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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第64話 補習命令
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イーアは不安を抱えたまま、ガリとゲオの話が終わるのを食堂でリグナムといっしょに待つことになった。
「はぁ~。どうなっちゃうんだろ~。退学になったら困るよ~」
イーアがなげいてため息をつくと、リグナムはいつもの明るい調子で言った。
「悩んでも仕方ないって。そんなことより、僕、クーちゃん特製アイスが食べたいんだよ。冬に暖かい部屋で食べるアイスって最高だよね。君、かわりに注文してくれない? 僕がクーちゃんにアイスを頼むと、なぜかピラフが出てくるんだよ」
「いいですよー」
リグナムの精霊語はあいかわらずひどいらしい。
イーアはキッチンに行って、クーちゃんに頼んだ。
『クーちゃん、アイスちょうだい』
『おう。アイスなら、そこのヒューラックボックスに入ってるぜ。ほら、どれが食いてぇんだ?』
クーちゃんは『ヒューラックボックス』という箱の扉を開けて、イーアに中を見せた。
中にはいくつかアイスのケースらしきものが入っていた。
だけど、それより、イーアが気になったのは、アイスのケースの間にいる、なんか、もふっとしていて丸いものだ。
丸くて白い顔に、黒くてまん丸のおめめがふたつある。そのつぶらな瞳が、ボックスの中からイーアをみつめていた。
『この子、だれ?』
『ヒュー?』
丸くてふわふわしてもふっとしたものは、そんなかわいらしい鳴き声をあげた。
クーちゃんは説明してくれた。
『ヒューラックだ。箱の中のものを凍らせてくれてんだ。……まさか、ヒューラックを食べてぇのか?』
クーちゃんはぎょっとした顔でそうたずね、イーアは叫んだ。
『食べないよ!』
クーちゃんはうなずきながら言った。
『おう。よしといたほうがいいぜ。ヒューラックはどう料理してもうまくできそうにねぇ。熱を加えると、消えちまうんだからな』
『料理しちゃだめだよ! お友達になりたいだけだよ』
『ヒュー?』
ヒューラックは丸い目をぱちくりして、短くてちっちゃい、ヒレみたいな手を前に出した。
イーアはヒューラックの手をつかんで握手をした。ヒューラックはふわふわした見た目だけど、触れるとひんやり冷たかった。
クーちゃんは翼をばたつかせて、せっかちに言った。
『ほら、アイスはどれにするんだ? 剛力牛のミルクアイス、魔苺アイス、ノコギリパインのシャーベット……』
どれもおいしそうで迷ってしまうから、イーアはとりあえず最初のふたつをもらうことにした。
『じゃ、ミルクとイチゴちょうだい』
『よし、ダブルだな』
『うん。リグナムの分もね』
イーアがそういうと、クーちゃんは不思議そうに目をぱちぱちさせた。
『あいつアイスなんて食うのか? おやつの時間にも、いつもご飯ものや焼き魚を注文するぜ?』
『それは、リグナムの言いまちがいだよ。今度から、おやつの時間には甘いものをあげといて。リグナムって甘い物好きだから』
イーアはアイスを二人分もらって、食堂に戻った。
アイスを一口食べた瞬間、おいしすぎて、イーアは一瞬すべてを忘れた。
「このアイス、おいしー! こんなにおいしいアイスが食べられるなんて幸せー……」
でも、そこで、イーアは思い出した。
「……けど、退学させられたら、どうしよう~!」
リグナムはスプーンをくわえて唸った。
「ん-。これこれ、クーちゃんのアイス。真冬でもやっぱり食べたくなっちゃうんだよねー……退学? それはないよ。だって、退学させたら君をウェルグァンダルで指導しないといけないじゃない。ガリにそんな暇はないよ」
「あ、そっか」
そんな感じで安心してアイスを食べて幸せな気分になっていると、食堂にガリとゲオがやってきた。
ガリはつかつかと歩いてくると、イーアの前に成績表を置き、たずねた。
『どうしたらこんなに酷い成績ばかりがとれるんだ? なぜ、召喚術でさえ最高評価がとれない? おまえはグランドールで何をやっていたんだ?』
ガリの口調は怒っているというより、信じられない、というようだった。
リグナムの言う通り、ガリは天才すぎて、この成績が理解できないようだった。
『召喚術も知識が足りなくて、テストの点が悪くて……。テスト勉強、直前はがんばったんだけど、その前は、色々いそがしくて……。でも、来学期はもっとがんばる!』
言い訳をしても仕方がないので、イーアはやる気をみせることにしたけれど、ガリは冷たく言った。
『がんばってこれなら、もっとがんばったところで、たかが知れているだろう』
『はい……』
『年が明けたら、ここに来い。おまえの教育をゲオに頼んだ。休みが明けるまで、みっちり基本をしこんでもらえ』
『はい……』
ガリはそれだけ言って、ゲオと一緒に去って行った。
リグナムは、ガリがいなくなるとすぐに、うれしそうにポットとカップをもってキッチンから帰ってきた。
「クーちゃんがリラックスできる特製ハーブティーも用意してくれてたよー。アイスといっしょにあったかい飲み物ってのもいいよねー。あ、で、君はどうなった?」
「ゲオ先生の補習をうけることになりました」
イーアが暗い声で報告すると、リグナムはカップにハーブティーをそそぎながら、明るい声で言った。
「よかったじゃん。ゲオ先生に教えてもらえるなんて。ガリなんかより、ずっといい先生だよ。先代と次期塔主を争った実力者で、今、世界でもっとも多くの召喚獣と契約を結んでいる偉大な召喚士なんだ。ゲオ先生のプライベート・レッスンなんて、貴族や大金持ちが、ものすっごい大金を積んで頼んでるくらいなんだから。教えてもらえるなんて、むしろラッキーだよ」
その説明を聞くと、イーアも補習がありがたい話に思えてきた。無料で大先生の個人授業が受けられるのは、たしかにラッキーだ。
それに、これでアイスとハーブティーを思う存分たのしめる。
イーアはクーちゃん特製ハーブティーのカップを手に取った。不思議な匂いのお茶は、一口飲んだだけで、ほーっとリラックスできた。アイスと交互に口にすると、もう極楽気分だ。
おしゃべりなリグナムは、いつものように、そのまま早口にしゃべり続けていた。
「それに、人が増えるから僕もうれしいよ。近頃、誰もいないから独り言が増えちゃってさ。あーあ。僕の青春はすべてウェルグァンダルで失われたよ。実は塔主がガリになってから、やめようかって、僕、何度も考えたんだ。でも、僕がいないと、困るでしょ? だから、僕は優しいから、やめないであげてるんだよ。ガリにはもうちょっと感謝してほしいもんだよ」
なにかと使えないリグナムをクビにしないガリもやさしいような気がしたけど、イーアはアイスとハーブティーに夢中だったので何も言わなかった。
「はぁ~。どうなっちゃうんだろ~。退学になったら困るよ~」
イーアがなげいてため息をつくと、リグナムはいつもの明るい調子で言った。
「悩んでも仕方ないって。そんなことより、僕、クーちゃん特製アイスが食べたいんだよ。冬に暖かい部屋で食べるアイスって最高だよね。君、かわりに注文してくれない? 僕がクーちゃんにアイスを頼むと、なぜかピラフが出てくるんだよ」
「いいですよー」
リグナムの精霊語はあいかわらずひどいらしい。
イーアはキッチンに行って、クーちゃんに頼んだ。
『クーちゃん、アイスちょうだい』
『おう。アイスなら、そこのヒューラックボックスに入ってるぜ。ほら、どれが食いてぇんだ?』
クーちゃんは『ヒューラックボックス』という箱の扉を開けて、イーアに中を見せた。
中にはいくつかアイスのケースらしきものが入っていた。
だけど、それより、イーアが気になったのは、アイスのケースの間にいる、なんか、もふっとしていて丸いものだ。
丸くて白い顔に、黒くてまん丸のおめめがふたつある。そのつぶらな瞳が、ボックスの中からイーアをみつめていた。
『この子、だれ?』
『ヒュー?』
丸くてふわふわしてもふっとしたものは、そんなかわいらしい鳴き声をあげた。
クーちゃんは説明してくれた。
『ヒューラックだ。箱の中のものを凍らせてくれてんだ。……まさか、ヒューラックを食べてぇのか?』
クーちゃんはぎょっとした顔でそうたずね、イーアは叫んだ。
『食べないよ!』
クーちゃんはうなずきながら言った。
『おう。よしといたほうがいいぜ。ヒューラックはどう料理してもうまくできそうにねぇ。熱を加えると、消えちまうんだからな』
『料理しちゃだめだよ! お友達になりたいだけだよ』
『ヒュー?』
ヒューラックは丸い目をぱちくりして、短くてちっちゃい、ヒレみたいな手を前に出した。
イーアはヒューラックの手をつかんで握手をした。ヒューラックはふわふわした見た目だけど、触れるとひんやり冷たかった。
クーちゃんは翼をばたつかせて、せっかちに言った。
『ほら、アイスはどれにするんだ? 剛力牛のミルクアイス、魔苺アイス、ノコギリパインのシャーベット……』
どれもおいしそうで迷ってしまうから、イーアはとりあえず最初のふたつをもらうことにした。
『じゃ、ミルクとイチゴちょうだい』
『よし、ダブルだな』
『うん。リグナムの分もね』
イーアがそういうと、クーちゃんは不思議そうに目をぱちぱちさせた。
『あいつアイスなんて食うのか? おやつの時間にも、いつもご飯ものや焼き魚を注文するぜ?』
『それは、リグナムの言いまちがいだよ。今度から、おやつの時間には甘いものをあげといて。リグナムって甘い物好きだから』
イーアはアイスを二人分もらって、食堂に戻った。
アイスを一口食べた瞬間、おいしすぎて、イーアは一瞬すべてを忘れた。
「このアイス、おいしー! こんなにおいしいアイスが食べられるなんて幸せー……」
でも、そこで、イーアは思い出した。
「……けど、退学させられたら、どうしよう~!」
リグナムはスプーンをくわえて唸った。
「ん-。これこれ、クーちゃんのアイス。真冬でもやっぱり食べたくなっちゃうんだよねー……退学? それはないよ。だって、退学させたら君をウェルグァンダルで指導しないといけないじゃない。ガリにそんな暇はないよ」
「あ、そっか」
そんな感じで安心してアイスを食べて幸せな気分になっていると、食堂にガリとゲオがやってきた。
ガリはつかつかと歩いてくると、イーアの前に成績表を置き、たずねた。
『どうしたらこんなに酷い成績ばかりがとれるんだ? なぜ、召喚術でさえ最高評価がとれない? おまえはグランドールで何をやっていたんだ?』
ガリの口調は怒っているというより、信じられない、というようだった。
リグナムの言う通り、ガリは天才すぎて、この成績が理解できないようだった。
『召喚術も知識が足りなくて、テストの点が悪くて……。テスト勉強、直前はがんばったんだけど、その前は、色々いそがしくて……。でも、来学期はもっとがんばる!』
言い訳をしても仕方がないので、イーアはやる気をみせることにしたけれど、ガリは冷たく言った。
『がんばってこれなら、もっとがんばったところで、たかが知れているだろう』
『はい……』
『年が明けたら、ここに来い。おまえの教育をゲオに頼んだ。休みが明けるまで、みっちり基本をしこんでもらえ』
『はい……』
ガリはそれだけ言って、ゲオと一緒に去って行った。
リグナムは、ガリがいなくなるとすぐに、うれしそうにポットとカップをもってキッチンから帰ってきた。
「クーちゃんがリラックスできる特製ハーブティーも用意してくれてたよー。アイスといっしょにあったかい飲み物ってのもいいよねー。あ、で、君はどうなった?」
「ゲオ先生の補習をうけることになりました」
イーアが暗い声で報告すると、リグナムはカップにハーブティーをそそぎながら、明るい声で言った。
「よかったじゃん。ゲオ先生に教えてもらえるなんて。ガリなんかより、ずっといい先生だよ。先代と次期塔主を争った実力者で、今、世界でもっとも多くの召喚獣と契約を結んでいる偉大な召喚士なんだ。ゲオ先生のプライベート・レッスンなんて、貴族や大金持ちが、ものすっごい大金を積んで頼んでるくらいなんだから。教えてもらえるなんて、むしろラッキーだよ」
その説明を聞くと、イーアも補習がありがたい話に思えてきた。無料で大先生の個人授業が受けられるのは、たしかにラッキーだ。
それに、これでアイスとハーブティーを思う存分たのしめる。
イーアはクーちゃん特製ハーブティーのカップを手に取った。不思議な匂いのお茶は、一口飲んだだけで、ほーっとリラックスできた。アイスと交互に口にすると、もう極楽気分だ。
おしゃべりなリグナムは、いつものように、そのまま早口にしゃべり続けていた。
「それに、人が増えるから僕もうれしいよ。近頃、誰もいないから独り言が増えちゃってさ。あーあ。僕の青春はすべてウェルグァンダルで失われたよ。実は塔主がガリになってから、やめようかって、僕、何度も考えたんだ。でも、僕がいないと、困るでしょ? だから、僕は優しいから、やめないであげてるんだよ。ガリにはもうちょっと感謝してほしいもんだよ」
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