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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島
第82話 冬休み2
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イーアは塔主の部屋に行って、ガリにグランドールに戻ってだいじょうぶそうかたずねた。
ガリはぼそりと言った。
『ギルフレイ卿はバララセ総督としてバララセ大陸に派遣されるそうだ。慣例からいけば明らかに降格で、何があったのかと噂になっているらしい』
『グランドールで失敗したから? ギルフレイ卿は<白光《ロウシア》>での失敗で大臣をクビになったの?』
『そのようだ。帝国の中枢は<白光>と結びついている。くだらん。だが、バララセにとばされたということは、ギルフレイ卿はグランドールの件から外されたということだろう。転移魔法でいつでも帝都には戻ってこられるだろうが。それとひとつ、お前にとって朗報がある。グランドールの校長ピピンが戻ってきたらしい』
『校長先生? そういえば、校長先生、いなかったっけ』
校長先生がずっと行方不明だと、以前、先生たちが話していた。
『<白光>が手をまわして帰還できなくしていたのだろう。ピピンは帝国有数の結界師だ。ピピンが校内にいればグランドールの結界を破るのは難しい。とはいえ、グランドールが安全になったとはいえない。オレン以外にも内部に<白光>の手の者がいる可能性は高い。だが、それは、ここにいても同じことだ』
『ここも……?』
イーアはザヒのことを思い出した。リグナムの話によれば、ウェルグァンダルの塔で育ったザヒには友達がたくさんいて、ガリより人望があつい。
ガリの言う通り、ウェルグァンダルの塔の中だって安全とは限らないかもしれない。
『完全に安全な場所はない。どうするかはお前が自分で決めろ』
『うん、わかった。それじゃ、冬休みがあけたら、一度グランドールにもどるよ』
イーアが即答すると、傍で眠そうに話を聞いていたティトが、片目を開いて『本当にそうするのか?』と言いたげにイーアを見た。
ガリは表情を変えずぼそりと言った。
『ならば、ホスルッドの弟子に気をつけろ』
『ホスルッドの弟子って……ユウリに?』
ガリはうなずいた。
『ホスルッドはおそらく<白光>だ』
ガリの無表情な顔を見ながら、その事実が何を意味するのか理解するのに数秒かかって、それから、イーアは叫んだ。
『ユウリが危ない!』
ギルフレイ卿との戦いの後、ユウリは師匠のホスルッドのもとへ向かったのだ。
ガリは淡々と言った。
『いや、あの少年に危険はないはずだ。あれはホスルッドが長年探していた息子だ』
『息子……? 息子!? じゃあ、あの人はただの師匠じゃなくて、ユウリのお父さん?』
『ああ』
ホスルッドが<白光>の一員だということ以上に驚きだった。
イーアは、ホスルッドがユウリを養子にするかもしれない、と想像したことはあった。でも、ユウリの本当のお父さんだったなんて、想像もしなかった。
ガリは淡々と説明した。
『ホスルッドの家系は、今はいささか落ちぶれているが古くからの名門魔導士の家系だ。おそらくは帝国建国の頃、あるいはそれ以前から<白光>に加入しているような一族だろう。だが、あいつは今でこそ立派な魔導士ぶっているが、子どもの頃はかなりの問題児だった。そのせいで、家柄に似合わずグランドールに入った。そして、16の頃に同じ年ごろの平民の女と駆け落ちをした』
『駆け落ち?』
『恋人とともに家出をしたということだ。貴族の親はたいてい身分違いの恋を認めない。ホスルッドはすぐに連れ戻され、空に浮かぶ孤城ホーヘンハインに、弟子入りという名目で幽閉された』
『幽閉? 牢屋にいれられたってこと?』
『いや。そんなことをしなくても、空に浮かぶあの島の外には出られない。ホーヘンハインからは、城主の許可がなければ地上に降りることができない。ホスルッドが修練を重ね、外出許可がでるようになった頃には、すでに女は死に、あいつが幽閉されている間に生まれていた赤子は行方知れず。いくら探しても見つからなかったらしい』
『そんな……ひどい……』
イーアはおもわずホスルッドに同情してつぶやきながら、それがユウリの出生の秘密だということに、頭の中がごちゃごちゃしていく気分になった。
まさかガリから、ユウリ自身も知らないユウリの両親の話を聞くことになるなんて。
『ホスルッドは信用できない奴だが、俺の知る限り、息子のことは大事にしている。肝心の事実、自分が父親であることは告げていないようだが』
イーアは、これまでユウリがホスルッドからもらった贈り物の数々を思い出していた。魔道具、服や日用品から、おやつやおもちゃまで。あらゆる一級の品。
それに、ホスルッドは保護者が参加できる学校のイベントにはいつも必ず来ている。ホスルッドはユウリのことを大事にしているどころじゃなく、溺愛している。
今のガリの話で、生き別れの親子だったと知って、すべて合点がいったけど。
ガリは淡々と言った。
『だが、大事にしている分、悪い虫には容赦しないだろう』
『悪い虫?』
何の話だかわからなくて、イーアは聞き返した。ガリはいつもの鋭い目でイーアを見て、遠慮なく言った。
『お前だ。むこうからみれば、悪夢のような害虫だろう。ホスルッドは当然息子を跡取りに、<白光>に、と思っているだろうが、お前のせいでかわいい息子は<白光>と敵対、将来が台無しになりそうだ』
『えー……』
悪い虫扱いされるのは不満だけど、言い返すことばが思いつかなかった。
それに、イーアのせいでユウリが一度ギルフレイ卿に殺されかけたのはたしかだ。
イーアは、これ以上ユウリを危険にまきこみたくはなかった。
ユウリの将来をだいなしにするのも嫌だ。一流の魔導士になるために、イーアもユウリも小さなころからずっとがんばってきた。
イーアはもう魔導士になることとか、偉くなることとかはどうでもいいような気がしている。もっと大事なことを知ってしまったから。
だけど、ユウリの夢まではこわしたくない。
『……わかった。ユウリはもう、巻きこまないようにする』
『そうしろ。関わらないほうがおまえにとっても安全だ。だが、お前が育った孤児院の運営者は何者だ?』
イーアは首をかしげた。
『ナミン先生? ナミン先生は別に、魔導士じゃなくて普通の人だよ』
『普通の人間に、ガネンの生き残りをかくまうだけでなく、ホスルッドから息子を隠し通せるとは思えん』
『わたしとユウリがあそこで育ったのはただの偶然だもん。ナミン先生がなにかしたわけじゃないよ』
ガリは納得してなさそうだったけれど、それ以上何も言わなかった。
イーアはそこで思い出してたずねた。
『そういえば、岩竜のたまごはだいじょうぶ? ヤゴンリルが心配してたよ』
『特に異常はない。とはいえ、岩竜はドラゴンの中でも特殊で、生態に謎が多い。俺にもどうすべきかわからないため、母上……知恵のあるドラゴンに相談しているところだ』
『ガリのお母さん!? ガリのお母さんって、どんなドラゴン?』
イーアはとっても気になって思わずたずねた。ガリは余計なことを口にしてしまったといわんばかりの表情になったけれど、嫌々といった感じで説明した。
『我が母はアディラドの黒竜リアウェニヴァ。ギアラドの人間に肩入れしてギアラド滅亡の折に殺されたドラゴン、トゥイスゴルの妹にあたる。気がすんだか?』
『へー。リアウェ……。ドラゴンの名前って発音難しいね』
何はともあれ、イーアは冬休みあけにグランドールに戻ることに決めた。
ガリはぼそりと言った。
『ギルフレイ卿はバララセ総督としてバララセ大陸に派遣されるそうだ。慣例からいけば明らかに降格で、何があったのかと噂になっているらしい』
『グランドールで失敗したから? ギルフレイ卿は<白光《ロウシア》>での失敗で大臣をクビになったの?』
『そのようだ。帝国の中枢は<白光>と結びついている。くだらん。だが、バララセにとばされたということは、ギルフレイ卿はグランドールの件から外されたということだろう。転移魔法でいつでも帝都には戻ってこられるだろうが。それとひとつ、お前にとって朗報がある。グランドールの校長ピピンが戻ってきたらしい』
『校長先生? そういえば、校長先生、いなかったっけ』
校長先生がずっと行方不明だと、以前、先生たちが話していた。
『<白光>が手をまわして帰還できなくしていたのだろう。ピピンは帝国有数の結界師だ。ピピンが校内にいればグランドールの結界を破るのは難しい。とはいえ、グランドールが安全になったとはいえない。オレン以外にも内部に<白光>の手の者がいる可能性は高い。だが、それは、ここにいても同じことだ』
『ここも……?』
イーアはザヒのことを思い出した。リグナムの話によれば、ウェルグァンダルの塔で育ったザヒには友達がたくさんいて、ガリより人望があつい。
ガリの言う通り、ウェルグァンダルの塔の中だって安全とは限らないかもしれない。
『完全に安全な場所はない。どうするかはお前が自分で決めろ』
『うん、わかった。それじゃ、冬休みがあけたら、一度グランドールにもどるよ』
イーアが即答すると、傍で眠そうに話を聞いていたティトが、片目を開いて『本当にそうするのか?』と言いたげにイーアを見た。
ガリは表情を変えずぼそりと言った。
『ならば、ホスルッドの弟子に気をつけろ』
『ホスルッドの弟子って……ユウリに?』
ガリはうなずいた。
『ホスルッドはおそらく<白光>だ』
ガリの無表情な顔を見ながら、その事実が何を意味するのか理解するのに数秒かかって、それから、イーアは叫んだ。
『ユウリが危ない!』
ギルフレイ卿との戦いの後、ユウリは師匠のホスルッドのもとへ向かったのだ。
ガリは淡々と言った。
『いや、あの少年に危険はないはずだ。あれはホスルッドが長年探していた息子だ』
『息子……? 息子!? じゃあ、あの人はただの師匠じゃなくて、ユウリのお父さん?』
『ああ』
ホスルッドが<白光>の一員だということ以上に驚きだった。
イーアは、ホスルッドがユウリを養子にするかもしれない、と想像したことはあった。でも、ユウリの本当のお父さんだったなんて、想像もしなかった。
ガリは淡々と説明した。
『ホスルッドの家系は、今はいささか落ちぶれているが古くからの名門魔導士の家系だ。おそらくは帝国建国の頃、あるいはそれ以前から<白光>に加入しているような一族だろう。だが、あいつは今でこそ立派な魔導士ぶっているが、子どもの頃はかなりの問題児だった。そのせいで、家柄に似合わずグランドールに入った。そして、16の頃に同じ年ごろの平民の女と駆け落ちをした』
『駆け落ち?』
『恋人とともに家出をしたということだ。貴族の親はたいてい身分違いの恋を認めない。ホスルッドはすぐに連れ戻され、空に浮かぶ孤城ホーヘンハインに、弟子入りという名目で幽閉された』
『幽閉? 牢屋にいれられたってこと?』
『いや。そんなことをしなくても、空に浮かぶあの島の外には出られない。ホーヘンハインからは、城主の許可がなければ地上に降りることができない。ホスルッドが修練を重ね、外出許可がでるようになった頃には、すでに女は死に、あいつが幽閉されている間に生まれていた赤子は行方知れず。いくら探しても見つからなかったらしい』
『そんな……ひどい……』
イーアはおもわずホスルッドに同情してつぶやきながら、それがユウリの出生の秘密だということに、頭の中がごちゃごちゃしていく気分になった。
まさかガリから、ユウリ自身も知らないユウリの両親の話を聞くことになるなんて。
『ホスルッドは信用できない奴だが、俺の知る限り、息子のことは大事にしている。肝心の事実、自分が父親であることは告げていないようだが』
イーアは、これまでユウリがホスルッドからもらった贈り物の数々を思い出していた。魔道具、服や日用品から、おやつやおもちゃまで。あらゆる一級の品。
それに、ホスルッドは保護者が参加できる学校のイベントにはいつも必ず来ている。ホスルッドはユウリのことを大事にしているどころじゃなく、溺愛している。
今のガリの話で、生き別れの親子だったと知って、すべて合点がいったけど。
ガリは淡々と言った。
『だが、大事にしている分、悪い虫には容赦しないだろう』
『悪い虫?』
何の話だかわからなくて、イーアは聞き返した。ガリはいつもの鋭い目でイーアを見て、遠慮なく言った。
『お前だ。むこうからみれば、悪夢のような害虫だろう。ホスルッドは当然息子を跡取りに、<白光>に、と思っているだろうが、お前のせいでかわいい息子は<白光>と敵対、将来が台無しになりそうだ』
『えー……』
悪い虫扱いされるのは不満だけど、言い返すことばが思いつかなかった。
それに、イーアのせいでユウリが一度ギルフレイ卿に殺されかけたのはたしかだ。
イーアは、これ以上ユウリを危険にまきこみたくはなかった。
ユウリの将来をだいなしにするのも嫌だ。一流の魔導士になるために、イーアもユウリも小さなころからずっとがんばってきた。
イーアはもう魔導士になることとか、偉くなることとかはどうでもいいような気がしている。もっと大事なことを知ってしまったから。
だけど、ユウリの夢まではこわしたくない。
『……わかった。ユウリはもう、巻きこまないようにする』
『そうしろ。関わらないほうがおまえにとっても安全だ。だが、お前が育った孤児院の運営者は何者だ?』
イーアは首をかしげた。
『ナミン先生? ナミン先生は別に、魔導士じゃなくて普通の人だよ』
『普通の人間に、ガネンの生き残りをかくまうだけでなく、ホスルッドから息子を隠し通せるとは思えん』
『わたしとユウリがあそこで育ったのはただの偶然だもん。ナミン先生がなにかしたわけじゃないよ』
ガリは納得してなさそうだったけれど、それ以上何も言わなかった。
イーアはそこで思い出してたずねた。
『そういえば、岩竜のたまごはだいじょうぶ? ヤゴンリルが心配してたよ』
『特に異常はない。とはいえ、岩竜はドラゴンの中でも特殊で、生態に謎が多い。俺にもどうすべきかわからないため、母上……知恵のあるドラゴンに相談しているところだ』
『ガリのお母さん!? ガリのお母さんって、どんなドラゴン?』
イーアはとっても気になって思わずたずねた。ガリは余計なことを口にしてしまったといわんばかりの表情になったけれど、嫌々といった感じで説明した。
『我が母はアディラドの黒竜リアウェニヴァ。ギアラドの人間に肩入れしてギアラド滅亡の折に殺されたドラゴン、トゥイスゴルの妹にあたる。気がすんだか?』
『へー。リアウェ……。ドラゴンの名前って発音難しいね』
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