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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第58話 双頭の狼
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開いた巨大な扉の向こうから、巨大な狼がとびだしてきた。
ただの狼じゃない。
その巨大な狼には、頭がふたつあった。
双頭の狼の体は馬車のように大きく、胴体は一つで足は4つだけど、頭と尻尾は2つあった。
体の半分が赤い毛並みで、もう半分は青みを帯びた色だ。
半開きの口からは鋭い牙がのぞいていて、そして、赤い頭の口からは赤い炎が、もう片方の青い頭の口からは、白い煙がもれでている。
双頭の狼の二つの口から唸り声がとどろいた。
『侵入者!』
とどろく声にダメージを受けたように、双頭の狼に一番近い位置にいたオッペンが地面にへたりこんだ。
オッペンの悲鳴のような声が響いた。
「か、体が動かねぇ!」
ユウリは杖を取り出しながらオッペンの方へ走り、イーアは『友契の書』を取り出しながら、精霊語で双頭の狼に話しかけた。
『狼さん、怒らないで! すぐに帰るから!』
狼の二つの頭が、ほとんど同時にほえた。
『侵入者は通さない!』『侵入者は許さない!』
双頭の狼は興奮した様子で、話が通じそうになかった。
狼の口からもれでる炎が大きくなっていく。そして、激しく燃えさかる炎の塊がはきだされ、へたりこんだままのオッペンめがけて炎塊が飛んでいった。
「<水壁>!」
間一髪、ユウリがオッペンの前に出現させた水の壁が炎塊をさえぎり、オッペンは黒こげにならずにすんだ。
ユウリがオッペンの傍にかけよりながら叫んだ。
「ぼくがせきとめる。早く逃げろ!」
だけど、その時すでに双頭の狼はオッペンに向かって突進していた。
狼の赤い頭は炎を吐き、青い頭はオッペンにかみつこうと大口をあけている。
ユウリが狼より一瞬先にオッペンをつかみ、移動魔法で横によけた。
双頭の狼の爪と牙は空を切り、狼の2つの頭が悔しそうにうなり声をあげた。
だけど、オッペンの右足は凍りついていた。青い頭の攻撃は、かすっただけでも凍らせてしまうみたいだ。
ユウリは負傷はしていない。だけど、ローブが炎で焼けこげている。
「チクショウ! こおっちまった!」
オッペンは凍りついた靴を脱ごうとしたけれど、脱ぐことはできなかった。あの足じゃ、たぶんオッペンは走って逃げることはできない。
双頭の狼はすぐに向きを変え、ユウリ達に向かって炎の弾を吐いた。
ユウリはすぐさま呪文を唱え、狼の放った炎の塊に向けて、大きな水塊をとばした。
水と炎が相殺されて空中で消えた。
ユウリの自然魔法はまた一段と上達している。
だけど、ユウリはオッペンを守るのでせいいっぱいだ。
加勢をするため、イーアは大風船魚を呼んだ。
『ドプープク! あの狼を気絶させて!』
出現した2匹のドプープクは、怒ったような顔でふくれあがりながら、双頭の狼に向かって飛んでいった。
青い狼の頭が、飛んでくるドプープクにかみつき、かみつかれたドプープクは激しい音とともに破裂した。
でも、実はこの破裂が、ドプープクの攻撃だ。
ドプープクは破裂して近くにいる者を気絶させる。
ドプープクの破裂の直撃を受けて、双頭の狼の青い頭は気絶した。
でも、もう一つの、炎を吐く赤い頭は意識を失っていない。
赤い頭が炎のブレスを吐き、残りのドプープクが炎に飲まれて姿を消した。
双頭の狼は気絶してぐにゃりとたれさがった青い頭をぶらさげたまま、ふたたびオッペンに向かって突進していった。
ユウリが「伏せろ!」とオッペンに叫んでから、杖を持った手を双頭の狼に向け叫んだ。
「<吹き飛ばせ、爆裂爆風>」
巨大な狼の体が吹き飛ばされて空中を舞い、同時に、ユウリの体も反対側に飛んでいった。
吹き飛ばされた双頭の狼は、そくざに態勢を立て直した。でも、その時にはユウリは床に転がったまま追撃の魔法を唱えていた。
「<切り裂け、空裂波>」
空中を切り裂くような風魔法の攻撃が双頭の狼にむかっていくつも飛んでいき、双頭の狼の毛先をわずかに切り裂いた
だけど、双頭の狼はダメージは受けずにその攻撃をよけ、そして、ふたたびオッペンの方へと突進していった。
「オッペン!」
逃げられないと悟ったオッペンは自分に防御魔法をかけながら、体を小さく丸めた。
でも、オッペンの防御魔法で、あの双頭の狼の攻撃を耐えるのは無茶だ。
オッペンは骨までかみ砕かれてしまうだろう。
双頭の狼が大きな口でオッペンの頭に噛みつこうとした時。
少し前にイーアが呼んでいたオクスバーンの巨大な影があらわれ、振りまわした大枝が双頭の狼の赤い頭をぶっとばした。
双頭の狼はよろめき情けない声で鳴き、オクスバーンの追撃がとんでくる前に後方に大きくとびずさった。
『ありがとう、オクスバーン! このままオッペンを守って!』
オクスバーンは長い枝でオッペンをつかんでもちあげて、自分の枝の上に乗っけた。
これで、オッペンのことは一安心だ。
双頭の狼が少し離れたところで咆哮をあげた。
今は、さっきまで気絶していた青い頭の方も意識をとりもどしている。
『あの獣はタフそうじゃのう』
オクスバーンはそうつぶやいた。
『うん』
イーアは冷静に状況を判断していた。
ユウリもいるから、なんとかあの双頭の狼を倒せるかもしれない。だけど、その戦いは不確実で、危険だ。
それに、そもそもあの狼を倒す必要がない。
イーアはオクスバーンの枝の上にあがりながら、ユウリに声をかけた。
「ユウリ、オクスバーンに投げてもらって距離をとれば、たぶん、ペテラピに乗って逃げられるよ」
オクスバーンに双頭の狼の足止めをしてもらって、ペテラピのフモシーに全速力で走ってもらえば、逃げ切れるだろう。
ところが、その時、予想外のことが起きた。
きしんだ音をたてて、奥にある巨大な扉が閉まっていく。
双頭の狼のふたつの顔が、閉まっていく大扉のほうを見て叫んだ。
『まさか!』『侵入者!?』
双頭の狼は巨大な扉に向かって突進していった。だけど、狼が戻った時には巨大な扉はすでに閉まっていて、双頭の狼は閉じた扉にぶつかってはね返された。
『侵入者!』『侵入者!』
双頭の狼が扉に向かってしきりに吠えている。
誰かがあの扉のむこうに侵入したみたいだった。
「ユウリとオッペンは先に逃げてて。狼さんとお話してくる」
イーアがそう言うとユウリがぎょっとしたように叫んだ。
「無茶だよ!」
「だいじょうぶ。たぶん、今は話せる」
双頭の狼はさっきまでの興奮状態とはうってかわって、二つの頭も尻尾も地面にむかって垂れ下がっていて、見るからにしょんぼりした姿で、扉の前に座っていた。
双頭の狼の二つの頭は、交互になげいていた。
『あぁ……侵入者、侵入……』『うぅ……任務、失敗……』
イーアは声をかけた。
『だいじょうぶ?』
『オレ、もう、イヤ……』『オレ、家、帰りたい……』
さっきまでは狂暴な魔獣みたいに見えたけれど、今はすっかりただのかわいそうな犬みたいだ。……体は巨大で顔はふたつあるけれど。
『お家って、扉の向こう? 帰れなくなっちゃったの?』
狼はうなだれたまま、悲しそうな声で交互に言った。
『家はここじゃない……』『家は海のそば……』
『オレ、帰りたい……』『でも、帰れない……』
『海のそば?』
グランドールの近くに海はない。
『遠くから来たの? どうしてここに?』
『召喚士、オレを呼んだ』『召喚士、死んだ』
『オレ、帰れなくなった』『それから、ずっとここ』
どうやらこの双頭の狼は、もとは召喚獣としてここに召喚されたらしい。
召喚士が死んだら、普通、召喚獣は元の世界に帰るけれど、魔道具が壊れていると元の世界に戻れないことがある。という話を、イーアはオレン先生の授業で聞いたことがあった。
双頭の狼は交互につぶやくように言った。
『モルドー様、敵だったのに、オレを助けてくれた』『モルドー様、とってもえらい。だからオレ、モルドー様のために働く』
双頭の狼は、召喚士が死んだ後、助けてくれたモルドーのために働くことにしたらしい。
モンペルもモルドーのことを尊敬しているみたいだったし、きっとモルドーは立派なドラゴンなんだろう。
『でも、オレ、失敗ばっか』『うぅ、オレ、ダメなやつ』
『もう、帰りたい……』『あぁ、もう一度、海の音を聞きたい』
『でも、帰れない……』『うぅ、もう一度、魚食べたい』
すっかり意気消沈した双頭の狼は、なげきながら力なく地面に伏せた。
イーアは『友契の書』にたずねた。
『友契の書。この子を家に帰らせることってできる?』
『友契の書』から、いつものように淡々とした声が聞こえた。
『通常は無理です。召喚契約書があれば、あるいは可能かもしれませんが』
『召喚契約書……? 狼さん、その召喚士ってどこで死んだの?』
双頭の狼は伏せったまま、やる気なくぼそりと言った。
『この辺。どこか』『忘れた。あいつ、嫌い』
双頭の狼を召喚した召喚士がこの辺りで死んだなら、双頭の狼の<召喚契約書>は近くにあるかもしれない。
『アプタン、お願い。この辺に、本や死体がないか探して』
イーアが呼ぶと、アプタンが数人あらわれ、猛スピードで辺りをかけめぐった。
すぐに、アプタンたちは、壁ぎわでとびはねながら『あったよー!』『うわぁ、巨人のガイコツだぁ!』と叫んだ。
イーアはお礼を言って声が聞こえた方へ走った。
壁の近くに、大きな岩がたくさん転がっていた。
そして、その岩の影に人骨があった。布や靴の残骸も残っている。
イーアは近くに召喚の道具がないか探した。
すこし離れた岩の上に、きらりと光る召喚具が見えた。
金属製の召喚具が表紙に装着された<契約の書>だ。
イーアはかけより、<契約の書>を手に取ろうとした。
だけど、その<契約の書>は、ほとんど朽ち果てていた。
イーアがふれると表紙の革はぼろぼろと崩れ落ち、折れ曲がった金属製の召喚具が下に落ちていった。
中に束ねられていた<召喚契約書>も大部分がすでにボロボロになっている。いまにも粉々になって消えてしまいそうだ。
『友契の書。召喚契約書がボロボロで、くずれそう。どうすればいい?』
『上に本書をおいてください』
イーアは言われた通り、『友契の書』を<召喚契約書>の束の上に置いた。
『どう?』
『かろうじて情報を読み取れます。双頭の炎氷狼オルゾロ……生息地エルテア島……』
『友契の書』はしばらくブツブツ言っていた。そして、最後に言った。
『必要な情報の複写が完了しました。召喚士イーアとの契約が成立すれば、オルゾロをエルテア島に戻すことが可能です』
『よかった。狼さん、お家に帰れるって!』
イーアが狼の所に戻りながらそう叫ぶと、双頭の狼オルゾロはふたつの顔をあげた。
『友契の書』の冷静な声が聞こえた。
『双頭の炎氷狼オルゾロ。召喚士イーアとウェルグァンダルの召喚契約を結びますか? 契約を結べば帰還可能です。この契約はいつでも破棄可能です。契約条項の改訂もいつでも行えます。召喚契約の詳細はこれから……』
オルゾロは最後まで聞かずにほえるように言った。
『契約する! 契約する!』
『友契の書』はイーアにたずねた。
『召喚士イーア、オルゾロを生息地へ帰しますか? これには通常召喚の倍以上の魔力を消費します』
『うん。帰らせてあげて』
イーアがそう言った次の瞬間、大きな双頭の狼の姿が、目の前から消えた。
ただの狼じゃない。
その巨大な狼には、頭がふたつあった。
双頭の狼の体は馬車のように大きく、胴体は一つで足は4つだけど、頭と尻尾は2つあった。
体の半分が赤い毛並みで、もう半分は青みを帯びた色だ。
半開きの口からは鋭い牙がのぞいていて、そして、赤い頭の口からは赤い炎が、もう片方の青い頭の口からは、白い煙がもれでている。
双頭の狼の二つの口から唸り声がとどろいた。
『侵入者!』
とどろく声にダメージを受けたように、双頭の狼に一番近い位置にいたオッペンが地面にへたりこんだ。
オッペンの悲鳴のような声が響いた。
「か、体が動かねぇ!」
ユウリは杖を取り出しながらオッペンの方へ走り、イーアは『友契の書』を取り出しながら、精霊語で双頭の狼に話しかけた。
『狼さん、怒らないで! すぐに帰るから!』
狼の二つの頭が、ほとんど同時にほえた。
『侵入者は通さない!』『侵入者は許さない!』
双頭の狼は興奮した様子で、話が通じそうになかった。
狼の口からもれでる炎が大きくなっていく。そして、激しく燃えさかる炎の塊がはきだされ、へたりこんだままのオッペンめがけて炎塊が飛んでいった。
「<水壁>!」
間一髪、ユウリがオッペンの前に出現させた水の壁が炎塊をさえぎり、オッペンは黒こげにならずにすんだ。
ユウリがオッペンの傍にかけよりながら叫んだ。
「ぼくがせきとめる。早く逃げろ!」
だけど、その時すでに双頭の狼はオッペンに向かって突進していた。
狼の赤い頭は炎を吐き、青い頭はオッペンにかみつこうと大口をあけている。
ユウリが狼より一瞬先にオッペンをつかみ、移動魔法で横によけた。
双頭の狼の爪と牙は空を切り、狼の2つの頭が悔しそうにうなり声をあげた。
だけど、オッペンの右足は凍りついていた。青い頭の攻撃は、かすっただけでも凍らせてしまうみたいだ。
ユウリは負傷はしていない。だけど、ローブが炎で焼けこげている。
「チクショウ! こおっちまった!」
オッペンは凍りついた靴を脱ごうとしたけれど、脱ぐことはできなかった。あの足じゃ、たぶんオッペンは走って逃げることはできない。
双頭の狼はすぐに向きを変え、ユウリ達に向かって炎の弾を吐いた。
ユウリはすぐさま呪文を唱え、狼の放った炎の塊に向けて、大きな水塊をとばした。
水と炎が相殺されて空中で消えた。
ユウリの自然魔法はまた一段と上達している。
だけど、ユウリはオッペンを守るのでせいいっぱいだ。
加勢をするため、イーアは大風船魚を呼んだ。
『ドプープク! あの狼を気絶させて!』
出現した2匹のドプープクは、怒ったような顔でふくれあがりながら、双頭の狼に向かって飛んでいった。
青い狼の頭が、飛んでくるドプープクにかみつき、かみつかれたドプープクは激しい音とともに破裂した。
でも、実はこの破裂が、ドプープクの攻撃だ。
ドプープクは破裂して近くにいる者を気絶させる。
ドプープクの破裂の直撃を受けて、双頭の狼の青い頭は気絶した。
でも、もう一つの、炎を吐く赤い頭は意識を失っていない。
赤い頭が炎のブレスを吐き、残りのドプープクが炎に飲まれて姿を消した。
双頭の狼は気絶してぐにゃりとたれさがった青い頭をぶらさげたまま、ふたたびオッペンに向かって突進していった。
ユウリが「伏せろ!」とオッペンに叫んでから、杖を持った手を双頭の狼に向け叫んだ。
「<吹き飛ばせ、爆裂爆風>」
巨大な狼の体が吹き飛ばされて空中を舞い、同時に、ユウリの体も反対側に飛んでいった。
吹き飛ばされた双頭の狼は、そくざに態勢を立て直した。でも、その時にはユウリは床に転がったまま追撃の魔法を唱えていた。
「<切り裂け、空裂波>」
空中を切り裂くような風魔法の攻撃が双頭の狼にむかっていくつも飛んでいき、双頭の狼の毛先をわずかに切り裂いた
だけど、双頭の狼はダメージは受けずにその攻撃をよけ、そして、ふたたびオッペンの方へと突進していった。
「オッペン!」
逃げられないと悟ったオッペンは自分に防御魔法をかけながら、体を小さく丸めた。
でも、オッペンの防御魔法で、あの双頭の狼の攻撃を耐えるのは無茶だ。
オッペンは骨までかみ砕かれてしまうだろう。
双頭の狼が大きな口でオッペンの頭に噛みつこうとした時。
少し前にイーアが呼んでいたオクスバーンの巨大な影があらわれ、振りまわした大枝が双頭の狼の赤い頭をぶっとばした。
双頭の狼はよろめき情けない声で鳴き、オクスバーンの追撃がとんでくる前に後方に大きくとびずさった。
『ありがとう、オクスバーン! このままオッペンを守って!』
オクスバーンは長い枝でオッペンをつかんでもちあげて、自分の枝の上に乗っけた。
これで、オッペンのことは一安心だ。
双頭の狼が少し離れたところで咆哮をあげた。
今は、さっきまで気絶していた青い頭の方も意識をとりもどしている。
『あの獣はタフそうじゃのう』
オクスバーンはそうつぶやいた。
『うん』
イーアは冷静に状況を判断していた。
ユウリもいるから、なんとかあの双頭の狼を倒せるかもしれない。だけど、その戦いは不確実で、危険だ。
それに、そもそもあの狼を倒す必要がない。
イーアはオクスバーンの枝の上にあがりながら、ユウリに声をかけた。
「ユウリ、オクスバーンに投げてもらって距離をとれば、たぶん、ペテラピに乗って逃げられるよ」
オクスバーンに双頭の狼の足止めをしてもらって、ペテラピのフモシーに全速力で走ってもらえば、逃げ切れるだろう。
ところが、その時、予想外のことが起きた。
きしんだ音をたてて、奥にある巨大な扉が閉まっていく。
双頭の狼のふたつの顔が、閉まっていく大扉のほうを見て叫んだ。
『まさか!』『侵入者!?』
双頭の狼は巨大な扉に向かって突進していった。だけど、狼が戻った時には巨大な扉はすでに閉まっていて、双頭の狼は閉じた扉にぶつかってはね返された。
『侵入者!』『侵入者!』
双頭の狼が扉に向かってしきりに吠えている。
誰かがあの扉のむこうに侵入したみたいだった。
「ユウリとオッペンは先に逃げてて。狼さんとお話してくる」
イーアがそう言うとユウリがぎょっとしたように叫んだ。
「無茶だよ!」
「だいじょうぶ。たぶん、今は話せる」
双頭の狼はさっきまでの興奮状態とはうってかわって、二つの頭も尻尾も地面にむかって垂れ下がっていて、見るからにしょんぼりした姿で、扉の前に座っていた。
双頭の狼の二つの頭は、交互になげいていた。
『あぁ……侵入者、侵入……』『うぅ……任務、失敗……』
イーアは声をかけた。
『だいじょうぶ?』
『オレ、もう、イヤ……』『オレ、家、帰りたい……』
さっきまでは狂暴な魔獣みたいに見えたけれど、今はすっかりただのかわいそうな犬みたいだ。……体は巨大で顔はふたつあるけれど。
『お家って、扉の向こう? 帰れなくなっちゃったの?』
狼はうなだれたまま、悲しそうな声で交互に言った。
『家はここじゃない……』『家は海のそば……』
『オレ、帰りたい……』『でも、帰れない……』
『海のそば?』
グランドールの近くに海はない。
『遠くから来たの? どうしてここに?』
『召喚士、オレを呼んだ』『召喚士、死んだ』
『オレ、帰れなくなった』『それから、ずっとここ』
どうやらこの双頭の狼は、もとは召喚獣としてここに召喚されたらしい。
召喚士が死んだら、普通、召喚獣は元の世界に帰るけれど、魔道具が壊れていると元の世界に戻れないことがある。という話を、イーアはオレン先生の授業で聞いたことがあった。
双頭の狼は交互につぶやくように言った。
『モルドー様、敵だったのに、オレを助けてくれた』『モルドー様、とってもえらい。だからオレ、モルドー様のために働く』
双頭の狼は、召喚士が死んだ後、助けてくれたモルドーのために働くことにしたらしい。
モンペルもモルドーのことを尊敬しているみたいだったし、きっとモルドーは立派なドラゴンなんだろう。
『でも、オレ、失敗ばっか』『うぅ、オレ、ダメなやつ』
『もう、帰りたい……』『あぁ、もう一度、海の音を聞きたい』
『でも、帰れない……』『うぅ、もう一度、魚食べたい』
すっかり意気消沈した双頭の狼は、なげきながら力なく地面に伏せた。
イーアは『友契の書』にたずねた。
『友契の書。この子を家に帰らせることってできる?』
『友契の書』から、いつものように淡々とした声が聞こえた。
『通常は無理です。召喚契約書があれば、あるいは可能かもしれませんが』
『召喚契約書……? 狼さん、その召喚士ってどこで死んだの?』
双頭の狼は伏せったまま、やる気なくぼそりと言った。
『この辺。どこか』『忘れた。あいつ、嫌い』
双頭の狼を召喚した召喚士がこの辺りで死んだなら、双頭の狼の<召喚契約書>は近くにあるかもしれない。
『アプタン、お願い。この辺に、本や死体がないか探して』
イーアが呼ぶと、アプタンが数人あらわれ、猛スピードで辺りをかけめぐった。
すぐに、アプタンたちは、壁ぎわでとびはねながら『あったよー!』『うわぁ、巨人のガイコツだぁ!』と叫んだ。
イーアはお礼を言って声が聞こえた方へ走った。
壁の近くに、大きな岩がたくさん転がっていた。
そして、その岩の影に人骨があった。布や靴の残骸も残っている。
イーアは近くに召喚の道具がないか探した。
すこし離れた岩の上に、きらりと光る召喚具が見えた。
金属製の召喚具が表紙に装着された<契約の書>だ。
イーアはかけより、<契約の書>を手に取ろうとした。
だけど、その<契約の書>は、ほとんど朽ち果てていた。
イーアがふれると表紙の革はぼろぼろと崩れ落ち、折れ曲がった金属製の召喚具が下に落ちていった。
中に束ねられていた<召喚契約書>も大部分がすでにボロボロになっている。いまにも粉々になって消えてしまいそうだ。
『友契の書。召喚契約書がボロボロで、くずれそう。どうすればいい?』
『上に本書をおいてください』
イーアは言われた通り、『友契の書』を<召喚契約書>の束の上に置いた。
『どう?』
『かろうじて情報を読み取れます。双頭の炎氷狼オルゾロ……生息地エルテア島……』
『友契の書』はしばらくブツブツ言っていた。そして、最後に言った。
『必要な情報の複写が完了しました。召喚士イーアとの契約が成立すれば、オルゾロをエルテア島に戻すことが可能です』
『よかった。狼さん、お家に帰れるって!』
イーアが狼の所に戻りながらそう叫ぶと、双頭の狼オルゾロはふたつの顔をあげた。
『友契の書』の冷静な声が聞こえた。
『双頭の炎氷狼オルゾロ。召喚士イーアとウェルグァンダルの召喚契約を結びますか? 契約を結べば帰還可能です。この契約はいつでも破棄可能です。契約条項の改訂もいつでも行えます。召喚契約の詳細はこれから……』
オルゾロは最後まで聞かずにほえるように言った。
『契約する! 契約する!』
『友契の書』はイーアにたずねた。
『召喚士イーア、オルゾロを生息地へ帰しますか? これには通常召喚の倍以上の魔力を消費します』
『うん。帰らせてあげて』
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いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
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川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
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アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
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