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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島
第89話 旅路
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こうして、夏の休みが始まるとすぐ、イーアはバララセ大陸にむかった。
本当は、イーアはこっそりひとりで行くつもりだった。でも、バララセの地図を調べたり準備をしているうちに、ユウリとオッペンにバレてしまって、オッペンが「おれもバララセへ行く」と言い出した。
オッペンはずっとバララセ大陸に行きたかったらしい。オッペンのお父さんは、バララセ東部のどこかで戦死したから。
「骨も帰ってこなかったからさ。おれは、バララセで父ちゃんの墓を探さなきゃなんねーんだ。そのために、ずっと金もためてんだ。シャヒーン先生に習ったダウジングで父ちゃんの墓を見つけてやる」
そうオッペンは真剣な表情で言っていて、ちょうどイーアの目的地も同じ辺りだったから、いっしょに行くのを断れなかった。
ユウリは、予想通り、「イーアが行くならぼくも行く」と言ってきかなかった。ユウリには関係ないウェルグァンダルの任務だとしても、<白光>に狙われていて危険なはずなのにイーアがバララセ大陸に行く、と聞いて、ユウリが黙っているはずがない。と思ったから、秘密にしておくつもりだったのだけど。
結局、3人でバララセ大陸に行くことに決まった。
もちろん、ユウリには絶対に師匠のホスルッドには言わないように念を押した。ホスルッドが<白光>だから、とは言わなかったけれど。
だけど、いざ出発の日が近づくと、ユウリがホーヘンハインから帰ってこなくなってしまった。
そして、そのままユウリはバララセ大陸へむかう船の出航にまにあわなかった。
きっと、ホーヘンハインでホスルッドがユウリを止めているのだろう。
イーアは少し迷ったけれど、結局そのまま出発した。
港町の街並みがしだいにはっきりと見えるようになってきた。
イーアは海風を受けながら、徐々に近づいてくる大陸の光景を船上から眺めていた。
オッペンが手すりにつかまって身を乗り出して叫んだ。
「すげぇ! あれがバララセ大陸か!」
船がゆれて、身を乗り出していたオッペンが落ちかけて、すかさず移動魔法でダモンがオッペンを甲板にひきあげた。「まったく。何回落ちかければ気がすむんだ」とダモンがオッペンに文句を言っている。
ドルボッジ部のダモンとガボーはバララセ大陸出身で、今は学校から家に帰るところだ。
イーア達がバララセ大陸に行くつもりだというと、二人は行き方や船のチケットの買い方、服装や注意点までくわしく教えてくれた。
「あれがチュジェの町だね」
オッペンのことは気にせずイーアがつぶやくと、ガボーが言った。
「おれは、帰ってきてほっとするどころか、緊張する。おまえも気をつけるんだな。あの町に足を踏み入れた瞬間から、おれ達は本当に奴隷人種なんだ。誘拐されて売り払われたら、一生奴隷で人生が終わるんだ」
肌の色の白いダモンは数代前にアグラシアからバララセに移住した農場主の息子だけど、色の黒いガボーはもともとバララセ大陸に住んでいた一族だった。
続けてダモンが言った。
「ムトカラはメラフィス砂漠の北をずっと東に行った先だ。本当に俺達なしで大丈夫か? 俺はお前達をムトカラまで送ってから南に向かってもいいんだぞ」
「大丈夫。オッペンもいっしょだもん」
「それが余計に心配なんだな」
ガボーにそう言われると、イーアも否定できなかった。むこうで、はしゃぎながら港町を見ていたオッペンがタイミングよくくしゃみをしている。
「うん……。でも、わたしには召喚があるから、だいじょうぶ」
「お前の召喚術のすごさは知っているが……」
チュジェの街並みが近づいてくるのを見ながら、ダモンは言った。
「気をつけろ。バララセで生まれ育った人間として故郷の悪口を言いたくはないが、ここは帝都のあたりとは比べ物にならない物騒な場所だ」
「うん。気をつけるよ」
イーアは素直にそう返した。
イーアの眼前、船の進む先には美しい港町が広がっていて、とてもそんな物騒な場所には見えなかった。だけど、この先は、イーアがまだ知らない土地、バララセ大陸なのだ。
船は無事にバララセ大陸の港町チュジェに到着した。
バララセ大陸の玄関口と言われるチュジェは、建物も行きかう人の服装もアグラシアと大きく違いはなかった。
だけど、港で働いている労働者の多くは肌の色の黒いバララセ人だ。
ガボーの話によると、ここで働いているバララセ人は皆、奴隷だという。
彼らは落ちくぼんだ生気のない目で黙々と働き続けていた。
それでも、ガボーが言うには、こういう人目に付きやすい町で働かされている奴隷は比較的待遇が良いのだという。
鉱山や大農場で働かされている奴隷はもっと過酷で、日常的に暴力をふるわれて、死んでいくものも多い。
「農場での待遇は、オーナーしだいだけどな」と、ガボーはダモンに遠慮するようにつけたした。だけど、ダモンは頭を横に振って言った。
「待遇のいいところなんて、あるはずがない。誰も奴隷を同じ人間だと思っていないんだ。俺だって、グランドールでガボーと親友になるまで、対等な人間だと思ったことがなかった。かわいそうだと思ったことはあるさ。犬や猫に同情するのと同じような感じで。でも、俺と同じ人間だとは思っていなかった。今は、あの頃の俺こそ、恥ずかしい奴だと思ってるが」
翌朝、ダモンとガボーは南へ向かう馬車に乗り、イーアとオッペンは東に向かう馬車に乗った。
イーアの目的地は、バララセ北東にある町、ムトカラだった。ムトカラにはウェルグァンダルの召喚士ンワラデがいる。
チュジェからムトカラは何日もかかった。
移動の途中でメラフィス砂漠の砂丘がみえた。
大昔、あの砂漠に、『支配者の石板』を作った古代王国があったのだと思うと、少し気になった。
だけど、今はムトカラに行くのが先だ。それに、今のメラフィス砂漠にはひたすら砂漠が広がっていて、古代王国の遺跡はないらしい。
途中、オッペンが詐欺師《さぎし》にだまされかけたり、強盗に襲われかけたり、ちょっと危ないことはあったけれど、イーアが適当にドプープクや双頭の狼を召喚して、片づけた。
だから、特に大きな問題は起こらず、イーア達はムトカラについた。
本当は、イーアはこっそりひとりで行くつもりだった。でも、バララセの地図を調べたり準備をしているうちに、ユウリとオッペンにバレてしまって、オッペンが「おれもバララセへ行く」と言い出した。
オッペンはずっとバララセ大陸に行きたかったらしい。オッペンのお父さんは、バララセ東部のどこかで戦死したから。
「骨も帰ってこなかったからさ。おれは、バララセで父ちゃんの墓を探さなきゃなんねーんだ。そのために、ずっと金もためてんだ。シャヒーン先生に習ったダウジングで父ちゃんの墓を見つけてやる」
そうオッペンは真剣な表情で言っていて、ちょうどイーアの目的地も同じ辺りだったから、いっしょに行くのを断れなかった。
ユウリは、予想通り、「イーアが行くならぼくも行く」と言ってきかなかった。ユウリには関係ないウェルグァンダルの任務だとしても、<白光>に狙われていて危険なはずなのにイーアがバララセ大陸に行く、と聞いて、ユウリが黙っているはずがない。と思ったから、秘密にしておくつもりだったのだけど。
結局、3人でバララセ大陸に行くことに決まった。
もちろん、ユウリには絶対に師匠のホスルッドには言わないように念を押した。ホスルッドが<白光>だから、とは言わなかったけれど。
だけど、いざ出発の日が近づくと、ユウリがホーヘンハインから帰ってこなくなってしまった。
そして、そのままユウリはバララセ大陸へむかう船の出航にまにあわなかった。
きっと、ホーヘンハインでホスルッドがユウリを止めているのだろう。
イーアは少し迷ったけれど、結局そのまま出発した。
港町の街並みがしだいにはっきりと見えるようになってきた。
イーアは海風を受けながら、徐々に近づいてくる大陸の光景を船上から眺めていた。
オッペンが手すりにつかまって身を乗り出して叫んだ。
「すげぇ! あれがバララセ大陸か!」
船がゆれて、身を乗り出していたオッペンが落ちかけて、すかさず移動魔法でダモンがオッペンを甲板にひきあげた。「まったく。何回落ちかければ気がすむんだ」とダモンがオッペンに文句を言っている。
ドルボッジ部のダモンとガボーはバララセ大陸出身で、今は学校から家に帰るところだ。
イーア達がバララセ大陸に行くつもりだというと、二人は行き方や船のチケットの買い方、服装や注意点までくわしく教えてくれた。
「あれがチュジェの町だね」
オッペンのことは気にせずイーアがつぶやくと、ガボーが言った。
「おれは、帰ってきてほっとするどころか、緊張する。おまえも気をつけるんだな。あの町に足を踏み入れた瞬間から、おれ達は本当に奴隷人種なんだ。誘拐されて売り払われたら、一生奴隷で人生が終わるんだ」
肌の色の白いダモンは数代前にアグラシアからバララセに移住した農場主の息子だけど、色の黒いガボーはもともとバララセ大陸に住んでいた一族だった。
続けてダモンが言った。
「ムトカラはメラフィス砂漠の北をずっと東に行った先だ。本当に俺達なしで大丈夫か? 俺はお前達をムトカラまで送ってから南に向かってもいいんだぞ」
「大丈夫。オッペンもいっしょだもん」
「それが余計に心配なんだな」
ガボーにそう言われると、イーアも否定できなかった。むこうで、はしゃぎながら港町を見ていたオッペンがタイミングよくくしゃみをしている。
「うん……。でも、わたしには召喚があるから、だいじょうぶ」
「お前の召喚術のすごさは知っているが……」
チュジェの街並みが近づいてくるのを見ながら、ダモンは言った。
「気をつけろ。バララセで生まれ育った人間として故郷の悪口を言いたくはないが、ここは帝都のあたりとは比べ物にならない物騒な場所だ」
「うん。気をつけるよ」
イーアは素直にそう返した。
イーアの眼前、船の進む先には美しい港町が広がっていて、とてもそんな物騒な場所には見えなかった。だけど、この先は、イーアがまだ知らない土地、バララセ大陸なのだ。
船は無事にバララセ大陸の港町チュジェに到着した。
バララセ大陸の玄関口と言われるチュジェは、建物も行きかう人の服装もアグラシアと大きく違いはなかった。
だけど、港で働いている労働者の多くは肌の色の黒いバララセ人だ。
ガボーの話によると、ここで働いているバララセ人は皆、奴隷だという。
彼らは落ちくぼんだ生気のない目で黙々と働き続けていた。
それでも、ガボーが言うには、こういう人目に付きやすい町で働かされている奴隷は比較的待遇が良いのだという。
鉱山や大農場で働かされている奴隷はもっと過酷で、日常的に暴力をふるわれて、死んでいくものも多い。
「農場での待遇は、オーナーしだいだけどな」と、ガボーはダモンに遠慮するようにつけたした。だけど、ダモンは頭を横に振って言った。
「待遇のいいところなんて、あるはずがない。誰も奴隷を同じ人間だと思っていないんだ。俺だって、グランドールでガボーと親友になるまで、対等な人間だと思ったことがなかった。かわいそうだと思ったことはあるさ。犬や猫に同情するのと同じような感じで。でも、俺と同じ人間だとは思っていなかった。今は、あの頃の俺こそ、恥ずかしい奴だと思ってるが」
翌朝、ダモンとガボーは南へ向かう馬車に乗り、イーアとオッペンは東に向かう馬車に乗った。
イーアの目的地は、バララセ北東にある町、ムトカラだった。ムトカラにはウェルグァンダルの召喚士ンワラデがいる。
チュジェからムトカラは何日もかかった。
移動の途中でメラフィス砂漠の砂丘がみえた。
大昔、あの砂漠に、『支配者の石板』を作った古代王国があったのだと思うと、少し気になった。
だけど、今はムトカラに行くのが先だ。それに、今のメラフィス砂漠にはひたすら砂漠が広がっていて、古代王国の遺跡はないらしい。
途中、オッペンが詐欺師《さぎし》にだまされかけたり、強盗に襲われかけたり、ちょっと危ないことはあったけれど、イーアが適当にドプープクや双頭の狼を召喚して、片づけた。
だから、特に大きな問題は起こらず、イーア達はムトカラについた。
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