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51奴隷の墓
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テディ視点
俺は生まれながらに奴隷だった。
奴隷の母が妊娠をきっかけに奴隷館に戻され、そこで出産したのだと聞かされている。
奴隷が主人に妊娠させられて返品される事例は多々あり、俺の出自は特段珍しいものではない。
奴隷館がそういう無料引き取りサービスをやっているからだ。
無事に産まれる確率の方が低いが、生き残れば母親はもう一度売れるし、子供の奴隷も手に入る。
それが女児ならどんなに幼くても買い手は付くが、男児である自分はとんだ不良債権だと罵られながら育った。
奴隷館で奴隷としての心得を叩き込まれて、ある程度成長すると売りに出された。
最初のご主人様は地方の豪農で、大きな屋敷に何人も俺と同じような奴隷がいた。
他の奴隷と共にそこの大農園で朝から晩まで働いた。
配給は粉にした芋を水で練った物だったが、野菜や芋の収穫時期には売り物にならない形の悪い収穫物を食べられるので嬉しかった。
肉体的には辛かったが人数も多かったし、まだ幼かったこともあり主戦力にされていなかったので今にして思えば一番楽な生活だった。
しかし数年後、大きな飢饉が訪れて農園は潰れた。
僅かでも金を得ようとしたご主人様により、俺は奴隷館に銅貨1枚で引き渡されてしまった。
次のご主人様は中流貴族だった。
奴隷は俺の他には居らず、広くて古い屋敷で黙々と働いた。
奴隷とは別に使用人が何人かおり、表の見える箇所では彼らが働き、俺は便所の汲み取りや馬糞の始末、ドブ攫いにゴミの焼却といった見えない箇所を一手に割り振られた。
ご主人様はよく使用人たちに、自分の家柄がいかに由緒正しいかを延々と喋っていた。
しかし使用人たちは給料が低い上に自慢話まで長いとぶつくさ陰で悪口を言い合っていたっけ。
俺はその屋敷の唯一の奴隷だったので、自分の仕事が遅かったり小さなミスをした時はもちろん、使用人たちのミスもほとんどが俺の仕業にされて鞭を打たれた。
何度かその傷が元で高熱が出て死にかけたが、どうにか生きていたのは今考えても奇跡だ。
配給は使用人達の残り物だが、何日も残り物が出ない時が続いたこともあって、暴力よりもそれが一番つらかった。
たまに味付けに失敗したとかで沢山残り物が貰えることがあり、その時は夢のようだと喜んだものだ。
しかしある時、ご主人様はお家取り崩しの憂き目に合った。
なんでも前から資金繰りが悪かったようで、借金でいよいよ立ち行かなくなったらしいが奴隷の俺に詳しく説明される筈もない。
使用人達はみんな紹介状もなく放り出されると阿鼻叫喚だったが、俺の行き先は前回同様奴隷館だったので何の問題もなかった。
最後に行き着いたのがデイビッド様だ。
今回も奴隷は俺一人だったが、今度は使用人も一人もいない。
デイビッド様はお金持ちだったが貴族ではないらしい。
屋敷が綺麗に整うなら使用人だろうが奴隷だろうがどちらでも構わないという合理的なスタンスで、奴隷の俺に部屋の掃除や日用品調達といった使用人のような仕事まで求めた。
デイビッド様は当然失敗をすれば鞭打ちはされるが、基本的に俺に興味はないらしい。
奴隷は主人に配給された物以外を口に出来ないと教わっていたが、存在を忘れられて何日も食料を配給されないことが続いて本格的に餓死しそうになったことも何度もある。
与えられたとしてもその量はほんの僅かで、饑餓が激しくなると病気をするようになった。
何日も高熱が続き、そのうち下痢と吐血の症状も出始めて自分の死期が近いことを悟る。
農場で、そうやって死んでいった奴隷たちを何人も見た。
以前、庭を掃除していて小さな墓を5つ見つけた。
苔むしたそれらは一見すると大きめの石にしか見えないが、よくよく見ると何か彫られている。
字は読めないが日用品を買いに行かされる関係でどうにか数字は分かる。
1・2・3・4・5
5つの石には共通した形の文字の横にそれぞれ番号が振られており、ここに5体の何かが埋まっていることが推測できる。
デイビッド様は動物を愛でるタイプではないので、これはもしかしたら今まで飼った奴隷達の墓ではないか。
奴隷に墓なんて贅沢なことではあるが、俺はどうしてもここには埋まりたくないと思ってしまった。
こんな日陰の寂しい場所に敷き詰められるのは恐怖でしかない。
しかし咳をする度に脳裏にあの墓がチラついて仕方なかった。
このまま生を閉じた方が余程楽なのに、俺の本能はどうしても生きたいと叫んでいる。
デイビッド様はよくお客様を迎えられる。
比較的若い男女であり、その方々の相手をすることがデイビッド様のお仕事らしい。
今回迎えるお客様は“マサキ様”と言って、特に大切な方なのでくれぐれも粗相のないようにと念を押される。
普通は奴隷を客の目になど触れさせないものだが、デイビッド様は奴隷は恥ずべきものではなく、堂々と仕事を全うさせる姿をオープンにすることが先進的で情が深い尊いことなのだと鼻高々に語っていた。
マサキ様を迎える当日。
その日はいつにもまして体調が悪かった。
立っているのがやっとで、気を抜くと意識が飛びそうなほど眩暈が酷い。
デイビッド様が現れたようで、リビングまで案内する手筈になっていたがとても動けそうにない。
それでも奴隷として最期までやり遂げようと頭を下げたところで、限界が訪れた。
「あ、ぶないっ!」
意識が途切れる寸前、誰かの温もりを感じた気がした。
俺は生まれながらに奴隷だった。
奴隷の母が妊娠をきっかけに奴隷館に戻され、そこで出産したのだと聞かされている。
奴隷が主人に妊娠させられて返品される事例は多々あり、俺の出自は特段珍しいものではない。
奴隷館がそういう無料引き取りサービスをやっているからだ。
無事に産まれる確率の方が低いが、生き残れば母親はもう一度売れるし、子供の奴隷も手に入る。
それが女児ならどんなに幼くても買い手は付くが、男児である自分はとんだ不良債権だと罵られながら育った。
奴隷館で奴隷としての心得を叩き込まれて、ある程度成長すると売りに出された。
最初のご主人様は地方の豪農で、大きな屋敷に何人も俺と同じような奴隷がいた。
他の奴隷と共にそこの大農園で朝から晩まで働いた。
配給は粉にした芋を水で練った物だったが、野菜や芋の収穫時期には売り物にならない形の悪い収穫物を食べられるので嬉しかった。
肉体的には辛かったが人数も多かったし、まだ幼かったこともあり主戦力にされていなかったので今にして思えば一番楽な生活だった。
しかし数年後、大きな飢饉が訪れて農園は潰れた。
僅かでも金を得ようとしたご主人様により、俺は奴隷館に銅貨1枚で引き渡されてしまった。
次のご主人様は中流貴族だった。
奴隷は俺の他には居らず、広くて古い屋敷で黙々と働いた。
奴隷とは別に使用人が何人かおり、表の見える箇所では彼らが働き、俺は便所の汲み取りや馬糞の始末、ドブ攫いにゴミの焼却といった見えない箇所を一手に割り振られた。
ご主人様はよく使用人たちに、自分の家柄がいかに由緒正しいかを延々と喋っていた。
しかし使用人たちは給料が低い上に自慢話まで長いとぶつくさ陰で悪口を言い合っていたっけ。
俺はその屋敷の唯一の奴隷だったので、自分の仕事が遅かったり小さなミスをした時はもちろん、使用人たちのミスもほとんどが俺の仕業にされて鞭を打たれた。
何度かその傷が元で高熱が出て死にかけたが、どうにか生きていたのは今考えても奇跡だ。
配給は使用人達の残り物だが、何日も残り物が出ない時が続いたこともあって、暴力よりもそれが一番つらかった。
たまに味付けに失敗したとかで沢山残り物が貰えることがあり、その時は夢のようだと喜んだものだ。
しかしある時、ご主人様はお家取り崩しの憂き目に合った。
なんでも前から資金繰りが悪かったようで、借金でいよいよ立ち行かなくなったらしいが奴隷の俺に詳しく説明される筈もない。
使用人達はみんな紹介状もなく放り出されると阿鼻叫喚だったが、俺の行き先は前回同様奴隷館だったので何の問題もなかった。
最後に行き着いたのがデイビッド様だ。
今回も奴隷は俺一人だったが、今度は使用人も一人もいない。
デイビッド様はお金持ちだったが貴族ではないらしい。
屋敷が綺麗に整うなら使用人だろうが奴隷だろうがどちらでも構わないという合理的なスタンスで、奴隷の俺に部屋の掃除や日用品調達といった使用人のような仕事まで求めた。
デイビッド様は当然失敗をすれば鞭打ちはされるが、基本的に俺に興味はないらしい。
奴隷は主人に配給された物以外を口に出来ないと教わっていたが、存在を忘れられて何日も食料を配給されないことが続いて本格的に餓死しそうになったことも何度もある。
与えられたとしてもその量はほんの僅かで、饑餓が激しくなると病気をするようになった。
何日も高熱が続き、そのうち下痢と吐血の症状も出始めて自分の死期が近いことを悟る。
農場で、そうやって死んでいった奴隷たちを何人も見た。
以前、庭を掃除していて小さな墓を5つ見つけた。
苔むしたそれらは一見すると大きめの石にしか見えないが、よくよく見ると何か彫られている。
字は読めないが日用品を買いに行かされる関係でどうにか数字は分かる。
1・2・3・4・5
5つの石には共通した形の文字の横にそれぞれ番号が振られており、ここに5体の何かが埋まっていることが推測できる。
デイビッド様は動物を愛でるタイプではないので、これはもしかしたら今まで飼った奴隷達の墓ではないか。
奴隷に墓なんて贅沢なことではあるが、俺はどうしてもここには埋まりたくないと思ってしまった。
こんな日陰の寂しい場所に敷き詰められるのは恐怖でしかない。
しかし咳をする度に脳裏にあの墓がチラついて仕方なかった。
このまま生を閉じた方が余程楽なのに、俺の本能はどうしても生きたいと叫んでいる。
デイビッド様はよくお客様を迎えられる。
比較的若い男女であり、その方々の相手をすることがデイビッド様のお仕事らしい。
今回迎えるお客様は“マサキ様”と言って、特に大切な方なのでくれぐれも粗相のないようにと念を押される。
普通は奴隷を客の目になど触れさせないものだが、デイビッド様は奴隷は恥ずべきものではなく、堂々と仕事を全うさせる姿をオープンにすることが先進的で情が深い尊いことなのだと鼻高々に語っていた。
マサキ様を迎える当日。
その日はいつにもまして体調が悪かった。
立っているのがやっとで、気を抜くと意識が飛びそうなほど眩暈が酷い。
デイビッド様が現れたようで、リビングまで案内する手筈になっていたがとても動けそうにない。
それでも奴隷として最期までやり遂げようと頭を下げたところで、限界が訪れた。
「あ、ぶないっ!」
意識が途切れる寸前、誰かの温もりを感じた気がした。
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