7 / 43
7.『SIX RED』は仲悪くないよ。良くもないけど。
しおりを挟む
それからというものの。
「えっやばいやばいやばい!連絡先交換したところまで放送されてるじゃん!これHijiriちゃん刺されない!?大丈夫!?あっでもHijiriちゃんのファンもあっちに行く可能性あるかな……」
「SNSだと意見半々だね。でも『よかったね』とか『報われたね』って声も多いよ。普段あの人連絡先交換しないらしいね、あの番組で。あ、どっちかといえばHijiriの男性ファンの方が荒れてる」
「お、俺もタクヤくんと連絡先交換したし~!?」
久々にミーティングとして集まった『SIX RED』のメンバーは、合間時間に先日ロケした『ギジデート』のネット配信分の鑑賞会を始めていた。しかし盛り上がっているのは5人のみで、ひじりはただ呆然としていた。椅子にもたれかかって、虚空を見つめている。
「しっかし100均行った事ない人種いんのかよ。でもこの人なんか金持ちそうだもんな、雰囲気が」
「ていうかTakaめちゃくちゃテンパってるじゃん。お前トークの振りマジでHijiri見習……って、Hijiri?大丈夫か?」
リーダーであり最年長のNaokiがやっとひじりの様子に気付いたらしく、ひじりの肩をさすった。しかし、反応はない。ずっと腹部を抑えたままだ。そんなひじりに、Naokiは心配そうに続けた。
「何だ、腹痛えのか?まだ時間あるし、トイレ行けよ今のうちに……」
「Naokiくん……私は罪を犯しました……」
「どういう心境の懺悔?」
ただならぬひじりの声に、全員がひじりに向き直る。ひじりは腹部を押さえたまま、深く息を吐いた。そして。
「……推しと、関わってしまいました……仕事とはいえ、今考えたら本当にやってはいけなかった……」
「おっしミーティング準備すっぞー」
「ああああん聞いて!聞いてよ!そんなんだからうちのグループ全員不仲説出てるんだよ!」
実際不仲ではない。しかし、そこまで仲良くないのも事実である。単純に踏み込んでいないだけというのもあるが。
「だって、だってさ!て、ててて手取ってもらって!外一緒に、横並びで歩いて!しかも買い物までして!プ、ププププレゼントまでもらって!連絡先まで!!いやもう本当さ!こんなの!私は!壁で!もしくは床で!あるべきだったのに!」
「で、10周年のグッズの草案だけど」
「このド薄情どもめが!!」
ひじりの叫びと共に、ひじりの服から何かが滑り落ちた。それを、たまたま隣に座っていたReoが拾う。それは、一冊の箔がついたノートだった。
「ぬっく!お前これずっと腹の中入れてたの!?」
「肌身離さず身につけていたくて……!」
「ノートを身につけるって日本語初めて聞いたわ」
ノートを再び懐におさめるHijiriに、Naokiは溜息を吐いた。
「あのなあ。さすがにそこまで行くと仕事に影響出るかもしれねえだろ。切り替えろしゃきっと」
「し、仕事はちゃんとしてるもん……」
あれは、衝撃が強すぎただけだ。本当に、それだけだ。この業界に入って10年近くにもなれば、仕事とプライベートの感情くらいは切り分けられる。実際、メンバー以外にこんな醜態は見破られていない。
しかし、今のような合間時間だとどうしても気が緩んで出てしまうのだろう。隣でReoは頷いていた。
「でも分かるよ、俺も好きなグラドルと共演ってなったら結構そわそわするもん。同じ業界に推しがいるとそうなるって」
「Reoはグラドルどころかどの女優でもでしょ。そういえば連絡先交換したって言ってたけど、あれから連絡取ったの?」
Souの問いに、ひじりは首を振った。
実際、あれから連絡は取っていない。それどころか、一つとんでもない事実が発覚していた。これは、ひじり自身もあとで気づいた。
「……連絡先、あれ交換してないの。私の連絡先を送っただけ。私は、もらってない」
「えっそうなの!?」
Izumiの声に、ひじりは頷いた。
しかし、それはひじりのモットーを考えればあながち正解だったとも言える。もしひじりが玲雅の連絡先を入手していまっていたら、今以上にファンとして悶えてしまっていただろう。だから、これできっと正解なのだ。
その折に、チーフマネージャーが戻ってきた。全員姿勢を正して、ミーティングに向き合う。
主にグッズデザインはReoが主導、Naokiがサポートという形ですすんでいくらしい。他にも、10周年に向けた様々な会議が続いた。
さすがに自分の仕事ともなれば頭は冷えていて、ひじりも積極的に参加した。内容は、別のノートにとっていた。その様子に安心したのか、Naokiからのお咎めもなかった。
解散の流れになり、全員が会議室を出ていく。
「Hijiriちゃんタクシー?うちの旦那が迎えに来るしよかったら一緒に乗って帰る?」
「え、いいの?」
Izumiに「じゃあお願いしようかな」と言いそうになった途端。急に携帯が震えた。知らないアカウント名だった。
「誰だろ……『R』……?」
「喋らずに出てみれば?無視は……仕事関連だとまずいし」
さすがに仕事ならメッセージで来るだろうと思いつつ、応答ボタンを押してみる。念のため、スピーカーに設定した。Izumiも横にいてくれている。
すると、聞こえてきたのは。
『もしもし、Hijiriチャン?お疲れ様』
玲雅の声だった。ひじりとIzumiは息を飲み、顔を見合わせる。
『……あれ、聞こえてる?もしもし』
「き、聞こえてますっ!お疲れ様です!」
慌てて声を発してしまい裏返るも、玲雅は先に「ごめんね」と口にした。
『俺、Hijiriチャンに連絡先渡してなかったんだね。タクヤに言われて気付いた』
「だ、大丈夫ですっ!あの、この間はありがとうございました!」
『ああ、放送見たの?俺テレビの録画分で観ようとしてた。今大丈夫?』
Izumiが無言で頷く。一応「今メンバーのIzumiちゃんもいるんですけど、もうすぐ一人になります」とだけ返した。
『そっか、いや別に急ぎじゃないんだけど。あのさ、次のうちのライブの関係者席いるかなって』
「え!?」
『そしたら後で楽屋呼べるかなって』
「え、ええ!?」
興奮したらしいIzumiが、無言で何度もひじりの腕を叩く。しかし、ひじりは唇を噛み締めて唸った。
「す、すみません玲雅様……それは、大丈夫ですっ……」
「え!?」
Izumiの声と同様に、玲雅も微かに息を呑む気配が聞こえた。しかし、そこに被せる。
「実は……シングル限定盤の先着抽選でもうすでに当選しちゃってて……!」
『え、何それ。俺知らないんだけど』
「本人なのに!?」
『あ、Izumiサン?どうも、「IC Guys」の三田玲雅です』
「あ、お疲れ様です」
「だから何で皆冷静に話せるの!?」
そういえば、タクヤが以前『玲雅歌関連以外のマネージメントとか全然関わらないんだよねー!』と言っていたのを思い出した。そうか、こういう事か。
「あの、ファンクラブ限定販売のシングル限定盤購入者にはシリアルコードがついてて。それで、購入した瞬間に先着で第一抽選に入れるんです。それで当選しちゃってて、もう」
『そうなんだ。え、何かありがとう……じゃあ、どうにかして楽屋に入れるように手配しておくから。またそれについて連絡するね』
「え、ええっ!?」
そこで、玲雅は誰かに呼ばれたらしく電話が切れた。待ち受け画面に戻ったスマートフォンを見つめるひじりを、Izumiはじっと見つめる。
「連絡……きたね……?」
「……Izumiちゃああああああああああああ!!」
「わっ汚い!せめて鼻水は拭いて!一応アイドルなんだから!」
「えっやばいやばいやばい!連絡先交換したところまで放送されてるじゃん!これHijiriちゃん刺されない!?大丈夫!?あっでもHijiriちゃんのファンもあっちに行く可能性あるかな……」
「SNSだと意見半々だね。でも『よかったね』とか『報われたね』って声も多いよ。普段あの人連絡先交換しないらしいね、あの番組で。あ、どっちかといえばHijiriの男性ファンの方が荒れてる」
「お、俺もタクヤくんと連絡先交換したし~!?」
久々にミーティングとして集まった『SIX RED』のメンバーは、合間時間に先日ロケした『ギジデート』のネット配信分の鑑賞会を始めていた。しかし盛り上がっているのは5人のみで、ひじりはただ呆然としていた。椅子にもたれかかって、虚空を見つめている。
「しっかし100均行った事ない人種いんのかよ。でもこの人なんか金持ちそうだもんな、雰囲気が」
「ていうかTakaめちゃくちゃテンパってるじゃん。お前トークの振りマジでHijiri見習……って、Hijiri?大丈夫か?」
リーダーであり最年長のNaokiがやっとひじりの様子に気付いたらしく、ひじりの肩をさすった。しかし、反応はない。ずっと腹部を抑えたままだ。そんなひじりに、Naokiは心配そうに続けた。
「何だ、腹痛えのか?まだ時間あるし、トイレ行けよ今のうちに……」
「Naokiくん……私は罪を犯しました……」
「どういう心境の懺悔?」
ただならぬひじりの声に、全員がひじりに向き直る。ひじりは腹部を押さえたまま、深く息を吐いた。そして。
「……推しと、関わってしまいました……仕事とはいえ、今考えたら本当にやってはいけなかった……」
「おっしミーティング準備すっぞー」
「ああああん聞いて!聞いてよ!そんなんだからうちのグループ全員不仲説出てるんだよ!」
実際不仲ではない。しかし、そこまで仲良くないのも事実である。単純に踏み込んでいないだけというのもあるが。
「だって、だってさ!て、ててて手取ってもらって!外一緒に、横並びで歩いて!しかも買い物までして!プ、ププププレゼントまでもらって!連絡先まで!!いやもう本当さ!こんなの!私は!壁で!もしくは床で!あるべきだったのに!」
「で、10周年のグッズの草案だけど」
「このド薄情どもめが!!」
ひじりの叫びと共に、ひじりの服から何かが滑り落ちた。それを、たまたま隣に座っていたReoが拾う。それは、一冊の箔がついたノートだった。
「ぬっく!お前これずっと腹の中入れてたの!?」
「肌身離さず身につけていたくて……!」
「ノートを身につけるって日本語初めて聞いたわ」
ノートを再び懐におさめるHijiriに、Naokiは溜息を吐いた。
「あのなあ。さすがにそこまで行くと仕事に影響出るかもしれねえだろ。切り替えろしゃきっと」
「し、仕事はちゃんとしてるもん……」
あれは、衝撃が強すぎただけだ。本当に、それだけだ。この業界に入って10年近くにもなれば、仕事とプライベートの感情くらいは切り分けられる。実際、メンバー以外にこんな醜態は見破られていない。
しかし、今のような合間時間だとどうしても気が緩んで出てしまうのだろう。隣でReoは頷いていた。
「でも分かるよ、俺も好きなグラドルと共演ってなったら結構そわそわするもん。同じ業界に推しがいるとそうなるって」
「Reoはグラドルどころかどの女優でもでしょ。そういえば連絡先交換したって言ってたけど、あれから連絡取ったの?」
Souの問いに、ひじりは首を振った。
実際、あれから連絡は取っていない。それどころか、一つとんでもない事実が発覚していた。これは、ひじり自身もあとで気づいた。
「……連絡先、あれ交換してないの。私の連絡先を送っただけ。私は、もらってない」
「えっそうなの!?」
Izumiの声に、ひじりは頷いた。
しかし、それはひじりのモットーを考えればあながち正解だったとも言える。もしひじりが玲雅の連絡先を入手していまっていたら、今以上にファンとして悶えてしまっていただろう。だから、これできっと正解なのだ。
その折に、チーフマネージャーが戻ってきた。全員姿勢を正して、ミーティングに向き合う。
主にグッズデザインはReoが主導、Naokiがサポートという形ですすんでいくらしい。他にも、10周年に向けた様々な会議が続いた。
さすがに自分の仕事ともなれば頭は冷えていて、ひじりも積極的に参加した。内容は、別のノートにとっていた。その様子に安心したのか、Naokiからのお咎めもなかった。
解散の流れになり、全員が会議室を出ていく。
「Hijiriちゃんタクシー?うちの旦那が迎えに来るしよかったら一緒に乗って帰る?」
「え、いいの?」
Izumiに「じゃあお願いしようかな」と言いそうになった途端。急に携帯が震えた。知らないアカウント名だった。
「誰だろ……『R』……?」
「喋らずに出てみれば?無視は……仕事関連だとまずいし」
さすがに仕事ならメッセージで来るだろうと思いつつ、応答ボタンを押してみる。念のため、スピーカーに設定した。Izumiも横にいてくれている。
すると、聞こえてきたのは。
『もしもし、Hijiriチャン?お疲れ様』
玲雅の声だった。ひじりとIzumiは息を飲み、顔を見合わせる。
『……あれ、聞こえてる?もしもし』
「き、聞こえてますっ!お疲れ様です!」
慌てて声を発してしまい裏返るも、玲雅は先に「ごめんね」と口にした。
『俺、Hijiriチャンに連絡先渡してなかったんだね。タクヤに言われて気付いた』
「だ、大丈夫ですっ!あの、この間はありがとうございました!」
『ああ、放送見たの?俺テレビの録画分で観ようとしてた。今大丈夫?』
Izumiが無言で頷く。一応「今メンバーのIzumiちゃんもいるんですけど、もうすぐ一人になります」とだけ返した。
『そっか、いや別に急ぎじゃないんだけど。あのさ、次のうちのライブの関係者席いるかなって』
「え!?」
『そしたら後で楽屋呼べるかなって』
「え、ええ!?」
興奮したらしいIzumiが、無言で何度もひじりの腕を叩く。しかし、ひじりは唇を噛み締めて唸った。
「す、すみません玲雅様……それは、大丈夫ですっ……」
「え!?」
Izumiの声と同様に、玲雅も微かに息を呑む気配が聞こえた。しかし、そこに被せる。
「実は……シングル限定盤の先着抽選でもうすでに当選しちゃってて……!」
『え、何それ。俺知らないんだけど』
「本人なのに!?」
『あ、Izumiサン?どうも、「IC Guys」の三田玲雅です』
「あ、お疲れ様です」
「だから何で皆冷静に話せるの!?」
そういえば、タクヤが以前『玲雅歌関連以外のマネージメントとか全然関わらないんだよねー!』と言っていたのを思い出した。そうか、こういう事か。
「あの、ファンクラブ限定販売のシングル限定盤購入者にはシリアルコードがついてて。それで、購入した瞬間に先着で第一抽選に入れるんです。それで当選しちゃってて、もう」
『そうなんだ。え、何かありがとう……じゃあ、どうにかして楽屋に入れるように手配しておくから。またそれについて連絡するね』
「え、ええっ!?」
そこで、玲雅は誰かに呼ばれたらしく電話が切れた。待ち受け画面に戻ったスマートフォンを見つめるひじりを、Izumiはじっと見つめる。
「連絡……きたね……?」
「……Izumiちゃああああああああああああ!!」
「わっ汚い!せめて鼻水は拭いて!一応アイドルなんだから!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
33
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる