71 / 88
春は曙編
第七十一話 欲しかった人肌
しおりを挟む
氷の矢を無限に放つコピー。
薄ら笑みを浮かべ、じわりと私へにじり寄る。
その度にアルギスとラクスターが私を守るように立ち、私を背中に隠すがこの場ではけが人が多くて戦えない為に、守るしか出来ずシールドを貼るのに精一杯。
器用そうなアルギスはともかく、普段から特攻ばかり専門にしてるラクスターからすれば正念場だ。
ラクスターはイライラしながらも落ち着けようと、シールドを貼るのに集中する。
「堕天使さん、僕はね、知ってるよ。本物の知らない天界のこと」
「ああ? お坊ちゃんが何を知ってるってよ」
「お兄さんと会ったことがあるんだよ、お兄さんと話したことも。お兄さんは大層君を心配していらっしゃったよ。人間の魂に肩入れしたばかりに、堕天したと気に病んでらした」
「……ルネがそんなたまかよ。あいつは、いつだって! オレを! 馬鹿にして!」
「ラクスター!!」
集中力が乱れたラクスターが氷の矢で貫かれる、魔力が不安定になりシールドを突き破ったのだろう。
私は慌ててラクスターに近づき、回復魔法を施す。
アルギス一人でシールドを張って貰うこととなっているため、アルギスは少し辛そうな顔をしていた。
「堕天使さんは煽り耐性がゼロっていうのは本当みたいだね、そのお兄さんから教えて貰ったけれど。自分のことを話せば、きっと怒り狂うって言っていたよ」
「てっめえ……ってて……っぐ、こんな、とき、に、眠気、が」
春の陽気に負けたのかラクスターは眠ってしまった。
怪我自体は治ったけれど、春の陽気による試練で起きることは難しそうだった。
コピーはにこにこと嬉しそうにまた一歩近づいた。
「さて、あとは僕が相手だ。本物の僕相手だ、君には心を揺さぶるネタがたっくさんあるけれど、どれにしよう」
「……いい加減にして。どこまで、私の大事な人達を傷つければ気が済むの」
「無論君の目が僕だけを写すまでさ!! 何を馬鹿げた言葉を使うんだ、ウル! 全ては君への想い故になんだよ。君は気づかないわけがない! 気づきたくないんだ!」
「ウル、コピーの言葉だ、耳を貸さなくてイイ。気を乱さないで、貴方の魔力が途絶えたら皆に氷の矢が降ってしまう……せめて、せめて誰か他の魔物が一人くるまで」
「随分余裕そうだね、僕。……君にはあの話をしようかなあ、ウルが死ぬ間際のときの」
「ッ、やめて、くれ」
アルギスはそれでも精神を乱すことなくシールドを貼り続ける。
私は徐々に動けるようになってきたので、降ってくる氷の矢を炎で溶かせないかと苦戦する。
コピーの魔力は尋常じゃないほどに強く、未だに魔法をこれだけ使っていても涼やかな顔をしていた。
「ウルのこと、世界一大事だって顔をしながら、少しだけ分かっていたんだよね? ウルの寂しさの理由や自分がどうしてウルに拘るか。ウルだけが君を必要としていたからだ。この世の何処にも誰も僕を必要としてくれる奴なんていなかった! たとえ、生きていけないからという、単純な理由だけでも!!」
「やめて、くれ」
「君はウルを守りながらウルを利用していた世界一の醜いエゴを持った愚か者さ! ウルが死にそうな時、君が心配していたのはウルじゃなく……誰も必要としてくれなくなる世の中だろう!? ねえ、そんな君がウルを守れる? お笑いだよね、ウルが必要じゃなく君が欲しかったのは……」
私はこのまま吐くつもりのなかったアルギスの懺悔を聴くわけにはいかなかった。
アルギスはとても辛そうな顔をしている。
アルギスが自分から言うつもりがないことまで暴くなんて、非道なコピーだと嫌悪した。
私はアルギスのコピーへ駆け寄り、思い切り平手打ちをした。
アルギスのコピーは平手打ちされたというのに、恍惚とした顔で私を見つめ、抱き寄せた。
「そう、これだ。君が欲しかったのは、君たちが欲しかったのは同類の人肌さ」
薄ら笑みを浮かべ、じわりと私へにじり寄る。
その度にアルギスとラクスターが私を守るように立ち、私を背中に隠すがこの場ではけが人が多くて戦えない為に、守るしか出来ずシールドを貼るのに精一杯。
器用そうなアルギスはともかく、普段から特攻ばかり専門にしてるラクスターからすれば正念場だ。
ラクスターはイライラしながらも落ち着けようと、シールドを貼るのに集中する。
「堕天使さん、僕はね、知ってるよ。本物の知らない天界のこと」
「ああ? お坊ちゃんが何を知ってるってよ」
「お兄さんと会ったことがあるんだよ、お兄さんと話したことも。お兄さんは大層君を心配していらっしゃったよ。人間の魂に肩入れしたばかりに、堕天したと気に病んでらした」
「……ルネがそんなたまかよ。あいつは、いつだって! オレを! 馬鹿にして!」
「ラクスター!!」
集中力が乱れたラクスターが氷の矢で貫かれる、魔力が不安定になりシールドを突き破ったのだろう。
私は慌ててラクスターに近づき、回復魔法を施す。
アルギス一人でシールドを張って貰うこととなっているため、アルギスは少し辛そうな顔をしていた。
「堕天使さんは煽り耐性がゼロっていうのは本当みたいだね、そのお兄さんから教えて貰ったけれど。自分のことを話せば、きっと怒り狂うって言っていたよ」
「てっめえ……ってて……っぐ、こんな、とき、に、眠気、が」
春の陽気に負けたのかラクスターは眠ってしまった。
怪我自体は治ったけれど、春の陽気による試練で起きることは難しそうだった。
コピーはにこにこと嬉しそうにまた一歩近づいた。
「さて、あとは僕が相手だ。本物の僕相手だ、君には心を揺さぶるネタがたっくさんあるけれど、どれにしよう」
「……いい加減にして。どこまで、私の大事な人達を傷つければ気が済むの」
「無論君の目が僕だけを写すまでさ!! 何を馬鹿げた言葉を使うんだ、ウル! 全ては君への想い故になんだよ。君は気づかないわけがない! 気づきたくないんだ!」
「ウル、コピーの言葉だ、耳を貸さなくてイイ。気を乱さないで、貴方の魔力が途絶えたら皆に氷の矢が降ってしまう……せめて、せめて誰か他の魔物が一人くるまで」
「随分余裕そうだね、僕。……君にはあの話をしようかなあ、ウルが死ぬ間際のときの」
「ッ、やめて、くれ」
アルギスはそれでも精神を乱すことなくシールドを貼り続ける。
私は徐々に動けるようになってきたので、降ってくる氷の矢を炎で溶かせないかと苦戦する。
コピーの魔力は尋常じゃないほどに強く、未だに魔法をこれだけ使っていても涼やかな顔をしていた。
「ウルのこと、世界一大事だって顔をしながら、少しだけ分かっていたんだよね? ウルの寂しさの理由や自分がどうしてウルに拘るか。ウルだけが君を必要としていたからだ。この世の何処にも誰も僕を必要としてくれる奴なんていなかった! たとえ、生きていけないからという、単純な理由だけでも!!」
「やめて、くれ」
「君はウルを守りながらウルを利用していた世界一の醜いエゴを持った愚か者さ! ウルが死にそうな時、君が心配していたのはウルじゃなく……誰も必要としてくれなくなる世の中だろう!? ねえ、そんな君がウルを守れる? お笑いだよね、ウルが必要じゃなく君が欲しかったのは……」
私はこのまま吐くつもりのなかったアルギスの懺悔を聴くわけにはいかなかった。
アルギスはとても辛そうな顔をしている。
アルギスが自分から言うつもりがないことまで暴くなんて、非道なコピーだと嫌悪した。
私はアルギスのコピーへ駆け寄り、思い切り平手打ちをした。
アルギスのコピーは平手打ちされたというのに、恍惚とした顔で私を見つめ、抱き寄せた。
「そう、これだ。君が欲しかったのは、君たちが欲しかったのは同類の人肌さ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる