カラフルドロップス

浅川瀬流

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天から支える神様たち

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 ここはあらゆる神様がつどう場所。神様たちはそれぞれの部門に分かれ、毎日せっせと仕事をしている。
 そんな中、晴れの神ティアーは今日も泣いていた。

「うぅ……うわーん! なんでクラウはお仕事してくれないのぉ……!」
 ティアーは雨の神クラウに懸命に呼びかけるも、とうのクラウはスヤスヤと夢の中。

「ま、まあまあ、元気だしていこ! ね?」
 そう言って、ティアーの背をさするのは、曇りの神フェア。

「泣いてる場合じゃないよ、ティアー。私たちがたくさん働けば良いんだしさ!」
 持前の明るさでいつもティアーをはげましている。


 ティアー、クラウ、フェアは天気部門に所属している神様。三神さんしんとも最近代替わりをし、まだ神様としては初心者である。


 ふと、どこからか声が聞こえた。キョロキョロと声の方角を探していると、神様たちの間をすり抜け、こちらに向かってくる姿が見えた。
「おーい! お天気三神集合しろー!」
 けつけてきたのはお天気部門長の神、クリアだった。いまだ寝ている神様に気づくと、クリアはクラウに近づき「起きろ!」と大声で叫んだ。

 そして、ひと柱ごと順に顔を見ていき「はぁー」と盛大なため息をつく。
「たった今、フレア様からご指摘があったんだ。雨が全然降らないことで人間たちが困っていると。ダムに水がたまらない、食べ物や植物が育たない、ってな」

 クリアが言っているフレア様とは、神様たちのリーダーのことだ。人間たちの生活を見守り、神様たち全体の指揮をとる。
 雨の神が仕事をしないことが原因だと、この場にいる全員が思った。当事者であるクラウは、気まずそうに目をそらす。

「そういうことだから、今から担当換えを行う」

 クリアに連れられ、みんなでフレア様の元へと向かった。

 *

「――フレア様、三神連れてきました」
 クリアがかしこまった態度でフレア様と向かい合う。なかなか会う機会のないリーダーを前に、クリアの後ろに控える三神たちは緊張で固まってしまった。

「ふむ、それでは今から担当換えの儀式をとり行う」
 こちらの緊張など知るよしもないフレア様が手を叩くと、ふわりと三枚の紙が現れ宙に浮かぶ。

 そしてフレア様は儀式用の衣装を身にまとい、優雅に舞った。シャランシャランと手に持つ鈴の音が響き渡る。文字通りの神々しい姿に、クリア、そして三神たちは目を奪われた。

 舞が終了し、元の位置へと戻って腰をおろす。見事な舞に魅了されたクリアたちは、フレア様のコホンッという咳払いで我に返った。
 クリアたちを一瞥いちべつすると、フレア様はゆっくりと口を開く。

「晴れをもたらすのは誰?」

「はい、能天気ですが前向きで元気ハツラツな神フェアであります」

 クリアがそう答えると、フレア様は先ほどの紙になにやら文字を書き出した。書き終えるとその紙はフェアの元へと飛んでいく。フェアはあわあわとしながらそれを受け取った。
 フェアが受け取ったのを確認すると、フレア様はさらに続ける。

「雲を作るのは誰?」

「はい、少々空気は読めませんが常に冷静でポジティブな神クラウであります」

 フェアのときと同様、紙がクラウの元へと飛んでいく。クラウはそれを華麗かれいにキャッチした。

「雨を降らすのは誰?」

「はい、泣き虫ですが誰よりも心優しい神ティアーであります」

 そうして最後にティアーの元へ紙が飛んできた。
 フレア様は「よろしい」と言って手をふたたび叩いた。すると、三神が手にしている紙はキラキラと光を発し、その光がそれぞれ神様たちの体に吸い込まれていった。

 初めての出来事に三神たちは驚いたものの「これで儀式は終わりです。各自しっかり働くように」というフレア様の呼びかけがあると「「「はい!」」」と大きな声で返事をした。

 それから三神たちは担当日をきちんと決め、仕事にはげむようになった。ただ、相変わらずクラウはのんびりしているので、仕事は少なめにしてあるそうだ。


 ――ここはあらゆる神様が集う場所。人間たちの見えないところで、神様たちは今日も働く。


 ***


 宮城県某所の三階建てアパートにて、スーツ姿の女性が一冊の本に栞をはさむ。その本のタイトルは『天から支える神様たち』彼女が大好きな作家の新作短編集である。

「神様にも異動があるのね」
 ふふっ、と彼女は穏やかな笑みをこぼし、腕時計に目を向ける。時刻は午前八時。宮城へ転勤して初めての出社となる今日。彼女は鏡でもう一度身なりを確認し、玄関を出た。
 燦々さんさんと照りつける太陽の日差しに目を細め、手で影を作りつつ下を向く。

 心優しい雨の神様はいつ出勤するのだろう。
 そんなことを考えながら、彼女はふたたび、どこまでも広がる青い空を見上げた。
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