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9.Hijiriは一回涙腺診てもらった方がいい。

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「お待ちしておりました、『SR』のHijiriさんとTakaさんですね!俺めちゃくちゃReoくん好きで!」
「あっ私たちじゃないんですね」
「というかReoくんマジで男性人気高いの何なの?ドラマいっぱい出るとそうなんの?」

 会場裏で合流したのは、チケットを確認してくれたスタッフだった。彼は裏口を開けると、ひじりとTakaを素早く中に入れた。
 結構広い裏の通路を進んでいく。かつて『SIX RED』でも使ったことのある会場で、なんとなく道順は覚えている。しかし、こうやってゲストとして呼ばれるのはあまりなくてどこか新鮮だった。
 スタッフのReoへの愛を語られながら進んでいくと、すぐに『IC Guys様』と書かれた楽屋に到着する。それを見た瞬間、心臓が跳ね上がりそうになった。しかし容赦なく、スタッフは扉をノックする。

「『SR』のお二人来られましたー!」
「あーい!」

 中からタクヤの声が聞こえる。そして勢いよく開くと、上裸のタクヤが顔を出した。

「来てくれてありがとうー!二人とも久々ー!」
「タクヤくん久しぶり!めちゃくちゃよかったよ、めちゃくちゃ泣いたよ!」
「こいつ『カトレア』の時やばかったんすよ、俺も『HOLD』の時うるっときました」

 いつの間にかスタッフは消えていて、タクヤは二人に「入りなよ」と声をかけた。

「実はゆっきが、今日緊急で撮影入ってもう出ちゃったんだよね。あっこれオフレコで」
「雪斗くんガチのモデルだもんね、次海外のショー出るんでしょ?」

 中に入った瞬間、急に空気が変わる。ファンだからこそ分かる、謎の震えのようなものを感じた。そんなひじりに「そうなんだよね」と呑気に返して、タクヤは奥に声を飛ばした。

「玲雅ー!来たよー!」

 奥の椅子に、背を向けて座っている影があった。立ち上がると、こちらを向いてくる。

「Hijiriチャン……に、Takaクンか。実際会うのははじめましてだね」
「は、はじめましてっ!」

 Takaもまた、上ずった声をあげていた。ひじりは玲雅を見つめながら、また涙腺を崩していた。そんなひじりを見て、さすがに玲雅は首を傾げた。

「大丈夫?来たくなかった?ごめん」
「ち、違うんです……あの、何か出るんです……」

 もはや垂れ流しの状態だった。念のため持ってきていたもう一枚のハンカチで、顔を拭く。直したての化粧が早速崩れ始めていた。

「その……さっきまでステージで輝いてた人が……め、目の前で……息して……わ、私と……会話して、て……本当に、本当に……」
「俺もその内の一人のはずなんだけどなあ」

 タクヤの言葉は拾われず、玲雅はまた何かを考え込むように首を下に向けた。しかしすぐに、またひじりを見る。
「よく分からないけど、嫌がられてないならよかったよ。ありがとう、会いにきてくれて」

 何度も、頷く。何とか涙は止まってきた。
 椅子を用意してくれて、恐らく差し入れでもらったであろうお菓子を振る舞われる。ありがたく頂戴していると、タクヤが声をかけてきた。

「そういやさ、この後打ち上げあるんだけどおいでよ」
「えっ!?私たちが!?」
「うん。ほら、事務所違うからちょっと交流会みたいな感覚で呼んでくれって上が」

 結局、この人たちも仕事人だ。それを感じ取り、少し落ち着いた。

「行っていいなら。私たちとしても、ちょっとコネとかコネとかコネとか欲しいし」
「お前そういうの言うとまたNaokiくんに怒られるだろうがって!」
「やった!あ、Takaくんってお酒飲んでいい歳だっけ?」

 どうやらもうすぐ出るらしく、タクヤと玲雅は準備を始めていた。『IC Guys』のマネージャーに呼ばれ、四人で会場の出口に向かう。
先頭で話すタクヤとTakaを見ながら、玲雅の隣を歩くひじりは緊張で押し黙っていた。『ギジデート』の時は仕事モードに切り替えられたが、今回はそもそもプライベートの極みだ。前回のように彼を見ようにも、どうしても緊張が勝つ。これが、前回の経験が無い状態なら心肺停止にまでいっていたに違いない。
 玲雅が、口を開いた。

「今回、ステージのデザイン俺と雪斗でやったんだけど」
「は、はいっ!?」

 いきなりの言葉に声を上げるも、玲雅は気にしていないようだった。そのまま、続けられる。

「そもそも雪斗が出した構成に、俺が色々付け足させてもらった感じ。気づいた?」

 必死で思い返す。玲雅に夢中になる反面、演出としてのくせで確かにひじりはステージを俯瞰でも見ていた。それこそが才能だと、大手の大道具担当に褒められたこともある。
 少し悩んで、口を開いた。

「……し、シンプルだとは思ってましたけど。暗転の時、装飾が光ってて……かわいかった、です」
「ああ、やっぱり気付いてたんだ」

 表情は、いつもと変わらない。でも、目線はひじりを向いていた。その事実に射抜かれそうになるが、同時に気付く。

「あ、蓄光……!」

 あの100均の出来事を思い出し、声を上げてしまう。玲雅は頷いた。

「今回のセトリの雰囲気的に合うと思って、雪斗に相談した。あいつも感動してたよ」
「そ、そそそんな……!恐縮です……!」

 感動で目の前が真っ白になりそうだった。そんなひじりに、いつもと変わらない表情を向けて彼は「ありがとうね」と返した。泣いてしまいそうだった。
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