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第二話 魔崩れアルギス
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魔王様がいつも持っている太陽と月を模した杖で魔王様は魔方陣を描き、魂のない身体を中央に置き、詠唱を唱える。
魔王様がかっと目を見開いた瞬間に、魔王様の持っていた杖に稲妻が走り、ばちばちと魔方陣に雷が走る。
淡い光りに包まれて、魂のない身体がふわりと浮き上がり、女性の身体となっていく。
私が強い閃光に瞬きをした瞬間、私はその身体の中にいた。
遠くにある儀式用の鏡を見れば、桃色の髪の毛に、魔族の証である金色の瞳。
唇は発色良く、肌もつやつや。見目は十代の女の子そのもの。胸も魔王様の好みなのか、大きめ。
「生前はなんと言った、名前は?」
「ウルシュテーラ・アインツ」
「では、今世ではウルシュテリアと名乗れ。名字は余と同じ物を与えよう。お前は、ウルシュテリア・バース=インフェルノだ。ようこそ、今世へ。我が妻、炎の片割れよ」
「炎の片割れ?」
「知らぬのか、余は炎を使う魔王だ。怖い牛の姿も持っている」
さぁ怖がれといったようなにやにやとした笑みよりも、生き返った喜びのほうがでかくて、私は魔王様に抱きついた。
魔王様は抱きつかれると思ってなかったのか、真っ赤な顔をして面食らっていた。
「有難う、このご恩は忘れません。魔王様」
「……妻となろう者が魔王様などと呼ぶな、ゼロと呼べ、無礼者」
何が無礼なのか、名前呼びで呼ぶ方が無礼なのではと思いつつ、私は微笑むとゼロは嬉しげににこりと笑みに釣られてくれた。
*
身体を得てから服を貰い、着てみる。
「あらあ、こちらのお洋服だと妖艶でお似合いはお似合いなんですけれども、可憐な服の方がウルシュテリア様はお似合いですわね」
「でも、可愛い服だと胸が、きつくて」
「きついのはお胸だけでして? でしたら、答えは簡単ですわ。お前達ッ、奥方様に洋服を仕立て直しなさい!」
雪の精霊を操りながら衣服を整えてくれてるのは、雪の女王であるシラユキ。
シラユキは水色の髪型にお団子をしていて、民族衣装がよく似合うスタイルの良い女性魔物だった。
ゼロから命令を受けるなり、嬉しそうに世話をしてくれて、お洋服の採寸が終われば食事してから城を案内してくれると申し出た。
「あの朴念仁魔王様が奥様を娶るとは、私、大感激致しましたわ。全力をもってして、ウルシュテリア様をサポート致します!」
「シラユキさん、ウルでいいわ」
「いいえ、なりません! 愛称は親しい方のみにしか許されませんの。それは我が魔物たちの間でも、親しい者同士にのみ許された呼び名ですわ。私のような世話人ごときが魔王様を差し置いて愛称だなんて……」
「私が今頼れるのは、ゼロとシラユキさんだけなの。ゼロが貴方に任せてくれた。だから、それだけでも貴方は信頼出来る証だと思うの。ね、そう呼んで?」
「ウル様……! なんてお優しい! 私、感激です。ヴァルシュア様ではなく、ウル様が奥方様で大変嬉しく思います」
「ヴァルシュア様、って、ええと何方ですか?」
「あら、失礼致しました。元人間でしたら、魔王勢についてはよくご存じではありませんよね。実は、魔王と呼ばれる者はこの世界には御三方いらっしゃいまして、そのうちの一人が我らが炎の魔王ゼロ様。もうお二人は、水の魔王ヴァルシュア様と、風の魔王ユリシーズ様。残りお二人とも女魔物なのですが、このお二人、なんとゼロ様を取り合ってよく喧嘩なさるのですよ。ヴァルシュア様のほうがまだ少し好かれてる程度ですが、本当に奥方様が来てくださって私どもは感謝しております!」
ゼロが言っていたチャーム……魅了技を送られてきて面倒な相手というのは、察しがついた。
「また窓辺に鴉がいる。ここ最近この城でよく見ますね」
「奥様がくるまではそんなことなかったのですけれどね、鴉が奥様をお好きなようで微笑ましいですわ」
ピンクの目を細めてシラユキは私に改めて採寸を変えた衣装を着せてくれた。
淡い蒼をベースにしたドレスだけれども、どこか愛らしいワンピースのような形で、レースやフリルもふんだんに遇われている。
窓辺の鴉を見ていると、驚くべき人が居た――あれは、アルギス。
人間の頃の私の世話係であったアルギスの出で立ちをしている、見目は黒髪から水色の髪へと変わっていて、目が――魔力の高い魔物の証である金色となっていた。
私はシラユキに礼を告げ、その場から慌てて駆けだし城の外へ。先ほど、アルギスがいたらしき場所に行けば、そこにはやはりアルギス。
「アルギス……どうして」
「ウル……心配でした、貴方を失った寂しさに、悲しさに。やっと会えた……貴方への愛しさで私は気が狂い、この身は貴方と同じく魔に堕ちたようです」
「魔に……? 心配かけて、ごめんなさい。でも、もう大丈夫なの。私、此処でお嫁さんとして暮らすの」
「それの何処が……大丈夫なんですか。ウル、僕のウル。ぜぇんぜん、大丈夫なんかじゃあない……」
アルギスは目をぎらぎらとさせ、爪の伸びて蒼いマニュキアの塗ってある手を私に伸ばした。いつものアルギスだったら優しく微笑んで抱きしめてくれるのかなって思えたはずなのに、私は今はただただアルギスが怖くて身を震わせ、一歩後ずさりした。
「ウル、逃げるな。貴方まで、僕から逃げないで。僕は、貴方だけいればいい、貴方だけがこの世で必要なんですよ……!」
「ごめんなさい、私は……もう」
断った瞬間に、魔物になってから初めて分かった魔力のオーラというものがアルギスからは強く感じて、声にならなかった。
アルギスは私の足下に薔薇の茨を生やし、私を拘束する。
「ウル、貴方が生きていたことは感謝する……僕は貴方がいなければ、駄目なんだ。だけど……浮気は、よくないな?」
アルギスは私の頬を片手で挟むと、口づけしようとしてきた。
たまらず、私は目を瞑って、助けを祈る――!
(誰か、誰か……)
急に拘束が解け身体が自由になった感覚に驚いて目を見開けば、私を背中に隠すゼロが現れた。
魔王様がかっと目を見開いた瞬間に、魔王様の持っていた杖に稲妻が走り、ばちばちと魔方陣に雷が走る。
淡い光りに包まれて、魂のない身体がふわりと浮き上がり、女性の身体となっていく。
私が強い閃光に瞬きをした瞬間、私はその身体の中にいた。
遠くにある儀式用の鏡を見れば、桃色の髪の毛に、魔族の証である金色の瞳。
唇は発色良く、肌もつやつや。見目は十代の女の子そのもの。胸も魔王様の好みなのか、大きめ。
「生前はなんと言った、名前は?」
「ウルシュテーラ・アインツ」
「では、今世ではウルシュテリアと名乗れ。名字は余と同じ物を与えよう。お前は、ウルシュテリア・バース=インフェルノだ。ようこそ、今世へ。我が妻、炎の片割れよ」
「炎の片割れ?」
「知らぬのか、余は炎を使う魔王だ。怖い牛の姿も持っている」
さぁ怖がれといったようなにやにやとした笑みよりも、生き返った喜びのほうがでかくて、私は魔王様に抱きついた。
魔王様は抱きつかれると思ってなかったのか、真っ赤な顔をして面食らっていた。
「有難う、このご恩は忘れません。魔王様」
「……妻となろう者が魔王様などと呼ぶな、ゼロと呼べ、無礼者」
何が無礼なのか、名前呼びで呼ぶ方が無礼なのではと思いつつ、私は微笑むとゼロは嬉しげににこりと笑みに釣られてくれた。
*
身体を得てから服を貰い、着てみる。
「あらあ、こちらのお洋服だと妖艶でお似合いはお似合いなんですけれども、可憐な服の方がウルシュテリア様はお似合いですわね」
「でも、可愛い服だと胸が、きつくて」
「きついのはお胸だけでして? でしたら、答えは簡単ですわ。お前達ッ、奥方様に洋服を仕立て直しなさい!」
雪の精霊を操りながら衣服を整えてくれてるのは、雪の女王であるシラユキ。
シラユキは水色の髪型にお団子をしていて、民族衣装がよく似合うスタイルの良い女性魔物だった。
ゼロから命令を受けるなり、嬉しそうに世話をしてくれて、お洋服の採寸が終われば食事してから城を案内してくれると申し出た。
「あの朴念仁魔王様が奥様を娶るとは、私、大感激致しましたわ。全力をもってして、ウルシュテリア様をサポート致します!」
「シラユキさん、ウルでいいわ」
「いいえ、なりません! 愛称は親しい方のみにしか許されませんの。それは我が魔物たちの間でも、親しい者同士にのみ許された呼び名ですわ。私のような世話人ごときが魔王様を差し置いて愛称だなんて……」
「私が今頼れるのは、ゼロとシラユキさんだけなの。ゼロが貴方に任せてくれた。だから、それだけでも貴方は信頼出来る証だと思うの。ね、そう呼んで?」
「ウル様……! なんてお優しい! 私、感激です。ヴァルシュア様ではなく、ウル様が奥方様で大変嬉しく思います」
「ヴァルシュア様、って、ええと何方ですか?」
「あら、失礼致しました。元人間でしたら、魔王勢についてはよくご存じではありませんよね。実は、魔王と呼ばれる者はこの世界には御三方いらっしゃいまして、そのうちの一人が我らが炎の魔王ゼロ様。もうお二人は、水の魔王ヴァルシュア様と、風の魔王ユリシーズ様。残りお二人とも女魔物なのですが、このお二人、なんとゼロ様を取り合ってよく喧嘩なさるのですよ。ヴァルシュア様のほうがまだ少し好かれてる程度ですが、本当に奥方様が来てくださって私どもは感謝しております!」
ゼロが言っていたチャーム……魅了技を送られてきて面倒な相手というのは、察しがついた。
「また窓辺に鴉がいる。ここ最近この城でよく見ますね」
「奥様がくるまではそんなことなかったのですけれどね、鴉が奥様をお好きなようで微笑ましいですわ」
ピンクの目を細めてシラユキは私に改めて採寸を変えた衣装を着せてくれた。
淡い蒼をベースにしたドレスだけれども、どこか愛らしいワンピースのような形で、レースやフリルもふんだんに遇われている。
窓辺の鴉を見ていると、驚くべき人が居た――あれは、アルギス。
人間の頃の私の世話係であったアルギスの出で立ちをしている、見目は黒髪から水色の髪へと変わっていて、目が――魔力の高い魔物の証である金色となっていた。
私はシラユキに礼を告げ、その場から慌てて駆けだし城の外へ。先ほど、アルギスがいたらしき場所に行けば、そこにはやはりアルギス。
「アルギス……どうして」
「ウル……心配でした、貴方を失った寂しさに、悲しさに。やっと会えた……貴方への愛しさで私は気が狂い、この身は貴方と同じく魔に堕ちたようです」
「魔に……? 心配かけて、ごめんなさい。でも、もう大丈夫なの。私、此処でお嫁さんとして暮らすの」
「それの何処が……大丈夫なんですか。ウル、僕のウル。ぜぇんぜん、大丈夫なんかじゃあない……」
アルギスは目をぎらぎらとさせ、爪の伸びて蒼いマニュキアの塗ってある手を私に伸ばした。いつものアルギスだったら優しく微笑んで抱きしめてくれるのかなって思えたはずなのに、私は今はただただアルギスが怖くて身を震わせ、一歩後ずさりした。
「ウル、逃げるな。貴方まで、僕から逃げないで。僕は、貴方だけいればいい、貴方だけがこの世で必要なんですよ……!」
「ごめんなさい、私は……もう」
断った瞬間に、魔物になってから初めて分かった魔力のオーラというものがアルギスからは強く感じて、声にならなかった。
アルギスは私の足下に薔薇の茨を生やし、私を拘束する。
「ウル、貴方が生きていたことは感謝する……僕は貴方がいなければ、駄目なんだ。だけど……浮気は、よくないな?」
アルギスは私の頬を片手で挟むと、口づけしようとしてきた。
たまらず、私は目を瞑って、助けを祈る――!
(誰か、誰か……)
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