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32曇らせ前
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美味しいウイスキーも手に入れられてホクホクで蒸留工房を後にする。
「これからどうする? 少し早いがよければ僕の家で夕飯でもどうだい?」
魅力的な誘いだが、あいにく今日は都合が悪い。
「ご、ごめん。セ、セイレスに、ゆ、夕方には帰るからって、い、言って出てきたから」
「ああ、君が引き取ったというエルフの少女か」
今日の外出も、何日も前から説得してようやく許して貰えたのだ。
一緒に行くと懸命に主張されたが、デイビッドにも悪いし、出かける場所が絶対子供向けではないので、連れて行っても退屈させるだけだから連れて行ってはやれない。
駄々を捏ねるだけならばダメだと突っぱねやすかったが、目に涙をいっぱいに溜めて泣くまいと頬を赤くして悲しみをこらえる姿に胸が張り裂けそうだった。
出がけにお土産を買ってくると指切りげんまんを終えると、ぎゅっと抱き着いてきて「はやく帰ってきてね」と小さな震え声で言われては、こちらの方が泣きそうになった。
「な、何か、お、お土産を買いたいんだけど、な、何がいいかな?」
「それだったらこの近くに新しい菓子店がオープンしているはずだ。僕も気になっていたんだ。行ってみよう」
連れてきてもらったのは一人では絶対に入れなかったであろうファンシーで可愛らしい外観の店だった。
一人ではもちろん、二人でも男同志ではハードルが高すぎると尻込みしたが、デイビッドは何の気負いもなく飄々と店内を進む。
甘いマスクも相まって全然違和感がないから凄い。
「ほら、これとかどうだい? 砂糖菓子だって」
カラフルな綿菓子が詰まった袋を掲げてこちらに微笑みかけるデイビッドに、周りにいた少女たちの熱い視線が集まる。
それから彼の喋りかけた先にいる俺に気付いて今度は不可解そうな表情になった。
「こっちのキャンディも可愛いよ」
ファンシーな店内で、可愛い少女たちではなくなぜデイビッドが一番その場に馴染んでいるのだろう。
俺は少女たちの視線を避けるように小さくなりながらセイレスへの土産を選び始めた。
「きょ、今日は、あ、ありがとう。す、すごく、た、楽しかった」
結局菓子は一つに決められなくて大きな袋に詰め合わせにしてもらい、しかもそれを二つも買った。
両手いっぱいに抱えた袋の中はそれはもうカラフルで、今俺の手の中にこの世の全ての色が揃っていると思う。
「こちらこそ素敵な時間をありがとう。今度は是非マサキの家にお邪魔したいな」
「う、うち!?」
「ああ、キミの普段の生活を見てみたいんだ。考えておいてくれると嬉しい。じゃあ、また」
こうしてデイビッドとの初デートは無事幕を閉じたのだが、最後の言葉に悩みながら帰路につくことになってしまった。
うーん、うちはなぁ。
絶対セイレスは知らない人を嫌がるだろうし、ショーンやアルたちもいつものノリで冷やかしてデイビッドに失礼な態度を取らないか心配だし、ロキには反対されたのに忠告を無視した形になったのでなんか気まずいし………何より問題はジョフィルだ。
まだ友人レベルではあるが、デイビッドの存在を知ったらどんなリアクションをするのか未知数で怖い。
ジョフィルは自分の常識の範囲外の事象を極端に嫌っている気がする。
頭を悩ませながら歩いていると気づくと屋敷の前までたどり着いていた。
そして、門の前に今まさに悩みの種になっている人物が立っている。
「ジョ、ジョフィル!? こ、こんなところで、な、何してるんだ?」
「…門の周辺の掃除ですが何か?」
「い、いつも、あ、朝掃除してなかったけ?」
「別にいつしてもいいでしょう。マサキ様には関係ありません」
「ご、ごめん」
なぜか高圧的に返答されてしまった。
今日も機嫌が悪いらしい。
「ところで本日はセイレスを置いてどちらへ? あの子供ときたら、ずっとエントランスに座っていて邪魔だったのですよ」
セイレスっ!ごめんよ!
俺が出て行った扉をジッと見つめるセイレスを想像して泣きそうになった。
「い、い、いまも!?」
「疲れたのかその場で眠ってしまったので今はベッドに寝かせています。それよりどちらへ?」
ジッと睨むように見つめてくるジョフィルに、本日出かけた目的を思い出した。
「こ、これ、これ買いに、い、行ってたんだ」
「これは?」
「こ、この間、う、うっかり、の、飲んじゃったウイスキーのお詫び…ほ、本当にごめん」
恐るおそる差し出した本日の成果品をジョフィルは拒否することなく受け取ってくれた。
「……わざわざこれを、私の為に買いに?」
「う、うん。ま、まだあまり流通していない、も、物らしいから、た、多分それなら、ジョ、ジョフィルも呑んだこと、な、ないと思う」
「そんなウイスキー…よく知っていましたね」
ジッとボトルを見つめたまま呟かれたジョフィルの言葉にぎくりとする。
「い、いろんな人に、き、聞いて回ったから」
「……ま、ありがたくいただいておきます」
いつもと変わらない無表情なのだが、どこか声色が柔らかい。
ようやく機嫌を直してくれたと思っていいのだろうか。
「また別の者と飲まれてはたまりませんから。今晩これを飲むのにお付き合いいただけますか?」
珍しいジョフィルからの誘いにぶんぶんと頭を振る。
ジョフィルの口角が1ミリ上がった気がした。
「これからどうする? 少し早いがよければ僕の家で夕飯でもどうだい?」
魅力的な誘いだが、あいにく今日は都合が悪い。
「ご、ごめん。セ、セイレスに、ゆ、夕方には帰るからって、い、言って出てきたから」
「ああ、君が引き取ったというエルフの少女か」
今日の外出も、何日も前から説得してようやく許して貰えたのだ。
一緒に行くと懸命に主張されたが、デイビッドにも悪いし、出かける場所が絶対子供向けではないので、連れて行っても退屈させるだけだから連れて行ってはやれない。
駄々を捏ねるだけならばダメだと突っぱねやすかったが、目に涙をいっぱいに溜めて泣くまいと頬を赤くして悲しみをこらえる姿に胸が張り裂けそうだった。
出がけにお土産を買ってくると指切りげんまんを終えると、ぎゅっと抱き着いてきて「はやく帰ってきてね」と小さな震え声で言われては、こちらの方が泣きそうになった。
「な、何か、お、お土産を買いたいんだけど、な、何がいいかな?」
「それだったらこの近くに新しい菓子店がオープンしているはずだ。僕も気になっていたんだ。行ってみよう」
連れてきてもらったのは一人では絶対に入れなかったであろうファンシーで可愛らしい外観の店だった。
一人ではもちろん、二人でも男同志ではハードルが高すぎると尻込みしたが、デイビッドは何の気負いもなく飄々と店内を進む。
甘いマスクも相まって全然違和感がないから凄い。
「ほら、これとかどうだい? 砂糖菓子だって」
カラフルな綿菓子が詰まった袋を掲げてこちらに微笑みかけるデイビッドに、周りにいた少女たちの熱い視線が集まる。
それから彼の喋りかけた先にいる俺に気付いて今度は不可解そうな表情になった。
「こっちのキャンディも可愛いよ」
ファンシーな店内で、可愛い少女たちではなくなぜデイビッドが一番その場に馴染んでいるのだろう。
俺は少女たちの視線を避けるように小さくなりながらセイレスへの土産を選び始めた。
「きょ、今日は、あ、ありがとう。す、すごく、た、楽しかった」
結局菓子は一つに決められなくて大きな袋に詰め合わせにしてもらい、しかもそれを二つも買った。
両手いっぱいに抱えた袋の中はそれはもうカラフルで、今俺の手の中にこの世の全ての色が揃っていると思う。
「こちらこそ素敵な時間をありがとう。今度は是非マサキの家にお邪魔したいな」
「う、うち!?」
「ああ、キミの普段の生活を見てみたいんだ。考えておいてくれると嬉しい。じゃあ、また」
こうしてデイビッドとの初デートは無事幕を閉じたのだが、最後の言葉に悩みながら帰路につくことになってしまった。
うーん、うちはなぁ。
絶対セイレスは知らない人を嫌がるだろうし、ショーンやアルたちもいつものノリで冷やかしてデイビッドに失礼な態度を取らないか心配だし、ロキには反対されたのに忠告を無視した形になったのでなんか気まずいし………何より問題はジョフィルだ。
まだ友人レベルではあるが、デイビッドの存在を知ったらどんなリアクションをするのか未知数で怖い。
ジョフィルは自分の常識の範囲外の事象を極端に嫌っている気がする。
頭を悩ませながら歩いていると気づくと屋敷の前までたどり着いていた。
そして、門の前に今まさに悩みの種になっている人物が立っている。
「ジョ、ジョフィル!? こ、こんなところで、な、何してるんだ?」
「…門の周辺の掃除ですが何か?」
「い、いつも、あ、朝掃除してなかったけ?」
「別にいつしてもいいでしょう。マサキ様には関係ありません」
「ご、ごめん」
なぜか高圧的に返答されてしまった。
今日も機嫌が悪いらしい。
「ところで本日はセイレスを置いてどちらへ? あの子供ときたら、ずっとエントランスに座っていて邪魔だったのですよ」
セイレスっ!ごめんよ!
俺が出て行った扉をジッと見つめるセイレスを想像して泣きそうになった。
「い、い、いまも!?」
「疲れたのかその場で眠ってしまったので今はベッドに寝かせています。それよりどちらへ?」
ジッと睨むように見つめてくるジョフィルに、本日出かけた目的を思い出した。
「こ、これ、これ買いに、い、行ってたんだ」
「これは?」
「こ、この間、う、うっかり、の、飲んじゃったウイスキーのお詫び…ほ、本当にごめん」
恐るおそる差し出した本日の成果品をジョフィルは拒否することなく受け取ってくれた。
「……わざわざこれを、私の為に買いに?」
「う、うん。ま、まだあまり流通していない、も、物らしいから、た、多分それなら、ジョ、ジョフィルも呑んだこと、な、ないと思う」
「そんなウイスキー…よく知っていましたね」
ジッとボトルを見つめたまま呟かれたジョフィルの言葉にぎくりとする。
「い、いろんな人に、き、聞いて回ったから」
「……ま、ありがたくいただいておきます」
いつもと変わらない無表情なのだが、どこか声色が柔らかい。
ようやく機嫌を直してくれたと思っていいのだろうか。
「また別の者と飲まれてはたまりませんから。今晩これを飲むのにお付き合いいただけますか?」
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ジョフィルの口角が1ミリ上がった気がした。
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