もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~

第73話 岩竜モルドーの最期

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 その先には、長い下りの階段が続いていた。イーアは階段を駆け下り、その先の一本道を進んだ。
 開かれた扉がある。イーアはその中へととびこんだ。

 大きな広い空間に、巨大な岩竜が倒れていた。
 さっきの轟音ごうおんはこのドラゴンが倒された音だったようだ。
 ドラゴンは岩でできた体のあちこちを粉砕されていて、そして、その岩の体のところどころで黒い炎が燃えていた。
 ガネンの民を、イーアのお母さんを襲ったあの黒い炎が、今、岩竜の体をむしばんでいた。

 ドラゴンはわずかに顔をイーアの方に動かした。
 ローブの力でイーアの姿は見えないはずなのに、岩竜モルドーにはイーアのいる場所がわかるようだった。

『なつかしい匂いがするな……』

 モルドーはそうつぶやいた。モルドーの目に敵意はない。本当に何かをなつかしんでいるようだった。

『モルドー、だいじょうぶ?』

 大丈夫そうではなかった。イーアは治癒の力をもつ精霊を呼ぼうと思って、『友契の書』を手に取った。
 だけど、制止するようにモルドーは言った。

『最初にたずねるのが私の心配とはな。だが、助けは無用だ。やさしいウェルグァンダルの子よ。私は確実に死ぬ。この身を焼き続けるは暗黒神の呪炎。この呪炎は対象が死ぬまで燃え続ける死の呪いだ。いかんともしようがない。だが、悲しむ必要はない。私は十分に長く生きた』

 イーアは何も言えず、そっとドラゴンの岩でできたほおに手をそえた。

『思い残すはただ一つ。支配者の石板を守り抜く役目を果たせなかったことだけだ』

 モルドーがそう言った時、イーアははっとした。

『支配者の石板? それが、白装束の魔導士たちが狙っているもの? 白装束たちがガネンの森から持ち去ったのも……』

 岩竜モルドーは優しい声で言った。

『ああ。懐かしい匂いがすると思えば。ガネンの民か。メラフィスの戦い以来だ』

『ガネンの民を知っているの?』

『遠い昔、共に戦った仲間だ。そうか……。ガネンに封じた石板の欠片も奪われてしまったか』 

 イーアはモルドーにたずねた。

『教えて、モルドー。その石板の欠片は何? わたしは何も知らないの。教えてもらう前に、ガネンのみんなは殺されちゃったから』

 モルドーに残された時間も、もうあまりないだろう。黒い炎が燃えているところから、すでにモルドーの体を成す岩がボロボロと崩れはじめていた。
 モルドーは残された力をふりしぼるようにして言った。

『支配者の石板……かつて強大な力と技術を持つメラフィスの王がつくらせたもの。あれは、この世界全体から霊力を集め、行使する力をもつ。……だが、その力は、人の世を支配するのみならず、大地から霊力を奪い精霊を害し、世界を崩壊へむかわせるものだった。……それゆえ、我々は、人間達と協力してメラフィスの王を倒し、支配者の石板を破壊した。そして、それぞれの地へと戻り、我々は石板の欠片を封じてきたのだ』

 メラフィスの王、それは約1800年前に滅んだという古代王朝の王のことだろう。
 つまり、モルドーとギアラド王国の人達、ラシュトとガネンの民は、約1800年前に、他の仲間とともに、古代王朝を倒した。
 そして、誰かが再び『支配者の石板』を使うことがないように欠片にわけて、各地で守ってきた。
 その『支配者の石板』を、白装束の魔導士たちが、手に入れようとしている。

『じゃあ、その石板の欠片が集められたら、また……』 

『世界は破滅に向かうであろう。だが、ガネンの子よ。お前ではあの魔術士には敵《かな》わない。先へは行くな。我が配下のものにも、これ以上、無益《むえき》に血を流さぬよう言ってある。代わりに、頼みがある。私の体が消え去った時、そこに残る後継の岩核を……』

 すでにモルドーの岩の体はぼろぼろと砂になって崩れ落ちはじめていた。

『よろしく頼む。ウェルグァンダルの、ギアラドを継《つ》ぐ者に……』

 言葉だけを残すように、最後に岩竜モルドーの頭が砂になって消えた。

『モルドー……』

 イーアは、自分の手の平に残る、かつて岩竜だった、崩れ落ちた砂を見つめた。

「イーア。ここにいる?」

 大広間の入り口から、ユウリの静かな声が聞こえた。
 イーアは返事をせずに、岩竜の体が崩れてできた砂山の中を歩いて行った。
 砂山の真ん中に、丸い岩が一つあった。
 その岩はまるで脈打つように見えた。
 これが、モルドーが頼むと言っていた岩だろう。

 イーアはごつごつしたたまごのような丸い形の岩を持ち上げた。
 抱えると脈動が感じられた。でも、この岩はとても重たくて、持ち運ぶことはできそうにない。

「ユウリ。この岩を大事に守ってて。たぶん、ドラゴンのたまごだから」

「ドラゴンのたまご? カバンに入るかな……」

 ユウリは魔法のカバンを持ち上げて大きさを確認するように見た。
 その時には、イーアはすでにこの大広間の出口に向かって歩いていた。

「わたしは、行ってくる。とめないと。守らないと」

「イーア? 待って……」

 ユウリは止めようとした。
 だけど、姿の見えないイーアを、ユウリにとめることはできなかった。 

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