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58熱血指導
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「はいはい! 全然ダメ!腰が入ってないんだよ腰が。君この廊下舐められるか?」
「いいえ、舐められません!」
「そうだろう。だったらどうすればいいのか分かるよな?」
「舐められるようになるまでもう一度綺麗にします!」
廊下を懸命に磨き始めるデイビッドをテディが腕組みをして見下ろしている。
「テ、テディ。う、うちはそんなに、ブ、ブラックじゃないから。ほ、ほどほどでいいよ」
止める俺にテディはカッと目を見開く。
「修行中の奴隷を甘やかしてはいけませんご主人様!」
「デ、デイビッドは、しゅ、修行中の奴隷じゃないんだけど…」
「よーしいいぞ! その腰つきを忘れるな! 最下層らしく虫のように地面に這いつくばって磨くんだ! このまま頑張ればご主人様の部屋の便器を掃除できる立場になれるぞ。君もご主人様の便器が舐めたいだろ?」
「はい!!舐めたいです!!」
なんかもう全体的に色々汚い。
どこからツッコミを入れればいいのか分からないが、とりあえず一番大事なことを確認しなくてはいけない。
「“君も舐めたい”って、ま、まさかテディ、お、俺の部屋の、トイレの便器、な、舐めてるんじゃないよな?」
「そ、そんなことするわけないじゃないですか…言葉のあやですよ」
目がすごく泳いでいる。
本当にやっていそうで怖いからそのリアクションはやめてくれ。
結局あれからデイビッドは帰ってくれなかった。
家を処分したのでもう帰る場所がないと言い張り、どこか宿泊施設に泊まるように説得したが、持ち込んだ大量の現金を置いてそこに座り込んでしまった。
金も自分も受け取ってくれるまでこの場所に居続けると言われて負けてしまった。
とりあえず開いている部屋に泊まらせたが最後。完全に居座られてしまった。
後で適当な物件を探して現金と共に放り込んでおこうと画策したが、翌日にはテディに指導を受けながら屋敷で働き始めてしまい、新人ですみたいな顔をしている。
こんな押しかけ奴隷いらない…。
テディにもかつての主人と同僚になるのは嫌じゃないかと聞いてみたが「偽物のご主人様に騙された自分が愚かだったのです」とあっけらかんと語っており、あれだけ粗雑に扱われていたのにどうやら遺恨は残っていないらしい。凄い事だと思う。
しかし奴隷志望だということはテディの重要な何かに触れるらしく、指導は今のように苛烈を極める。
恨みではないようだがほどほどにして欲しいものである。
デイビッドの方はうさぎ跳びで再会したテディが誰か最初は分からなかったらしい。
あの頃とは体格も髪型も顔つきも何もかも違っているので当然だろう。
あれほど死にそうだったテディがこんな立派に変身したことに対して、ほんの少しだけデイビッドにどうだこの野郎という気持ちがある。
何はともあれこうして二人の立場は逆転したのであった。
「あの…マサキ様、ちょっといいですか?」
盛り上がる二人の様子をなんとも言えない気持ちで見守っていると、背後から声が掛けられる。
「ア、アル…?め、珍しいな」
どうやら今日はショーンは一緒ではないらしい。
「俺が喋りかけたら迷惑でしたか?」
「そ、そんなこと、な、ないよ。ど、どうしたんだ?」
明らかにムッとしたアルに慌てて否定する。
「少しお話したいことがありまして。今時間ありますか?」
「い、今から、セ、セイレスと、お、おやつを食べる時間なんだ。せ、セイレスも一緒でいいか?」
3時のおやつタイムに遅れるとセイレスはご機嫌が悪くなるからな。
「…まぁいいですけど」
というわけで二人で食堂まで移動することになった。
アルは去り際に熱血指導中のテディと地面に這いつくばるデイビッドをチラリと見てちょっと呆れた顔をした。
到着すると既にお勉強を終えたセイレスが着席しており、その背後でジョフィルが紅茶のポットを持ってスタンバイしていた。
「遅いよマサキ」
「遅いですよマサキ様」
「ご、ごめん」
時間ピッタリではあったものの二対一なので素直に謝っておく。
「おや、アル。珍しいですね」
「ッス」
ジョフィルが俺と同じことを言ったのにアルは小さく頭を下げただけだった。
なんか納得がいかない。
「ア、アル。こ、ここに座って」
セイレスの斜め向かいの席を指して、俺はその正面、つまりセイレスの隣に腰かけた。
「困りましたね。本日のスイーツは街の人気店で取り寄せたケーキなんですが、生憎二つしか用意がございません」
セイレスの前に置かれた皿の上には季節のフルーツが美しくカットされて盛りだくさんに乗っているタルトだった。
色合いも鮮やかで美しい。
「あ、俺腹いっぱいなんで要らないっす」
真っ先にアルが辞退したが、目がタルトに釘付けである。
「お、お、俺の方が腹いっぱいだから、ア、アルが食べてくれ」
「なんでマサキ様が俺の腹具合を把握してんすか」
「と、とにかく、ア、アルは成長期なんだから、た、沢山食べないと。さ、最近テディが、ア、アルに横幅で勝ったって、い、言ってたぞ」
「あんな筋肉オタクと比べないでください。背もでけぇのに筋肉までつけ始めてアイツもう巨人ですよ」
「た、確かに」
おお、なんだかアルと和やかに会話出来ている。
「と、とにかくケーキはアルが食べなさい」
「…じゃあいただきます」
ちょっと口を尖らせて不満そうにしつつもフォークを手に取る。
そしてタルトを頬張った瞬間、その表情は嬉しそうに緩んだ。
うわぁぁ、可愛い。アルは笑顔になると一気に年相応になるよな。
普段ツンツンしているギャップにこっそりデレデレしていると、脛に衝撃が走った。
横を見るとセイレスがジットリ睨んでいた。
その視線に逃れるように紅茶を飲む。
「お代わりお注ぎします」
カップを置くと同時に背後からジョフィルの声。
まだ全然入っているけどな…と思っていると、高い位置からじょぼじょぼ注がれる熱い紅茶。
熱っ!
まだカップの柄に指を掛けたままだったので飛沫がもろにかかる。
振り返るとこちらを笑顔で見下ろすジョフィル。
目が全然笑っていなかった。
ごめんて、違うんだって。
「いいえ、舐められません!」
「そうだろう。だったらどうすればいいのか分かるよな?」
「舐められるようになるまでもう一度綺麗にします!」
廊下を懸命に磨き始めるデイビッドをテディが腕組みをして見下ろしている。
「テ、テディ。う、うちはそんなに、ブ、ブラックじゃないから。ほ、ほどほどでいいよ」
止める俺にテディはカッと目を見開く。
「修行中の奴隷を甘やかしてはいけませんご主人様!」
「デ、デイビッドは、しゅ、修行中の奴隷じゃないんだけど…」
「よーしいいぞ! その腰つきを忘れるな! 最下層らしく虫のように地面に這いつくばって磨くんだ! このまま頑張ればご主人様の部屋の便器を掃除できる立場になれるぞ。君もご主人様の便器が舐めたいだろ?」
「はい!!舐めたいです!!」
なんかもう全体的に色々汚い。
どこからツッコミを入れればいいのか分からないが、とりあえず一番大事なことを確認しなくてはいけない。
「“君も舐めたい”って、ま、まさかテディ、お、俺の部屋の、トイレの便器、な、舐めてるんじゃないよな?」
「そ、そんなことするわけないじゃないですか…言葉のあやですよ」
目がすごく泳いでいる。
本当にやっていそうで怖いからそのリアクションはやめてくれ。
結局あれからデイビッドは帰ってくれなかった。
家を処分したのでもう帰る場所がないと言い張り、どこか宿泊施設に泊まるように説得したが、持ち込んだ大量の現金を置いてそこに座り込んでしまった。
金も自分も受け取ってくれるまでこの場所に居続けると言われて負けてしまった。
とりあえず開いている部屋に泊まらせたが最後。完全に居座られてしまった。
後で適当な物件を探して現金と共に放り込んでおこうと画策したが、翌日にはテディに指導を受けながら屋敷で働き始めてしまい、新人ですみたいな顔をしている。
こんな押しかけ奴隷いらない…。
テディにもかつての主人と同僚になるのは嫌じゃないかと聞いてみたが「偽物のご主人様に騙された自分が愚かだったのです」とあっけらかんと語っており、あれだけ粗雑に扱われていたのにどうやら遺恨は残っていないらしい。凄い事だと思う。
しかし奴隷志望だということはテディの重要な何かに触れるらしく、指導は今のように苛烈を極める。
恨みではないようだがほどほどにして欲しいものである。
デイビッドの方はうさぎ跳びで再会したテディが誰か最初は分からなかったらしい。
あの頃とは体格も髪型も顔つきも何もかも違っているので当然だろう。
あれほど死にそうだったテディがこんな立派に変身したことに対して、ほんの少しだけデイビッドにどうだこの野郎という気持ちがある。
何はともあれこうして二人の立場は逆転したのであった。
「あの…マサキ様、ちょっといいですか?」
盛り上がる二人の様子をなんとも言えない気持ちで見守っていると、背後から声が掛けられる。
「ア、アル…?め、珍しいな」
どうやら今日はショーンは一緒ではないらしい。
「俺が喋りかけたら迷惑でしたか?」
「そ、そんなこと、な、ないよ。ど、どうしたんだ?」
明らかにムッとしたアルに慌てて否定する。
「少しお話したいことがありまして。今時間ありますか?」
「い、今から、セ、セイレスと、お、おやつを食べる時間なんだ。せ、セイレスも一緒でいいか?」
3時のおやつタイムに遅れるとセイレスはご機嫌が悪くなるからな。
「…まぁいいですけど」
というわけで二人で食堂まで移動することになった。
アルは去り際に熱血指導中のテディと地面に這いつくばるデイビッドをチラリと見てちょっと呆れた顔をした。
到着すると既にお勉強を終えたセイレスが着席しており、その背後でジョフィルが紅茶のポットを持ってスタンバイしていた。
「遅いよマサキ」
「遅いですよマサキ様」
「ご、ごめん」
時間ピッタリではあったものの二対一なので素直に謝っておく。
「おや、アル。珍しいですね」
「ッス」
ジョフィルが俺と同じことを言ったのにアルは小さく頭を下げただけだった。
なんか納得がいかない。
「ア、アル。こ、ここに座って」
セイレスの斜め向かいの席を指して、俺はその正面、つまりセイレスの隣に腰かけた。
「困りましたね。本日のスイーツは街の人気店で取り寄せたケーキなんですが、生憎二つしか用意がございません」
セイレスの前に置かれた皿の上には季節のフルーツが美しくカットされて盛りだくさんに乗っているタルトだった。
色合いも鮮やかで美しい。
「あ、俺腹いっぱいなんで要らないっす」
真っ先にアルが辞退したが、目がタルトに釘付けである。
「お、お、俺の方が腹いっぱいだから、ア、アルが食べてくれ」
「なんでマサキ様が俺の腹具合を把握してんすか」
「と、とにかく、ア、アルは成長期なんだから、た、沢山食べないと。さ、最近テディが、ア、アルに横幅で勝ったって、い、言ってたぞ」
「あんな筋肉オタクと比べないでください。背もでけぇのに筋肉までつけ始めてアイツもう巨人ですよ」
「た、確かに」
おお、なんだかアルと和やかに会話出来ている。
「と、とにかくケーキはアルが食べなさい」
「…じゃあいただきます」
ちょっと口を尖らせて不満そうにしつつもフォークを手に取る。
そしてタルトを頬張った瞬間、その表情は嬉しそうに緩んだ。
うわぁぁ、可愛い。アルは笑顔になると一気に年相応になるよな。
普段ツンツンしているギャップにこっそりデレデレしていると、脛に衝撃が走った。
横を見るとセイレスがジットリ睨んでいた。
その視線に逃れるように紅茶を飲む。
「お代わりお注ぎします」
カップを置くと同時に背後からジョフィルの声。
まだ全然入っているけどな…と思っていると、高い位置からじょぼじょぼ注がれる熱い紅茶。
熱っ!
まだカップの柄に指を掛けたままだったので飛沫がもろにかかる。
振り返るとこちらを笑顔で見下ろすジョフィル。
目が全然笑っていなかった。
ごめんて、違うんだって。
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