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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島
第84話 シャヒーン先生のざんげ
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地下の石棺から出てきた人型の影は自分の名前を思い出せなかったので、とりあえず、カゲと呼ぶことにした。
カゲの話によると、過去を知る道具はバララセ大陸の東にあるらしい。
かつてメラフィスの古代王朝があったバララセ大陸は、イーア達がいる大陸の南にある。
バララセ大陸も今は帝国領だけど、海を渡っていかないといけないので、そう簡単に行ける場所ではない。
しかも今、バララセ大陸にはギルフレイ卿がいるはずだ。
それに、そもそも学校があったので、イーアはすぐにバララセ大陸に行くわけにはいかなかった。
ティトは『あんなあやしい奴のいうことは信用できない』と言ったし、ヤゴンリルも『もうよい。モルドー様から棺の中身に従えと命じられていたならともかく、そうではない。我々は、棺の中身はみなかったことにする』と言っていたので、イーアは急いで過去を知る道具を探しに行こうという気にはならなかった。
イーアはカゲと召喚契約を結んで、たまに呼びだしては、記憶が戻ったか聞くことにした。
でも、カゲの記憶は全然もどらなかった。
だから、イーアはしばらくは普通に学校生活を送ることにした。
グランドールでの学校生活は、ふしぎなくらいに平和だった。
イーアはなるべく警戒するようにしていたけれど、誰もイーアを襲ってはこなかった。
怪しいことすらおこらなかった。
だからしだいに(ひょっとして透明ローブのおかげで正体はバレてなかったのかな?)とイーアは思うようになった。
オレンには正体がバレていた。だけど、オレンはギルフレイ卿にイーアのことを告げていなかったのだろう。
平和だけど、学校生活は以前とまったく同じではなかった。
同じ風景だけど、同じクラスに、マーカスがいない。
イーアとユウリは地下で起きたことを誰にも言わなかったので、マーカスは冬休みの間に「行方不明」になったことになっていた。
オレン先生も「行方不明」になったから、召喚術の授業はしばらく休みだった。
冬休みあけ、「マーカスってイヤな奴だったけどさ、いないと調子狂うよな」と、オッペンは言っていた。だけど、じきにみんなマーカスがいないことに慣れてしまって誰もマーカスのことにはふれなくなった。
みんな、以前と同じようにいつも通りの学校生活を送っている。だけど、イーアはふと悲しくなることがあった。
さて、冬休みがあけて学校に戻ってすぐ、イーアはシャヒーン先生に呼ばれた。
イーアはひとりでシャヒーン先生の部屋にむかった。
シャヒーン先生の部屋に入り、イーアが席に着くと、シャヒーン先生は開口一番、こう言った。
「死んだんだろ? オレンとマーカスは」
イーアは無言でうなずいた。
シャヒーン先生は力なく言った。
「あたしは教師失格さ。<白光>が危険なことも、敵対すれば将来がないことも知っていたのに、あんたたちをまきこんだんだからね」
「シャヒーン先生のせいじゃありません」
マーカスを巻きこんだのはシャヒーン先生じゃない。
イーアはむしろシャヒーン先生におおいにたすけられた。だから、感謝している。シャヒーン先生にそう話すわけにはいかないけれど。
シャヒーン先生は頭を振りながら言った。
「いんや。あたしは最悪の大人さ。あんたを呼んだのは謝るためだけどね、あたしの罪は謝っても謝りきれないさ。だって、あたしゃ、知ってたんだよ。本当に危ないってことを。なにせ、あたしの婆さんは、<白光>に殺されたんだからね」
「シャヒーン先生のおばあさんが<白光>に?」
「あたしが、まだとってもちっちゃな頃のことさ。あたしは見ての通り、ラナ人でね」
「ラナ人?」
イーアが聞き返すと、シャヒーン先生は驚いたような表情になった。
「知らないのかい? 独特の文化をもつ放浪の民さ。帝国じゃ嫌われ者だけどね」
言われてみれば、シャヒーン先生の変わった服や装飾品の一部、美しい紋様の布地やビーズは、ラナという民族のものなのかもしれなかった。
「ラナは伝統的に占いが得意でね。あたしの婆さんも占い師だったんだ。ところが、ある日、あたしは見たんだよ。白装束の奴らが、婆さんのテントに入っていくのを。その後すぐ、婆さんの死体が発見された。あたしは大人たちに白装束のことを言ったんだけど、誰も信じてくれはしなかった。ま、嫌われ者のラナにとっちゃ暴力をふるわれたり殺されたりってのは日常茶飯事だったからね。誰が殺したかなんて、大人は興味もなかったのさ。すぐに移動して終わりさ。それっきり忘れていたんだがねぇ。地下で強盗に遭遇した時に、あたしは、思い出しちまったのさ。どうしてもあいつらが許せなくなっちまったのさ。しかも、ひとりでやりゃいいのに、あんたたちをまきこんで……」
「別に、わたしはシャヒーン先生のことを恨んだりしてないです。オッペンもわたしもユウリもみんな無事だから」
殺されたのは<白光>に、ギルフレイ卿に利用されたマーカスだけだ。
シャヒーン先生はため息をついて言った。
「それだけじゃないんだよ。<白光>ってのは、お偉いさんたちとつながってるんだからね。あいつらとケンカをすれば出世できなくなるんだよ」
「それは……」
ガリの話を聞いて、それは理解していた。
シャヒーン先生は心底申し訳なさそうに言った。
「あたしの一番ひどいところはね、あんたとオッペンにはどうせこの国で出世する未来はないと思っていたことさ。あんたたちにどんなに才能があっても、<白光>に嫌われようがなかろうが、出自にうるさいこの国じゃどうせ将来はかわらないってね。だから、声をかけたんだ。ひどい教師だろ?」
「それは……わたしは本当にそうだから、気にしないでください」
たしかにそういわれれば、ひどい教師みたいに聞こえるけれど。
シャヒーン先生が思っている以上に、ガネンの民であるイーアは最初からどっぷりすっかり<白光>と敵対しているのだ。
それに、ガネンの民でなくても、褐色の肌をもつかぎり、イーアが帝国で出世することはない。それが今の現実だ。
「そうじゃない未来が待ってることを願っているよ。だけど、ありがとうよ。あたしゃ、せめてオッペンに将来を台無しにしちまったかもしれないことへの罪滅ぼしをしようかね。天才召喚士のあんたは、あたしなんかの助けはいらんだろうから、このお菓子でゆるしておくれ」
そう言って、シャヒーン先生は、そばにあったお菓子をたくさんくれた。
カゲの話によると、過去を知る道具はバララセ大陸の東にあるらしい。
かつてメラフィスの古代王朝があったバララセ大陸は、イーア達がいる大陸の南にある。
バララセ大陸も今は帝国領だけど、海を渡っていかないといけないので、そう簡単に行ける場所ではない。
しかも今、バララセ大陸にはギルフレイ卿がいるはずだ。
それに、そもそも学校があったので、イーアはすぐにバララセ大陸に行くわけにはいかなかった。
ティトは『あんなあやしい奴のいうことは信用できない』と言ったし、ヤゴンリルも『もうよい。モルドー様から棺の中身に従えと命じられていたならともかく、そうではない。我々は、棺の中身はみなかったことにする』と言っていたので、イーアは急いで過去を知る道具を探しに行こうという気にはならなかった。
イーアはカゲと召喚契約を結んで、たまに呼びだしては、記憶が戻ったか聞くことにした。
でも、カゲの記憶は全然もどらなかった。
だから、イーアはしばらくは普通に学校生活を送ることにした。
グランドールでの学校生活は、ふしぎなくらいに平和だった。
イーアはなるべく警戒するようにしていたけれど、誰もイーアを襲ってはこなかった。
怪しいことすらおこらなかった。
だからしだいに(ひょっとして透明ローブのおかげで正体はバレてなかったのかな?)とイーアは思うようになった。
オレンには正体がバレていた。だけど、オレンはギルフレイ卿にイーアのことを告げていなかったのだろう。
平和だけど、学校生活は以前とまったく同じではなかった。
同じ風景だけど、同じクラスに、マーカスがいない。
イーアとユウリは地下で起きたことを誰にも言わなかったので、マーカスは冬休みの間に「行方不明」になったことになっていた。
オレン先生も「行方不明」になったから、召喚術の授業はしばらく休みだった。
冬休みあけ、「マーカスってイヤな奴だったけどさ、いないと調子狂うよな」と、オッペンは言っていた。だけど、じきにみんなマーカスがいないことに慣れてしまって誰もマーカスのことにはふれなくなった。
みんな、以前と同じようにいつも通りの学校生活を送っている。だけど、イーアはふと悲しくなることがあった。
さて、冬休みがあけて学校に戻ってすぐ、イーアはシャヒーン先生に呼ばれた。
イーアはひとりでシャヒーン先生の部屋にむかった。
シャヒーン先生の部屋に入り、イーアが席に着くと、シャヒーン先生は開口一番、こう言った。
「死んだんだろ? オレンとマーカスは」
イーアは無言でうなずいた。
シャヒーン先生は力なく言った。
「あたしは教師失格さ。<白光>が危険なことも、敵対すれば将来がないことも知っていたのに、あんたたちをまきこんだんだからね」
「シャヒーン先生のせいじゃありません」
マーカスを巻きこんだのはシャヒーン先生じゃない。
イーアはむしろシャヒーン先生におおいにたすけられた。だから、感謝している。シャヒーン先生にそう話すわけにはいかないけれど。
シャヒーン先生は頭を振りながら言った。
「いんや。あたしは最悪の大人さ。あんたを呼んだのは謝るためだけどね、あたしの罪は謝っても謝りきれないさ。だって、あたしゃ、知ってたんだよ。本当に危ないってことを。なにせ、あたしの婆さんは、<白光>に殺されたんだからね」
「シャヒーン先生のおばあさんが<白光>に?」
「あたしが、まだとってもちっちゃな頃のことさ。あたしは見ての通り、ラナ人でね」
「ラナ人?」
イーアが聞き返すと、シャヒーン先生は驚いたような表情になった。
「知らないのかい? 独特の文化をもつ放浪の民さ。帝国じゃ嫌われ者だけどね」
言われてみれば、シャヒーン先生の変わった服や装飾品の一部、美しい紋様の布地やビーズは、ラナという民族のものなのかもしれなかった。
「ラナは伝統的に占いが得意でね。あたしの婆さんも占い師だったんだ。ところが、ある日、あたしは見たんだよ。白装束の奴らが、婆さんのテントに入っていくのを。その後すぐ、婆さんの死体が発見された。あたしは大人たちに白装束のことを言ったんだけど、誰も信じてくれはしなかった。ま、嫌われ者のラナにとっちゃ暴力をふるわれたり殺されたりってのは日常茶飯事だったからね。誰が殺したかなんて、大人は興味もなかったのさ。すぐに移動して終わりさ。それっきり忘れていたんだがねぇ。地下で強盗に遭遇した時に、あたしは、思い出しちまったのさ。どうしてもあいつらが許せなくなっちまったのさ。しかも、ひとりでやりゃいいのに、あんたたちをまきこんで……」
「別に、わたしはシャヒーン先生のことを恨んだりしてないです。オッペンもわたしもユウリもみんな無事だから」
殺されたのは<白光>に、ギルフレイ卿に利用されたマーカスだけだ。
シャヒーン先生はため息をついて言った。
「それだけじゃないんだよ。<白光>ってのは、お偉いさんたちとつながってるんだからね。あいつらとケンカをすれば出世できなくなるんだよ」
「それは……」
ガリの話を聞いて、それは理解していた。
シャヒーン先生は心底申し訳なさそうに言った。
「あたしの一番ひどいところはね、あんたとオッペンにはどうせこの国で出世する未来はないと思っていたことさ。あんたたちにどんなに才能があっても、<白光>に嫌われようがなかろうが、出自にうるさいこの国じゃどうせ将来はかわらないってね。だから、声をかけたんだ。ひどい教師だろ?」
「それは……わたしは本当にそうだから、気にしないでください」
たしかにそういわれれば、ひどい教師みたいに聞こえるけれど。
シャヒーン先生が思っている以上に、ガネンの民であるイーアは最初からどっぷりすっかり<白光>と敵対しているのだ。
それに、ガネンの民でなくても、褐色の肌をもつかぎり、イーアが帝国で出世することはない。それが今の現実だ。
「そうじゃない未来が待ってることを願っているよ。だけど、ありがとうよ。あたしゃ、せめてオッペンに将来を台無しにしちまったかもしれないことへの罪滅ぼしをしようかね。天才召喚士のあんたは、あたしなんかの助けはいらんだろうから、このお菓子でゆるしておくれ」
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