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第1部 グランドール魔術学校 ~亡国の古城と地底竜の守るもの~
第76話 グランドールの秘宝
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大鍾乳洞の長い細い道は、祭壇のある場所まではつながっていなかった。道の終点と祭壇のある場所の間には深い谷が存在する。
道が途絶えるかわりに、終点には浮遊する大岩があった。
白装束の魔導士たち3人がその大きな岩に乗りこむと、大岩は静かに柱のたち並ぶ場所へと動いて行った。
イーアは誰もいなくなった道の終点へとかけよった。
対岸に、立ち並ぶ石柱と祭壇、そしてドラゴンの顔の石像が見える。
石柱と祭壇はガネンの森にあったものとそっくりで、ドラゴンの石像をラシュトの石像に置き換えれば、ほとんど同じだ。
たぶん、あの石像のドラゴンの口の中に、石板の欠片が置かれているのだろう。
イーアは道の端に立ち、足下の深淵を見た。深い谷の底は見えなかった。
移動するための浮遊石は対岸にある。こっちには戻ってこない。
対岸までの距離は、フモシーに乗ればひとっとびで行けそうだけど、今そんなことをしたら、フモシーごとギルフレイ卿に瞬殺される。
召喚するわけにはいかない。
向こう岸から、ギルフレイ卿の声が聞こえた。
「マーカス。ここまでよくやった。ほうびだ。グランドールの秘宝を最初に手に取る栄誉はお前にくれてやろう」
「はい。ありがとうございます」
静かな大鍾乳洞の中、声ははっきりと響き渡る。マーカスの声は震えていた。
「さぁ、行け。秘宝はあのドラゴンの口の中だ」
ギルフレイ卿に言われ、マーカスはゆっくりと、石柱の間を歩いて行った。
祭壇の前、ドラゴンの顔の石像の前にマーカスは立った。
少しの間、そこで立ちつくした後、マーカスは手を伸ばし、ドラゴンの石像の口の中に手をいれ、石をとりだした。
そして、その瞬間。
つんざくような悲鳴を上げ、マーカスは地面に倒れた。
真っ白になっていくイーアの頭の中に、ギルフレイ卿の冷たい声が聞こえた。
「やはり、死のトラップか。カナリヤを連れてきてよかったな」
ギルフレイ卿は冷たく言い放ち、地面に倒れ動かないマーカスの方へと歩きだした。
心の中にあったものすべてが冷たく沈澱していくように感じながら、イーアはその瞬間、『友契の書』にささやいていた。
『オルゾロ、白装束の男をとめて。フモシー、モキュッチ、石板の欠片を回収』
双頭の炎氷狼オルゾロは、対岸の端ギリギリに現れた。
オルゾロは二つの口から炎と氷を噴き出し、『侵入者は許さん!』と叫び、ギルフレイ卿にとびかかっていった。
ほとんど同時に、周囲の壁から『モルドー様の仇!』という声とともに、ドリルのような頭の巨大な針金みたいな魔獣が何体もとびだし、ギルフレイ卿ともう一人の白いローブの男めがけて突進していった。
「フン。モルドーの配下どもが」
鋼鉄の壁のようなものが突然あらわれ、ギルフレイ卿に襲いかかろうとしていた細長いドリルのような霊獣とオルゾロをはじきとばした。
はじきとばされたオルゾロは、着地するとすぐにギルフレイ卿にむけて炎の塊を放ち、モルドー配下の霊獣たちも態勢を整えてすぐにまたギルフレイ卿に襲いかかった。
一方、イーアのいる道の終点には、フモシーとモキュッチがあらわれていた。『マーカスがもってる石板の欠片をとってきて』とイーアがささやくと、モキュッチはすぐさまフモシーの背にのった。
『なんなのこの状況!』と悲鳴をあげながら、フモシーは祭壇にむけて大きく跳躍した。
フモシーは石柱のそばに着地してモキュッチが転がりおりた。
そこで、ギルフレイ卿の声が響いた。
「笑止!」
呪文の詠唱は聞こえなかった。だけど、一呼吸後、無数の雷撃が、祭壇の付近一帯に落ちた。
オルゾロと、モルドー配下の霊獣たち、そして、フモシーとモキュッチが、みんな一瞬で姿を消した。
だけど、消える直前、雷撃の激しい光の中、モキュッチは投げていた。
拾った支配者の石板の欠片を、イーアにむかって。
イーアは石板の欠片をキャッチして、そのままローブの中に隠し、走った。
イーアの背後で、ギルフレイ卿のどなり声が響いた。
「どこだ? 秘宝は!?」
入り乱れ襲い来る精霊と自らの激しい雷撃に視界を邪魔され、ギルフレイ卿はモキュッチの動きを見ていなかった。
イーアは走った。
「ない!」
後方からギルフレイ卿の声が聞こえていた。
「どこかに秘宝を奪った敵がいるはずだ!」
イーアは必死にひたすら走った。
ペテラピか何か足の速い霊獣を呼んだ方がはやく逃げられる。だけど、召喚すれば居場所がばれる。
今はまだ、ギルフレイ卿はイーアを見つけていない。
このまま走り去った方がいい。
少しして、ギルフレイ卿の声が聞こえた。
「ならば、この空間全体を燃やし尽くしてやる!」
この広大な鍾乳洞を焼き尽くすなんて普通は不可能だ。
だけど、イーアは破壊しつくされた石像の戦士たちを思い出した。
ギルフレイ卿なら、できてしまう。
空間全体を焼き尽くされたら、どこにいようが死んでしまう。
(見つかったとしても……イチかバチか、召喚して逃げるしかない!)
イーアが絶望的な決断をくだそうとした時。
上空を、槍のような竜巻が数本、らせんを描きながら飛んでいった。
そして、少年の叫び声が聞こえた。
「ここだ!」
ユウリだった。
ユウリがこの細く長い道の始点に立って叫んでいる。
魔法でギルフレイ卿を攻撃しながら、あえて見つかるように。
「そこか!」
即座にギルフレイ卿が呪文を唱え、巨大な剣がいくつもユウリの方へと飛んでいった。
ユウリは襲い来る何本もの巨大な剣を避けながら、通路の奥の壁がある方に逃げこもうとした。人間技とは思えない身のこなしで。
ユウリは魔法をつかってあの魔法の剣の攻撃を回避している。
「こしゃくな。だが、これはどうだ?」
ユウリがいた場所一帯を、猛烈な雷が絨毯爆撃のように襲った。
あれでは、逃げられない。
イーアは叫びそうになりながら、その声を必死に飲みこみ、息をきらしながら走り続けた。
ここでイーアが叫んだら、おとりになったユウリの行いがすべて無駄になる。
雷撃を受けたユウリが、ふらりと倒れかけるのが見えた。
でも、次の瞬間、ユウリはしっかりと立ち、そして、壁のむこうへとかけこんだ。
壁の向こうから、姿の見えないユウリの叫び声が聞こえた。
「先生! こっちです! 強盗はこっちです!」
ギルフレイ卿とともにいたもう一人の男の声が、遠くからかすかに聞こえた。
「これ以上は無理です。ここは脱出しましょう」
「仕方ない。結界を壊す。転移の準備をしろ」
それが、聞こえた最後の声だった。
すぐに轟音がとどろきはじめ、道が激しくゆれ動いた。
イーアはよろけて、地面に手をついた。
天井からは次々に輝くつらら石が落下していく。イーアのいる細く長い道も一部崩壊しかけていた。
揺れ動く道の上を走り、イーアはなんとか道を渡り終えた。
イーアはそこで祭壇のあった場所を振り返った。
石柱が立ち並ぶ場所に、もう人影はなかった。
白装束の魔導士たちの姿は消えていた。
ここからでは、地面にたおれているはずのマーカスの姿……マーカスの亡骸《なきがら》も、見えなかった。
イーアが地底の大鍾乳洞から走り去った後。
つらら石の崩落が続く大鍾乳洞の祭壇のそばで、紫色のチルランがひとり、ぼうぜんとした様子で血の気のない少年の亡骸を見下ろしていた。
紫のチルランは、ふよふよと少年の体に近づいては自分の体を押し付けるような動きをした。
チルランがなんどか亡骸に近づいては離れてを繰り返している内に、天井から落ちた大岩がぶつかり、少年の身体は地下深くの虚無の闇の中へと落ちていってしまった。
紫のチルランは、落ちていく体を追いかけようとして少し動いた後、あきらめたようにとまり、結局、降り注ぐ岩石から逃れるためにドラゴンの石像のあごの下へと隠れた。
そこで、紫のチルランは途方に暮れたように、すでに誰もいない大鍾乳洞をずっと見つめていた。
道が途絶えるかわりに、終点には浮遊する大岩があった。
白装束の魔導士たち3人がその大きな岩に乗りこむと、大岩は静かに柱のたち並ぶ場所へと動いて行った。
イーアは誰もいなくなった道の終点へとかけよった。
対岸に、立ち並ぶ石柱と祭壇、そしてドラゴンの顔の石像が見える。
石柱と祭壇はガネンの森にあったものとそっくりで、ドラゴンの石像をラシュトの石像に置き換えれば、ほとんど同じだ。
たぶん、あの石像のドラゴンの口の中に、石板の欠片が置かれているのだろう。
イーアは道の端に立ち、足下の深淵を見た。深い谷の底は見えなかった。
移動するための浮遊石は対岸にある。こっちには戻ってこない。
対岸までの距離は、フモシーに乗ればひとっとびで行けそうだけど、今そんなことをしたら、フモシーごとギルフレイ卿に瞬殺される。
召喚するわけにはいかない。
向こう岸から、ギルフレイ卿の声が聞こえた。
「マーカス。ここまでよくやった。ほうびだ。グランドールの秘宝を最初に手に取る栄誉はお前にくれてやろう」
「はい。ありがとうございます」
静かな大鍾乳洞の中、声ははっきりと響き渡る。マーカスの声は震えていた。
「さぁ、行け。秘宝はあのドラゴンの口の中だ」
ギルフレイ卿に言われ、マーカスはゆっくりと、石柱の間を歩いて行った。
祭壇の前、ドラゴンの顔の石像の前にマーカスは立った。
少しの間、そこで立ちつくした後、マーカスは手を伸ばし、ドラゴンの石像の口の中に手をいれ、石をとりだした。
そして、その瞬間。
つんざくような悲鳴を上げ、マーカスは地面に倒れた。
真っ白になっていくイーアの頭の中に、ギルフレイ卿の冷たい声が聞こえた。
「やはり、死のトラップか。カナリヤを連れてきてよかったな」
ギルフレイ卿は冷たく言い放ち、地面に倒れ動かないマーカスの方へと歩きだした。
心の中にあったものすべてが冷たく沈澱していくように感じながら、イーアはその瞬間、『友契の書』にささやいていた。
『オルゾロ、白装束の男をとめて。フモシー、モキュッチ、石板の欠片を回収』
双頭の炎氷狼オルゾロは、対岸の端ギリギリに現れた。
オルゾロは二つの口から炎と氷を噴き出し、『侵入者は許さん!』と叫び、ギルフレイ卿にとびかかっていった。
ほとんど同時に、周囲の壁から『モルドー様の仇!』という声とともに、ドリルのような頭の巨大な針金みたいな魔獣が何体もとびだし、ギルフレイ卿ともう一人の白いローブの男めがけて突進していった。
「フン。モルドーの配下どもが」
鋼鉄の壁のようなものが突然あらわれ、ギルフレイ卿に襲いかかろうとしていた細長いドリルのような霊獣とオルゾロをはじきとばした。
はじきとばされたオルゾロは、着地するとすぐにギルフレイ卿にむけて炎の塊を放ち、モルドー配下の霊獣たちも態勢を整えてすぐにまたギルフレイ卿に襲いかかった。
一方、イーアのいる道の終点には、フモシーとモキュッチがあらわれていた。『マーカスがもってる石板の欠片をとってきて』とイーアがささやくと、モキュッチはすぐさまフモシーの背にのった。
『なんなのこの状況!』と悲鳴をあげながら、フモシーは祭壇にむけて大きく跳躍した。
フモシーは石柱のそばに着地してモキュッチが転がりおりた。
そこで、ギルフレイ卿の声が響いた。
「笑止!」
呪文の詠唱は聞こえなかった。だけど、一呼吸後、無数の雷撃が、祭壇の付近一帯に落ちた。
オルゾロと、モルドー配下の霊獣たち、そして、フモシーとモキュッチが、みんな一瞬で姿を消した。
だけど、消える直前、雷撃の激しい光の中、モキュッチは投げていた。
拾った支配者の石板の欠片を、イーアにむかって。
イーアは石板の欠片をキャッチして、そのままローブの中に隠し、走った。
イーアの背後で、ギルフレイ卿のどなり声が響いた。
「どこだ? 秘宝は!?」
入り乱れ襲い来る精霊と自らの激しい雷撃に視界を邪魔され、ギルフレイ卿はモキュッチの動きを見ていなかった。
イーアは走った。
「ない!」
後方からギルフレイ卿の声が聞こえていた。
「どこかに秘宝を奪った敵がいるはずだ!」
イーアは必死にひたすら走った。
ペテラピか何か足の速い霊獣を呼んだ方がはやく逃げられる。だけど、召喚すれば居場所がばれる。
今はまだ、ギルフレイ卿はイーアを見つけていない。
このまま走り去った方がいい。
少しして、ギルフレイ卿の声が聞こえた。
「ならば、この空間全体を燃やし尽くしてやる!」
この広大な鍾乳洞を焼き尽くすなんて普通は不可能だ。
だけど、イーアは破壊しつくされた石像の戦士たちを思い出した。
ギルフレイ卿なら、できてしまう。
空間全体を焼き尽くされたら、どこにいようが死んでしまう。
(見つかったとしても……イチかバチか、召喚して逃げるしかない!)
イーアが絶望的な決断をくだそうとした時。
上空を、槍のような竜巻が数本、らせんを描きながら飛んでいった。
そして、少年の叫び声が聞こえた。
「ここだ!」
ユウリだった。
ユウリがこの細く長い道の始点に立って叫んでいる。
魔法でギルフレイ卿を攻撃しながら、あえて見つかるように。
「そこか!」
即座にギルフレイ卿が呪文を唱え、巨大な剣がいくつもユウリの方へと飛んでいった。
ユウリは襲い来る何本もの巨大な剣を避けながら、通路の奥の壁がある方に逃げこもうとした。人間技とは思えない身のこなしで。
ユウリは魔法をつかってあの魔法の剣の攻撃を回避している。
「こしゃくな。だが、これはどうだ?」
ユウリがいた場所一帯を、猛烈な雷が絨毯爆撃のように襲った。
あれでは、逃げられない。
イーアは叫びそうになりながら、その声を必死に飲みこみ、息をきらしながら走り続けた。
ここでイーアが叫んだら、おとりになったユウリの行いがすべて無駄になる。
雷撃を受けたユウリが、ふらりと倒れかけるのが見えた。
でも、次の瞬間、ユウリはしっかりと立ち、そして、壁のむこうへとかけこんだ。
壁の向こうから、姿の見えないユウリの叫び声が聞こえた。
「先生! こっちです! 強盗はこっちです!」
ギルフレイ卿とともにいたもう一人の男の声が、遠くからかすかに聞こえた。
「これ以上は無理です。ここは脱出しましょう」
「仕方ない。結界を壊す。転移の準備をしろ」
それが、聞こえた最後の声だった。
すぐに轟音がとどろきはじめ、道が激しくゆれ動いた。
イーアはよろけて、地面に手をついた。
天井からは次々に輝くつらら石が落下していく。イーアのいる細く長い道も一部崩壊しかけていた。
揺れ動く道の上を走り、イーアはなんとか道を渡り終えた。
イーアはそこで祭壇のあった場所を振り返った。
石柱が立ち並ぶ場所に、もう人影はなかった。
白装束の魔導士たちの姿は消えていた。
ここからでは、地面にたおれているはずのマーカスの姿……マーカスの亡骸《なきがら》も、見えなかった。
イーアが地底の大鍾乳洞から走り去った後。
つらら石の崩落が続く大鍾乳洞の祭壇のそばで、紫色のチルランがひとり、ぼうぜんとした様子で血の気のない少年の亡骸を見下ろしていた。
紫のチルランは、ふよふよと少年の体に近づいては自分の体を押し付けるような動きをした。
チルランがなんどか亡骸に近づいては離れてを繰り返している内に、天井から落ちた大岩がぶつかり、少年の身体は地下深くの虚無の闇の中へと落ちていってしまった。
紫のチルランは、落ちていく体を追いかけようとして少し動いた後、あきらめたようにとまり、結局、降り注ぐ岩石から逃れるためにドラゴンの石像のあごの下へと隠れた。
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