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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第37話 絶望的な戦い
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激しい衝突の音とうなり声が地下の大広間に響いた。
イーアの眼前には、ティトの後ろ姿があった。
『ティト!?』
ティトの向こうには光の壁が見える。そして、その向こうに、光の壁にぶつかって弾き飛ばされた黒いヒョウのような獣の姿があった。魔法の障壁をティトが出現させたみたいだった。
ティトは黒い魔獣にむかってうなりながら、イーアに怒鳴った。
『どうして、わざわざ火の中に飛びこむようなことをするんだ!』
『ごめん! でも、オッペンを助けないと!』
置いていけばオッペンは確実に死んでしまう。
なんとかしてオッペンをつれて逃げなければならない。
白装束の魔導士達に襲われたガネンの民は逃げることすらできずに皆殺しにされた。だけど、ここはグランドール魔術学校だ。地上まで逃げきれば、きっと、どうにかなる。
広間の白装束の男がつぶやくように言った。
「霊獣使い? グランドールに召喚士がいるのか。愚かな子ネズミは苦しませずに死なせてやるつもりだったが。少し遊んでやるか」
ティトは黒い魔獣にむかってうなりながら、イーアに言った。
『あの獣は風の魔豹ワイヒルト。風を使った遠距離攻撃もある。おれが注意を引きつけているうちに、逃げろ!』
次の瞬間、ティトとワイヒルトは目にもとまらぬ速さで互いに取っ組み合って戦っていた。
イーアはローブの中の『友契の書』をつかんで、思いつく精霊をどんどん召喚しながら、オッペンに駆け寄ろうとした。
『ホムホム、チルラン、オクスバーン! 助けて!』
ほぼ同時に、広間のまん中から白装束の男の冷たい声が聞こえた。
『いでよ。魔神の大剣 ラグダール』
即座に、大広間の空中に目と口のある巨大な大剣が出現した。
大剣は口をあけて奇妙な笑い声をあげ、走り出そうとしていたイーアめがけて降ってきた。
(逃げられない! 斬られる!)
そう思った瞬間、イーアは後方にはじき飛ばされた。
イーアがいた場所には、代わりに振り下ろされた大剣に叩きつぶされるティトの姿があった。
『ティト!』
『うぅ……ふぅー。いい、肩たたきだな』
ティトはそう強がった。でも、ティトの肩には大きな傷が開き、黄金色の毛がみるみる血で赤く染まっていく。
そして、間髪入れず、ティトへむかってワイヒルトが鋭い爪を振り下ろしながら跳びかかった。
ティトは動けない。
イーアが悲鳴をあげかけた瞬間、イーアの召喚が完了し、オクスバーンがあらわれた。
ティトめがけてとびかかるワイヒルトをオクスバーンが長い枝でなぎはらった。
オクスバーンの大枝で打たれて飛ばされたワイヒルトは、空中で回転して着地した。
オクスバーンはドルボッジの時とは違う真剣な口調でティトに言った。
『えらい苦戦しておるな。ぼうず』
『じぃさん、気をつけろ。手ごわいぞ』
イーアはオクスバーンに叫んだ。
『オクスバーン、オッペンをこっちに、部屋の外に動かして!』
オクスバーンは大きな長い枝をオッペンの方に素早く伸ばした。
だけど、その瞬間、ふたたび巨大な魔剣が叫び声を上げながら降ってきた。
魔剣に斬りおろされ、オクスバーンの大枝がパッカリと折れ、掴みかけていたオッペンの体は再び地面に落ちた。
オクスバーンが苦し気なうめき声をあげた。
ワイヒルトの吠え声が響き、渦巻く暴風がさらにオクスバーンに襲いかかった。
風にのみこまれたホムホムといっしょに、オクスバーンの折れた小枝と葉が暴風に巻き上げられていく。
『うむぅ……すまんのぉ……』
ダメージを受けすぎたオクスバーンは大広間から消えていった。
ワイヒルトと巨大な魔剣はさらにこちらに襲いかかるすきを狙っている。
ティトは荒い息をしていて、立っているのがやっとだ。残ったホムホムがティトのまわりで回復しようとがんばっているけど、ホムホムの回復じゃ、とても追いつかない。
このままじゃ、逃げるすきさえ見つからない。
(誰かを召喚しないと……でも、誰を?)
イーアは『友契の書』をローブの中から取り出し、開こうとした。その瞬間、大広間に笑い声が響いた。
白装束の男が腹を抱えて笑っていた。
「まさか、まさか。『友契の書』だと? グランドールの生徒の分際で、妙にしぶとい召喚士がいると思えば。ガリが弟子をとったのか? まさか、こんなところでガリの初弟子にお目にかかれるとは」
その声に反応し、イーアは白装束の男を見た。
よくみれば、白装束の手には『友契の書』のような本がにぎられていた。召喚の書はどれも似たような見た目ではあるけれど。
この白装束の男は、『友契の書』のこともガリのこともよく知っている。だとすれば……。
(白装束は、ウェルグァンダルの召喚士……!?)
青ざめるイーアを見下ろしながら、白装束の男は言った。
「ならば、せっかくだ。冥途の土産に、本物の召喚を見せてやろう。『戻れ、ラグダール。いでよ、大海の覇者モビンディク』」
空中に浮かんでいた巨大な魔剣が姿を消した。
ティトが叫んだ。
『早く逃げろ!』
イーアはオッペンに駆け寄り背負った。召喚時のタイムラグは逃げ出すチャンスだ。
だけど、イーアが走り出そうとしたその瞬間、イーアは大広間の空間全体が突然水没したように感じた。
本物の水ではない。でも、まるで水中でおぼれているように、手足が思うように動かない。言葉を発することすらできなかった。
(間に合わなかった……)
イーアはすぐ後ろにいるティトの方、そして、白装束の男の方を振り返った。
大広間を埋め尽くすほどの巨大な白いクジラのような化け物が、こちらに向かって迫ってきていた。
いや、動いているのは、こっちだ。
ティトが、イーアが、空中のホムホム、チルラン、ラプラプが、みんなクジラのような化け物の大きな口へと吸い込まれていく。
ティトが咆哮をあげ、光の壁が出現した。
だけど、白いクジラの巨大な口はイーアの視界いっぱいにひろがっていき、ティトの作った光の防御障壁は砕け散った。
イーアは巨大な召喚獣の口の中に吸いこまれた。その口内を覆い尽くす長い白いヒゲがイーアの全身に降りかかってきた。
その白いヒゲに触れると、全身から急速に力が抜け、まるで意識が吸い取られていくように感じた。
遠のく意識の中で、どこかから『ラシュトに帰還を勧告します。帰還してください』という『友契の書』の機械的な声が聞こえた気がした。
『イーアを殺されてたまるか!』
再びティトの咆哮がとどろいた。巨大な暗い口内で、イーアを包むように球状の光の殻が出現した。
イーアとオッペンを包みこむ光のバリアの上を刷毛のように長い白いヒゲがすべっていく。
『ゲギンピピを呼べ!』
ティトの叫びを聞き、イーアは即座に『ゲギンピピ、来て!』と呼んだ。
ゲギンピピは猛毒の長いトゲに全身が包まれた丸い精霊だ。
ゲギンピピはせんさいでかよわくて、さみしがり屋でフレンドリーだけど、とがった長いトゲがところせましと生えていて、しかもトゲには少しひふに触れるだけで激痛をもたらす強い毒があるので、みんなから徹底的に避けられているちょっとかわいそうな精霊だ。
ゲギンピピはほとんど瞬時にあらわれ、ニッコリ笑顔をイーアに向けてうれしそうにジャンプした。
とたんに、イーア達をのみこんだモビンディクの激しい悲鳴のような音がとどろいた。ゲギンピピの強毒のトゲが口内にささったのだ。
猛烈な勢いでイーア達は吐き出された。
激しいいきおいで大広間の壁にぶつかった時、ティトがイーアのまわりにつくった光のバリアが弾けて消えた。
イーアは冷たい床に打ちつけられた。モビンディクはのたうち回るように動き、消えていった。
イーアの目の前にはティトが倒れていた。
ティトはピクリとも動かず、まるで死体のようだ。
『ティト!』
ティトはぐったりと横たわったまま返事をしない。
ティトはイーアを守るために光の防御障壁を出現させたけど、自分は敵の攻撃をそのまま浴びてしまったみたいだった。
白装束の男の声が大広間に響いた。
「ほう。生きのびたか。それにしても、世にもめずらしい、忠義の召喚獣だな。『友契の書』は精霊が一定のダメージを受ければ自動帰還させる契約になっているはずだが。限界を超えるダメージを受けても帰還せず、命を賭して召喚士を守ったか。だが、無駄なこと」
白装束の男は、横にたたずむワイヒルトに「とどめをさせ」と命令し、ワイヒルトは一声『承知した』と返事をした。
もう、どうしようもない。
イーアは死を覚悟した。
その時、暗く静かな声がすぐ近くから聞こえた。
『炎鎖竜パラオーチ、ワイヒルトを拘束しろ』
イーア達に跳びかかろうとしていた黒い魔獣ワイヒルトが、炎の鎖のように細く長い飛竜によって宙にしばり上げられていった。
イーアの眼前には、ティトの後ろ姿があった。
『ティト!?』
ティトの向こうには光の壁が見える。そして、その向こうに、光の壁にぶつかって弾き飛ばされた黒いヒョウのような獣の姿があった。魔法の障壁をティトが出現させたみたいだった。
ティトは黒い魔獣にむかってうなりながら、イーアに怒鳴った。
『どうして、わざわざ火の中に飛びこむようなことをするんだ!』
『ごめん! でも、オッペンを助けないと!』
置いていけばオッペンは確実に死んでしまう。
なんとかしてオッペンをつれて逃げなければならない。
白装束の魔導士達に襲われたガネンの民は逃げることすらできずに皆殺しにされた。だけど、ここはグランドール魔術学校だ。地上まで逃げきれば、きっと、どうにかなる。
広間の白装束の男がつぶやくように言った。
「霊獣使い? グランドールに召喚士がいるのか。愚かな子ネズミは苦しませずに死なせてやるつもりだったが。少し遊んでやるか」
ティトは黒い魔獣にむかってうなりながら、イーアに言った。
『あの獣は風の魔豹ワイヒルト。風を使った遠距離攻撃もある。おれが注意を引きつけているうちに、逃げろ!』
次の瞬間、ティトとワイヒルトは目にもとまらぬ速さで互いに取っ組み合って戦っていた。
イーアはローブの中の『友契の書』をつかんで、思いつく精霊をどんどん召喚しながら、オッペンに駆け寄ろうとした。
『ホムホム、チルラン、オクスバーン! 助けて!』
ほぼ同時に、広間のまん中から白装束の男の冷たい声が聞こえた。
『いでよ。魔神の大剣 ラグダール』
即座に、大広間の空中に目と口のある巨大な大剣が出現した。
大剣は口をあけて奇妙な笑い声をあげ、走り出そうとしていたイーアめがけて降ってきた。
(逃げられない! 斬られる!)
そう思った瞬間、イーアは後方にはじき飛ばされた。
イーアがいた場所には、代わりに振り下ろされた大剣に叩きつぶされるティトの姿があった。
『ティト!』
『うぅ……ふぅー。いい、肩たたきだな』
ティトはそう強がった。でも、ティトの肩には大きな傷が開き、黄金色の毛がみるみる血で赤く染まっていく。
そして、間髪入れず、ティトへむかってワイヒルトが鋭い爪を振り下ろしながら跳びかかった。
ティトは動けない。
イーアが悲鳴をあげかけた瞬間、イーアの召喚が完了し、オクスバーンがあらわれた。
ティトめがけてとびかかるワイヒルトをオクスバーンが長い枝でなぎはらった。
オクスバーンの大枝で打たれて飛ばされたワイヒルトは、空中で回転して着地した。
オクスバーンはドルボッジの時とは違う真剣な口調でティトに言った。
『えらい苦戦しておるな。ぼうず』
『じぃさん、気をつけろ。手ごわいぞ』
イーアはオクスバーンに叫んだ。
『オクスバーン、オッペンをこっちに、部屋の外に動かして!』
オクスバーンは大きな長い枝をオッペンの方に素早く伸ばした。
だけど、その瞬間、ふたたび巨大な魔剣が叫び声を上げながら降ってきた。
魔剣に斬りおろされ、オクスバーンの大枝がパッカリと折れ、掴みかけていたオッペンの体は再び地面に落ちた。
オクスバーンが苦し気なうめき声をあげた。
ワイヒルトの吠え声が響き、渦巻く暴風がさらにオクスバーンに襲いかかった。
風にのみこまれたホムホムといっしょに、オクスバーンの折れた小枝と葉が暴風に巻き上げられていく。
『うむぅ……すまんのぉ……』
ダメージを受けすぎたオクスバーンは大広間から消えていった。
ワイヒルトと巨大な魔剣はさらにこちらに襲いかかるすきを狙っている。
ティトは荒い息をしていて、立っているのがやっとだ。残ったホムホムがティトのまわりで回復しようとがんばっているけど、ホムホムの回復じゃ、とても追いつかない。
このままじゃ、逃げるすきさえ見つからない。
(誰かを召喚しないと……でも、誰を?)
イーアは『友契の書』をローブの中から取り出し、開こうとした。その瞬間、大広間に笑い声が響いた。
白装束の男が腹を抱えて笑っていた。
「まさか、まさか。『友契の書』だと? グランドールの生徒の分際で、妙にしぶとい召喚士がいると思えば。ガリが弟子をとったのか? まさか、こんなところでガリの初弟子にお目にかかれるとは」
その声に反応し、イーアは白装束の男を見た。
よくみれば、白装束の手には『友契の書』のような本がにぎられていた。召喚の書はどれも似たような見た目ではあるけれど。
この白装束の男は、『友契の書』のこともガリのこともよく知っている。だとすれば……。
(白装束は、ウェルグァンダルの召喚士……!?)
青ざめるイーアを見下ろしながら、白装束の男は言った。
「ならば、せっかくだ。冥途の土産に、本物の召喚を見せてやろう。『戻れ、ラグダール。いでよ、大海の覇者モビンディク』」
空中に浮かんでいた巨大な魔剣が姿を消した。
ティトが叫んだ。
『早く逃げろ!』
イーアはオッペンに駆け寄り背負った。召喚時のタイムラグは逃げ出すチャンスだ。
だけど、イーアが走り出そうとしたその瞬間、イーアは大広間の空間全体が突然水没したように感じた。
本物の水ではない。でも、まるで水中でおぼれているように、手足が思うように動かない。言葉を発することすらできなかった。
(間に合わなかった……)
イーアはすぐ後ろにいるティトの方、そして、白装束の男の方を振り返った。
大広間を埋め尽くすほどの巨大な白いクジラのような化け物が、こちらに向かって迫ってきていた。
いや、動いているのは、こっちだ。
ティトが、イーアが、空中のホムホム、チルラン、ラプラプが、みんなクジラのような化け物の大きな口へと吸い込まれていく。
ティトが咆哮をあげ、光の壁が出現した。
だけど、白いクジラの巨大な口はイーアの視界いっぱいにひろがっていき、ティトの作った光の防御障壁は砕け散った。
イーアは巨大な召喚獣の口の中に吸いこまれた。その口内を覆い尽くす長い白いヒゲがイーアの全身に降りかかってきた。
その白いヒゲに触れると、全身から急速に力が抜け、まるで意識が吸い取られていくように感じた。
遠のく意識の中で、どこかから『ラシュトに帰還を勧告します。帰還してください』という『友契の書』の機械的な声が聞こえた気がした。
『イーアを殺されてたまるか!』
再びティトの咆哮がとどろいた。巨大な暗い口内で、イーアを包むように球状の光の殻が出現した。
イーアとオッペンを包みこむ光のバリアの上を刷毛のように長い白いヒゲがすべっていく。
『ゲギンピピを呼べ!』
ティトの叫びを聞き、イーアは即座に『ゲギンピピ、来て!』と呼んだ。
ゲギンピピは猛毒の長いトゲに全身が包まれた丸い精霊だ。
ゲギンピピはせんさいでかよわくて、さみしがり屋でフレンドリーだけど、とがった長いトゲがところせましと生えていて、しかもトゲには少しひふに触れるだけで激痛をもたらす強い毒があるので、みんなから徹底的に避けられているちょっとかわいそうな精霊だ。
ゲギンピピはほとんど瞬時にあらわれ、ニッコリ笑顔をイーアに向けてうれしそうにジャンプした。
とたんに、イーア達をのみこんだモビンディクの激しい悲鳴のような音がとどろいた。ゲギンピピの強毒のトゲが口内にささったのだ。
猛烈な勢いでイーア達は吐き出された。
激しいいきおいで大広間の壁にぶつかった時、ティトがイーアのまわりにつくった光のバリアが弾けて消えた。
イーアは冷たい床に打ちつけられた。モビンディクはのたうち回るように動き、消えていった。
イーアの目の前にはティトが倒れていた。
ティトはピクリとも動かず、まるで死体のようだ。
『ティト!』
ティトはぐったりと横たわったまま返事をしない。
ティトはイーアを守るために光の防御障壁を出現させたけど、自分は敵の攻撃をそのまま浴びてしまったみたいだった。
白装束の男の声が大広間に響いた。
「ほう。生きのびたか。それにしても、世にもめずらしい、忠義の召喚獣だな。『友契の書』は精霊が一定のダメージを受ければ自動帰還させる契約になっているはずだが。限界を超えるダメージを受けても帰還せず、命を賭して召喚士を守ったか。だが、無駄なこと」
白装束の男は、横にたたずむワイヒルトに「とどめをさせ」と命令し、ワイヒルトは一声『承知した』と返事をした。
もう、どうしようもない。
イーアは死を覚悟した。
その時、暗く静かな声がすぐ近くから聞こえた。
『炎鎖竜パラオーチ、ワイヒルトを拘束しろ』
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