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第三章 アレクサンドル編
第六十一話 ようやく訪れたヴァスティフラグ
しおりを挟む会場の好意により、ヴァスティは会場の備えにある控え室を借りて休憩することができた。
それとオークションの主は、先ほどの戦いに感動したのか、豪炎茸を金貨五百枚で君達が落札してイイと言ってくれて、無事買えた。
俺は控え室にて、ヴァスティの身体の具合を診る。
今回は祈りが無かったから、体力が思い切り一気に減っただけだな。
多分ゲーム風に言うなら赤ゲージのようなものだから、ポーションを飲ませれば治るだろう。
「ヴァスティ、これを飲め」
「それは?」
「俺が今作れる中で一番回復力の高いポーション。まだロデラ姫からもらったレシピは作れないからそれには劣るけど、まぁまぁ落ち着くとは思うよ」
「人の子に感謝する日がくるとはな」
ヴァスティは小さく鼻で笑うと有難そうに受け取り、ごくごくと飲んでいた。
こんこんとノック音が聞こえたので、出ればキャロラインだ。
俺はキャロラインを部屋へ通して、弱っているヴァスティを見せる。
キャロラインは今までに見た覚えがないほど真っ青な表情で、悲しみ、ヴァスティに近寄りしずしずと泣き出した。
「死んだら、いやよ」
「キャロ、あの……」
ヴァスティと視線が交じったので、言っとけとジェスチャーを。
ヴァスティは意を決して、キャロの頭を撫でながら言いづらそうに言葉を探す。
「あのさ、祈りの力は、もうあまり使わないで、ほしい」
「それが、原因? 貴方が倒れている、原因?」
「うん……人々から沢山の力を、力が無い状態で吸われていて、病が悪化しているらしいんだ」
「だから、血を吐いたりしたの?」
「……うん。あ、でも、メビウスと闘うときだけは」
「駄目よ、使わない。ヴァスティを死なせたくない……リーチェ、お願いがあるの」
ひょんなタイミングで姫様に声をかけられたもんで、驚いてキャロラインへ目を向けて返事すると、キャロラインは驚きの言葉を。
「私にも、薬学教えて。授業で判らないところあったら、教えて。私、怪我したら皆を回復したいし、ヴァスティを治したい」
初めてキャロラインが自分から、問わずに何をしたいか自ら思案し、告げた瞬間だった。
*
「私、前線で闘うのもする。今日みたいに茸拾うのを狙うしかできないのは嫌だもの」
「なら武器を決めてから学校で習うといい。薬学に関してはサポートするが、オレよりは習得のスピードが少し遅れる。それでも構わないか?」
「今の時点でリーチェと習得度が並んでるのは変でしょう? 沢山頑張る、だからお願い」
極端にステータス振らなくて大丈夫なのだろうか、という心配はあったが、今の決意に水は差したくなく。だって、折角ヴァスティのために決意したんだし、キャロラインが自分から選んだことだしな。
何より、ヴァスティとキャロラインが結ばれる道の一歩の気がしてさ。
「ヴァスティはお城で安心して待っていてね」
「ああ……キャロ、すっかり、逞しくなった、なぁ。昔はあんなに、……いやあのときから、貴方はオレの勇者でした」
ヴァスティが無邪気な笑みをキャロラインだけに浮かべてすぅっと眠りに入った。
キャロラインはヴァスティが眠りに入るなり、ヴァスティの手を撫で、やや俯いた。
静かな声で俺にぽつりぽつりと話しかけるキャロライン。
「私ね、ショックだったんです、貴方とイミテさんがキスしたとき」
「あ、その……」
「でも、それ以上にヴァスティが倒れた時は、身を切る想いでした」
「! それって……」
「……どういうことなのか、私にはまだ判らないの。全部解決する頃に、きっと判る、かもしれないと思ったよ」
キャロラインはヴァスティの、脂汗が流れていた額を自分のハンカチで拭いながら、小さく笑った。
「その答えを知るには、私の神様がしっかりしてくれないと。リーチェ、少し二人きりにして」
ええ、ええ、勿論勿論!!
大喜びで二人きりにしたるわ、何なら門番したるわ!!
けど、ここで喜ぶのはマイナスイメージになるから、俺は俯き、『判った』と部屋を出た。
何俺の演技、名演技すぎない??
部屋から出れば、アレク先生が控えていて、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「目的までもう少しっぽいですね」
「盗み聞きっすか」
「まぁその、今回多大な迷惑をかけてしまいましたし。あの肖像画とか。……これをお渡ししようと。役立つんじゃないんですかね。君に力があれば、出来ることはきっと増えるから」
アレク先生がくれたのは、パールみたいな見目の半透明のやや個体になりかけの液体だった。小瓶に入っている。
これって――アレク先生ルートじゃないと手に入らないアイテムだ。
確かレベルを滅茶苦茶あげてくれるアイテムだったはず。
人魚の涙、というアイテムだろう、手にすればやっぱりそれは人魚の涙だと判る。
俺はアレク先生を見やると、にこやかに先生は笑った。
「うちの国の、貴重な資源です。飲めば効きますよ」
「先生どうしてこれをキャロラインじゃ無く、俺に?」
「……もしも、運命というのがシルビアさんと君の二人で手を組んで、奇跡を起こせなかったのが力量不足だっただけならば、少しは運命が変わるかなとおもいまして。予測外の行動を出来るのは、君だけのようですからね。癪じゃないですか、何もかも予定通りって。復活薬、早く作れるようになるといいですね」
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