【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
40 / 358
第一部――第七章 人間なんて信じたいのに

第三十九話 醜い救いの言葉を

しおりを挟む
 屋敷の持ち主は御祓。元から赤蜘蛛から己をボディーガードとして扱い、身分を匿うよう言われていて素性も知っていたが、目的は知らなかった。御祓は目的を知り、王族の隠し子を見つけて尚かつ今危ないと聞くと、屋敷を提供したが、その屋敷の本来の持ち主は椿だった。
 椿はこの上なく不服だった。
 殺しを依頼したはずなのにその依頼された者は庇護していて、大好きな赤蜘蛛おじさんは陽炎を治そうと必死で、自分の所有物の屋敷も陽炎の星座達で五月蠅いし、唯一陽炎に誇れるであろう家柄も、彼の母国の方が有名な上に王族の隠し子ときた。
 椿は不服を通り越して、少し陽炎が憎くあった。
 皆に囲まれ、皆に愛され、その上家柄もちゃんとある。
 以前もう耐えられないと思い、父親にこれ以上自分の家に居させるのは嫌だと訴えても父親はうんとも言わず、馬鹿者と叱った。


「あの赤蜘蛛様が頼ってくださってるのだぞ。後でどれ程の報償が得られようか。家名もあがる。恩を売るチャンスなんだぞ」
「それほどまでに言うならば、父様の屋敷で彼を預かってください」
「お前の屋敷の方が、フルーティや赤鬼金棒が出入りしやすいだろう。彼らは治療に必要な人間なんだと、赤蜘蛛様が仰っていた。何も一生居る訳じゃあるまいし、大人しくしてなさい」

 家柄が自分より上だとこういう事が起きる。
 だから、陽炎の家柄なんてなかったらよかったのに、と椿はため息をついた。
 どんなに自分の不平も通されず、誰も自分に見向きもしない。
 赤蜘蛛は、時折構ってくれるが、治療に専念したり、母国に連絡を取ったりと忙しそうで邪魔するのも悪い気がして、接触するのを遠慮しつつあるうちに、どんどんと不満は溜まる。

「何で僕が、あんなのを僕の領地に入れなきゃならなくて?」

 椿が顔を顰めながらも、自分の部屋で不服をぼそりと呟いたときだった。

「ガキ、そんなにあの男が要らないなら、オレにくれよ」
「誰だ?!」
「……お前の救世主、もといあの男をここから連れ出してやる盗人だ」

 そう言って現れたのは赤と青の髪の毛がごちゃまぜになった、メイド達が少し騒ぎそうな男。
 人と人でない者の雰囲気は、これでも武芸をたしなんでいるので判るつもりだ。
 何より非常に危険な香りのする男で、これも一種の色香というべきかと戸惑うほどそれは目に見て取れる。
 椿は即座に、陽炎を庇護する者たちが遠ざけようとしている星座だと判った。
 人を呼ぼうとした刹那、自分の頬に彼の指がすっと触り、その指が徐々に刃物に代わり、自分の肌を傷つけるか傷つけないかぎりぎりのラインで触れていた。

「救われたいか、死にたいか?」

 男は静寂な場に似つかわしい声で、選択肢を二つ与えた。

 その言葉は、甘美だった。
 それに頷けば憎い陽炎を追い出せる理由が出来る。脅されて仕方がなかったのだと言い訳も出来る。父親にも怖くて立ち向かえなかったと言い訳が出来る。だから赤蜘蛛も仕方がないと思ってくれるだろう。
 椿は、少しだけ震えながら微笑んで、それは勿論、と言葉を続ける。

「救われる理由を作ってくれるなら」
「お前はオレに脅された。それでいいだろ。ほら、証拠にこうしてやるよ」

 そう言うなり星座は自分の頬に三本の傷をつけた。見かけからは痛々しいが案外そんなに痛く感じないのは、きっと陽炎を追い出せる高揚感の所為だろう。
 男は低く笑い、自分の机に腰掛ける。

「今、あいつはどうなっている?」
「禁断症状が出ても、魚座が似た成分の水を少し与えて、その水を減らしていって、依存性を減らそうとしています。時折、百の痛み虫が暴れますが、それは赤鬼金棒が押さえつけて、フルーティが彼の自我に呼びかけて、止めて、それでも止まらなかったら、獅子座が負担をかけないように秘孔をついて、気絶させます」
「……ふぅん、まだ暴れると言うことは、今あの水を大量にあげれば、また此方へ戻ると言うことか……否、以前より強くこっちを願うだろうな」

 星座はくつくつと楽しそうに笑い、それは闇の中では一際美しく見えた。
 この星座も陽炎の虜だと知っても憎くはなかった。この男は、自分の屋敷から陽炎を連れ去って、災難を減らしてくれるだろうから。そう、まさに彼の言うとおり救世主なのだと判ったから。

「初めて、あいつに入れ込んでる奴に感謝します」
「……――っふ、此方も感謝しよう。あいつの周りに、まだあいつを嫌う人種が居たとはな。否、これが本来の姿か」

 闇の似合う綺麗な男は綺麗に嘲り、綺麗な刃物の指を綺麗な長く白い指に戻す。


「さて、では詳しくこの家の構造や、今のあいつの生活リズム、人の来る時間帯、誰が居るか、を聞こうか?」

 男の浮かべた笑みは、三日月よりも美しく妖艶であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

聖獣は黒髪の青年に愛を誓う

午後野つばな
BL
稀覯本店で働くセスは、孤独な日々を送っていた。 ある日、鳥に襲われていた仔犬を助け、アシュリーと名づける。 だが、アシュリーただの犬ではなく、稀少とされる獣人の子どもだった。 全身で自分への愛情を表現するアシュリーとの日々は、灰色だったセスの日々を変える。 やがてトーマスと名乗る旅人の出現をきっかけに、アシュリーは美しい青年の姿へと変化するが……。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
※2025/11 プロローグを追加しました ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元軍人の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

処理中です...