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【番外】結んでいるのは糸か緒か
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それはギャムシアが未だ国主になっておらず、ただ一人の医者だった頃だった。その時もまた、雪が深い冬だった。
馬車では雪深い中進めないと判断が下され、特別にサガリオットから牛車を賜ったギャムシアはとにかく南へと進んでいた。そろそろ雪も浅くなりだしている。内心安堵していた。
「ここですね」
手助け役として連れてきた部下が、一軒の民家を指さした。もう日も暮れだしている。急いだ方がいいだろう。
先に部下を降ろし、民家へ向かわせる。御者に牛車を停まらせて、自身も持ち込んだ荷物を手に取って民家に向かった。すると、一人の老婆が出迎える。彼女こそ老い先が短そうだが、今回ギャムシアを求めているのは彼女ではない。老婆はギャムシアを見ると心から安心したように、顔をほころばせた。
「貴方が……お待ちしておりました、さあ中へ」
頷き、上がり込む。もうロドハルトの領土ではないが、未だ寒気は強い。中で火でも焚いているのだろう、とても暖かい。
部下はすでに、ベッドの傍らに居た。ベッドには、三十を超えたかどうかという女が寝そべっている。彼女はどうやら、眠っているようだった。しかし、その呼吸は乱れている。時折呻いてもいた。体の内側で、痛みが暴れ回っているのだろう。
部下と位置を交換し、彼女に触れた。体温が揺れている。事情を聴いた時から予感はしていたが。
老婆に向き直る。そして、告げた。
「もう、今夜が峠だ」
それを聞いた老婆は、静かに頷いた。
「覚悟は……しておりましたとも。ええ」
「せめて痛みが軽くなるように処置をする」
そして、零すように。
「……申し訳ない」
その言葉を聞き、老婆はうつむいた。しかしそれは、あくまでも絶望というよりは……ただ、受け入れているだけのようにも見える。そしてそっと、首を振った。
「この時世、病で死ねるのであればむしろ幸福でしょう。亡霊の仕業じゃないだけ、ましだと」
「俺はそっちに関しては一切専門知識も持たない。だからこそ出来る事をさせてもらうさ」
老婆は頭を下げると、部下に連れられ部屋を出た。部下も恐らく、彼女が女の看病でいっぱいいっぱいになっているのを見抜いていたのだろう。老婆は彼に任せる事にする。
早速荷物を開き、予め調合してきた薬剤を精製水に溶かす。注射器に液薬を詰めだしたところで、声が聞こえた。
「……誰?」
掠れた声。女は寝起きの顔で、ギャムシアを見た。問うたもののすぐに察したらしく、女はそっと目を細める。そんな彼女を見て、ギャムシアは深く息を吐いた。
「苦しいだろ、今楽にしてやる」
「あら……殺しに、きたの……」
「そうかもな」
救えないのならば、そう捉えられても仕方ないのかもしれない。だからこその返答だったのに、女はくすりと笑った。その動作だけで、浮かんでいた脂汗がシーツに垂れ落ちる。
「嘘、ね。貴方、そんな極悪な人間に見えないもの」
「黙ってろ、注射を打つ」
そっと、彼女の腕に触れた。皮の下に一切肉の感触を感じない。しかし血管だけは悲しい程浮き上がっていて、ギャムシアは躊躇う事なく針を埋めた。女は顔をしかめることもない。それどころではない程、彼女の体内には病巣の痛みが回っている。
針を引き抜きながら、ギャムシアは呟く。
「痛みはこれで楽になるはずだ。少し待ってろ」
「私、明日には死ぬんでしょう」
聞こえないように配慮をしたつもりでもなかった。だからこそ、頷く。生への執着を不相応に持って不幸になるのは、彼女自身だ。
「それなら、聞いておきたいわ。お医者様、お名前は?」
「ギャムシア・ロドハルト」
「冥途の土産に……覚えておくわ」
「そうか」
そう返しながら、ギャムシアは新たな薬の調合を始めた。この薬の正体は、さすがに彼女には言えない。
「私の名前は、聞かないの?」
「もう知ってるさ」
「……ノリが悪いのね」
馴れ合いたくないだけなのだ。ギャムシアも医者になってしばらく経つが、未だに死すべき者との距離の掴みが上手くなれない。そうなれば、突き放す他無い。
女はひとつ、大きな呼吸をした。
「ねえ」
「何だ」
「今日、何日?」
あえて素っ気なく、「9日」と告げる。すると彼女は、今度は深い溜息。
「……明日だわ」
「何が」
女は寝返りを打って、ギャムシアに体を向けてきた。その顔はあくまで穏やかだが、どこか悲しい目をしていた。
「今月の10日がね、お嬢様のお付きの子のお誕生日なのよ」
「お嬢様?」
「私……国主様の館に勤めていたのよ」
ふと、手を止める。彼女は続けた。
「病気になってこの村に帰ってきたけれど。……確か明日で、その子は8歳になるはず。お嬢様は10歳になられたばかりよ」
「エヴァイアンの令嬢、という事は……ラチカ・エヴァイアンか」
「あら、ご存知? あなた、アスパロロクのお医者様なんでしょう?」
「これでもアスパロロクの国主付きだ、それくらい知ってる」
「すごい人が来てくれたのね」
再び手を動かす。女は薬が効いてきて嬉しいのか、声が少し明るくなっていた。
「可愛らしいお嬢様よ。二年ほど前まで、辛い思いをされていたけれど……また元気になって、エクソシストに正式就任、されたわ」
「国主の娘でか」
「ええ。ふふ、興味でも出てきた?」
……さっきまで「ノリが悪い」と言っていたくせに。しかしギャムシアは敢えて否定も肯定もしなかった。ただ、製薬の最終工程に入る。
女はそっと、身を起こす。
「可愛らしいお付きも居るのよ。レヂェマシュトルの子。私が出ていくってなった時、お嬢様と二人してわんわん泣いていて……」
手の平を見るその横顔は、髪で隠れていた。しかし声だけで、察せる。
「……あの子とお嬢様がどう成長していくか。見たかったわ……」
まるで、その声は……母のそれだった。
ギャムシアは薬を改めて注射器に詰め直す。その薬を、今度は彼女の首に打った。彼女はそれを敢えて受け入れ、そっと微笑む。
「……ねえ、お医者様。もしあの子達に会う機会があれば、伝えてほしいの」
「ギャムシア」
最近どうも夢をよく見る。それも、過去の記憶の再生だ。最近はもっぱら国主の仕事が多いせいか、こうする事で医者としての本分を忘れないようにしているのかもしれない。
ベッドの脇に立ったラチカは、心配そうにギャムシアを見つめていた。
「……どうした」
「私と入れ替わりに起こしてって言ってたじゃない」
そうだった。とりあえず身を起こし、ラチカを抱きしめる。結婚してから彼のこういった日課に慣れてきたラチカは、大人しくそれを受け入れた。
大丈夫だ、温かい。
「クソガキは」
「もう公務室に先に入ってる」
「分かった。お前はもう寝ろ、朝早かっただろ」
「ありがとうね。おやすみなさい」
ラチカの頭を撫でてから、部屋を出た。
公務室の中には既にシャイネが居た。彼はギャムシアを見ると、すぐに会釈をする。
「おはようございます。紅茶は」
「頼む。何だ、もう暖炉点けてんのか」
「寒かったもので」
細かい、薪が焼ける音。再びの冬の到来を感じ、ほんの少し憂鬱になる。紅茶を差し出され、ギャムシアは改めて卓に腰かけた。そして、時計を見る。丁度10日になった瞬間だった。
シャイネを見る。恐らく彼は気付いてもいないし、気にしてもいないだろう。明日ラチカから祝福を受けて、ようやく大人しく享受する程度な気がする。
……あの時。あの女は言っていた。しかしギャムシアには未だ、シャイネにその内容を伝える気にはなれない。
それでも。
「シャイネ」
シャイネが、目を見開いてこちらを見る。ああ、そういえば……他人行儀以外で彼の名を呼ぶのは、初めてかもしれない。
「誕生日、おめでとう」
女の葬列には、確かにエヴァイアンの令嬢とその従者が居た。二人とも泣いていた。その姉弟のような二人を、数人の使用人が支えるようにしながら連れて帰った。
何故か、ギャムシアは女の墓へと来ていた。何故かは分からない。本当にたまたま休暇を得て、その日が女の葬儀の日だと知って。普段なら、決してこんな事をしないのに。
「……あのガキか」
墓に女の魂が居るわけでもないのに。女の返答が得られるわけでもないのに。
仕方無いので、ギャムシアは歩き始める。すると、一人の若い男とすれ違った。あの顔は、知っている。エヴァイアンからの使者、という事で何度かアスパロロクへ訪ねてきた事がある。名前は……オフェリオーネ・エヴァイアン。
オフェリオーネはギャムシアに一礼だけすると、まっすぐに墓石へと向かっていった。そして墓にしがみつくようにして、声を上げて泣いていた。
『私ね、好きな男が居たの。決して結ばれてはいけない相手、だったんだけど。彼の子どもをこっそりと生んだのよ』
『……バレなかったのか』
『勿論バレたわ。けれど私は……勤めが、長かったから。温情措置ね、きっと。私が生んだ、という事を秘匿さえすれば……その子どもを、男の家で育ててくれるって』
『つまり、そいつが』
『ええ。でも、裏切られたのよ。その子は売られてしまったわ。お嬢様の予備としてエクソシストにしたかったけれど、才能が無かったから……それなら、せめて常人以上のものにはしたい、と』
『それでレヂェマシュトルに、か。でもラチカ嬢の従者って事なら、戻ってきた同然じゃねぇか』
『そう、ね。でも辛いわよ、名乗れないのも。だからこそ、嬉しかった』
『?』
『あの日……私を、あの子は、見つけてくれたのよ。名付ける事すらかなわなかったけれど……それだけで、私は幸福』
あの時の会話が、まざまざとよみがえる。
ギャムシアはそっと、墓地をあとにした。
馬車では雪深い中進めないと判断が下され、特別にサガリオットから牛車を賜ったギャムシアはとにかく南へと進んでいた。そろそろ雪も浅くなりだしている。内心安堵していた。
「ここですね」
手助け役として連れてきた部下が、一軒の民家を指さした。もう日も暮れだしている。急いだ方がいいだろう。
先に部下を降ろし、民家へ向かわせる。御者に牛車を停まらせて、自身も持ち込んだ荷物を手に取って民家に向かった。すると、一人の老婆が出迎える。彼女こそ老い先が短そうだが、今回ギャムシアを求めているのは彼女ではない。老婆はギャムシアを見ると心から安心したように、顔をほころばせた。
「貴方が……お待ちしておりました、さあ中へ」
頷き、上がり込む。もうロドハルトの領土ではないが、未だ寒気は強い。中で火でも焚いているのだろう、とても暖かい。
部下はすでに、ベッドの傍らに居た。ベッドには、三十を超えたかどうかという女が寝そべっている。彼女はどうやら、眠っているようだった。しかし、その呼吸は乱れている。時折呻いてもいた。体の内側で、痛みが暴れ回っているのだろう。
部下と位置を交換し、彼女に触れた。体温が揺れている。事情を聴いた時から予感はしていたが。
老婆に向き直る。そして、告げた。
「もう、今夜が峠だ」
それを聞いた老婆は、静かに頷いた。
「覚悟は……しておりましたとも。ええ」
「せめて痛みが軽くなるように処置をする」
そして、零すように。
「……申し訳ない」
その言葉を聞き、老婆はうつむいた。しかしそれは、あくまでも絶望というよりは……ただ、受け入れているだけのようにも見える。そしてそっと、首を振った。
「この時世、病で死ねるのであればむしろ幸福でしょう。亡霊の仕業じゃないだけ、ましだと」
「俺はそっちに関しては一切専門知識も持たない。だからこそ出来る事をさせてもらうさ」
老婆は頭を下げると、部下に連れられ部屋を出た。部下も恐らく、彼女が女の看病でいっぱいいっぱいになっているのを見抜いていたのだろう。老婆は彼に任せる事にする。
早速荷物を開き、予め調合してきた薬剤を精製水に溶かす。注射器に液薬を詰めだしたところで、声が聞こえた。
「……誰?」
掠れた声。女は寝起きの顔で、ギャムシアを見た。問うたもののすぐに察したらしく、女はそっと目を細める。そんな彼女を見て、ギャムシアは深く息を吐いた。
「苦しいだろ、今楽にしてやる」
「あら……殺しに、きたの……」
「そうかもな」
救えないのならば、そう捉えられても仕方ないのかもしれない。だからこその返答だったのに、女はくすりと笑った。その動作だけで、浮かんでいた脂汗がシーツに垂れ落ちる。
「嘘、ね。貴方、そんな極悪な人間に見えないもの」
「黙ってろ、注射を打つ」
そっと、彼女の腕に触れた。皮の下に一切肉の感触を感じない。しかし血管だけは悲しい程浮き上がっていて、ギャムシアは躊躇う事なく針を埋めた。女は顔をしかめることもない。それどころではない程、彼女の体内には病巣の痛みが回っている。
針を引き抜きながら、ギャムシアは呟く。
「痛みはこれで楽になるはずだ。少し待ってろ」
「私、明日には死ぬんでしょう」
聞こえないように配慮をしたつもりでもなかった。だからこそ、頷く。生への執着を不相応に持って不幸になるのは、彼女自身だ。
「それなら、聞いておきたいわ。お医者様、お名前は?」
「ギャムシア・ロドハルト」
「冥途の土産に……覚えておくわ」
「そうか」
そう返しながら、ギャムシアは新たな薬の調合を始めた。この薬の正体は、さすがに彼女には言えない。
「私の名前は、聞かないの?」
「もう知ってるさ」
「……ノリが悪いのね」
馴れ合いたくないだけなのだ。ギャムシアも医者になってしばらく経つが、未だに死すべき者との距離の掴みが上手くなれない。そうなれば、突き放す他無い。
女はひとつ、大きな呼吸をした。
「ねえ」
「何だ」
「今日、何日?」
あえて素っ気なく、「9日」と告げる。すると彼女は、今度は深い溜息。
「……明日だわ」
「何が」
女は寝返りを打って、ギャムシアに体を向けてきた。その顔はあくまで穏やかだが、どこか悲しい目をしていた。
「今月の10日がね、お嬢様のお付きの子のお誕生日なのよ」
「お嬢様?」
「私……国主様の館に勤めていたのよ」
ふと、手を止める。彼女は続けた。
「病気になってこの村に帰ってきたけれど。……確か明日で、その子は8歳になるはず。お嬢様は10歳になられたばかりよ」
「エヴァイアンの令嬢、という事は……ラチカ・エヴァイアンか」
「あら、ご存知? あなた、アスパロロクのお医者様なんでしょう?」
「これでもアスパロロクの国主付きだ、それくらい知ってる」
「すごい人が来てくれたのね」
再び手を動かす。女は薬が効いてきて嬉しいのか、声が少し明るくなっていた。
「可愛らしいお嬢様よ。二年ほど前まで、辛い思いをされていたけれど……また元気になって、エクソシストに正式就任、されたわ」
「国主の娘でか」
「ええ。ふふ、興味でも出てきた?」
……さっきまで「ノリが悪い」と言っていたくせに。しかしギャムシアは敢えて否定も肯定もしなかった。ただ、製薬の最終工程に入る。
女はそっと、身を起こす。
「可愛らしいお付きも居るのよ。レヂェマシュトルの子。私が出ていくってなった時、お嬢様と二人してわんわん泣いていて……」
手の平を見るその横顔は、髪で隠れていた。しかし声だけで、察せる。
「……あの子とお嬢様がどう成長していくか。見たかったわ……」
まるで、その声は……母のそれだった。
ギャムシアは薬を改めて注射器に詰め直す。その薬を、今度は彼女の首に打った。彼女はそれを敢えて受け入れ、そっと微笑む。
「……ねえ、お医者様。もしあの子達に会う機会があれば、伝えてほしいの」
「ギャムシア」
最近どうも夢をよく見る。それも、過去の記憶の再生だ。最近はもっぱら国主の仕事が多いせいか、こうする事で医者としての本分を忘れないようにしているのかもしれない。
ベッドの脇に立ったラチカは、心配そうにギャムシアを見つめていた。
「……どうした」
「私と入れ替わりに起こしてって言ってたじゃない」
そうだった。とりあえず身を起こし、ラチカを抱きしめる。結婚してから彼のこういった日課に慣れてきたラチカは、大人しくそれを受け入れた。
大丈夫だ、温かい。
「クソガキは」
「もう公務室に先に入ってる」
「分かった。お前はもう寝ろ、朝早かっただろ」
「ありがとうね。おやすみなさい」
ラチカの頭を撫でてから、部屋を出た。
公務室の中には既にシャイネが居た。彼はギャムシアを見ると、すぐに会釈をする。
「おはようございます。紅茶は」
「頼む。何だ、もう暖炉点けてんのか」
「寒かったもので」
細かい、薪が焼ける音。再びの冬の到来を感じ、ほんの少し憂鬱になる。紅茶を差し出され、ギャムシアは改めて卓に腰かけた。そして、時計を見る。丁度10日になった瞬間だった。
シャイネを見る。恐らく彼は気付いてもいないし、気にしてもいないだろう。明日ラチカから祝福を受けて、ようやく大人しく享受する程度な気がする。
……あの時。あの女は言っていた。しかしギャムシアには未だ、シャイネにその内容を伝える気にはなれない。
それでも。
「シャイネ」
シャイネが、目を見開いてこちらを見る。ああ、そういえば……他人行儀以外で彼の名を呼ぶのは、初めてかもしれない。
「誕生日、おめでとう」
女の葬列には、確かにエヴァイアンの令嬢とその従者が居た。二人とも泣いていた。その姉弟のような二人を、数人の使用人が支えるようにしながら連れて帰った。
何故か、ギャムシアは女の墓へと来ていた。何故かは分からない。本当にたまたま休暇を得て、その日が女の葬儀の日だと知って。普段なら、決してこんな事をしないのに。
「……あのガキか」
墓に女の魂が居るわけでもないのに。女の返答が得られるわけでもないのに。
仕方無いので、ギャムシアは歩き始める。すると、一人の若い男とすれ違った。あの顔は、知っている。エヴァイアンからの使者、という事で何度かアスパロロクへ訪ねてきた事がある。名前は……オフェリオーネ・エヴァイアン。
オフェリオーネはギャムシアに一礼だけすると、まっすぐに墓石へと向かっていった。そして墓にしがみつくようにして、声を上げて泣いていた。
『私ね、好きな男が居たの。決して結ばれてはいけない相手、だったんだけど。彼の子どもをこっそりと生んだのよ』
『……バレなかったのか』
『勿論バレたわ。けれど私は……勤めが、長かったから。温情措置ね、きっと。私が生んだ、という事を秘匿さえすれば……その子どもを、男の家で育ててくれるって』
『つまり、そいつが』
『ええ。でも、裏切られたのよ。その子は売られてしまったわ。お嬢様の予備としてエクソシストにしたかったけれど、才能が無かったから……それなら、せめて常人以上のものにはしたい、と』
『それでレヂェマシュトルに、か。でもラチカ嬢の従者って事なら、戻ってきた同然じゃねぇか』
『そう、ね。でも辛いわよ、名乗れないのも。だからこそ、嬉しかった』
『?』
『あの日……私を、あの子は、見つけてくれたのよ。名付ける事すらかなわなかったけれど……それだけで、私は幸福』
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