31 / 72
31蒸留工房
しおりを挟む
ロキに止められたが、俺はあれから何度かあの酒場に通った。
最後のセリフ通りデイビッドはいつ行っても店にいて、俺を見つけると嬉しそうに破顔して歓迎してくれる。
話が苦手な俺のペースに合わせて根気強く話し相手になってくれ、彼と過ごす時間は心地よくて夢中になってしまう。
こんなに誰かに優しくされたことは未だかつてない。
ロキ達には衝撃的な一目惚れをしたが、デイビッドにはそのような激しい感情は湧いていない。
しかしデイビッドは会えば会うほど、俺の中の彼の存在が強くなっていく。
自分は熱しやすく―しかし断られると一気に冷める質だと思っていたが、こんな気持ちは初めてだった。
これも恋の一種なのだろうか。
会話していくうちに彼の境遇も徐々に分かって来た。
彼の両親は準男爵の地位を持ち、数多くの事業で成功を収めているらしく、彼自身もその中のいくつかの経営を任せられているとの話だ。
1人暮らしの独身で、家に帰っても寂しいだけなのであの店でいつも時間を潰しているのだと少し恥ずかしそうに語る。
俺の方は勇者だとは告げられていない。
まだ友人というにも浅い関係だと思うので、この芽生えかけている感情が育ってから考えようと思っている。
その一歩として思い切って酒場以外で会って欲しいと提案すると、自分も誘うつもりだったのだと快諾してくれた。
そして今日はそのお出かけ日だったりする。
「やぁお待たせ」
「い、今きたところだから、だ、大丈夫」
ロキと待ち合わせた時も思ったのだが、まるでデートみたいで心が弾む。
ロキの時にはそんなことを思うのは悪いことだと自重したが、軽いノリで甘い言葉を吐いてくるデイビッドならば嫌がらないと思うので心置きなくそんな妄想をする。
「にこにこして今日も可愛いね。何かいいことでもあった?」
「い、いや。た、ただ、デ、デ、デ、デートみたいだと思って…」
ついうっかり口にしてしまった。
調子に乗り過ぎただろうかと浮かれた頭が冷めてくる。
どんな反応をされるか戦々恐々と待ったが、デイビッドはきょとんとしていた。
「デートみたいと言うか、僕はデートのつもりだったんだけど?」
そっと手を握られて心臓が激しい鼓動を打った。
「こ、こ、こ、ここ、ひ、人前だよ!」
幸い俺たちを気にする通行人は居なかったが同性愛に厳しい世界でこれはまずい。
「ごめんごめん。続きは二人きりでゆっくり出来るところでやるよ」
俺の反応を面白がるように笑うデイビッド。
うう、揶揄われたのだろうか。
「ところで今日行くのは蒸留工房でいいんだよね」
「あ、あ、う、うん」
「使用人のプレゼントに酒を贈りたいなんてマサキは優しいね」
「お、俺が、か、勝手に、の、飲んだのが悪いから」
ジョフィルのウイスキーを勝手に飲んでしまって以降、ジョフィルの塩対応が塩分過多で高血圧になりそうだ。
買って返そうと思うが、いつもの通いの商人から買ったのではワンパターンだし、支払いはジョフィルに任せているので魂胆がバレてしまう。
あの酒場の店主にもオススメを聞いてみたが、今まで贈ったことのある銘柄ばかりだった。
そこで酒に詳しそうなデイビッドならば何か珍しいウイスキーを知らないかと相談すると、知り合いの小さなウイスキーの蒸留工房を紹介してもらえた。
ウイスキー好きの元冒険者が金を貯めて一念発起して立ち上げた新しい工房らしく、まだほとんど何処とも取引してない知る人ぞ知る銘柄のようだ。
味もデイビッドのお墨付きで安心して贈ることが出来る。
ついでに見学もさせて貰えるようで、顔の広いデイビッドに感謝しながら張り切って今日を迎えた。
「じゃあ行こうか」
「う、うん」
蒸留工房は聞いていたとおりこぢんまりしており従業員も数人しかいなかった。
もろみをグツグツ熱していた銅製の窯や、ずらりと並んだ巨大な樽は圧巻だった。
デイビッドの知り合いの工房長が少し工程を変えるだけで味が全然違ってくるのだと熱く語ってくれる。
ウイスキーと真剣に向き合っていることが伝わるひたむきさな目に感動してしまった。
終わりには試飲もさせて貰いそれが美味しくて唸ったのだが、経営は順調ではないと聞いて驚いた。
何か出来ることはないかと考え、屋敷を出入りしている商会にここのウイスキーを俺が宣伝することを提案してみた。
気に入れば仕入れて貰えるだろう。
それはありがたいと工房長に感謝されたが、その商会の名前を聞いて固まった。
「マサキ、あの商会の客なのかい!?」
「え、え? う、うん」
どうやらこの国ではトップクラスの商会らしく、取引する相手も限られているらしい。
とても新参者の工房が相手にされるような商会ではないとのことだが、この味ならいけると思うのだが。
今住んでいる屋敷を褒賞の一部として貰った時に、商会の方から営業に来てくれたので全然知らなかった。
いつも同じ人が商品を持ってきてくれるのだが、もしやあの気の良さそうなオジサンもエリートだったりするのだろうか?
最後のセリフ通りデイビッドはいつ行っても店にいて、俺を見つけると嬉しそうに破顔して歓迎してくれる。
話が苦手な俺のペースに合わせて根気強く話し相手になってくれ、彼と過ごす時間は心地よくて夢中になってしまう。
こんなに誰かに優しくされたことは未だかつてない。
ロキ達には衝撃的な一目惚れをしたが、デイビッドにはそのような激しい感情は湧いていない。
しかしデイビッドは会えば会うほど、俺の中の彼の存在が強くなっていく。
自分は熱しやすく―しかし断られると一気に冷める質だと思っていたが、こんな気持ちは初めてだった。
これも恋の一種なのだろうか。
会話していくうちに彼の境遇も徐々に分かって来た。
彼の両親は準男爵の地位を持ち、数多くの事業で成功を収めているらしく、彼自身もその中のいくつかの経営を任せられているとの話だ。
1人暮らしの独身で、家に帰っても寂しいだけなのであの店でいつも時間を潰しているのだと少し恥ずかしそうに語る。
俺の方は勇者だとは告げられていない。
まだ友人というにも浅い関係だと思うので、この芽生えかけている感情が育ってから考えようと思っている。
その一歩として思い切って酒場以外で会って欲しいと提案すると、自分も誘うつもりだったのだと快諾してくれた。
そして今日はそのお出かけ日だったりする。
「やぁお待たせ」
「い、今きたところだから、だ、大丈夫」
ロキと待ち合わせた時も思ったのだが、まるでデートみたいで心が弾む。
ロキの時にはそんなことを思うのは悪いことだと自重したが、軽いノリで甘い言葉を吐いてくるデイビッドならば嫌がらないと思うので心置きなくそんな妄想をする。
「にこにこして今日も可愛いね。何かいいことでもあった?」
「い、いや。た、ただ、デ、デ、デ、デートみたいだと思って…」
ついうっかり口にしてしまった。
調子に乗り過ぎただろうかと浮かれた頭が冷めてくる。
どんな反応をされるか戦々恐々と待ったが、デイビッドはきょとんとしていた。
「デートみたいと言うか、僕はデートのつもりだったんだけど?」
そっと手を握られて心臓が激しい鼓動を打った。
「こ、こ、こ、ここ、ひ、人前だよ!」
幸い俺たちを気にする通行人は居なかったが同性愛に厳しい世界でこれはまずい。
「ごめんごめん。続きは二人きりでゆっくり出来るところでやるよ」
俺の反応を面白がるように笑うデイビッド。
うう、揶揄われたのだろうか。
「ところで今日行くのは蒸留工房でいいんだよね」
「あ、あ、う、うん」
「使用人のプレゼントに酒を贈りたいなんてマサキは優しいね」
「お、俺が、か、勝手に、の、飲んだのが悪いから」
ジョフィルのウイスキーを勝手に飲んでしまって以降、ジョフィルの塩対応が塩分過多で高血圧になりそうだ。
買って返そうと思うが、いつもの通いの商人から買ったのではワンパターンだし、支払いはジョフィルに任せているので魂胆がバレてしまう。
あの酒場の店主にもオススメを聞いてみたが、今まで贈ったことのある銘柄ばかりだった。
そこで酒に詳しそうなデイビッドならば何か珍しいウイスキーを知らないかと相談すると、知り合いの小さなウイスキーの蒸留工房を紹介してもらえた。
ウイスキー好きの元冒険者が金を貯めて一念発起して立ち上げた新しい工房らしく、まだほとんど何処とも取引してない知る人ぞ知る銘柄のようだ。
味もデイビッドのお墨付きで安心して贈ることが出来る。
ついでに見学もさせて貰えるようで、顔の広いデイビッドに感謝しながら張り切って今日を迎えた。
「じゃあ行こうか」
「う、うん」
蒸留工房は聞いていたとおりこぢんまりしており従業員も数人しかいなかった。
もろみをグツグツ熱していた銅製の窯や、ずらりと並んだ巨大な樽は圧巻だった。
デイビッドの知り合いの工房長が少し工程を変えるだけで味が全然違ってくるのだと熱く語ってくれる。
ウイスキーと真剣に向き合っていることが伝わるひたむきさな目に感動してしまった。
終わりには試飲もさせて貰いそれが美味しくて唸ったのだが、経営は順調ではないと聞いて驚いた。
何か出来ることはないかと考え、屋敷を出入りしている商会にここのウイスキーを俺が宣伝することを提案してみた。
気に入れば仕入れて貰えるだろう。
それはありがたいと工房長に感謝されたが、その商会の名前を聞いて固まった。
「マサキ、あの商会の客なのかい!?」
「え、え? う、うん」
どうやらこの国ではトップクラスの商会らしく、取引する相手も限られているらしい。
とても新参者の工房が相手にされるような商会ではないとのことだが、この味ならいけると思うのだが。
今住んでいる屋敷を褒賞の一部として貰った時に、商会の方から営業に来てくれたので全然知らなかった。
いつも同じ人が商品を持ってきてくれるのだが、もしやあの気の良さそうなオジサンもエリートだったりするのだろうか?
898
あなたにおすすめの小説
落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした
444
BL
『醜い顔…汚らしい』
幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。
だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。
その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話
暴力表現があるところには※をつけております
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる