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第一部――第九章 星座とラストダンス
番外編――太陽が一人きりでいることを決めた時3
しおりを挟む「あー。何、いい年して絵本? しかも、ガンジラニーニの? 馬鹿げた話、読んでるね」
「……――そう? 馬鹿げているかな。怖いけれど、純愛だと思うよ」
「……――純愛で人が死んでたら洒落にならないよ。かげ君も注意すればいい。青白い人を見たら、逃げればいいよ。おいらはね、速攻で逃げなきゃって昔から教わったよー。結構子供の間で古くから伝わる話だからね」
「まぁ、――夜に外をうろつくなっていう教訓にもなりそうだからなぁ。外をうろついたら、死に神に会っちゃうよっていう……」
「……そうだね。……――かげ君、有難う、或る程度落ち着いてきた。あんたの言葉って最強だわ。……――それで。それで、何を聞きに来たのかな? おいらか、わっしーに聞きに来たんでしょ、何かその本について」
柘榴は仮面で作ったわけではない笑みを顔に貼り付けて、ため息をついて、降参と呟いた。
ついでにそれは鷲座へ何か聞きたいなら答えると言ってる言葉でもあり。
(――……聞きたいこと。……それは。この本で、屍が持っている長針がお前の持ってるのとそっくりなのと、この間、日焼けし忘れたと笑って見せた箇所が……日焼けしやすい一番の場所だから不思議に思った……だったンだけど……)
陽炎は、少しの間、黙りこくってから、少しずり落ちた眼鏡を持ち上げて、絵本を鷲座に渡した。
「その長針――」
「うん、この長針はね……」
「……マッサージとかに使いやすそうだなぁって思って」
「は」
柘榴は何かしら覚悟していたものがあって、それで聞いたのに、また己のために陽炎が誤魔化したのだと気づくまで数秒かかった。
だが気づけば、呆れるだけで。
大きなため息を盛大について、鷲座と陽炎と獅子座と水瓶座を見やる。
「今、何もない、誰も来てないうちに言っておく。追い出した方が良いよ。もう、これ以上深く関わらない方がいいよ」
柘榴のその言葉は、すぐにも消え去りそうなほどか弱い声で。だけど静かに凛とした声で。
一同は顔を見合わせてから、各自、それぞれ反応を返す。
「何を今更」
「陛下! 主には絶対関わって生きていく、これがおらの生き方だ!」
「柘榴、小生は確たる言葉が欲しいだけ。今のが求める答えであってますね?」
「あの、何がどうなってるかさっぱりなんですけれど……」
誰一人、混乱している水瓶座でさえ、肯定する言葉を吐かない彼らに、柘榴はため息をついて、それに甘えるべきか、それともその甘さを利用すべきか悩み、苦笑する。
「かげ君、いつかおいらは言ったよね、外へ行こう、外は綺麗だって」
「うん」
「――……あんたは、綺麗だと思うかい? 今、この外は。太陽に酷く憧れてるガンジラニーニは、あの強い光を体中に浴びたかった。だから、世界が彼らに何をしたか知らずに一人、外へ飛び出た馬鹿が居たんだよ」
柘榴はけらけらと笑って、これでいいか、と鷲座に確たる言葉と見られる発言をした。
陽炎は言葉を飲み込んだ。
(それなら、どうしてお前の肌は褐色で健康的なんだ――? 世界に裏切られたって――?)
今は、今はそこまで踏み込んではいけない気がして。とりあえず、水瓶座に他言してはいけないよという意味で、視線をやると彼は頷いた。
柘榴はそれからあっけらかんと、外で狩りしてくると告げて、針とワイヤーを手に出て行った。
陽炎と通り過ぎるときに、「世界が暗闇なのはそいつらだけでいい」と柘榴が呟いたので、陽炎は振り向いたが、もう柘榴はさっさと駆けて行っていた。
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