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第三章 アレクサンドル編

第五十一話 特別なアップルパイ

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 五生宝とは、五つの伝説上の薬草や香草など、自然界における奇跡的な材料のことである。
 よく錬金術とかで見かける最終アイテムに使う材料のイメージで捉えれば判りやすいかもしれない。それくらいレア種で、扱いも難しいもの。
 月華蜜に関して、あれが手に入ったのは偶然じゃないのかもしれない、だとしたら……次に手に入れておくべきは、豪炎茸だろうか。
 あれは暑い地域に生えるもので、市場で手に入るチャンスがもうすぐなんだ。
 しかもオークション形式で、金が必要。何か売れるものあったっけか。

「お前様、ひとまずは試験の勉強に集中しようぞ、考えるのはそれからだ」
「そうだなぁ、問題は山積みネ」

 やれやれ、だ。
 オレとイミテは部屋に戻って、勉強の続きをし、無事ぎりぎり補習を逃れる点数をとれた。

 後日張り出された成績表を見れば、キャロラインの点数は上位陣に食い込んでいたので、ほっとした。
 序盤でこの順位なら一位に一回はなれるかもな、そしたらまた出来る行為が増えてくる。



 試験も終わったことだし、ポーションを低級から楽々、中級のものを作れるようになっていた。
 解毒薬などの試薬品もディスタードが試してくれたりして、ある程度の腕前はつくようにはなった。
 だけど、どかんと儲かるようなバイトは思いつかない。
 オークションに必要なんだけどなぁ……。しかも確かオークションって大人の貴族しか参加できないんじゃなかったけか。

「一度ヴァスティに相談してみるか……?」
「何独り言ぶつぶついってるの?」

 キャロラインが街の依頼から戻ってきたのか、頬を少し煤けさせながら気付けば近くにいた。
 訊けば迷子の猫探しをしていたらしい、あれ毎日出てくる依頼だけど地道に経験値たまるもんなぁ。
 オレは多分役に立たないからパーティーメンバーとして呼ばれなかったのだろう、と思っていたら。

「リーチェ具合悪いの大丈夫?」
「え」
「ここのところ、ずっと青い顔してるから。今日はね! 貴方に頼らなくても出来るんだよ! リーダー出来るんだよって皆に証明していたの、ディスタード様もアッシュ様も褒めてくれたわ」

 心配してくれていたらしい。
 照れくさそうに笑うキャロラインに、いいこだなぁと思いつつ、キャロラインの瞳はじっと何かを待っていた。
 嗚呼、褒めて欲しいんだな、と判ればいいこいいこと頭を撫でてやる。気持ちよさげに目を細めて、キャロラインは笑った。

「それで、どうしたの?」
「メビウス達の狙いが少し判りそうな、判らないようなって感じなんだ。豪炎茸を次は狙うと思う」
「確か母様もお招き頂いてるオークションに出るはずよ。下品で嫌だって母様は仰ってたの覚えているの」

 少し目をぱちくりと動揺させた顔でキャロラインは、驚く様を見せた。
 考え込みながら、オレと同じ思案をしたようだ。

「あれって大人しか参加できないオークションよね」
「年齢誤魔化せないかな……あ、ああ!! そうか、年齢誤魔化し……!」

 年齢を誤魔化す薬、年老い薬や年若薬は作れるぞ、今の経験値なら!
 それを使って潜入できないだろうか。
 三時間だけ効果が現れる薬だから人体にそこまで悪い影響はないはずだ。
 ただ……オレには効かないんだよな、バッドステータス扱いだから。

「イミテに飲んで貰うか……」
「……リーチェ様、あのね、もっと私達にも頼って! 何か判らないけれど、メビウス達に関することなのでしょう? お力になれるかもしれない! 何より、私はそういうのを任された神の寵姫です!」
「寵姫って!! ぶはははは、あながち間違っちゃいねぇ……」
 この場にヴァスティがいたら、しかめっ面するだろうな、と脳内でイメージしつつ、オレはキャロラインの言葉に有難く頷き、提案することにした。

「年を取ることができる薬があるんだ、三時間だけの効果で。それはただ俺にはきかない。ソレ使ってどうにかオークション参加できないかなって思っただけだよ」
「お金はどうします?」
「キャロラインちゃん、俺さ。ふと思い出して申し訳ねぇんだけど、キャロラインのお母さん治したときに治療費貰ってなかったから、貰えないかな」
「うちの国にたかるつもり?」
「その通り」

 神経の図太さにキャロラインは大笑いし、頷いた。
 こくりと頷き、俺の両手を握りしめ俯く。

「オークション、私が薬飲んで出る。招待状は母様から譲って貰って、資金も貰ってくる。招待状は匿名参加だから、大丈夫なはずよ。治療費のこと話せば納得はしてくれると思うの、それに世界を救ううちのひとつでしょ?」
「……それだけじゃあないんだ」

 その材料が全て集まって俺の力が足りていれば、ヴァスティを助けることもできるかもしれないんだ。
 だけどこの話はキャロラインを混乱させると思ったので黙っておく、ごめんよ。

「それだけじゃないって?」
「社会経験のひとつにもなるだろ、なんてな。じゃあ、そこらへんの手配頼んだ」
「うん、リーチェは早く寝て良くなってね、体調。あの……リーチェ、リーチェってアップルパイ好き?」
「うん? 甘い物はあまり多くは食べられないけど、好きだよ」
「じゃ、じゃあ今度、毒味係を連れて、私が作ったアップルパイ食べてくれる……?」

 表情は純情な乙女そのもので。
 少しだけ意地悪な質問が過ぎった、――それはヴァスティにそうしろって言われたのか、と。
 向こうからすれば、未来を平和に収めたいなら未来が安定して見える俺の心を射止めたいはずだ。
 皮肉だな、ヴァスティ。自分の愛情を殺しながら、よその男にくれたがるなんて。
 お前の自己犠牲精神はどこからくるんだ? 光属性の神様だからか?

 キャロラインは、黙ってしまった俺に、しゅんとした。
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