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4冒険者ギルド
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久々の冒険者ギルド。
年季の入った建物は人でごった返している。
ロキがそこへ足を踏み入れると一斉に視線が集まり、どこかピリついた空気が漂う。
この街の冒険者ギルドは一つだけなので、集う冒険者の顔ぶれはあらかた固定されている。
他所から奴隷として連れて来られたロキは、この冒険者ギルドでは数ヶ月経っていても新参者に分類されるらしく、どうしても注目を集めてしまうようだ。
敵意は感じないが様子見と言ったところか。
やはり寡黙なタイプのロキはまだこの街の冒険者ギルドに受け入れられていないらしい。
しかも本人も馴染む気はないのか、集中する視線を物ともせず無表情で受付カウンターに真っ直ぐ進む。
その背中から俺が顔を出すと、ざわりと空気が動いた。
「勇者様っ久々じゃねぇですか!」
無精髭を生やした厳つい男が声をかけてくる。
先程まで輪の中心でロキを警戒するように観察していたのが嘘のように親しげだ。
「や、やぁ。ひ、久しぶり」
決して都会とは言えないこの街は他所者への警戒心が強く、そして何らかの肩書きを持つ者に弱い。
貴族だったり騎士だったり医者だったり。
その中でも勇者の肩書きを持つ俺は、それはもう大人気である。
特に冒険者ギルドでは生き神かという勢いで慕ってくれている。
ありがたい事この上ないとは思いつつ、コミュ障な俺はその空気がどうしても苦手で余程ここの人達で手に負えないような魔物でも出現しない限り最近は近づかないようにしていた。
「何かクエストでも受けるんですかい?」
「それなら俺とパーティを組んでくれよ」
「ズルいぞテメェ!」
勇者と一緒に依頼を受けたい男たちが一斉に詰め寄る。
どこか調子の良い部分が垣間見える彼らだ。
俺がゲイだと言うことを知ればこの羨望の眼差しは一瞬で嫌悪に変わるのだろう事が容易に予想できて、惚れっぽい俺でもこの冒険者ギルドのメンバーを好きになる勇気はない。
「ご、ごめ、ごめん…きょ、今日はロキのつ、つき、付き添いで来ただけだから」
「ロキ? ああ、この新顔ですかい。なんだよお前さん。勇者様んとこの元奴隷か」
目の前の冒険者がまじまじと見つめながらロキに問いかける。
「ああ」
「そ、そ、そうなんだ。冒険者としての経験はあるけど、ま、まだ街に慣れてないだろうから、い、色々と助けてやってくれると嬉しい」
不機嫌そうなロキの相槌に被せるように答える。
この街で俺は見込みある奴隷を引き取り、奴隷から解放するという慈善事業をしていると認識されている。
俺が惚れて買った元奴隷達は奴隷解放後の再就職先で漏れなく優秀な活躍をするので、街の人間からは好意的に見られているのだ。
元奴隷達も俺がゲイでそういう目的の為に奴隷を購入する下衆野郎だと言いふらすことはなかった。
恐らく自分がそんな対象に見られてしまったことを他人には言えないからだろう。
被害者が泣き寝入りになってしまったようで、街の人間の好意的な態度にいつも罪悪感で自己嫌悪に陥る。
しかしこうしてロキを受け入れて貰えるよう口添え出来るのだから落ち込んでばかりいられない。
「任せてくだせぇ。おい新顔。勇者様んとこの人間ならそう言やぁ良かったのに」
「ロキっつったか。今度共同で依頼受けようぜ」
「そうだ。俺達毎週末隣の酒場で呑んでるからお前も来いよ」
「…いや、俺はいい」
にこやかに喋りかけてくれる男達にロキはそっぽを向いてしまう。
「ご、ごめん。ロ、ロ、ロキは、まだ、な、慣れていないから…」
慌ててフォローするが、仲間に裏切られて奴隷になった経緯など勝手に話していいものではないのでいま一つ具体性のない言い訳になってしまった。
それでも冒険者の経験がある元奴隷ということで察してくれたらしい周囲は各々俺の拙い言葉に頷いてくれた。
みんな悪い人ではない。
その後受付で報酬を受け取ったロキと並んで道具屋に向かう。
受付の窓口でチラリと覗いたロキの冒険者ギルドランクはBだった。
一度奴隷に落とされランクリセットされているので数か月前まではFランクだったはずなのに驚くべきスピードだ。
元々実力のある冒険者だったのだろう。
前を向いたまま黙々と歩くロキをこっそりと覗き、意を決ししゃべりかける。
「ロ、ロキ。さ、さっきはごめん」
「何がですか?」
「ギ、ギルドで勝手に、た、た、助けて欲しいとか言って」
「ああ、いや。警戒されてるの分かっていたんですけど、俺って元々不愛想なんでどうすれば良いのか分かんねぇっていうか…仕方ねぇかって諦めてたんです。だから正直さっきのは助かりました。まだ誰かと行動するとかいう気は起きねぇけど、毎回ああやって警戒されるのもやりにくかったから」
こんなんだから仲間に裏切られたんだろうな…と本当に小さく呟くロキに胸が締め付けられる。
なんだろうこれ。母性?父性?
筋肉に覆われた屈強な戦士然としたロキの寂しそうな横顔に目が離せないが、この気持ちも捨てるべきものなのだろう。
年季の入った建物は人でごった返している。
ロキがそこへ足を踏み入れると一斉に視線が集まり、どこかピリついた空気が漂う。
この街の冒険者ギルドは一つだけなので、集う冒険者の顔ぶれはあらかた固定されている。
他所から奴隷として連れて来られたロキは、この冒険者ギルドでは数ヶ月経っていても新参者に分類されるらしく、どうしても注目を集めてしまうようだ。
敵意は感じないが様子見と言ったところか。
やはり寡黙なタイプのロキはまだこの街の冒険者ギルドに受け入れられていないらしい。
しかも本人も馴染む気はないのか、集中する視線を物ともせず無表情で受付カウンターに真っ直ぐ進む。
その背中から俺が顔を出すと、ざわりと空気が動いた。
「勇者様っ久々じゃねぇですか!」
無精髭を生やした厳つい男が声をかけてくる。
先程まで輪の中心でロキを警戒するように観察していたのが嘘のように親しげだ。
「や、やぁ。ひ、久しぶり」
決して都会とは言えないこの街は他所者への警戒心が強く、そして何らかの肩書きを持つ者に弱い。
貴族だったり騎士だったり医者だったり。
その中でも勇者の肩書きを持つ俺は、それはもう大人気である。
特に冒険者ギルドでは生き神かという勢いで慕ってくれている。
ありがたい事この上ないとは思いつつ、コミュ障な俺はその空気がどうしても苦手で余程ここの人達で手に負えないような魔物でも出現しない限り最近は近づかないようにしていた。
「何かクエストでも受けるんですかい?」
「それなら俺とパーティを組んでくれよ」
「ズルいぞテメェ!」
勇者と一緒に依頼を受けたい男たちが一斉に詰め寄る。
どこか調子の良い部分が垣間見える彼らだ。
俺がゲイだと言うことを知ればこの羨望の眼差しは一瞬で嫌悪に変わるのだろう事が容易に予想できて、惚れっぽい俺でもこの冒険者ギルドのメンバーを好きになる勇気はない。
「ご、ごめ、ごめん…きょ、今日はロキのつ、つき、付き添いで来ただけだから」
「ロキ? ああ、この新顔ですかい。なんだよお前さん。勇者様んとこの元奴隷か」
目の前の冒険者がまじまじと見つめながらロキに問いかける。
「ああ」
「そ、そ、そうなんだ。冒険者としての経験はあるけど、ま、まだ街に慣れてないだろうから、い、色々と助けてやってくれると嬉しい」
不機嫌そうなロキの相槌に被せるように答える。
この街で俺は見込みある奴隷を引き取り、奴隷から解放するという慈善事業をしていると認識されている。
俺が惚れて買った元奴隷達は奴隷解放後の再就職先で漏れなく優秀な活躍をするので、街の人間からは好意的に見られているのだ。
元奴隷達も俺がゲイでそういう目的の為に奴隷を購入する下衆野郎だと言いふらすことはなかった。
恐らく自分がそんな対象に見られてしまったことを他人には言えないからだろう。
被害者が泣き寝入りになってしまったようで、街の人間の好意的な態度にいつも罪悪感で自己嫌悪に陥る。
しかしこうしてロキを受け入れて貰えるよう口添え出来るのだから落ち込んでばかりいられない。
「任せてくだせぇ。おい新顔。勇者様んとこの人間ならそう言やぁ良かったのに」
「ロキっつったか。今度共同で依頼受けようぜ」
「そうだ。俺達毎週末隣の酒場で呑んでるからお前も来いよ」
「…いや、俺はいい」
にこやかに喋りかけてくれる男達にロキはそっぽを向いてしまう。
「ご、ごめん。ロ、ロ、ロキは、まだ、な、慣れていないから…」
慌ててフォローするが、仲間に裏切られて奴隷になった経緯など勝手に話していいものではないのでいま一つ具体性のない言い訳になってしまった。
それでも冒険者の経験がある元奴隷ということで察してくれたらしい周囲は各々俺の拙い言葉に頷いてくれた。
みんな悪い人ではない。
その後受付で報酬を受け取ったロキと並んで道具屋に向かう。
受付の窓口でチラリと覗いたロキの冒険者ギルドランクはBだった。
一度奴隷に落とされランクリセットされているので数か月前まではFランクだったはずなのに驚くべきスピードだ。
元々実力のある冒険者だったのだろう。
前を向いたまま黙々と歩くロキをこっそりと覗き、意を決ししゃべりかける。
「ロ、ロキ。さ、さっきはごめん」
「何がですか?」
「ギ、ギルドで勝手に、た、た、助けて欲しいとか言って」
「ああ、いや。警戒されてるの分かっていたんですけど、俺って元々不愛想なんでどうすれば良いのか分かんねぇっていうか…仕方ねぇかって諦めてたんです。だから正直さっきのは助かりました。まだ誰かと行動するとかいう気は起きねぇけど、毎回ああやって警戒されるのもやりにくかったから」
こんなんだから仲間に裏切られたんだろうな…と本当に小さく呟くロキに胸が締め付けられる。
なんだろうこれ。母性?父性?
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