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44返してきなさいpart2
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「返してきなさい」
ジョフィルの冷たい声に萎縮する。
つい最近聞いた言葉をこんなに短いスパンで聞くとは思いもしなかった。
このところずっと元気がなかったジョフィルだが、俺の背中に背負った物を見た瞬間、目に怒りの生気が灯ったのが分かった。
こんな形で元気になるのを見たかったわけではないのだが。
「まったく…どこで拾って来たのですか…?」
「デ、デイビッドのところから」
デイビッドの名前を出すとジョフィルが顔を顰めた。
「デ、デイビッドと、け、決別して…つ、ついでに奴隷も、う、奪ってきた」
「決別…」
こうやって言葉にすると俺の行為が山賊過ぎる。
「デ、デイビッドの家で弱って、し、死にそうになってて、そ、それで…」
「見捨てられずに拾ったと言うわけですね」
言葉を言い淀んでいると補足するように続けるジョフィル。
「あの男とその奴隷の処遇について揉めて、別れたといったところですか」
「か、価値観が違いすぎて…い、色々あったし…」
モジモジする俺にジョフィルは目を細める。
「もう2度とあんなつまらない男に引っかからないで下さい。この屋敷をあの男に好き勝手に歩かれるなんて想像しただけでも怖気が走りました」
「う…い、以後気をつけます」
ジョフィルにはデイビッドの性質が分かっていたのだろう。
俺は全然気づかなかった。
「ん…」
背中から声が聞こえて後ろを振り返る。
「え、え?ここは…?」
目覚めた彼はかなり困惑しているようだ。
無理もない。
気付いたら知らない人間におぶわれて知らない場所に居るのだから。
「め、目覚めた? い、痛いところや、く、苦しいところはないか?」
「はい…。あなたは…?」
「そ、その前に一回おろすな。た、立てそうにないなら、す、座っていいから」
おんぶしながら会話するのも不便なので慎重におろす。
身体は完全回復したとは言え、精神の摩耗までは治せない。
立てるか心配したが、まったくふらつきもせずに地面に足をつけた。
「だ、大丈夫そうだな。え、えっと、お、俺はマサキ。お、覚えていないと思うが、さっきデ、デイビッドの屋敷で君と会った」
初対面でも思ったがやはりかなり身長が高い。
おんぶしている時も若干地面に足を引きずっていたし。
服はヨレヨレで擦り切れており、髪もパサパサで薄汚れている。
栄養失調により折れそうな手足とこけた頬。
顔立ちは整っているが、今の状態では魅力半減どころではない。
年齢はおそらく20代前半といったところだろうか。
俺より少し年下だと思う。
「マサキ様…!ご主人様から聞いてます。とても大切な方なので丁重にお迎えするようにって!」
突如頭を90度になりそうなほど深く下げた。
「あ、あ、そ、そのことで、き、君に謝らなければいけないことがあるんだ」
細く頼りない肩に手をやり頭を上げさせる。
「俺に…いや、私に謝る? 何故奴隷にお客様が謝罪を?」
心底分からないと言った純粋な瞳に今から伝える内容は果たして受け入れられるのだろうか。
「じ、実はデイビッドから、き、君を譲って貰ったんだ。だ、だから今日から君は、こ、この屋敷に住んでもらう。
りょ、了承もなく勝手に話を進めて、ご、ごめんな」
「え!?ではマサキ様が私の新しいご主人様ですね。どうぞよろしくお願い致します」
すんなり受け入れられてしまったことに拍子抜けする。
いつものように奴隷の身分は解放するつもりだが、その前に色々と聞かなければ。
「き、君の名前は?」
「私の…名前…? なぜそのようなことを気にするのですか?」
「え?なぜって…」
思わぬ質問に困ってしまった。
名前って気にするとか気にしないとかいうものだっけ?
俺が困惑しているのを見た目の前の彼はさっと顔色を変える。
「許してください!教えるのが嫌な訳ではないのです。実はその…私には名前がありません」
「は…?な、名前が、ない…?」
そんなことあるのだろうか。
「マサキ様、恐らくこの者は生まれた時から奴隷だったのでしょう」
俺がフリーズしていると見かねたジョフィルが会話に入ってきた。
「生まれながらの奴隷には名前はございません。その後主人が付ける場合もありますが、大抵必要ないのでそのままか、もしくは複数奴隷を所有している場合は番号で分たりしますね」
「番号…」
目の前で笑顔を作って起立している奴隷の彼。
「な、名前、せ、正式なものじゃなくてもいいから、ほ、本当にない?」
「はい!ないです!ですのでどうぞ番号でも記号でもお好きにお呼びください」
元気よくそんなことを言われても困る。
好きにって言われてもなぁ。
「番号で呼びにくいのであれば、マサキ様がお付けすればよろしいかと」
「そ、そんな重要なこと、に、荷が重いなぁ…って、ひ、引き取ること、み、認めてくれるの!?」
「仕方ないでしょう、持って帰って来たのですから。あの男に戻せとは流石に言いません。今回限りですよ」
その台詞前回も聞いたと思うが口には出さない。
「う、うん!あ、ありがとうジョフィル! だ、大好き!」
思わず口が滑ってそんなセリフが飛び出したが、しまったと慌てるが時すでに遅し。
「っ!…あなたはまたそうやって!」
俺の大好き攻撃を受けたジョフィルはあまりに気持ち悪かったからか、口元を手で押さえて俯いてしまった。
この前、恋人にして欲しいとまで言ったくせにその拒否反応はちょっと傷つく。
まぁあれは苦肉の策だったのはちゃんと分かってるけどさ。
「もう知りません!」
ジョフィルにしては乱暴な足取りで去って行ってしまった。
ジョフィルの冷たい声に萎縮する。
つい最近聞いた言葉をこんなに短いスパンで聞くとは思いもしなかった。
このところずっと元気がなかったジョフィルだが、俺の背中に背負った物を見た瞬間、目に怒りの生気が灯ったのが分かった。
こんな形で元気になるのを見たかったわけではないのだが。
「まったく…どこで拾って来たのですか…?」
「デ、デイビッドのところから」
デイビッドの名前を出すとジョフィルが顔を顰めた。
「デ、デイビッドと、け、決別して…つ、ついでに奴隷も、う、奪ってきた」
「決別…」
こうやって言葉にすると俺の行為が山賊過ぎる。
「デ、デイビッドの家で弱って、し、死にそうになってて、そ、それで…」
「見捨てられずに拾ったと言うわけですね」
言葉を言い淀んでいると補足するように続けるジョフィル。
「あの男とその奴隷の処遇について揉めて、別れたといったところですか」
「か、価値観が違いすぎて…い、色々あったし…」
モジモジする俺にジョフィルは目を細める。
「もう2度とあんなつまらない男に引っかからないで下さい。この屋敷をあの男に好き勝手に歩かれるなんて想像しただけでも怖気が走りました」
「う…い、以後気をつけます」
ジョフィルにはデイビッドの性質が分かっていたのだろう。
俺は全然気づかなかった。
「ん…」
背中から声が聞こえて後ろを振り返る。
「え、え?ここは…?」
目覚めた彼はかなり困惑しているようだ。
無理もない。
気付いたら知らない人間におぶわれて知らない場所に居るのだから。
「め、目覚めた? い、痛いところや、く、苦しいところはないか?」
「はい…。あなたは…?」
「そ、その前に一回おろすな。た、立てそうにないなら、す、座っていいから」
おんぶしながら会話するのも不便なので慎重におろす。
身体は完全回復したとは言え、精神の摩耗までは治せない。
立てるか心配したが、まったくふらつきもせずに地面に足をつけた。
「だ、大丈夫そうだな。え、えっと、お、俺はマサキ。お、覚えていないと思うが、さっきデ、デイビッドの屋敷で君と会った」
初対面でも思ったがやはりかなり身長が高い。
おんぶしている時も若干地面に足を引きずっていたし。
服はヨレヨレで擦り切れており、髪もパサパサで薄汚れている。
栄養失調により折れそうな手足とこけた頬。
顔立ちは整っているが、今の状態では魅力半減どころではない。
年齢はおそらく20代前半といったところだろうか。
俺より少し年下だと思う。
「マサキ様…!ご主人様から聞いてます。とても大切な方なので丁重にお迎えするようにって!」
突如頭を90度になりそうなほど深く下げた。
「あ、あ、そ、そのことで、き、君に謝らなければいけないことがあるんだ」
細く頼りない肩に手をやり頭を上げさせる。
「俺に…いや、私に謝る? 何故奴隷にお客様が謝罪を?」
心底分からないと言った純粋な瞳に今から伝える内容は果たして受け入れられるのだろうか。
「じ、実はデイビッドから、き、君を譲って貰ったんだ。だ、だから今日から君は、こ、この屋敷に住んでもらう。
りょ、了承もなく勝手に話を進めて、ご、ごめんな」
「え!?ではマサキ様が私の新しいご主人様ですね。どうぞよろしくお願い致します」
すんなり受け入れられてしまったことに拍子抜けする。
いつものように奴隷の身分は解放するつもりだが、その前に色々と聞かなければ。
「き、君の名前は?」
「私の…名前…? なぜそのようなことを気にするのですか?」
「え?なぜって…」
思わぬ質問に困ってしまった。
名前って気にするとか気にしないとかいうものだっけ?
俺が困惑しているのを見た目の前の彼はさっと顔色を変える。
「許してください!教えるのが嫌な訳ではないのです。実はその…私には名前がありません」
「は…?な、名前が、ない…?」
そんなことあるのだろうか。
「マサキ様、恐らくこの者は生まれた時から奴隷だったのでしょう」
俺がフリーズしていると見かねたジョフィルが会話に入ってきた。
「生まれながらの奴隷には名前はございません。その後主人が付ける場合もありますが、大抵必要ないのでそのままか、もしくは複数奴隷を所有している場合は番号で分たりしますね」
「番号…」
目の前で笑顔を作って起立している奴隷の彼。
「な、名前、せ、正式なものじゃなくてもいいから、ほ、本当にない?」
「はい!ないです!ですのでどうぞ番号でも記号でもお好きにお呼びください」
元気よくそんなことを言われても困る。
好きにって言われてもなぁ。
「番号で呼びにくいのであれば、マサキ様がお付けすればよろしいかと」
「そ、そんな重要なこと、に、荷が重いなぁ…って、ひ、引き取ること、み、認めてくれるの!?」
「仕方ないでしょう、持って帰って来たのですから。あの男に戻せとは流石に言いません。今回限りですよ」
その台詞前回も聞いたと思うが口には出さない。
「う、うん!あ、ありがとうジョフィル! だ、大好き!」
思わず口が滑ってそんなセリフが飛び出したが、しまったと慌てるが時すでに遅し。
「っ!…あなたはまたそうやって!」
俺の大好き攻撃を受けたジョフィルはあまりに気持ち悪かったからか、口元を手で押さえて俯いてしまった。
この前、恋人にして欲しいとまで言ったくせにその拒否反応はちょっと傷つく。
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