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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第41話 小川のほとり
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イーアは自分の部屋に戻ると、すぐに『友契の書』を取り出した。
ティトのことが心配だった。
ガネンの森に戻ったティトが無事なのか、イーアは確認したかった。
『友契の書』のオクスバーンとラシュトのページは全体が灰色に変色している。たぶん、今は呼びだせないという意味だ。
(どうしよう……)
イーアは、『友契の書』に手を置いたまま考えた。
(わたしがティトのところに行くことはできるかな?)
召喚の逆。
そんなこと、見たことも聞いたこともない。普通はできるはずがない。
でも、なんとなく、できる気がした。
イーアとティトはガネンの民のしきたりで魂を分け合っているらしい。だから、召喚しなくてもティトは自力でイーアのところにこられる。
だったら、イーアにだってできそうだ。でも、やり方がわからない。イーアは転移魔法は使えないから、自力では移動できない。
イーアは『友契の書』にたずねた。
『友契の書、わたしをティトのところに移動できる? 召喚の逆。逆召喚みたいなこと』
『友契の書』からは、落ち着いた声が淡々とかえってきた。
『逆召喚……過去に事例はありません。通常、召喚士を召喚獣の生息地へと転移することはできません。しかし、当該のラシュトとは特殊な契約状態にあるため、召喚獣のもとに転移が可能か計測検討してみます。これにはしばらく時間がかかります』
『お願い』
イーアは部屋の中でじっと待った。
しばらくして、『友契の書』から再び声が聞こえた。
『現在、契約中のラシュトのもとを訪れることが可能です。場所はガネンの森です。召喚士の魔力を消費するため、滞在時間は限られます。また、逆召喚とやらの実行中は、召喚を行うことはできません』
イーアはすぐに頼んだ。
『わかった。わたしをティトのところに連れて行って』
『では、転移を行います』
イーアは一瞬、自分がぐにゃりと曲がったような気色の悪い感覚をおぼえた。
次の瞬間、周囲の景色が変わっていた。
イーアが立っていたのは、自分の部屋の中ではなく、ふわふわしたホムホムがたくさん漂う、川辺の草原だった。
すっかり日は暮れた後だったけど、数匹のラプラプが周囲を飛んでいて、そのあかりが辺りを照らしだすおかげで近くの景色がわかった。
すぐ近くには月明りをキラキラと反射する小川が流れていた。
その小川のほとりに、ホムホムに囲まれティトが寝ていた。
ティトはぐったりと半身を小川に沈めたままふせっている。
『ティト!』
ティトは耳だけ、イーアの方に動かした。
『ティト、大丈夫?』
イーアはティトのそばに駆け寄った。
ティトの傷口からの出血はとまっていた。だけど、ティトの肩には大きな赤い傷がいたいたしく盛り上がっていた。
『いたそう……』
イーアが思わずそうつぶやくと、ティトは低い声で言った。
『これくらい、だいじょうぶだ』
『なにか、薬をもってくる?』
『いらない。この小川が回復してくれる。ここはガネンの森の中でも特別な場所。治癒の小川って呼んでいるところだ。ここにいるだけで、ケガから回復できるんだ』
そう言いながらも、ティトは苦しそうだった。
『ごめんね。わたしのせいで』
ティトは小さくうなった。
『まったくだ。おれのケガはどうでもいいけど。白装束に見つかっちゃったじゃないか。ガネンの民の生き残りがいることがバレてしまうかもしれない』
『うん……』
イーアも、そのことは心配だった。
ティトはしょぼしょぼとまばたきしながら言った。
『あいつは、ガネンの森を襲った奴ではなかったけど……』
『ガネンの森を襲った白装束じゃないって、わかるの?』
イーアがたずねると、ティトは考えながら言った。
『ガネンの森を襲ったやつらの中に召喚士はいなかった。それに、ワイヒルトを連れ歩いてるようなやつがいれば、絶対におぼえてる。あんなやつ、絶対、いなかった』
イーアも、なんとなくザヒはガネンの森を襲った魔導士ではない気がしていた。
グランドールの地下で戦った時、ザヒはイーアやティトを特別視していなかった。ティトのことはただの霊獣だと思ったみたいだった。イーアのことも、ただの南方出身のグランドール生だとしか思っていないみたいだった。
ティトがそういうなら、ザヒはあの時ガネンの森にはいなかったのだろう。
だから、ザヒはガネンの民のこともラシュトのことも知らず、何にも気がついていない……と思いたい。
『でも、ザヒの服は同じ白装束だったよね?』
イーアがたずねると、ティトは低い声でうなるように言った。
『ああ。やつらの一味にはちがいない。あいつら、いっぱいいるんだろ』
『何者なんだろう。あの白装束』
イーアがつぶやくと、ティトは深くため息をついた。
『探ろうなんてするなよ? おれはしばらく戦えないんだ。たのむから、おとなしくしててくれ』
『わかってるけど。でも、気になるよ。なんで、ガネンの村を襲った白装束がグランドールの地下に? グランドールで何をするつもりだったの?』
ティトは鼻から息を吐いた。
『イーア。おれの言ったこと、聞いてたか? あいつらには近づくな』
『……うん。おとなしくしてます』
イーアが素直にそう言うと、ティトは少し考えこんでから、つぶやくように言った。
『あいつらは、何かを集めているんだ。たぶん、ろくでもないことのために。ガネンの森を襲ったのも、きっと、そのためだ』
イーアは以前ティトから聞いた話のことを思い出した。
『みんなが古くから大事にしてきた石のこと?』
白装束の魔導士たちは、ガネンの森からその石を奪っていった。たぶん、その石がガネンの森を襲った目的だったのだろう。
『ああ。昔、イーアのじいちゃんに聞いたことがある。じいちゃんが、「あれは、大昔からガネンの民がずっと大事にしているものだ」っていうから、おれは、「そんなにすごい力をもつ石なのか?」って聞いたんだ。そしたら、じいちゃんは言っていた。「ここにある欠片だけでは何の力も持たないが、集めれば恐ろしいことになる。だから、絶対に守らなければいけない」って』
『じゃあ、その石は何かの欠片で、他の場所にもあるってこと? じゃあ、白装束たちは、その欠片を集めているの? それがグランドールの地下にもあるの?』
『かもな』
イーアは周囲を見渡した。ここはガネンの森だけど、イーアはよく知らない場所だった。
ガネンの森にはまだイーアが知らない場所がある。
『その石って、どこにあったの? 村の中ではないよね? わたしは知らないもん』
『村からは遠い。ここからなら近い。行ってみるか?』
ティトは立ち上がろうとして、小川の中に崩れ落ちた。
『ティト、無理しないで。わたし一人で行ってくるから』
ティトは小さくため息をつき、近くに漂っていたホムホムにささやいた。
『イーアをチルランのたまり場に連れていってくれ』
ホムホムがイーアを案内するように、ふよふよと動き出した。
イーアの肩に、ラプラプが一匹とまった。行き先を照らしだしてくれるように。
『いっしょに行ってくれるの? ありがとう』
イーアはホムホムの後をついて、暗い木立の間へ向かって歩いて行った。
ティトのことが心配だった。
ガネンの森に戻ったティトが無事なのか、イーアは確認したかった。
『友契の書』のオクスバーンとラシュトのページは全体が灰色に変色している。たぶん、今は呼びだせないという意味だ。
(どうしよう……)
イーアは、『友契の書』に手を置いたまま考えた。
(わたしがティトのところに行くことはできるかな?)
召喚の逆。
そんなこと、見たことも聞いたこともない。普通はできるはずがない。
でも、なんとなく、できる気がした。
イーアとティトはガネンの民のしきたりで魂を分け合っているらしい。だから、召喚しなくてもティトは自力でイーアのところにこられる。
だったら、イーアにだってできそうだ。でも、やり方がわからない。イーアは転移魔法は使えないから、自力では移動できない。
イーアは『友契の書』にたずねた。
『友契の書、わたしをティトのところに移動できる? 召喚の逆。逆召喚みたいなこと』
『友契の書』からは、落ち着いた声が淡々とかえってきた。
『逆召喚……過去に事例はありません。通常、召喚士を召喚獣の生息地へと転移することはできません。しかし、当該のラシュトとは特殊な契約状態にあるため、召喚獣のもとに転移が可能か計測検討してみます。これにはしばらく時間がかかります』
『お願い』
イーアは部屋の中でじっと待った。
しばらくして、『友契の書』から再び声が聞こえた。
『現在、契約中のラシュトのもとを訪れることが可能です。場所はガネンの森です。召喚士の魔力を消費するため、滞在時間は限られます。また、逆召喚とやらの実行中は、召喚を行うことはできません』
イーアはすぐに頼んだ。
『わかった。わたしをティトのところに連れて行って』
『では、転移を行います』
イーアは一瞬、自分がぐにゃりと曲がったような気色の悪い感覚をおぼえた。
次の瞬間、周囲の景色が変わっていた。
イーアが立っていたのは、自分の部屋の中ではなく、ふわふわしたホムホムがたくさん漂う、川辺の草原だった。
すっかり日は暮れた後だったけど、数匹のラプラプが周囲を飛んでいて、そのあかりが辺りを照らしだすおかげで近くの景色がわかった。
すぐ近くには月明りをキラキラと反射する小川が流れていた。
その小川のほとりに、ホムホムに囲まれティトが寝ていた。
ティトはぐったりと半身を小川に沈めたままふせっている。
『ティト!』
ティトは耳だけ、イーアの方に動かした。
『ティト、大丈夫?』
イーアはティトのそばに駆け寄った。
ティトの傷口からの出血はとまっていた。だけど、ティトの肩には大きな赤い傷がいたいたしく盛り上がっていた。
『いたそう……』
イーアが思わずそうつぶやくと、ティトは低い声で言った。
『これくらい、だいじょうぶだ』
『なにか、薬をもってくる?』
『いらない。この小川が回復してくれる。ここはガネンの森の中でも特別な場所。治癒の小川って呼んでいるところだ。ここにいるだけで、ケガから回復できるんだ』
そう言いながらも、ティトは苦しそうだった。
『ごめんね。わたしのせいで』
ティトは小さくうなった。
『まったくだ。おれのケガはどうでもいいけど。白装束に見つかっちゃったじゃないか。ガネンの民の生き残りがいることがバレてしまうかもしれない』
『うん……』
イーアも、そのことは心配だった。
ティトはしょぼしょぼとまばたきしながら言った。
『あいつは、ガネンの森を襲った奴ではなかったけど……』
『ガネンの森を襲った白装束じゃないって、わかるの?』
イーアがたずねると、ティトは考えながら言った。
『ガネンの森を襲ったやつらの中に召喚士はいなかった。それに、ワイヒルトを連れ歩いてるようなやつがいれば、絶対におぼえてる。あんなやつ、絶対、いなかった』
イーアも、なんとなくザヒはガネンの森を襲った魔導士ではない気がしていた。
グランドールの地下で戦った時、ザヒはイーアやティトを特別視していなかった。ティトのことはただの霊獣だと思ったみたいだった。イーアのことも、ただの南方出身のグランドール生だとしか思っていないみたいだった。
ティトがそういうなら、ザヒはあの時ガネンの森にはいなかったのだろう。
だから、ザヒはガネンの民のこともラシュトのことも知らず、何にも気がついていない……と思いたい。
『でも、ザヒの服は同じ白装束だったよね?』
イーアがたずねると、ティトは低い声でうなるように言った。
『ああ。やつらの一味にはちがいない。あいつら、いっぱいいるんだろ』
『何者なんだろう。あの白装束』
イーアがつぶやくと、ティトは深くため息をついた。
『探ろうなんてするなよ? おれはしばらく戦えないんだ。たのむから、おとなしくしててくれ』
『わかってるけど。でも、気になるよ。なんで、ガネンの村を襲った白装束がグランドールの地下に? グランドールで何をするつもりだったの?』
ティトは鼻から息を吐いた。
『イーア。おれの言ったこと、聞いてたか? あいつらには近づくな』
『……うん。おとなしくしてます』
イーアが素直にそう言うと、ティトは少し考えこんでから、つぶやくように言った。
『あいつらは、何かを集めているんだ。たぶん、ろくでもないことのために。ガネンの森を襲ったのも、きっと、そのためだ』
イーアは以前ティトから聞いた話のことを思い出した。
『みんなが古くから大事にしてきた石のこと?』
白装束の魔導士たちは、ガネンの森からその石を奪っていった。たぶん、その石がガネンの森を襲った目的だったのだろう。
『ああ。昔、イーアのじいちゃんに聞いたことがある。じいちゃんが、「あれは、大昔からガネンの民がずっと大事にしているものだ」っていうから、おれは、「そんなにすごい力をもつ石なのか?」って聞いたんだ。そしたら、じいちゃんは言っていた。「ここにある欠片だけでは何の力も持たないが、集めれば恐ろしいことになる。だから、絶対に守らなければいけない」って』
『じゃあ、その石は何かの欠片で、他の場所にもあるってこと? じゃあ、白装束たちは、その欠片を集めているの? それがグランドールの地下にもあるの?』
『かもな』
イーアは周囲を見渡した。ここはガネンの森だけど、イーアはよく知らない場所だった。
ガネンの森にはまだイーアが知らない場所がある。
『その石って、どこにあったの? 村の中ではないよね? わたしは知らないもん』
『村からは遠い。ここからなら近い。行ってみるか?』
ティトは立ち上がろうとして、小川の中に崩れ落ちた。
『ティト、無理しないで。わたし一人で行ってくるから』
ティトは小さくため息をつき、近くに漂っていたホムホムにささやいた。
『イーアをチルランのたまり場に連れていってくれ』
ホムホムがイーアを案内するように、ふよふよと動き出した。
イーアの肩に、ラプラプが一匹とまった。行き先を照らしだしてくれるように。
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