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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第36話 グランドールの地下
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グランドールの地下は暗かった。
イーアは『友契の書』を取り出し、ラプラプを召喚した。
イーアの周りの空中に白い光の球のようなものがいくつか出現し、辺りを照らしだした。
光っている時はまぶしくて良く見えないけど、ラプラプは体がランプのように光っている小さな妖精だ。
イーアとオッペンは地下の廊下を歩いて行った。
地下は陰気な迷宮のような場所だった。
壁はほとんど石でできていて、ところどころに、ドアが朽ち果てなくなっている部屋の入り口や、さび付いて押しても引いても開かない鉄のとびらがあった。
ドアがない部屋の中では部屋中に蜘蛛の巣が張り、ネズミが走り回っている。
どの部屋も、もう何年も人が出入りしている様子はない。
オッペンは全身を震わせて言った。
「ここ、ほんとに学校かよ。まるでおばけ屋敷みてぇじゃん」
「うん。ここは、人が生活する所じゃないね」
リグナムが掃除をさぼっているウェルグァンダルだって、これよりはずっとましだ。
ふだん生徒達みんなが生活をしている教室やろう下のすぐ下に、こんな場所があったなんてイーアには信じられなかった。
地下の空間は広大で、灰色の冷たい石壁がどこまでも続いていた。
時には不気味な甲虫やムカデが壁面を這いまわり、床をネズミが走り去って行く。歩いていると、たまに蜘蛛の巣が顔に引っかかった。
(ここは気色悪いから、もう帰ろうかな……)
イーアがそう思ってオッペンに提案しようとした時。
叫び声が聞こえた。
「おい、今のなんだ!?」
「しぃっ。静かに」
イーアはオッペンを黙らせ、耳をすました。声が聞こえた。
「やっぱり、出たね! この、強盗どもめ!」
この耳ざわりなガラガラ声には聞き覚えがあった。イーアとオッペンは思わず叫んだ。
「シャヒーン先生!」
「強盗!?」
ふたりはうなずきあい、声が聞こえた方に走り出した。
イーア達が走り出してすぐ、なにかがぶつかる衝撃音が聞こえた。
足の速いオッペンがイーアの先を走っていった。
やがて、オッペンが急にたちどまった。
イーアは立ち尽くすオッペンに追いつき、横に立った。
壁にはりつくように広がったシャヒーン先生の派手な髪の毛が見えた。
おくれてやってきたラプラプがイーアに追いつき追い越して前方にある壁を照らしだした。
ラプラプの光で、シャヒーン先生の姿がはっきりと照らしだされた。
シャヒーン先生の頭上の壁には血痕がべったりとついていた。
壁にもたれかかるように力なく座るシャヒーン先生は、頭から血を流し白目をむいていた。
「シャヒーン先生!」
イーアはシャヒーン先生に駆け寄った。イーアが肩にふれると、シャヒーン先生の体は床に崩れ落ちた。
「先生が殺されちまった……」と、オッペンはぼうぜんとつぶやいた。
だけど、イーアは冷静にシャヒーン先生の口に耳を近づけた。
吐く息が耳に触れた。息はしている。まだ生きている。シャヒーン先生は気絶しているだけだ。
『カンパベル、来て!』
イーアは『友契の書』を使ってカンパベルという妖花を召喚した。
カンパベルには白い袋のような花が咲く。その花の中にたまったどろっとした蜜は薬効の強い傷薬になる。
ただし、カンパベルはいつも周囲の生き物からちょっとずつ生気を吸い取ってしまう上に、死期の近い老人や病人が傍にいると、カンパベルの花から鐘のような音が鳴り魂が吸い取られてしまうと伝えられていた。役に立つけど少し怖い妖花だ。
イーアはカンパベルの花の蜜をシャヒーン先生の後頭部の傷口にぬりつけた。これで頭部からの出血はとまるだろう。
イーアがシャヒーン先生に応急処置をしている間も、どこかから走り去る強盗の足音らしき音が響いていた。
「犯人を追いかけるぞ! 先生の仇を討ってやる!」
そう言ってオッペンが走り出した。
イーアはあわてて叫んだ。
「オッペン、待って! ひとりじゃ危ないよ!」
オッペンはとまらなかった。廊下の先の暗闇にむかって一目散に走っている。
イーアは気絶したままのシャヒーン先生を前に一瞬ためらった。
だけど、すぐにオッペンを追いかける決心をした。
オッペンをひとりで行かせるわけにはいかない。
イーアの直感は不気味に確信していた。
今、オッペンをひとりで行かせれば、オッペンは殺される。
イーアはオッペンを追いかけ走り出した。
通路の先は二手に分かれていた。
オッペンはためらわずに右に曲がった。
オッペンは走り続け、イーアはオッペンを追いかけ続けた。
犯人の姿は見えないけれど、オッペンは分かれ道になっても迷いなく走り続けていた。
オッペンはたぶんただのカンで行き先を選んでいるはずだ。だけど、占いの素質が高い人のカンは、ただのカンではない。
やがて長い下りの階段が続く場所に出た。
長い長い階段の終着点の先は平たんな通路で、左手に壁がない場所があるみたいだった。どこかへの入り口のようだ。
オッペンはすでに階段のふもとにいた。直進すれば、また上りの階段がはじまるけれど、オッペンは左の入り口へと進んで行った。
イーアは急いで階段を駆け下り、オッペンが消えていった左手の空間へと向かった。
そこにはアーチ型の入り口があり、その先は大広間のように大きくひらけた場所になっていた。
天井は高く、両脇の石の壁には同じかんかくで装飾のほどこされた石の柱が並んでいて、高い場所には窓のようなくぼみが並んでいた。
そしてその大広間の真ん中に、ランプが置かれており、その横に白ずくめの服装の何者かが立っていた。
白いフードをかぶり、銀色の仮面をかぶっているため、顔は見えない。
白いローブには奇妙な形の十字が光っていた。
あの白いローブとあの奇妙なマークには見覚えがある。
間違いない。
あれはガネンの民をおそった、あの白装束だ。
イーアの脳内で、血と炎と叫び声が響きだし、ガネンの森の惨劇がよみがえっていった。
ガンガンと脳内と心臓を打ち付ける痛みが、イーアに告げていた。
逃げろ。でなければ、殺される。
今のイーアでは白装束の魔導士相手に勝ち目はない。
逃げなければいけない。
だけど、オッペンはすでに大広間の中に歩を進めていた。
イーアはオッペンにむかって必死に叫んだ。
「オッペン。戻って!」
「変なかっこうの強盗だな……」
そうオッペンがつぶやいた時。
風が走り抜けた。
そして、オッペンの姿が消えた。
「オッペン?」
オッペンの体は、大広間の天井に打ち付けられていた。
ゆっくりとオッペンの体が天井からはがれ、床へと落下した。
床に落ちたオッペンは、手足が奇妙な形に曲がったままピクリとも動かなかった。
イーアはオッペンのもとへかけよろうとした。
だけど、走り出そうとした瞬間、イーアは黒い突風のようなものが今度は自分めがけて突進してくるのを感じた。
イーアは『友契の書』を取り出し、ラプラプを召喚した。
イーアの周りの空中に白い光の球のようなものがいくつか出現し、辺りを照らしだした。
光っている時はまぶしくて良く見えないけど、ラプラプは体がランプのように光っている小さな妖精だ。
イーアとオッペンは地下の廊下を歩いて行った。
地下は陰気な迷宮のような場所だった。
壁はほとんど石でできていて、ところどころに、ドアが朽ち果てなくなっている部屋の入り口や、さび付いて押しても引いても開かない鉄のとびらがあった。
ドアがない部屋の中では部屋中に蜘蛛の巣が張り、ネズミが走り回っている。
どの部屋も、もう何年も人が出入りしている様子はない。
オッペンは全身を震わせて言った。
「ここ、ほんとに学校かよ。まるでおばけ屋敷みてぇじゃん」
「うん。ここは、人が生活する所じゃないね」
リグナムが掃除をさぼっているウェルグァンダルだって、これよりはずっとましだ。
ふだん生徒達みんなが生活をしている教室やろう下のすぐ下に、こんな場所があったなんてイーアには信じられなかった。
地下の空間は広大で、灰色の冷たい石壁がどこまでも続いていた。
時には不気味な甲虫やムカデが壁面を這いまわり、床をネズミが走り去って行く。歩いていると、たまに蜘蛛の巣が顔に引っかかった。
(ここは気色悪いから、もう帰ろうかな……)
イーアがそう思ってオッペンに提案しようとした時。
叫び声が聞こえた。
「おい、今のなんだ!?」
「しぃっ。静かに」
イーアはオッペンを黙らせ、耳をすました。声が聞こえた。
「やっぱり、出たね! この、強盗どもめ!」
この耳ざわりなガラガラ声には聞き覚えがあった。イーアとオッペンは思わず叫んだ。
「シャヒーン先生!」
「強盗!?」
ふたりはうなずきあい、声が聞こえた方に走り出した。
イーア達が走り出してすぐ、なにかがぶつかる衝撃音が聞こえた。
足の速いオッペンがイーアの先を走っていった。
やがて、オッペンが急にたちどまった。
イーアは立ち尽くすオッペンに追いつき、横に立った。
壁にはりつくように広がったシャヒーン先生の派手な髪の毛が見えた。
おくれてやってきたラプラプがイーアに追いつき追い越して前方にある壁を照らしだした。
ラプラプの光で、シャヒーン先生の姿がはっきりと照らしだされた。
シャヒーン先生の頭上の壁には血痕がべったりとついていた。
壁にもたれかかるように力なく座るシャヒーン先生は、頭から血を流し白目をむいていた。
「シャヒーン先生!」
イーアはシャヒーン先生に駆け寄った。イーアが肩にふれると、シャヒーン先生の体は床に崩れ落ちた。
「先生が殺されちまった……」と、オッペンはぼうぜんとつぶやいた。
だけど、イーアは冷静にシャヒーン先生の口に耳を近づけた。
吐く息が耳に触れた。息はしている。まだ生きている。シャヒーン先生は気絶しているだけだ。
『カンパベル、来て!』
イーアは『友契の書』を使ってカンパベルという妖花を召喚した。
カンパベルには白い袋のような花が咲く。その花の中にたまったどろっとした蜜は薬効の強い傷薬になる。
ただし、カンパベルはいつも周囲の生き物からちょっとずつ生気を吸い取ってしまう上に、死期の近い老人や病人が傍にいると、カンパベルの花から鐘のような音が鳴り魂が吸い取られてしまうと伝えられていた。役に立つけど少し怖い妖花だ。
イーアはカンパベルの花の蜜をシャヒーン先生の後頭部の傷口にぬりつけた。これで頭部からの出血はとまるだろう。
イーアがシャヒーン先生に応急処置をしている間も、どこかから走り去る強盗の足音らしき音が響いていた。
「犯人を追いかけるぞ! 先生の仇を討ってやる!」
そう言ってオッペンが走り出した。
イーアはあわてて叫んだ。
「オッペン、待って! ひとりじゃ危ないよ!」
オッペンはとまらなかった。廊下の先の暗闇にむかって一目散に走っている。
イーアは気絶したままのシャヒーン先生を前に一瞬ためらった。
だけど、すぐにオッペンを追いかける決心をした。
オッペンをひとりで行かせるわけにはいかない。
イーアの直感は不気味に確信していた。
今、オッペンをひとりで行かせれば、オッペンは殺される。
イーアはオッペンを追いかけ走り出した。
通路の先は二手に分かれていた。
オッペンはためらわずに右に曲がった。
オッペンは走り続け、イーアはオッペンを追いかけ続けた。
犯人の姿は見えないけれど、オッペンは分かれ道になっても迷いなく走り続けていた。
オッペンはたぶんただのカンで行き先を選んでいるはずだ。だけど、占いの素質が高い人のカンは、ただのカンではない。
やがて長い下りの階段が続く場所に出た。
長い長い階段の終着点の先は平たんな通路で、左手に壁がない場所があるみたいだった。どこかへの入り口のようだ。
オッペンはすでに階段のふもとにいた。直進すれば、また上りの階段がはじまるけれど、オッペンは左の入り口へと進んで行った。
イーアは急いで階段を駆け下り、オッペンが消えていった左手の空間へと向かった。
そこにはアーチ型の入り口があり、その先は大広間のように大きくひらけた場所になっていた。
天井は高く、両脇の石の壁には同じかんかくで装飾のほどこされた石の柱が並んでいて、高い場所には窓のようなくぼみが並んでいた。
そしてその大広間の真ん中に、ランプが置かれており、その横に白ずくめの服装の何者かが立っていた。
白いフードをかぶり、銀色の仮面をかぶっているため、顔は見えない。
白いローブには奇妙な形の十字が光っていた。
あの白いローブとあの奇妙なマークには見覚えがある。
間違いない。
あれはガネンの民をおそった、あの白装束だ。
イーアの脳内で、血と炎と叫び声が響きだし、ガネンの森の惨劇がよみがえっていった。
ガンガンと脳内と心臓を打ち付ける痛みが、イーアに告げていた。
逃げろ。でなければ、殺される。
今のイーアでは白装束の魔導士相手に勝ち目はない。
逃げなければいけない。
だけど、オッペンはすでに大広間の中に歩を進めていた。
イーアはオッペンにむかって必死に叫んだ。
「オッペン。戻って!」
「変なかっこうの強盗だな……」
そうオッペンがつぶやいた時。
風が走り抜けた。
そして、オッペンの姿が消えた。
「オッペン?」
オッペンの体は、大広間の天井に打ち付けられていた。
ゆっくりとオッペンの体が天井からはがれ、床へと落下した。
床に落ちたオッペンは、手足が奇妙な形に曲がったままピクリとも動かなかった。
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