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3.本気のHijiri、Reoの好みっぽそうだね。

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 『ギジデート』撮影当日。ひじりはスタイリストによって髪や服を丁寧に整えられ、ロケバスに乗っていた。普段なら絶対着ないような、上品な服装とヘアメイクに緊張が走る。
 イヤホンを付けて集中しているひじりの肩を、チーフマネージャーが叩く。

「Hijiriちゃん、イヤホンちょっと外せます?って、また『IC Guys』の歌ですか?」
「はい。仕事集中する時絶対聴いてるんです。聞きます?」

 チーフマネージャーは差し出されたイヤホンをやんわり断ると、代わりに一つのイヤモニを差し出してきた。

「これ、スタジオと繋がってるんです。一応テストお願いします」
 イヤモニを受け取り、耳に装着する。何だかこれを着けると、仕事に切り替わった気分になる。イヤモニの向こう側から、ノイズ混じりに声が聞こえてきた。

『あー、あー。聞こえてるか?』
「うん、聞こえてる……って、あっこれイヤモニだからこっちのは聞こえないのか。マイクは?」
「こちら側には用意ありませんよ。今回はあちらの指示を聞くだけなので」

 チーフマネージャーがTakaにメッセージを送ったらしく、『大丈夫ならオッケー』とイヤモニから声で帰ってきた。しかし、どうも声が上ずっている。何だか違和感があった。

『とりあえず今日の流れはもう聴いただろ?そ、その……相手が、お前を待ち合わせ場所に迎えに来るから。カメラはお前らがスマホで回す。一応後ろから一台だけカメラがついてくるから、お前頑張って撮れよ。じゃあ俺、最終打ち合わせいってくるから」
「はあ?私がカメラワーク天才級なのあんた知ってるでしょ。自撮りの鬼よこっちは」
「Hijiriちゃん、聞こえてないですよそれ」

 しかし、妙だ。実際ひじりはTakaの自撮りの師匠なので、今更そんな事で注意を推してくるのは少し不思議に感じる。
 チーフマネージャーがスマートフォンを見て、少し表情を変えた。しかし、すぐに画面を消す。

「Takaくん、スタジオでの共演者さんともうすでに合流してるみたいですね」
「ああ、あっちも私の相手と仲良い人が来るんでしたっけ?えっじゃああのクソガキもう私の相手知ってるってこと!?」
「クソガキって、あの子一応成人してますよ……先月だけど」

 急に心臓がうるさくなってきた。仕事は仕事なので勿論割り切るが、高校生時代にこの仕事を始めて以来まともにプライベートな恋愛なんてしていない。やはり緊張する。
 強いて言うなら……。

「ちがう!玲雅様は違う!そんな!俗な感情じゃない!」
「もしもしIzumiちゃん?Hijiriちゃんまた発作が始まっちゃったんですけどどうしましょう?」

 電話で何かを聞いたらしいチーフマネージャーは、そっとHijiriの背中をさすった。やっと落ち着きを取り戻したひじりは、水を飲みながら「ごべんだざい」と濁った謝罪を向けた。

「でも……本当に玲雅様は憧れだから……こ、恋とかとは次元が違うというか……」
「はいはい、オタクは皆そう言いますから。でも今日は、本当に『IC Guys』ネタは封印してくださいね」
「わ、分かってる……一応デートだし」

 さすがにその程度の甲斐性はあるつもりだ。リップを塗り直し、深呼吸をする。
 ロケバスが停車した。最後に身だしなみを確認し、一人でロケバスを降りる。すると、後続車から早速カメラがついてきた。そして同時に、イヤモニが開通する。

『はい、始まりました「ギジデート」!どうも、『SIX RED』のTakaです!今回はうちのサブリーダーのHijiriがデートに出ます!』

 Takaの声だ。最初は歌以外まともに話す事も出来なかったクソガキだったのに、など少し感動しながらイヤモニに集中する。

『もしもしHijiri聞こえる?』
「はーい聞こえまーす、元気でーす!」
『うっぜ』
「はあ!?」

 恐らくカメラで音声を拾われているのだろう。スタジオから微かな笑い声が聞こえてくる。恐らく、相手方側のスタジオゲストも来ているはずだ。恐らく正体を気取らせないように黙っているのだろう。
 Takaは年齢が一番近いのもあってか、最初の頃はずっとひじりについて回っていた。それもあってか、出会って10年近くなる今は恐らくメンバーで一番気を許しているのだろう。実際この二人の絡みは、「まるで姉弟」と人気だった。

『えっと、今回は普段の「ギジデート」とは違って男性側からの指名になってます。いやーそれでもうちのサブリーダーいく?とは思っちゃったけど。顔と面白さに全振りしてるだけなのにー』

 こいつ絞め殺したろか、とは思ったが絶対に上層部に怒られるので黙ってにこにこしておいた。もうカメラは回っている。

『でもちょっと……今日の男性ゲスト、やばいんですよね』
「え?やばい?どういう事?」

 思わず口に出す。しかしTakaは無視しだした。

『まず大まかな流れですが、今回は指名制なのでプランは男性ゲストが考えてくれています。Hijiriはそれに則ってうまいこと死なないように頑張ってください』
「何!?私の相手アサシンか何かなの!?」

 スタジオからまた笑いが漏れてくる。それで相手方ゲストを察せられないかと思ったが、駄目だ。音声が遠い。

「ちょっとTaka!?どういうこと!?何か怖いよ!?」
『ところで最近「SIX RED」新曲を発表しまして……』
「宣伝入れ込むところ絶対おかしいよね!?Naokiくんに怒られるよ!?」
「へえ、怒るんだあの人」

 急に降ってきた、甘い声。苦いエスプレッソにに甘いキャラメルを足したような、とろける響きだった。散々聞いた、そんな声。
 振り返ると、黒髪の男性が立っていた。何度も、毎日のように眺めていた姿がそこにあった。綺麗めなコートを揺らしながら、歩いてくる。

「あの人温厚そうなのに。俺も少ししか話したことないけど」
「…………」
「あれ、俺の事……見えてる?」

 絶叫した。
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