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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第71話 侵入者
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楽しかったパーティーは終わり、イーア達は着替えて馬車でグランドールに戻った。
イーアはゆかいな気分だったけど、ケイニスはずっと暗い表情で無言だ。
ケイニスは普段から無口で難しい顔をしているけど。今は特に険しい表情をしている気がする。
「ケイニス君。パーティー、つまんなかった?」
馬車から降りたところでイーアがたずねると、暗闇の中、ケイニスは暗い声で言った。
「俺は、後悔しているんだ」
「後悔?」
「ローレインと踊ったことを」
「なんで? ダンス、じょうずだったよ?」
ケイニスは暗い声で言った。
「俺が子どもの頃、あのお嬢様と遊んでいるのがバレたら、何が起こったと思う?」
「……なにが起こったの?」
「俺は親父にボコボコに殴られて、親父は、俺の代わりに、ローレインの父親に死ぬほどムチで打たれた。奴隷人種がお嬢様に近づくとはなんたることか、ってな。親父は3日は起き上がることすらできなかった。おまけに、ひどい減給処分で、あの年は家族全員、飢え死にしそうだった」
イーアは、以前ローレインが、ある日突然ケイニスがローレインを避けるようになった、と言っていたことを思い出した。どうやら、その出来事が理由だったようだ。
「俺と踊っていたことを、もし誰かがローレインの親に告げ口をしたら。俺の家族がどうなるかわからない」
「ごめん……。なにも知らないで」
イーアは無邪気にローレインの手助けをしたことを後悔した。
人が誰かと仲良くなることに、危険がともなうことがあるなんて、想像もしなかった。そんなこと、あるはずがないと思っていたのだ。
ケイニスは優しい表情になって言った。
「おまえのせいじゃない。何かあったとしても。ローレインの誘いを断れなかった俺がいけない。……いや、いけないのは、この帝国か。おまえも気をつけろ。正直、俺は、何も知らずに生きてこれたおまえがうらやましい。おまえとエルツが、うやましい。だけど、誰でも平等に扱ってもらえるグランドールは、特別な場所なんだ。一歩外にでれば、俺達はまともに人間扱いされない」
ケイニスはそう忠告するように言って、さきに学校へ戻っていった。
ケイニスが去って行ったあと、ユウリがぽつりとつぶやいた。
「ケイニスも、色々大変なんだな」
「そうだね。わたし、ナミンの家で育ってよかったよ。わたしがユウリと仲良くしてても誰も文句言わないもん」
「うん。ぼくも、今はそう思う。これでよかったのかもって。昔は、なんで誰もぼくを迎えにきてくれないんだろうって思ったこともあったけど。ナミンの家で育ったから、ぼくはイーアと会えたんだ。だから、きっとこれでよかったんだよ」
ユウリはそう言って笑顔を見せた。
イーアは思い出した。
ユウリのお母さんはユウリを生んですぐに死んでしまって、それで、大家さんか誰かが、ユウリを孤児院に預けたのだという。
本当はどこかにお父さんや親せきがいるかもしれない。なのに、誰も迎えにきてくれない。
ユウリはそう思って、ずっと家族に捨てられたように感じていたのかもしれない。
(わたしは……どうだろ……)
もしもガネンの民が白装束の魔導士に襲われることがなかったら、きっと、イーアは今もガネンの森で血のつながった家族といっしょに暮らしていただろう。
イーアがユウリやナミンの家のみんなと出会うことはなかった。
ユウリと出会うことすらなかったなんて、そんなのは嫌だ。
それでも……これでよかったとは、今のイーアには言えなかった。
寮に入ったところで、イーアは玄関ホールのところでマジーラ先生が一風変わった服装のおじさんと話しこんでいるのに気がついた。
イーア達に気がついて、マジーラ先生は呼んだ。
「ちょうどよかった。イーア、エルツ。ちょっと来てくれ」
「はい?」
最近は先生に呼び出されるようなことはしていないので、イーアは不思議に思いながらマジーラ先生のそばに近よった。
「ふたりとも。この方はマーカスのお父さんだ」
「マーカスの!?」
マーカスのお父さんはマーカスとは全然、雰囲気がちがう。頼りないけどやさしくて、お人よしそうな感じのおじさんだ。
マーカスのお父さんは、背はマジーラ先生より高いけどとてもやせていて、マジーラ先生の方が腕力は強そうだ。
それはそうと、マーカスのお父さんの顔は青ざめていた。
見るからに何かを心配していた。
マジーラ先生は言った。
「マーカスが、まだ家に帰っていないらしいんだ。おまえたちは仲がいいだろう? 何か知っていないか?」
ユウリは「別に仲はよくありません」と言いたそうな顔をしていたけど、イーアは心配になりながら答えた。
「マーカスは冬休みが始まってすぐ、家に帰ったと思います」
ユウリも言った。
「冬休みが始まった日から、マーカスのことは見かけていません」
イーア達はこっそりマーカスの監視を続けていたから、まちがいない。
といっても、つねに見張っていたわけではないから、マーカスが寮を出るところは見ていない。だけど、マーカスが学校にいないのはたしかだ。
その時、マジーラ先生の持つ携帯《けいたい》伝話機《でんわき》が鳴った。
「なに!? 地下への入り口で?」
マジーラ先生は携帯伝話機から耳をはなすと、険しい表情でイーア達へたずねた。
「あの林の中の地下への入り口、お前達は今日は近づいていないな?」
「先生に見つかってからは行ってません」
イーア達は本当に地下への入り口には近づいていない。
ユウリは言った。
「ぼくらは今日、アイシャの家のパーティーに行ってて、今、帰ってきたところです。何か起きたんですか?」
マジーラ先生は厳しい口調で言った。
「いいか。絶対に寮からでるな。あの入り口の封鎖が破壊されて、守衛さんが重傷を負った」
マジーラ先生は、マーカスのお父さんに、緊急事態だから行かないといけないと謝って、「この寮で待っていてください」と告げた。
マジーラ先生は携帯伝話機に向かって大声で叫びながら、走りさっていった。
「緊急事態だ! 学内にいる全教職員を職員室に集めてくれ。学校を守る結界が破壊されている可能性も高い。警備を最大級に強化! 学内に残っている生徒は全員、寮に集め、寮にも警備を配置しろ!」
マーカスのお父さんとイーアたちは取り残された。
どうしたらいいかわからない様子のマーカスのお父さんに、ユウリはたずねた。
「マーカスの部屋にいきますか?」
「ええ。お願いします」
マーカスの部屋はユウリたちの部屋と同じフロアにある。マーカスの部屋に向かっている途中、マーカスのお父さんは、やつれた顔でほほえんで言った。
「君たちみたいな友だちがいてくれて、安心したよ。あの子は、意地っ張りで不器用な子だから。グランドールで友だちができないんじゃないかと、心配していたんだ」
イーアは言った。
「マーカスは学校で人気ですよ。特にギルフレイ卿に弟子入りしてからは」
最近のマーカスの取りまきを、マーカスの本当の友達といえるのかは疑問だけど。マーカスが人気者になっているのはたしかだ。
「ギルフレイ卿に弟子入り? いつ?」
マーカスのお父さんは、けげんそうに聞き返した。マーカスのお父さんは弟子入りについて何も知らなかったようだ。
イーアはユウリの方を見て言った。
「学園祭の後すぐ? だっけ?」
「たしか、そんな話だったよ」
「うちはあの方に弟子入りできるような家柄じゃないんだが……」
マーカスのお父さんは考えこむようにそうつぶやいた。
マーカスのお父さんを部屋に案内した後、イーア達は、急いでユウリの部屋に向かった。
ユウリは部屋に入るなり、ベッドの下を探り、そこにかくしてあったカバンを取り出して、中をさぐった。
数分後、ユウリは悔しそうにカバンをたたき、眉をしかめて小声で言った。
「ない。なくなってる。あの扉の宝玉が盗まれてる。たぶん、マーカスのしわざだ。カバンを置いていくんじゃなかった……」
双竜模様の扉のカギは盗まれた。これで、白装束の魔導士たちが地下の迷宮に入ることができてしまう。
イーアは部屋の中を見た。
マーカスがイーアに送ってきた透明になれるローブは、他の冬至祭プレゼントといっしょに、机の上に置きっぱなしだった。
イーアは透明ローブを手に取った。
ユウリはたずねた。
「行くつもり?」
「うん。強盗の好きにはさせない」
何ができるかはわからない。それでも、白装束の魔導士たちの好きにはさせたくなかった。
ユウリは覚悟を決めたように息をはき、言った。
「イーアが行くなら、ぼくも行く。危険な場所に、イーアひとりでは行かせない」
イーアはゆかいな気分だったけど、ケイニスはずっと暗い表情で無言だ。
ケイニスは普段から無口で難しい顔をしているけど。今は特に険しい表情をしている気がする。
「ケイニス君。パーティー、つまんなかった?」
馬車から降りたところでイーアがたずねると、暗闇の中、ケイニスは暗い声で言った。
「俺は、後悔しているんだ」
「後悔?」
「ローレインと踊ったことを」
「なんで? ダンス、じょうずだったよ?」
ケイニスは暗い声で言った。
「俺が子どもの頃、あのお嬢様と遊んでいるのがバレたら、何が起こったと思う?」
「……なにが起こったの?」
「俺は親父にボコボコに殴られて、親父は、俺の代わりに、ローレインの父親に死ぬほどムチで打たれた。奴隷人種がお嬢様に近づくとはなんたることか、ってな。親父は3日は起き上がることすらできなかった。おまけに、ひどい減給処分で、あの年は家族全員、飢え死にしそうだった」
イーアは、以前ローレインが、ある日突然ケイニスがローレインを避けるようになった、と言っていたことを思い出した。どうやら、その出来事が理由だったようだ。
「俺と踊っていたことを、もし誰かがローレインの親に告げ口をしたら。俺の家族がどうなるかわからない」
「ごめん……。なにも知らないで」
イーアは無邪気にローレインの手助けをしたことを後悔した。
人が誰かと仲良くなることに、危険がともなうことがあるなんて、想像もしなかった。そんなこと、あるはずがないと思っていたのだ。
ケイニスは優しい表情になって言った。
「おまえのせいじゃない。何かあったとしても。ローレインの誘いを断れなかった俺がいけない。……いや、いけないのは、この帝国か。おまえも気をつけろ。正直、俺は、何も知らずに生きてこれたおまえがうらやましい。おまえとエルツが、うやましい。だけど、誰でも平等に扱ってもらえるグランドールは、特別な場所なんだ。一歩外にでれば、俺達はまともに人間扱いされない」
ケイニスはそう忠告するように言って、さきに学校へ戻っていった。
ケイニスが去って行ったあと、ユウリがぽつりとつぶやいた。
「ケイニスも、色々大変なんだな」
「そうだね。わたし、ナミンの家で育ってよかったよ。わたしがユウリと仲良くしてても誰も文句言わないもん」
「うん。ぼくも、今はそう思う。これでよかったのかもって。昔は、なんで誰もぼくを迎えにきてくれないんだろうって思ったこともあったけど。ナミンの家で育ったから、ぼくはイーアと会えたんだ。だから、きっとこれでよかったんだよ」
ユウリはそう言って笑顔を見せた。
イーアは思い出した。
ユウリのお母さんはユウリを生んですぐに死んでしまって、それで、大家さんか誰かが、ユウリを孤児院に預けたのだという。
本当はどこかにお父さんや親せきがいるかもしれない。なのに、誰も迎えにきてくれない。
ユウリはそう思って、ずっと家族に捨てられたように感じていたのかもしれない。
(わたしは……どうだろ……)
もしもガネンの民が白装束の魔導士に襲われることがなかったら、きっと、イーアは今もガネンの森で血のつながった家族といっしょに暮らしていただろう。
イーアがユウリやナミンの家のみんなと出会うことはなかった。
ユウリと出会うことすらなかったなんて、そんなのは嫌だ。
それでも……これでよかったとは、今のイーアには言えなかった。
寮に入ったところで、イーアは玄関ホールのところでマジーラ先生が一風変わった服装のおじさんと話しこんでいるのに気がついた。
イーア達に気がついて、マジーラ先生は呼んだ。
「ちょうどよかった。イーア、エルツ。ちょっと来てくれ」
「はい?」
最近は先生に呼び出されるようなことはしていないので、イーアは不思議に思いながらマジーラ先生のそばに近よった。
「ふたりとも。この方はマーカスのお父さんだ」
「マーカスの!?」
マーカスのお父さんはマーカスとは全然、雰囲気がちがう。頼りないけどやさしくて、お人よしそうな感じのおじさんだ。
マーカスのお父さんは、背はマジーラ先生より高いけどとてもやせていて、マジーラ先生の方が腕力は強そうだ。
それはそうと、マーカスのお父さんの顔は青ざめていた。
見るからに何かを心配していた。
マジーラ先生は言った。
「マーカスが、まだ家に帰っていないらしいんだ。おまえたちは仲がいいだろう? 何か知っていないか?」
ユウリは「別に仲はよくありません」と言いたそうな顔をしていたけど、イーアは心配になりながら答えた。
「マーカスは冬休みが始まってすぐ、家に帰ったと思います」
ユウリも言った。
「冬休みが始まった日から、マーカスのことは見かけていません」
イーア達はこっそりマーカスの監視を続けていたから、まちがいない。
といっても、つねに見張っていたわけではないから、マーカスが寮を出るところは見ていない。だけど、マーカスが学校にいないのはたしかだ。
その時、マジーラ先生の持つ携帯《けいたい》伝話機《でんわき》が鳴った。
「なに!? 地下への入り口で?」
マジーラ先生は携帯伝話機から耳をはなすと、険しい表情でイーア達へたずねた。
「あの林の中の地下への入り口、お前達は今日は近づいていないな?」
「先生に見つかってからは行ってません」
イーア達は本当に地下への入り口には近づいていない。
ユウリは言った。
「ぼくらは今日、アイシャの家のパーティーに行ってて、今、帰ってきたところです。何か起きたんですか?」
マジーラ先生は厳しい口調で言った。
「いいか。絶対に寮からでるな。あの入り口の封鎖が破壊されて、守衛さんが重傷を負った」
マジーラ先生は、マーカスのお父さんに、緊急事態だから行かないといけないと謝って、「この寮で待っていてください」と告げた。
マジーラ先生は携帯伝話機に向かって大声で叫びながら、走りさっていった。
「緊急事態だ! 学内にいる全教職員を職員室に集めてくれ。学校を守る結界が破壊されている可能性も高い。警備を最大級に強化! 学内に残っている生徒は全員、寮に集め、寮にも警備を配置しろ!」
マーカスのお父さんとイーアたちは取り残された。
どうしたらいいかわからない様子のマーカスのお父さんに、ユウリはたずねた。
「マーカスの部屋にいきますか?」
「ええ。お願いします」
マーカスの部屋はユウリたちの部屋と同じフロアにある。マーカスの部屋に向かっている途中、マーカスのお父さんは、やつれた顔でほほえんで言った。
「君たちみたいな友だちがいてくれて、安心したよ。あの子は、意地っ張りで不器用な子だから。グランドールで友だちができないんじゃないかと、心配していたんだ」
イーアは言った。
「マーカスは学校で人気ですよ。特にギルフレイ卿に弟子入りしてからは」
最近のマーカスの取りまきを、マーカスの本当の友達といえるのかは疑問だけど。マーカスが人気者になっているのはたしかだ。
「ギルフレイ卿に弟子入り? いつ?」
マーカスのお父さんは、けげんそうに聞き返した。マーカスのお父さんは弟子入りについて何も知らなかったようだ。
イーアはユウリの方を見て言った。
「学園祭の後すぐ? だっけ?」
「たしか、そんな話だったよ」
「うちはあの方に弟子入りできるような家柄じゃないんだが……」
マーカスのお父さんは考えこむようにそうつぶやいた。
マーカスのお父さんを部屋に案内した後、イーア達は、急いでユウリの部屋に向かった。
ユウリは部屋に入るなり、ベッドの下を探り、そこにかくしてあったカバンを取り出して、中をさぐった。
数分後、ユウリは悔しそうにカバンをたたき、眉をしかめて小声で言った。
「ない。なくなってる。あの扉の宝玉が盗まれてる。たぶん、マーカスのしわざだ。カバンを置いていくんじゃなかった……」
双竜模様の扉のカギは盗まれた。これで、白装束の魔導士たちが地下の迷宮に入ることができてしまう。
イーアは部屋の中を見た。
マーカスがイーアに送ってきた透明になれるローブは、他の冬至祭プレゼントといっしょに、机の上に置きっぱなしだった。
イーアは透明ローブを手に取った。
ユウリはたずねた。
「行くつもり?」
「うん。強盗の好きにはさせない」
何ができるかはわからない。それでも、白装束の魔導士たちの好きにはさせたくなかった。
ユウリは覚悟を決めたように息をはき、言った。
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