もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~

第40話 うそつき英雄の帰還

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 どこかから悲しそうな声が聞こえた。

「ぼくがいっしょにいれば。ぼくがイーアとずっといっしょにいれば……」

 ユウリの声だ。ユウリのとても悲しそうな、くやしそうな声が聞こえる。
 イーアはゆっくりと目を開けた。

 イーアは見たことのない部屋の中で寝ていた。
 毛布の横に、うつむいたユウリの頭があった。

(ユウリ、どうしたんだろ……)

 とても落ちこんでいる様子のユウリをなぐさめようと思って、イーアは声をかけた。

「ユウリ?」

 イーアがつぶやくと、ユウリはがばっと顔をあげた。

「イーア! よかった!」

 その様子を見て、イーアは気が付いた。ユウリが落ちこんでいたのは、イーアの心配をしていたからだ。
 イーアは自分が地下で白装束と戦って、その後で気絶したらしいことを思い出した。

「ここは……?」

 地下ではない。暗い地下とは対照的に、まぶしすぎるくらいに明るい部屋だ。

「医務室だよ。イーア達が地下で強盗に襲われて倒れていたところを、先生たちが救出してくれたんだ。先生たちは、イーアの方はだいじょうぶだと言ってたけど。目を覚まさないから心配で……」

 心配してユウリはずっとここにいてくれたようだ。

「うん。わたしはだいじょうぶだよ」

 イーアは体を起こした。ものすごい疲労感があるけど、今は特に痛いところもなく、体も普通に動いた。

 医務室にはベッドが並んでいた。
 隣のベッドの横には、背中を丸めた小太りの小柄な中年女性が座っていた。下町や田舎町のどこにでもいそうな庶民っぽさが漂うおばさんだ。おばさんは、ベッドに寝ている誰かの手を握って、小声で何かを語りかけていた。

 あのベッドで眠っているのは、たぶんオッペンだ。
 あのおばさんは、きっと、オッペンのお母さんだろう。
 イーアのいる場所からオッペンの様子はよく見えなかった。
 オッペンは、どうなったんだろう。ガリは、すでに手遅れかもしれないと言ってた……。
 不安で心臓の音が早くなっていく中、イーアは小声でユウリにたずねた。

「オッペンは?」

 ユウリは小声でささやき返した。

「オッペンは命にかかわる状態だったけど、危ない状態は抜けたって」

 イーアはほっとしてため息をついた。

「よかった……。ほんとに、よかった……」

 正直、オッペンはすでに死んでしまったんじゃないかと、戦闘中から何度も思っていた。でも、なんとかオッペンの命は救えたようだ。
 ユウリは説明を続けた。

「シャヒーン先生は発見されてすぐ意識が戻って、今はもう元気そうだよ。何が起こったのかシャヒーン先生が他の先生たちに説明して、それで、学園祭は途中で中止になったんだ。先生たちは強盗を探したけど、その時にはもう地下には誰もいなかったらしい」

「強盗……?」

 そういえば、シャヒーン先生は侵入者の白装束のことを強盗だと言っていた。本当に強盗なのかはわからないけど。ユウリは言った。

「地下の保管庫があけられていて、<生命の霊薬>っていうものが2本なくなってたって。他は何も盗まれていないらしいけど」

 <生命の霊薬>が2つ、それは、ガリが持ってきた分だ。ということは、何も盗まれていない。
 結局、白装束の目的は何だったんだろう。
 イーア達に見つかってガリに倒されたから、何も盗まず逃げ帰ったのだろうか。
 イーアが考えていると、ユウリはぽつりと恐ろしいことを言った。

「あとで先生たちがイーアにも話を聞くつもりだと言っていたよ。強盗のことと、あと、イーアが霊薬の空きビンを持っていたから、それについて」

「げっ……!」

 ちょっと面倒なことになりそうだ。

 医務室で目を覚ましてからしばらくたった後、イーアは別室に呼び出され、先生たちに質問をされた。
 部屋には魔導語の先生ヘゲルと自然魔法のシェリル先生がいた。
 イーアは心の中でなげいた。

(うぅ……マジーラ先生とかシャヒーン先生とかのほうがよかったのに……)

 ヘゲルは細かいことにうるさくて、いつも小言を言って怒ってばかりで気難しい。シェリル先生は優しいけど、まじめだ。

 先生たちに何が起こったのか質問されたイーアは、あらかじめ考えておいた通り、「地下でシャヒーン先生が強盗に襲われたのを発見して、オッペンといっしょに強盗を追いかけたら襲われて、死にかけたオッペンを助けるために、扉が開いていた倉庫で見つけた<生命の霊薬>を使いました」と話した。
 ……うそはついていない。ぜんぶ本当のことだ。戦闘の詳細を省略しただけで。

 イーアはウソをつくのになれていない上に、今回はかくさないといけないことがたくさんあるから大変だった。
 ティトのことはひみつだ。
 ガリのことも言えない。ガリは立ち去る前に、ウェルグァンダルの名を出さないでほしい、つまりガリのことは秘密にしてほしい、と言っていたから。

 イーアは犯人のザヒのこともないしょにした。
 ザヒの名前をだせば、「どうしてザヒだとわかったのか?」とか聞かれて、面倒なことになる。
 だから、全部ないしょにして何も言わないことにしたのだ。

 それに、ザヒのことは言わないほうが、イーアにとっても都合がいい気がした。
 ザヒは白装束の魔導士たちにつながる手がかりだ。
 ティトは反対するだろうけど、イーアはガネンの森を襲った白装束たちの正体を知りたかった。
 だけど下手に先生たちや警察が動けば、イーアはザヒと白装束の魔導士たちについて探りづらくなる。

 先生たちは強盗についてさらに質問してきたけれど、イーアは、「強盗は仮面をつけていたから顔はわかりません。オッペンとわたしを魔法で吹き飛ばした後、あっという間に逃げていきました。だから何もわかりません」とだけ言っておいた。

 一通り質問と説明が終わったあと、ヘゲルは険しい表情でイーアにたずねた。

「そもそも、おまえたちは、なぜ地下に入ったのだ?」

「なんでって……入れたからです」

 イーアは正直に答えた。
 イーアとオッペンは、入れたからちょっと入ってみただけだ。これは、本当に本当のことだ。あんなことになるなんて、まったく予想していなかった。
 ヘゲルは不機嫌そうに言った。

「地下は立ち入り禁止だ」

「でも、どこにもそんな表示はなかったです」

 イーアが即答すると、ヘゲルは声を荒げた。

「結界を張ってあったことぐらいわかるだろう! 結界が張ってあるということは、立ち入り禁止なのだ!」

 つまり、階段下の地下への入り口に壁があるように見えたのは、そういう結界が張ってあったかららしい。
 だけど、あの時、イーア達はそれが立ち入り禁止だという意味だとは思わなかった。「立ち入り禁止」という張り紙はどこにもなかったのだ。
 だから、「そんなこと、言われなきゃわかんないよ!」とイーアがヘゲルにどなりかえしそうになったところで、シェリル先生が急いで割って入った。

「ヘゲル先生。この子はひどい目にあったばかりなんです。そんなに強い口調で言わなくても」

 ヘゲルはいらだった様子で言った。

「自業自得だろう。立ち入り禁止区域に勝手に入りこんで。おまけに、貴重な<生命の霊薬>を2本も消費したのだ」

 「仕方がなかったもん! 霊薬より命の方が大事でしょ!」と、イーアがどなり返す寸前に、シェリル先生があわてて言った。

「でも、そのおかげで、生徒の命が助かったのですから。私は<生命の霊薬>を使った判断は正しかったと思います。使っていなければ、まちがいないくオッペンさんは死んでいたと治癒術の先生はいわれました。この子のとっさの判断が命を救ったんです。それに、この子達がいなければ、シャヒーン先生だって殺されていたかもしれません。地下の秘薬保管庫だって、もっと荒らされていたかもしれません。おてがらでしたよ。イーアさん」

 シェリル先生にほめられて、イーアの怒りは落ち着いた。
 だけど、ヘゲルはまだイーアをにらみつけている。ヘゲルは不機嫌そうにぶつぶつと言った。

「<生命の霊薬>は1本使えば十分だった。それを2本も。だいたい、なぜ<生命の霊薬>のことを知っていたのだ?」

 イーアはむすっと簡潔に答えた。

「習ったからです」

 <生命の霊薬>については、あまりしゃべるとボロが出て、色々と嘘をついているのがバレそうだ。なにしろ、実際に取ってきたのはガリだから、イーアは<生命の霊薬>についても倉庫についても何も知らないのだ。
 ヘゲルは険しい表情のまま言った。

「1年の授業では扱わない。<生命の霊薬>は調合が困難で流通していない非常に貴重な秘薬なのだ」

「師匠が教えてくれたんです」

 うそじゃない。本当のことだ。教えてくれた時期がちょっと直前すぎるだけで。
 だけど、これ以上ヘゲルに問いつめられると、危ない。どうにかして、話題を変えないといけない。

「師匠?」

 ヘゲルが聞き返したちょうどその時。部屋のドアが開き、誰かが入ってきた。

「その生徒は、ウェルグァンダルから預かっている特待生なのですよ。ヘゲル先生」

 部屋に入ってきてそう言ったのは、召喚術のオレン先生だった。

「ウェルグァンダル? あの名門がこんな生徒を?」

 ヘゲルが信じられないという表情で言うと、オレンは落ち着いた声で言った。

「こんな生徒と申されますが、私が知る限り、飛びぬけて優秀な生徒ですよ」

「私が知る限り、圧倒的な落ちこぼれですがな」

 ヘゲルは苦虫をかみつぶしたような顔でそう言って立ち上がった。
 たしかにイーアの魔導語のミニテストはいつも0点に近かったけれど。
 とにかくオレン先生が入ってきたことでヘゲルの尋問じんもんが終わりそうだ。イーアはほっとした。
 最後にシェリル先生が優しい声で言った。

「イーアさん。何が起こったのかお話してくれて、ありがとうございました。念のため今夜は医務室に泊まってください」

「だいじょうぶです。もうすっかり元気です。自分の部屋に戻ります」

 イーアはすっかり元気というほどは元気じゃなかったけれど、早く部屋に帰りたかった。

「でも……」

 シェリル先生は心配そうに顔をくもらせた。

「好きにさせればいい。死んだところで、自業自得だ」

 ヘゲルはそう言って、部屋を出て行った。

「好きにします。それじゃ」

 そう言って、イーアは立ち上がって部屋を出た。


(ふー。あぶなかったよ。ウソをつくのって大変だね)

 普段は正直者しょうじきもののイーアは、そんなことを思いながら暗い夜道を歩いて寮に戻った。
 寮の入り口の扉を開くと、中は明るい光でいっぱいだった。
 そして、入り口ホールにたくさんの生徒達が待ち構えているのが、イーアの目にとびこんできた。
 イーアが知っている人も知らない人もいる。
 みんなはとても興奮した様子で、イーアをみるとすぐにわーっと歓声をあげた。

(なにこれ!? どうしたの?)

 イーアがおどろいて立ちどまってキョロキョロしていると、キャシーとアイシャが人混みをかきわけ、イーアのそばにやってきた。

「イーア! イーアが強盗を追い払ってシャヒーン先生とオッペンを救ったんだって!?」

「すごいねぇ。すごいねぇ。イーアは英雄だねぇ」

 どうやら、みんなの間では、そういう話になっているらしい。それで、みんなはイーアが帰ってくるのを待ちかまえていたらしい。
 まるで英雄を見るようなキラキラした目でみんなに見つめられて、みんなにほめられまくって、イーアはちょっとだけじゃなく後ろめたい気持ちになった。

 たしかにシャヒーン先生のことはイーアが助けた。
 結果的にオッペンの命も救えた。
 だけど、それはガリのおかげだ。
 イーアは今、自分の無力さを痛いほど感じていた。たとえ敵はイーアがかなうはずのない力をもつ召喚士だったとしても、イーアはやっぱりくやしかった。
 今、英雄視なんてされたら、むしろ落ちこんでしまうから、正直、やめてほしい。

 だけど、ガリのことをみんなに言うわけにはいかない。ガリがひみつにしろと言うんだから。
 ということは、イーアは全部自分の力でなしとげたふりをしないといけない。

「うん.......」と言いながら、イーアは心の中で叫んでいた。

(どうしよー……。ひみつを守るの、めんどくさー!)

 みんなにほめたたえられながら、イーアはこっそりガリを恨んだ。

 みんなはイーアにくわしい話を聞きたがっていたけれど、イーアは「つかれたから、あとでね」と言ってみんなをかきわけ、エレベーターにのって、いそいで自分の部屋に帰った。

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