勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

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星流れのデート編

第三十六話 一人の辛さとトラウマ

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「思い出せなかったのか、ウル。君がずっとずっと一人になる日だったんだよ。僕がきて、君は泣いて喜んだね。有難う有難うって」
「黙れアルギス」
「あの頃は可愛かったなア、僕がいなければ何一つ出来ない可哀想な女の子でした」
「アルギス、ウルの顔を見ろ!」

 私が真っ青になってくらくらとしてる様子に、アルギスは気づくと今までのは悪気がなかったのか少しだけ大人しくしょんぼりとした。

「一人がそんなに怖い? ウル」
「……やめて、アルギス。聞かないで」
「質問を拒絶するくらいに? 勇者に置いて行かれたことは相当なトラウマとなっているみたいですね。……ウル、君は僕のこと関係なしに今後考えなくちゃいけないんだよ。立ち向かわなくちゃいけないんだよ、いつしか人間は一人となる」
「ちがう、違うわ、私、魔物、になったんだもの」
「それでもね。君は一人の時間、ずっと恐れたままでいいのか? ずっと魔王ゼロにべったりというわけにもいかないでしょう」
「……一人、じゃないわ、私には、もう、みんながいる」
「泣きそうな顔で言われても説得力ないんだよ、ウル」

 アルギスは片手をゆるりと差し出し微笑みかけてきた。

「この手を取れば、ずっと僕が監視して見守っていてあげますよ、ウル」
「要するにお前の我が儘だな、ウルの弱味につけ込んだとんだセールストークだ」

 ゼロの言葉にげらげらとアルギスは笑うと、服が乾いたのを確認し、干し肉を食べているのに使ってた小枝を火に投じて一瞬火は燃えさかった。

「君にはないのかい、ウルに向けてのアピールやセールストークは」
「そんなものなくとも、ウルは余を選ぶ」
「一見自信に満ちた返答だ。その裏で、ウルが事実そうであるのか不安が見えて確認するのが怖いとも受け取れる返答だな」
「……貴様は人間でなく、根っからの魔崩れだな。人間にしては嫌な観察眼をしている。人間とはもっと真っ直ぐなものではないのか」
「人間は卑しくてゲスな生き物ですよう、さてと」

 アルギスは乾いた上着を着ると、衣服を整え山小屋から出て行こうとする。

「地図は東向きにして進んだ方が君たちの城に、あの橋を使わなくても帰れるでしょう。ウル、風邪を絶対に引かないように。それでは、星流れの二日目にお約束通り迎えに行きますね、それではさようなら、お先に。雨もあがりましたし」
「何故雨があがったと分かる」
「最初から僕の仕掛けた魔法だったからですよ、簡単に引っかかってくれて有難う。約束も取り付けたし、今日は引き下がります。ウルの顔色も宜しくないのは本意じゃないんでね」

 アルギスはにこりと微笑むとそのまま静かに去って行った。
 私は頭の中でアルギスの背を見送りながら、兄様が勇者として巣立っていく姿をその背に重ねて、目から涙が溢れた。

「ウル! ウル、大丈夫だ、余が居る!」
「あ……あ……、ゼロ……私、いったい」
「ウル、一人ではない、一人にはさせぬよ」
「……有難う、有難う」

 私は大粒の涙を零しながら、ゼロに抱きついて寂しさと恐怖を埋めた。

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