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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島
第83話 カゲの棺
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イーアはグランドールの敷地のはずれにある、モンペルで埋め尽くされた谷を降りて行った。
今、グランドールの地下への入り口はすべて厳重に封じられている。どうやっても地下にはいけそうにない。
イーアがヤゴンリルにそう言うと、ヤゴンリルはこの谷に降りてくるように言ったのだ。
モンペルの谷の谷底まで降り、イーアはひときわ古い大きな青い岩、長老モンペルにあいさつをした。
長老モンペルは『おはよう。で、何の話じゃったかのぉ』と寝ぼけた様子だったので、イーアはヤゴンリルに言われたことを伝えた。
『ふむふむ。思い出したぞ。聞いておるぞ。おぬしがモルドー様の後を継いだのじゃったな。そういえば、地下に大昔から棺があるとか、そんな話も聞いたことがあるわい』
『わたしがモルドーの後を継いだわけじゃないけど……。わたしはみんなといっしょに秘宝を守るよ。ヤゴンリルはこの先の道を教えてくれなかったけど、ここからどこへ行けばいい?』
『まかせるがいい。裂け目を開こう。さぁ、みなのものよ、動け動け』
長老モンペルがそう指示をだすと、崖にくっついていたモンペルたちが次々にピョンピョンと移動していき、崖に縦長の切れ目のような穴があいた。
穴の中から、ヤゴンリルの声が聞こえた。
『早く入れ。ここはすぐにふさがねばならん』
イーアはあわてて穴の中に走って入った。すぐにモンペルたちがイーアの背後で動いて入り口をふさいでいく。
背後が閉じられると、中は真っ暗だったので、イーアは光り輝く妖精ラプラプを呼んだ。
ラプラプの光であたりが照らし出されると、ヤゴンリルがすぐ近くの壁に張りついているのが見えた。
イーアの後ろはすでに深い青色のモンペルの壁でしっかりと閉じられている。
『谷のモンペルたちは、この入り口をふさいで守っていたんだね』
『その通り。ここから攻め入られると守りが脆弱なため、この崖はモンペルが厳重に守っている。この通路も普段は岩と土で塞がれているが、お前が地底湖へ行けるように、グモーチに掘らせておいた。さて、人の足ではいつになるかわからん。ドズミリミルにつかまれ』
穴の中に、穿孔鋼虫ドズミリミルが一体いて、ヤゴンリルがそういうと、イーアの体にまきついた。
イーアもドズミリミルの金属の管のような細いからだをつかんだ。ドズミリミルはかたいからちょっと痛いけど、文句は言ってられない。
イーアを抱えたドズミリミルが、穴の中を浮いたまま高速で移動していった。
そして、数分後。イーアは地底の小さな鍾乳洞に到着した。
ラプラプのあかりで、湖の静かな水面が照らし出されていた。
ドズミリミルは足の方から順にイーアの体から離れていき、イーアが自分の足で地面に立つと、するすると離れてそのまま飛んで行った。
『ここは、祭壇がある場所よりもさらに地下深くに位置する。棺は、あの扉の中だ』
ヤゴンリルに言われ、イーアは地底湖のそばに小さな扉があるのに気が付いた。
よく見えるようにラプラプが扉を照らし出してくれたけど、どう見てもその扉にドアノブはない。
『どうやって開けるの?』
そうつぶやきながら、イーアが歩いて行ってそのドアに手を当てると、扉は勝手に内側に開いていった。『祭壇の封印が解かれれば、この扉は勝手に開くと聞いた』と、後ろからヤゴンリルが説明してくれた。
扉の中はとても小さな空間だった。そこには石でできた棺が一つだけある。
イーアは部屋の中に入り、棺に手をおいた。これは、勝手には開きそうにない。
『ふたを持ち上げよう』とヤゴンリルが言った。ヤゴンリルは手を触れなくても物を空中に持ち上げられる。ヤゴンリルがその力で重たそうな棺の石蓋を持ち上げ、半分ほどずらした。
イーアは石棺の中をのぞきこんだ。
そこには黒い影の他には何もなかった。
『なにもないよ?』
イーアがそうつぶやいた時、棺の中の黒い影が動いた。
そして、黒い影が、まるで上半身を起こすように棺の中から出てきた。
『影が動いた!? ううん、影みたいな精霊?』
黒い影は、人間みたいな形をしていた。そして、その影から声が聞こえた。
<おやおや。これはこれは。いやはや。ここはいったい? あなたはどなた?>
『え? あれ? 声が聞こえるけど……精霊語じゃない?』
イーアがそうつぶやくと、すぐに精霊語が聞こえた。
『いやはや。かわいい妖精さん。こんにちは。あなたはいったい誰でしょう?』
まちがいなく、黒い影がしゃべっている。やっぱり、精霊の一種のようだ。
そう思って、イーアはあいさつをした。
『こんにちは。わたしはイーア』
『こんにちは。妖精のイーアさん。私は……』
その時、いつのまにかイーアの後ろに、ティトがあらわれていた。
ティトは鼻にしわをよせて、人型の影に向かって唸った。
『イーア、離れろ! こいつからは変な臭いがする!』
『ティト?』
イーアは警戒して少し後ずさったけど、棺からはみでている黒い影は、ひょろひょろと動きながら、愛想よく言った。
『こんにちはラシュトさん。お久しぶりですねぇ』
ティトはふたたび唸り、怒鳴るように言った。
『ラシュトを知っている!? お前は誰だ?』
『私は……私は……。はて、私は、誰でしょう?』
『誰でしょうって……。わからないの?』
イーアが困惑していると、ヤゴンリルが天井からつぶやくように言った。
『この棺は、ここに祭壇ができた頃からあるという。約1800年の時を経て、中身が劣化したのかもしれない』
『劣化? つまり、記憶喪失になっちゃってるってこと?』
イーアがそうたずねると、棺からでた黒い影は首をかしげるように動きながら言った。
『はぁ……。まったく思い出せませんねぇ。私は誰で、ここで何をしているのでしょう。それはそうと、精霊の皆さん、何か私に御用ですか?』
イーアは、このグランドールの地下で起きたことと、なぜ棺を開けたのかを、影みたいな精霊? に教えた。
『なるほど、なるほど。それでは、イーアさんは妖精さんではなくて、ガネンの民なのですね』
『うん。ガネンの民は知ってるの?』
『ええ。うすらぼんやりおぼえていますとも。精霊とともに生きる美しい人々、と呼ばれていて、ラシュトさんと仲がいい方たちですよね?』
『え、うん。精霊の森に住む人たちだよ。美しい人々、は聞いたことないけど。ティト、ある?』
『ない』とティトは即答した。
人型の影は、自分が入っていた棺をちょんちょん指でつつきながら言った。
『つまり、ガネンの民のイーアさんと、モルドーさんのお仲間の皆さんは、石板の欠片の守護者であり、モルドーさん亡き今、私が皆さんのお力になれるのではないかと思って、この箱を開けたのですね?』
『うん。そう』
『なるほど、なるほど。ですが、残念ながら、私は何一つ思い出せません。私はいったい何者なのでしょう?』
黒い影は、ふたたび首をかたむけるように動いた。
イーアは天井のヤゴンリルにたずねた。
『ヤゴンリル、どうすればいい?』
ヤゴンリルは落ち着いた様子で答えた。
『どうもこうもない。こいつは使えそうにない。なかったことにして、我らは我らの役目を果たすのみ』
ティトも警戒した様子のままで言った。
『こいつはあやしい。ふつうの精霊のにおいじゃない。とっとと帰ろう』
人型の影は、あわてたように手を動かしながら言った。
『まってください、皆さん。せっかく目覚めたのに、こんなところにひとり取り残されたら、私、困ります。私を放置しないでください! あ、そうだ。そうだった! 思い出しましたよ』
『記憶が戻ったの?』
イーアがたずねると、黒い影は必死なようすで言った。
『ええ。ひとつだけですが。思い出したことがあります。過去を知る道具があります。あれがあれば、私が誰かもわかるはずです』
『過去を知る道具? どこにあるの?』
イーアがたずねると、影は首をかしげた。
『あれは、たしか……。はて……』
『イーア、帰ろう』とティトが言ったところで、黒い影は『思い出しました!』と叫んだ。
だけど、黒い影が教えてくれた場所は、はるか遠く、バララセ大陸だった。
今、グランドールの地下への入り口はすべて厳重に封じられている。どうやっても地下にはいけそうにない。
イーアがヤゴンリルにそう言うと、ヤゴンリルはこの谷に降りてくるように言ったのだ。
モンペルの谷の谷底まで降り、イーアはひときわ古い大きな青い岩、長老モンペルにあいさつをした。
長老モンペルは『おはよう。で、何の話じゃったかのぉ』と寝ぼけた様子だったので、イーアはヤゴンリルに言われたことを伝えた。
『ふむふむ。思い出したぞ。聞いておるぞ。おぬしがモルドー様の後を継いだのじゃったな。そういえば、地下に大昔から棺があるとか、そんな話も聞いたことがあるわい』
『わたしがモルドーの後を継いだわけじゃないけど……。わたしはみんなといっしょに秘宝を守るよ。ヤゴンリルはこの先の道を教えてくれなかったけど、ここからどこへ行けばいい?』
『まかせるがいい。裂け目を開こう。さぁ、みなのものよ、動け動け』
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穴の中から、ヤゴンリルの声が聞こえた。
『早く入れ。ここはすぐにふさがねばならん』
イーアはあわてて穴の中に走って入った。すぐにモンペルたちがイーアの背後で動いて入り口をふさいでいく。
背後が閉じられると、中は真っ暗だったので、イーアは光り輝く妖精ラプラプを呼んだ。
ラプラプの光であたりが照らし出されると、ヤゴンリルがすぐ近くの壁に張りついているのが見えた。
イーアの後ろはすでに深い青色のモンペルの壁でしっかりと閉じられている。
『谷のモンペルたちは、この入り口をふさいで守っていたんだね』
『その通り。ここから攻め入られると守りが脆弱なため、この崖はモンペルが厳重に守っている。この通路も普段は岩と土で塞がれているが、お前が地底湖へ行けるように、グモーチに掘らせておいた。さて、人の足ではいつになるかわからん。ドズミリミルにつかまれ』
穴の中に、穿孔鋼虫ドズミリミルが一体いて、ヤゴンリルがそういうと、イーアの体にまきついた。
イーアもドズミリミルの金属の管のような細いからだをつかんだ。ドズミリミルはかたいからちょっと痛いけど、文句は言ってられない。
イーアを抱えたドズミリミルが、穴の中を浮いたまま高速で移動していった。
そして、数分後。イーアは地底の小さな鍾乳洞に到着した。
ラプラプのあかりで、湖の静かな水面が照らし出されていた。
ドズミリミルは足の方から順にイーアの体から離れていき、イーアが自分の足で地面に立つと、するすると離れてそのまま飛んで行った。
『ここは、祭壇がある場所よりもさらに地下深くに位置する。棺は、あの扉の中だ』
ヤゴンリルに言われ、イーアは地底湖のそばに小さな扉があるのに気が付いた。
よく見えるようにラプラプが扉を照らし出してくれたけど、どう見てもその扉にドアノブはない。
『どうやって開けるの?』
そうつぶやきながら、イーアが歩いて行ってそのドアに手を当てると、扉は勝手に内側に開いていった。『祭壇の封印が解かれれば、この扉は勝手に開くと聞いた』と、後ろからヤゴンリルが説明してくれた。
扉の中はとても小さな空間だった。そこには石でできた棺が一つだけある。
イーアは部屋の中に入り、棺に手をおいた。これは、勝手には開きそうにない。
『ふたを持ち上げよう』とヤゴンリルが言った。ヤゴンリルは手を触れなくても物を空中に持ち上げられる。ヤゴンリルがその力で重たそうな棺の石蓋を持ち上げ、半分ほどずらした。
イーアは石棺の中をのぞきこんだ。
そこには黒い影の他には何もなかった。
『なにもないよ?』
イーアがそうつぶやいた時、棺の中の黒い影が動いた。
そして、黒い影が、まるで上半身を起こすように棺の中から出てきた。
『影が動いた!? ううん、影みたいな精霊?』
黒い影は、人間みたいな形をしていた。そして、その影から声が聞こえた。
<おやおや。これはこれは。いやはや。ここはいったい? あなたはどなた?>
『え? あれ? 声が聞こえるけど……精霊語じゃない?』
イーアがそうつぶやくと、すぐに精霊語が聞こえた。
『いやはや。かわいい妖精さん。こんにちは。あなたはいったい誰でしょう?』
まちがいなく、黒い影がしゃべっている。やっぱり、精霊の一種のようだ。
そう思って、イーアはあいさつをした。
『こんにちは。わたしはイーア』
『こんにちは。妖精のイーアさん。私は……』
その時、いつのまにかイーアの後ろに、ティトがあらわれていた。
ティトは鼻にしわをよせて、人型の影に向かって唸った。
『イーア、離れろ! こいつからは変な臭いがする!』
『ティト?』
イーアは警戒して少し後ずさったけど、棺からはみでている黒い影は、ひょろひょろと動きながら、愛想よく言った。
『こんにちはラシュトさん。お久しぶりですねぇ』
ティトはふたたび唸り、怒鳴るように言った。
『ラシュトを知っている!? お前は誰だ?』
『私は……私は……。はて、私は、誰でしょう?』
『誰でしょうって……。わからないの?』
イーアが困惑していると、ヤゴンリルが天井からつぶやくように言った。
『この棺は、ここに祭壇ができた頃からあるという。約1800年の時を経て、中身が劣化したのかもしれない』
『劣化? つまり、記憶喪失になっちゃってるってこと?』
イーアがそうたずねると、棺からでた黒い影は首をかしげるように動きながら言った。
『はぁ……。まったく思い出せませんねぇ。私は誰で、ここで何をしているのでしょう。それはそうと、精霊の皆さん、何か私に御用ですか?』
イーアは、このグランドールの地下で起きたことと、なぜ棺を開けたのかを、影みたいな精霊? に教えた。
『なるほど、なるほど。それでは、イーアさんは妖精さんではなくて、ガネンの民なのですね』
『うん。ガネンの民は知ってるの?』
『ええ。うすらぼんやりおぼえていますとも。精霊とともに生きる美しい人々、と呼ばれていて、ラシュトさんと仲がいい方たちですよね?』
『え、うん。精霊の森に住む人たちだよ。美しい人々、は聞いたことないけど。ティト、ある?』
『ない』とティトは即答した。
人型の影は、自分が入っていた棺をちょんちょん指でつつきながら言った。
『つまり、ガネンの民のイーアさんと、モルドーさんのお仲間の皆さんは、石板の欠片の守護者であり、モルドーさん亡き今、私が皆さんのお力になれるのではないかと思って、この箱を開けたのですね?』
『うん。そう』
『なるほど、なるほど。ですが、残念ながら、私は何一つ思い出せません。私はいったい何者なのでしょう?』
黒い影は、ふたたび首をかたむけるように動いた。
イーアは天井のヤゴンリルにたずねた。
『ヤゴンリル、どうすればいい?』
ヤゴンリルは落ち着いた様子で答えた。
『どうもこうもない。こいつは使えそうにない。なかったことにして、我らは我らの役目を果たすのみ』
ティトも警戒した様子のままで言った。
『こいつはあやしい。ふつうの精霊のにおいじゃない。とっとと帰ろう』
人型の影は、あわてたように手を動かしながら言った。
『まってください、皆さん。せっかく目覚めたのに、こんなところにひとり取り残されたら、私、困ります。私を放置しないでください! あ、そうだ。そうだった! 思い出しましたよ』
『記憶が戻ったの?』
イーアがたずねると、黒い影は必死なようすで言った。
『ええ。ひとつだけですが。思い出したことがあります。過去を知る道具があります。あれがあれば、私が誰かもわかるはずです』
『過去を知る道具? どこにあるの?』
イーアがたずねると、影は首をかしげた。
『あれは、たしか……。はて……』
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