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第十五話 拗ねた若頭
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組に戻れば若頭は、いつも鉄面皮なのにオレを見るなりにこにこ笑顔で駆け寄り、オレの手を両手で握手しぶんぶんと振ってくれた。
「雛ちゃん、よくやってくれた。そしてよく生き延びたネ。聞いたよ、旋風の兄貴に。お前たちが結ばれたって」
ああ、あの黒い男は旋風のお兄さんだったんだ。
だとしたら情けないところをだいぶ見せてしまったな、と思った。
オレはいつもならまあね!!とかどや顔するのに、乙女のように恥じらい照れて、頬に手をあてて俯いてしまった。
奏さんは驚いた面持ちでオレをまじまじと見つめてから、顎をくいと引き寄せて、オレの瞳を真面目に覗き込む。
「本当の本当に。恋心をくれてやったのか」
「何を……今更。……う、るせ……離せ、よ。恋じゃねえし!!!!」
照れながら視線をそらそうとすれば、余計に顎を引き寄せられ、奏さんのつまらなさそうな視線がぶつかる。
なんだっていうんだ。お望み通りのことを沢山叶えたっていうのに、どうしてこの大人は苛立っているんだ?
「むかついてるの?」
「かなり。驚いた、僕にもこんな感情あるなんて」
「えー、奏兄さん、オレのこと好きなの~お? ちょっと勘弁してほしいっていうかあ~」
わざと巫山戯て小娘風に断ろうとすれば、奏さんの何かが傷ついた瞳と出くわす。
奏さんはオレから手を離し、茫然とした後にオレを引き連れ、自室へ連れ込む。
自室へ連れ込むと襖を後ろ手で閉め、じ、と怒りの眼でオレを睨み付けた。
「お前は絶対に恋なんか出来ない性質だと思っていたんだがね」
「だから安心して放ったのかな。予想と外れたね、オレもだけど」
「君のそうして茶化す姿勢とか普段は好ましいんだけど、どうしてだろう。今は酷くむかつくなあ。てっきりお互いヤンデレ同士ぶつかりあって、失恋になるかと思ったのに」
「オレも初めてで驚いてるんだよ……だって、あいつ、オレが恋じゃなくても肯定したんだよ。オレが汚い思いをしてても、いいんだって」
「必死に言うな、余計苛つく。お前くらいの奴は、男手玉にとって嗤うくらいが似合う」
オレは奏さんはオレに恋心だのはないのだろうことは感じている。
今も恋心から嫉妬してるとかではなく、単純にお気に入りがお気に入りの形ではなくなったことに苛立つのだろう。
たとえば、イチゴ味ですって言われてパイン味出されたらこの野郎ってなるでしょう?
きっとオレは今までイチゴ味だったのに、旋風との恋を自覚してから……寂しさを自覚してからパイン味になってしまったんだと思う。
奏さんからしたら、全く知らない姿だ。覚えのない姿だ。
可愛がっていたなら余計苛立つかもね。
「お前には本気の恋なんて似合わないよ」
「オレもそう思う……だけど。もし、もしも。奇跡があと少しで手に入るなら。手を伸ばしたくなるじゃないか」
この奇跡がどうしてもたらされたのかとか考える暇も無く、精一杯手を伸ばして奇跡に縋りたくなるじゃあないか。
だから手を伸ばした、情けない姿だと気づいた。
その情けない姿を、愛してくれるという男が現れた。
「身に余る幸せがようやく手に入りそうなんだ」
「お前が普通に生きていけるわけないだろ、お前を手放すかどうかは僕が決める」
「借金は全て、旋風が払ったんでしょう?」
「受け取るかどうかはまた別の話だ」
流石インテリ。頭が働く。
受け取った覚えないですよって顔すれば済むって思っているな。
それほどまでにオレだけが幸せになるのが悔しいのだろうか。
奏さんはオレの腰を抱き寄せ、間近にぎらぎらと光る瞳を顔に寄せた。
「そう簡単に幸せになれると思うなよ」
「オレが幸せになることが怖いの? 寂しいの?」
「こんな世界だもの、幸せな奴なんて背中から刺したくなるでしょ?」
微苦笑する奏さんの言葉は本気そのもので、奏さんから恋を仕掛けるようお願いしておいてなんていう仕打ちなんだと呆れた。
奏さんは、何処か拗ねた子供の風貌でオレを抱きしめ首根に顔を埋めた。
「雛ちゃん、よくやってくれた。そしてよく生き延びたネ。聞いたよ、旋風の兄貴に。お前たちが結ばれたって」
ああ、あの黒い男は旋風のお兄さんだったんだ。
だとしたら情けないところをだいぶ見せてしまったな、と思った。
オレはいつもならまあね!!とかどや顔するのに、乙女のように恥じらい照れて、頬に手をあてて俯いてしまった。
奏さんは驚いた面持ちでオレをまじまじと見つめてから、顎をくいと引き寄せて、オレの瞳を真面目に覗き込む。
「本当の本当に。恋心をくれてやったのか」
「何を……今更。……う、るせ……離せ、よ。恋じゃねえし!!!!」
照れながら視線をそらそうとすれば、余計に顎を引き寄せられ、奏さんのつまらなさそうな視線がぶつかる。
なんだっていうんだ。お望み通りのことを沢山叶えたっていうのに、どうしてこの大人は苛立っているんだ?
「むかついてるの?」
「かなり。驚いた、僕にもこんな感情あるなんて」
「えー、奏兄さん、オレのこと好きなの~お? ちょっと勘弁してほしいっていうかあ~」
わざと巫山戯て小娘風に断ろうとすれば、奏さんの何かが傷ついた瞳と出くわす。
奏さんはオレから手を離し、茫然とした後にオレを引き連れ、自室へ連れ込む。
自室へ連れ込むと襖を後ろ手で閉め、じ、と怒りの眼でオレを睨み付けた。
「お前は絶対に恋なんか出来ない性質だと思っていたんだがね」
「だから安心して放ったのかな。予想と外れたね、オレもだけど」
「君のそうして茶化す姿勢とか普段は好ましいんだけど、どうしてだろう。今は酷くむかつくなあ。てっきりお互いヤンデレ同士ぶつかりあって、失恋になるかと思ったのに」
「オレも初めてで驚いてるんだよ……だって、あいつ、オレが恋じゃなくても肯定したんだよ。オレが汚い思いをしてても、いいんだって」
「必死に言うな、余計苛つく。お前くらいの奴は、男手玉にとって嗤うくらいが似合う」
オレは奏さんはオレに恋心だのはないのだろうことは感じている。
今も恋心から嫉妬してるとかではなく、単純にお気に入りがお気に入りの形ではなくなったことに苛立つのだろう。
たとえば、イチゴ味ですって言われてパイン味出されたらこの野郎ってなるでしょう?
きっとオレは今までイチゴ味だったのに、旋風との恋を自覚してから……寂しさを自覚してからパイン味になってしまったんだと思う。
奏さんからしたら、全く知らない姿だ。覚えのない姿だ。
可愛がっていたなら余計苛立つかもね。
「お前には本気の恋なんて似合わないよ」
「オレもそう思う……だけど。もし、もしも。奇跡があと少しで手に入るなら。手を伸ばしたくなるじゃないか」
この奇跡がどうしてもたらされたのかとか考える暇も無く、精一杯手を伸ばして奇跡に縋りたくなるじゃあないか。
だから手を伸ばした、情けない姿だと気づいた。
その情けない姿を、愛してくれるという男が現れた。
「身に余る幸せがようやく手に入りそうなんだ」
「お前が普通に生きていけるわけないだろ、お前を手放すかどうかは僕が決める」
「借金は全て、旋風が払ったんでしょう?」
「受け取るかどうかはまた別の話だ」
流石インテリ。頭が働く。
受け取った覚えないですよって顔すれば済むって思っているな。
それほどまでにオレだけが幸せになるのが悔しいのだろうか。
奏さんはオレの腰を抱き寄せ、間近にぎらぎらと光る瞳を顔に寄せた。
「そう簡単に幸せになれると思うなよ」
「オレが幸せになることが怖いの? 寂しいの?」
「こんな世界だもの、幸せな奴なんて背中から刺したくなるでしょ?」
微苦笑する奏さんの言葉は本気そのもので、奏さんから恋を仕掛けるようお願いしておいてなんていう仕打ちなんだと呆れた。
奏さんは、何処か拗ねた子供の風貌でオレを抱きしめ首根に顔を埋めた。
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