの男。
『貴方の母君は、私の大切なものを奪ったのです』
彼はあの日、呟いた。
『ああ、憎らしいあの女。あの女の中にはどす黒いマグマが煮えたぎっておりました。人を喰らい、熔かし、自らへの贄とする女でしたとも』
母との思い出は、存在こそしているものの確かに希薄なものである。彼女の公務に首輪をつけられ引きずりだされたり、彼女の嗜虐的な愛人の前で針を全身に突きさされたり。そこに温もりはなかったし、残っている記憶すらもおぼろげだ。忘れようと脳が揺れている感触を、毎日感じていた。
男は何度も、口を閉じては開く。
『アスパロロクを変えましょう、若君よ。ええなに、私がついておりますとも』
笑っては、深めて。
『貴方のやり方は本当に平和的だ。素晴らしい』
その微笑みに確かな温もりを滲ませて。
『あの女の遺品など、すべて焼いておしまいなさい。見るも辛いでしょう、私がやってさしあげましょう』
その奥に、嫌な程の濁りを漂わせながら。
『……貴方は、私で成しえなかった事をしてくださる。そう、感じております』
言葉の意味は分からなかった。それでも、彼は数少ない味方だった。だからこそ、依存していたのだろう。それは分かっている。
彼が何かを企んでいた事に気付かないわけではなかった。それでも目をつむらなければ、……また、ひとりになる。そして狙われる。母のように。今なら分かる、母を殺したのはまぎれもなく……ディグレオだ。しかし凝固されている現在、それを伝える術はない。そして今となっては、その情報もそんなに役には立たないだろう。
ディグレオの干渉が体内をはいずり回って、苦痛がサガリオットの体を突き刺していたあの時。ラチカの声はすべて聞こえていた。自身を繋ぎとめようとする彼女にだけは何が何でも、応えたかった。ラチカの力が弱まっていく事に罪悪感と不安が駆け回り、年甲斐もなく泣きそうになった。
……自分のために、そこまで必死に。自らの体を傷つけてまで、救おうとしてくれた少女。
やがて現れた男は、ラチカの顔から察するに信用のおける者だとすぐに気付けた。彼は適切な事をしてくれたと思う。実際今、厚い壁に阻まれてディグレオの干渉は届かない。ただひたすら、扉を掻く気配だけは感じ取れる。
もし、この結界が破られたら。その時が最後だ。
『……以上が、手順です』
あの男は、ラチカが休憩に入ってから一人結界の傍にとどまって告げた。結界に阻まれていても、その声だけは確かに聞こえた。恐らく念力の一種だろう。
『巻き込まれてしまっただけの貴方にこれを強いるのも、心苦しい話ですが。どうか、お願いいたします』
男は、真摯だった。そして実際、彼の判断が恐らく一番正解に等しい。ギャムシアやラチカでは、恐らくその決断を下せないし……何より、その手段を知らないはずだ。歴戦のエクソシストであるモシェロイ・ジャナだけの秘術なのだろう。
了承の意志がきちんと伝わったかは分からないが、彼は穏やかに微笑んだ。そして、短く礼を言って部屋を出た。
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