【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
118 / 358
第三部 第一章――再会

第十話 白銀の基礎に則った妖術師

しおりを挟む
「遅かったね、大丈夫? 心配したんだよ、何処かの霊と会ったんじゃないか……って」

 王族専用の見物席に着くと、どんな王族だと好奇心だらけの町人で人垣が出来たがそれを兵士達が抑えて、早く席に座るように促される。
 席へと行くと、少し髪の先が一ミリ程度紫の黒雪がスリーパーを背後に置いて、優雅に文字通り高みの見物をしていた。
 席は、審判と王族が妖術師達をよく見るため、普通の民より上から見える台があって、それはまるで己と白銀陽が触れられない距離のようで、陽炎は苦笑する。
 そうしたところで、黒雪が声をかけてきたのだ。先ほどの言葉を。

 ――陽炎は、霊と言った黒雪に白銀陽と会っているのだとばれた怖さと同時に、霊と貶された嫌悪が皮膚を駆けめぐり、黒雪に視線も返事もする余裕はなかった。
 なので、代わりに陽炎の後ろにつき、席に座るのを見守っている鴉座が答える。

「遅くなったのは申し訳御座いません。ですが、それは其方の……嗚呼、こんなことを言うのは心苦しいのですけれど……其方の部下が、とても不快でしたので、つい馬車から飛び降りるなんて野蛮なことをしてしまったからです」
「言い訳? 見苦しいわね。あんなことをするんだったら、今度から第二皇子を巻き込むな」
「スリーパー。彼の言い分は尤もだよ。謝りなさい」


 黒雪はくすくすと笑いながらも威圧的な空気を取り外すことは決してせず、寧ろ口を挟んできたスリーパーと鴉座に追い打ちをかけるように威圧する。
 陽炎は、気にしなくて良い、と口にして鴉座に鴉の姿になるように命じる。
 命じられた鴉座は首を傾げて反論しようとしたが、じとーと此方を睨むような陽炎が何を考えてるのか判らず、試しになってみる。

 すると、陽炎は鴉座を肩の上に乗るように、左肩をぽんぽんと叩き、あとは妖術師達へと視線を。
 陽炎なりに、黒雪と口をきかずに安心でき、尚かつ己も妖術師達を見られる方法を考えて気遣ってくれたのだ。
 鴉座は嬉しそうに羽ばたき、左肩に乗って、陽炎にすり寄ろうとしたが、「くっついてきたら、焼き鳥にする」という言葉により、それは拒否された。
 鴉座が特別嫌いなのではない。否、トラウマは確かにあるが、今はそこまでではない。だが、鴉座と接している己を見やる時の黒雪の眼差しが気にくわないのだ。
 仲良くすると微笑ましい様子になる相手が憎らしい。
 それでも今こうして仲良く見えるような光景を作ったのは、威圧感がスリーパーへ向けての方が強かったが、それでも怯える鴉座を見たくないから。怯えさせたくないからだ。

「で、もう投票は終わってるの?」
「終わって、最後のお披露目の妖術だよ。何かを具現化する妖術を見せるんだよ、投票してくれた人たちへの御礼に」

 黒雪はやはり、綺麗に流れ綺麗に去っていく声でそう言うと、陽炎へ飲み物を与える。
 陽炎はそれに少し躊躇った。その飲み物が年を取らない為のものだと判ってるからだ。だがどうせ気づかぬ間に飲まされるし、喉が少し渇いてるのは事実で、その飲み物を飲んでから、口を拭う。その目には、何処か諦めがあったが、最初の一人の妖術師のパフォーマンスで目は明るく輝く。

 皆に囲まれながら或る程度の距離を測られ、妖術をするのは、灰色、否、陽の光を受けて銀色に光り、その髪色が真っ白に染まりつつある、背丈が低い青年。
 髪の毛がきらきらと何かが舞った足跡のように、まばゆく残像として目に残り、青年が何かを唱えながらも何かの絵のような文字を空中に描く。
 その文字は緩く髪の毛のように残像を残すが、一つの文字になる前に消えてしまう。そういうのが三回続いた後に、その描く手をぴたりと止めると、妖術師の目の前に雲が現れ、雨を少し降らせて、その後で虹を作り出した。
 人々は虹に目がいき、陽炎は雲に目がいき思わず微笑む。

 以前、鴉座が封印されていた時、だっただろうか。
 海と太陽にかかる闇を絵にしていた時、後ろから見ていた鷲座がぽつりと言葉を漏らした。

「蟹座と、柘榴と、――鴉座のようですね」
「ん? そう見える? んー……どれが誰だと思った?」
「海が蟹座、太陽が柘榴、迫る夜が鴉座……」
「何でか、聞いて良いか?」
「単純な話ですよ。海は寒さで人を殺すし、あいつはカニだ。太陽は、もうあの眼差しの強さと彼の明るさから考えられるでしょう? 夜は、……君にとっては夜空の最初の表し、だから」
「そうかなぁ。なぁ、じゃあ此処に他の皆を書いてみようか。大犬座は草原、冠座は月、水瓶座は砂浜、――お前は何が良い?」
「……天に近い者がいい。そうすれば、太陽から夜から海から、空気として存在してるであろう君を守れる」
「……――じゃあ雲かな。お前、白が主な服を着てるもんな」

 そう笑い、キャンバスに絵の具を乗せたことがある。

 それを、表したのだろう。今の彼は、今思えば裏通りで会った白銀陽と同じ髪の長さだ。髪型は違えど。

 どうだ、あの力、と言わんばかりに陽炎が黒雪を見やると、黒雪は険しい顔をしていた。
 傍目からではただ妖術に見惚れているようにも見えようが、黒雪の在り方を少し知っている己には判る。あれは、何か異様な物を見つけたときの顔だ。
 まさか、鷲座だということがばれただろうか。

「――どうしたんだよ」
「……――変な数式を、した」
「……しちゃいけない数式でもあるのか? 妖術は」
「いいや。今までで一番回りくどい、そのくせ厄介で途中計算が間違えれば大変なことになっていた式だ。それなのに――……何でそれを、選んだ? 虹を作れるなら、簡略化することも出来ただろうに……」


 黒雪が鷲座に声をかける。鷲座はゆっくりと振り向き、愛想笑み一つ浮かべず、視線を向けるだけ。判りにくい糸目を。
 それに構わず、黒雪は声をかけ続ける。

「その数式を何処で習った? 名前は? 何処の門を応用した?」
「何処ででも習えます。式の組み方は、何処かの教科書に載ってると思います。だって初級での基礎をそのまま使ったので。名前は、白律季(はくりつき)。門は、まだ無名の妖術師が扱う所で。弟子も小生一人――」
「なんという妖術師だ?」
「それはいくら皇太子といえども教えられない方でして。耳にするだけでもきっと気分を害されると思います」
「……構わないよ。言ってご覧」
「――その方は果物を連想させる名が本名でして」


 そこで初めて、鷲座は愛想の笑みを浮かべたが、陽炎が目を背きたくなるほど、憎悪が秘められていた。きっと、陽炎と黒雪にしか判らない程度の憎悪。

 それでも鷲座が憎悪を抱く事なんて珍しくそして、厳格な彼がそこまで憎い黒雪に対する感情を考えるのが怖くて、陽炎は目をそらした。
 黒雪は果物と言われ、口の端を歪ませる。笑みにも見られるが、内心はきっと怒っているのだろう。その証拠に、後ろから少し震える鎧の音が微かに聞こえた。
 スリーパーは、黒雪の側にいるからか、威圧感が物凄い。
 陽炎はそれが鴉座に向かわないうちに、と思い、鴉座を手の甲に移動させて、飛び立たせようとしたが、その前に鷲座が声を、ああ、とあげたので手を止める。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?

甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。 だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。 魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。 みたいな話し。 孤独な魔王×孤独な人間 サブCPに人間の王×吸血鬼の従者 11/18.完結しました。 今後、番外編等考えてみようと思います。 こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...