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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島
第92話 戦場跡
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「オッペン、よかった。無事だったんだね」
イーアがそう言うと、オッペンは胸をたたいて言った。
「おう。おれはマジーラ先生スペシャルメニューできたえてるからな。でも、今日は死ぬかとおもったぜ」
オッペンの体は砂だらけで、日焼けで皮膚が赤くなっている。だけど、特にケガはしていないようだ。
マジーラ先生のトレーニングメニューに水泳は入っていないから、オッペンがたすかったのは、ただの奇跡だろうけど。
「おれたち、無人島に漂流しちまったのか?」
オッペンはむしろ楽しそうにそう言った。
「たぶん、島じゃなくて、大陸側だと思う。ダウジング・ロッドもってる?」
イーア達は旅に出る前に、シャヒーン先生秘蔵のダウジング・ロッドを借りてきた。オッペンはダウジング・ロッドを手に取りながら言った。
「おう。えーっと、帰り道は……」
「帰り道より、前にお願いした魔道具のこと、探せる?」
「あ? いいけどよ。これから探検すんのか?」
「うーん……」
もうすぐ夕方だから、たしかに、今日これから何かをするのは無理そうだ。だけど、このまま砂浜にいてもしかたがない。
「イーアが探してる魔道具、魔道具……」
オッペンのダウジング・ロッドがひょいっと動いて砂浜の後ろの密林の方をさした。
「んーと、あっちみたいだな」
イーアはちょっと迷った。
ジャングルの中に入ったら、簡単には外にでられないかもしれない。
(でも、ジャングルの中の方が召喚はしやすいかも)
イーアが呼べる精霊は森や地底の精霊が多いから、たぶん、海の傍よりジャングルの中の方が力を発揮できるだろう。
ユウリがいたら反対するだろうな、と思いながら、イーアはオッペンに言った。
「行っていい?」
「おう。ジャングル探検だ!」
浜辺の後ろの密林には、獣道のような少しだけ草木の密集が少ないところがあった。イーアたちはそこからジャングルの中へと入った。
だけど、歩き出して数秒で、オッペンはうなるように言った。
「すんげぇとこだな」
「これは、進むの無理かもね」
こんな道、というより道のない状態が続くなら、あきらめて浜辺に戻るしかないかもしれない。
そう思いながら、草やつるをかきわけたり、くぐったりしながら、がんばって歩いて行くと、とつぜん、開けた場所にでた。
草原だ。
だけど、そこはただの草原ではなかった。
地面のあちこちに、折れた武器が刺さっていて、骨が落ちていた。
「ここは……戦場跡?」
戦闘から、かなり時間がたっているようだ。
オッペンが、走って何かに近づいた。
そこに倒れていた骸骨を見て、オッペンがどなるように言った。
「帝国軍の軍服だ。きっと、反乱軍のやつらが兵士を殺したんだ! クソッ! 反乱軍なんて、おれがたおしてやる!」
いきりたつオッペンに、イーアは落ち着いた声で言った。
「おちついて、オッペン」
「おちついてられるかよ! 反乱軍がそばにいるんだぜ!?」
イーアは冷静にンワラデから聞いた説明を思い出していた。
反乱軍あるいはバララセ解放軍と呼ばれるバララセ人組織が帝国軍と戦っている場所の近くに、オーロガロンがすむカンラビの密林がある。
ひょっとしたら、ここはオーロガロンがいる密林かもしれない。
そして、カンラビ族はバララセ解放軍と協力して帝国軍と戦っている。
「わたしがたのまれた召喚士のお仕事は、帝国に敵対している人達と協力しないといけないんだよ。だから……」
「はぁ? なんだよ、それ。帝国の敵って、悪い奴らってことだろ。なんで悪い奴らと協力すんだよ」
バララセの現状を知れば知るほど、イーアには、独立運動が起こるのは当然だと思えてくる。戦争は嫌だけど、もしもどちらかの味方をしないといけないなら、イーアはバララセ解放軍を選ぶだろう。オーロガロンの任務がなかったとしても。
だけど、今ここでオッペンとそんな議論をしていてもしかたがない。
イーアは冷静に説明した。
「いいとか悪いとかじゃなくて。大怪鳥オーロガロンっていう精霊を鎮めるのがわたしの仕事で、オーロガロンに会うには、帝国軍と戦っているカンラビ族の人達に協力してもらわないといけないから……」
「なにいってんだよ! 反乱軍と協力なんて! あいつらが、おれの父ちゃんを殺したんだぞ!」
オッペンはどなりながら、地面に転がる人体だったものをゆびさした。
「こんな風に! チクショウ! きっと、父ちゃんは、こんな風に殺されて、放置されて、腐っていったんだ。だから、骨も帰ってこなかったんだ。チクショウ!」
オッペンは泣いてはいなかったけれど、声は泣いているみたいだった。
お父さんがこんな風に野ざらしになっていたと想像したら、誰だって耐えられない気持ちになるだろう。特にオッペンは、お父さんのことをとても尊敬しているから。
「おれが反乱軍のやつらをひとりのこらず殺してやる! おれはそのためにグランドールに入ったんだ!」
イーアは何も言えなかったし、何かを言ってオッペンの怒りがしずまるとは思えなかった。
オッペンはその場所から動かず、しばらく時間がたった。
日が暮れかけていた。
暗くなるまで、もうあまり時間はない。
この戦場跡で一夜を過ごすのは、絶対にいやだった。
イーアがオッペンを説得して移動しないと、と思ったとき、オッペンはようやく地面を見ながら暗い声で言った。
「ここに敵はいねーみたいだし。探検、続けようぜ」
「うん」
密林の中に入れそうな場所をみつけ、イーアたちはふたたびジャングルの中を歩いていった。
このあたりの樹木は少しまばらになっていて、最初よりはずっと歩きやすかった。
だけど、日暮れまでにジャングルの外に出るのはたぶんむりだろう。
それに、むしろ出ない方がいいと、イーアは考えていた。
ここは、たぶん戦場だ。開けた場所は危ない。
「今日は、野宿するしかないね」
「おう。不気味なジャングルだけど、しかたねーよな」
「そういえば、このジャングル、ちょっと精霊の気配がするかも。休めそうな場所が見つかったら、今日はそこで休もう。料理鳥のクーちゃんを召喚すれば美味しい料理を作ってもらえるから、食べ物は心配ないよ」
「おう……。おれ、今日は食わなくてもいーけど」
少しして、ちょうどよさそうな場所にでた。腰掛けるのによさそうな倒木があって、数メートル四方くらいの空間がある。
「ここで休もうか」
立ち止まり、イーアが提案した時。
何か、音がした。
何かが近づいてくる。
獣? 兵士?
イーアは『友契の書』を手でつかんだ。
「何か来る!」
イーアがそう叫んだ瞬間、弓矢がとんできた。
飛んでくる矢をさけるために身を低くして藪のかげにかくれながら、イーアは召喚した。
『モンペル! オルゾロ!』
モンペルはすぐにあらわれ、矢を遮る壁を作った。
イーアはモンペルの壁の向こうを見た。人影が見える。
弓矢を構えているのは、イーアと同じくらいの年頃の少年、その後ろに、もうひとり、同じくらいの年頃の、たぶん、少女がいた。
オルゾロがイーアの前にあらわれ、すぐに弓矢を持つ少年にむかってとびかかろうとした。
「コサ!」
少女の叫び声が聞こえると同時にイーアも叫んでいた。
『攻撃をやめて! オルゾロ!』
双頭の炎氷狼オルゾロはすでに少年を前足で組み伏せていた。青い頭が氷の息吹を少年の顔にかけようとしながら、もう片方の炎のように赤い頭が、不満そうにイーアを見た。
イーアはかけよりながら言った。
『ごめん、オルゾロ。その子は、たぶん、敵じゃない』
向こうから、声が聞こえた。
『ひぇー。何者だ? おまえら。こんな獣、ここいらで見たことないぞ?』
しゃべっているのは、少女の肩にのっている鼻が長くて目が大きい小さな獣、たぶん霊獣だ。
イーアはその小さな霊獣に精霊語で言った。
『わたしはイーア。精霊と人間の争いの調停者、ウェルグァンダルの召喚士。戦う気はないの。オルゾロは帰すから、その子をとめて』
イーアがそう言うと、オッペンは胸をたたいて言った。
「おう。おれはマジーラ先生スペシャルメニューできたえてるからな。でも、今日は死ぬかとおもったぜ」
オッペンの体は砂だらけで、日焼けで皮膚が赤くなっている。だけど、特にケガはしていないようだ。
マジーラ先生のトレーニングメニューに水泳は入っていないから、オッペンがたすかったのは、ただの奇跡だろうけど。
「おれたち、無人島に漂流しちまったのか?」
オッペンはむしろ楽しそうにそう言った。
「たぶん、島じゃなくて、大陸側だと思う。ダウジング・ロッドもってる?」
イーア達は旅に出る前に、シャヒーン先生秘蔵のダウジング・ロッドを借りてきた。オッペンはダウジング・ロッドを手に取りながら言った。
「おう。えーっと、帰り道は……」
「帰り道より、前にお願いした魔道具のこと、探せる?」
「あ? いいけどよ。これから探検すんのか?」
「うーん……」
もうすぐ夕方だから、たしかに、今日これから何かをするのは無理そうだ。だけど、このまま砂浜にいてもしかたがない。
「イーアが探してる魔道具、魔道具……」
オッペンのダウジング・ロッドがひょいっと動いて砂浜の後ろの密林の方をさした。
「んーと、あっちみたいだな」
イーアはちょっと迷った。
ジャングルの中に入ったら、簡単には外にでられないかもしれない。
(でも、ジャングルの中の方が召喚はしやすいかも)
イーアが呼べる精霊は森や地底の精霊が多いから、たぶん、海の傍よりジャングルの中の方が力を発揮できるだろう。
ユウリがいたら反対するだろうな、と思いながら、イーアはオッペンに言った。
「行っていい?」
「おう。ジャングル探検だ!」
浜辺の後ろの密林には、獣道のような少しだけ草木の密集が少ないところがあった。イーアたちはそこからジャングルの中へと入った。
だけど、歩き出して数秒で、オッペンはうなるように言った。
「すんげぇとこだな」
「これは、進むの無理かもね」
こんな道、というより道のない状態が続くなら、あきらめて浜辺に戻るしかないかもしれない。
そう思いながら、草やつるをかきわけたり、くぐったりしながら、がんばって歩いて行くと、とつぜん、開けた場所にでた。
草原だ。
だけど、そこはただの草原ではなかった。
地面のあちこちに、折れた武器が刺さっていて、骨が落ちていた。
「ここは……戦場跡?」
戦闘から、かなり時間がたっているようだ。
オッペンが、走って何かに近づいた。
そこに倒れていた骸骨を見て、オッペンがどなるように言った。
「帝国軍の軍服だ。きっと、反乱軍のやつらが兵士を殺したんだ! クソッ! 反乱軍なんて、おれがたおしてやる!」
いきりたつオッペンに、イーアは落ち着いた声で言った。
「おちついて、オッペン」
「おちついてられるかよ! 反乱軍がそばにいるんだぜ!?」
イーアは冷静にンワラデから聞いた説明を思い出していた。
反乱軍あるいはバララセ解放軍と呼ばれるバララセ人組織が帝国軍と戦っている場所の近くに、オーロガロンがすむカンラビの密林がある。
ひょっとしたら、ここはオーロガロンがいる密林かもしれない。
そして、カンラビ族はバララセ解放軍と協力して帝国軍と戦っている。
「わたしがたのまれた召喚士のお仕事は、帝国に敵対している人達と協力しないといけないんだよ。だから……」
「はぁ? なんだよ、それ。帝国の敵って、悪い奴らってことだろ。なんで悪い奴らと協力すんだよ」
バララセの現状を知れば知るほど、イーアには、独立運動が起こるのは当然だと思えてくる。戦争は嫌だけど、もしもどちらかの味方をしないといけないなら、イーアはバララセ解放軍を選ぶだろう。オーロガロンの任務がなかったとしても。
だけど、今ここでオッペンとそんな議論をしていてもしかたがない。
イーアは冷静に説明した。
「いいとか悪いとかじゃなくて。大怪鳥オーロガロンっていう精霊を鎮めるのがわたしの仕事で、オーロガロンに会うには、帝国軍と戦っているカンラビ族の人達に協力してもらわないといけないから……」
「なにいってんだよ! 反乱軍と協力なんて! あいつらが、おれの父ちゃんを殺したんだぞ!」
オッペンはどなりながら、地面に転がる人体だったものをゆびさした。
「こんな風に! チクショウ! きっと、父ちゃんは、こんな風に殺されて、放置されて、腐っていったんだ。だから、骨も帰ってこなかったんだ。チクショウ!」
オッペンは泣いてはいなかったけれど、声は泣いているみたいだった。
お父さんがこんな風に野ざらしになっていたと想像したら、誰だって耐えられない気持ちになるだろう。特にオッペンは、お父さんのことをとても尊敬しているから。
「おれが反乱軍のやつらをひとりのこらず殺してやる! おれはそのためにグランドールに入ったんだ!」
イーアは何も言えなかったし、何かを言ってオッペンの怒りがしずまるとは思えなかった。
オッペンはその場所から動かず、しばらく時間がたった。
日が暮れかけていた。
暗くなるまで、もうあまり時間はない。
この戦場跡で一夜を過ごすのは、絶対にいやだった。
イーアがオッペンを説得して移動しないと、と思ったとき、オッペンはようやく地面を見ながら暗い声で言った。
「ここに敵はいねーみたいだし。探検、続けようぜ」
「うん」
密林の中に入れそうな場所をみつけ、イーアたちはふたたびジャングルの中を歩いていった。
このあたりの樹木は少しまばらになっていて、最初よりはずっと歩きやすかった。
だけど、日暮れまでにジャングルの外に出るのはたぶんむりだろう。
それに、むしろ出ない方がいいと、イーアは考えていた。
ここは、たぶん戦場だ。開けた場所は危ない。
「今日は、野宿するしかないね」
「おう。不気味なジャングルだけど、しかたねーよな」
「そういえば、このジャングル、ちょっと精霊の気配がするかも。休めそうな場所が見つかったら、今日はそこで休もう。料理鳥のクーちゃんを召喚すれば美味しい料理を作ってもらえるから、食べ物は心配ないよ」
「おう……。おれ、今日は食わなくてもいーけど」
少しして、ちょうどよさそうな場所にでた。腰掛けるのによさそうな倒木があって、数メートル四方くらいの空間がある。
「ここで休もうか」
立ち止まり、イーアが提案した時。
何か、音がした。
何かが近づいてくる。
獣? 兵士?
イーアは『友契の書』を手でつかんだ。
「何か来る!」
イーアがそう叫んだ瞬間、弓矢がとんできた。
飛んでくる矢をさけるために身を低くして藪のかげにかくれながら、イーアは召喚した。
『モンペル! オルゾロ!』
モンペルはすぐにあらわれ、矢を遮る壁を作った。
イーアはモンペルの壁の向こうを見た。人影が見える。
弓矢を構えているのは、イーアと同じくらいの年頃の少年、その後ろに、もうひとり、同じくらいの年頃の、たぶん、少女がいた。
オルゾロがイーアの前にあらわれ、すぐに弓矢を持つ少年にむかってとびかかろうとした。
「コサ!」
少女の叫び声が聞こえると同時にイーアも叫んでいた。
『攻撃をやめて! オルゾロ!』
双頭の炎氷狼オルゾロはすでに少年を前足で組み伏せていた。青い頭が氷の息吹を少年の顔にかけようとしながら、もう片方の炎のように赤い頭が、不満そうにイーアを見た。
イーアはかけよりながら言った。
『ごめん、オルゾロ。その子は、たぶん、敵じゃない』
向こうから、声が聞こえた。
『ひぇー。何者だ? おまえら。こんな獣、ここいらで見たことないぞ?』
しゃべっているのは、少女の肩にのっている鼻が長くて目が大きい小さな獣、たぶん霊獣だ。
イーアはその小さな霊獣に精霊語で言った。
『わたしはイーア。精霊と人間の争いの調停者、ウェルグァンダルの召喚士。戦う気はないの。オルゾロは帰すから、その子をとめて』
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